田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

悪魔祓い 師  麻屋与志夫

2023-02-06 14:17:17 | 超短編小説
2月6日 月曜日 晴
超短編小説 16 悪魔祓い

「ミエをはらずに杖持っていったら」
さすがだね。長年共棲してきたカミさんだ。
突いていったらといわれるのはいやだ。
爺臭くていやだ。持っていくのなら。
とにかく二本とない杖だ。銀の握りがついている。
ぜいたくだ。ステイタスをあらわしているようだ。
さもさも富裕階級だといっているようだ。
長年の友だちはそう批判する。
これほど長くつきあってきたのに、わたしのことをまったく理解していない。
杖の上部には両手をかけて立ちあがることができるように補助ハンドルが横にはりだしている。

少し疲れた。
帰り道というのはいやだ。往路の疲れがいっせいに足をせめたてる。
まえに向て足をはこぶよりよこに歩いたほうが膝の負担が軽くてすむ。
しかたないから、聖マリアンヌ幼稚園の鉄の柵に片手をあずけて蟹歩。

みっともないったらありやしない。
でも、杖をつくより、脚に負担をかけて、鍛えておかなくては。
どうしてそうおもうのだろう。長年の習慣だから、よくはわからない。

はるかかなた柵がつきるあたり、門扉の前に霧の柱があらわれた。
霧は人型となった。ふたりの男がわいてでた。
異様な服装の男たちだ。頭からフードをかぶり全身黒ずくめ。

わたしは柵越しに叫んでいた。
「逃げるんだ。教会堂に逃げろ‼」
いくら叫んでも、庭で園児を遊ばせている保育士にはきこえていない。
きこえているのだが、無視しているか。
まったく反応がない。
じぶんたちは教会の柵の中にいるだから安全だと妄信しているのかもしれない。

いま目の前に迫って来た危機に気がつかない。
わたしは、杖の握りを柵にうちつけた。
警鐘のように、誰かが気づいてくれればいいのだが。
金属を打ちつける音、金属の響きあう音は予想以上に高く響いている。
保育士は振り返りもしない。
いやむしろ、おかしな老人の行動を見まいとしているのかも。

ジャングルジムのてっぺんにいた年長組らしい大人びた少年が気づいた。
「変な人が門から入って来たよ」
「あれは、悪魔だ。教会堂に逃げこめ」

少年は声をはりあげた。
「悪魔だ。悪魔が来た」
少年は庭におり立つと、「悪魔だ。悪魔が来た」と絶叫しながら教会堂の方角に走り出した。
園児はかれにしたがった。
群れを成して子羊のよう教会堂に走りこむ。

神父さんが走ってきた。
わたしは聖堂の前に立っていた。
「悪魔です。悪魔の襲来です」
「ルシファか」

神父は植え込みのおくから、ゆったりと近寄ってくるふたりの男をにらんでいる。
さすが神父。神に仕えるもの。
ヤツラが悪魔に見えるのだ。
悪魔は、これからの残酷な悪行を楽しむようにゆっくりと、庭を横切ってくる。

「まずは中へ」
神父が扉を閉めようとしたが、閉まらない。
それどころか、外からバーンと開けられた。
神父がふっとぶ。
保育士たちは、まだ何が起きているのか、わからないでいる。
「神父さん聖水をかけて」
「バカか。いまどきはな、撥水加工をした服をきているのだ」

わたしは杖を左手にもちかえた。
立ち上がるときの補助ハンドルが両側についている。
ハンドルを内側にひねった。パチッとハデな音。
杖の先から槍の穂先がとびだした。
「仕込み杖か。それにしても、かわった趣向だな」
「十文字槍だ」
胸板めざして突きいれる。
かわされた。横になぐ。
足元をはらった。ジャンプしてかわされた。
着地したところを狙った。胸に穂先を突き立てた。
ところがはねかえされた。
「防刃チョッキを着ているでよ」
憎ったらしく冷笑している。

聖水も、十文字槍、穂先が十字架になっている槍もはねかえさせられた。
どうしたらいいのだ。
それに、コイツラの目的はなんだ。

悪魔の胸で携帯がなった。
ビンビン声がひびいてくる。
「なにしてる、おそいぞ」
「いますこしです」
「おそいぞ。まだきょうのノルマがのこっている」
どこからか、リモートで指図されている。
司令塔がほかにいる。
コイツ組織だっている。
悪魔がばんと手をうった。
椅子がざざっと教壇のほうにながれた。
園児たちの目前でとまった。
「こんどおれたちが手をたたけば、子どもら、おしつぶされるぞ。それでもいいのか、いちどだけきく。隠し裏金はどこだ」
「そんな、あれはむかしから代々の神父が蓄えたのだ。この町の人がお金でなら解決できる苦難にあったときに使うものだ」
「それがどうした。出せ」
「そうか、きさまら金か。たった数枚の銀貨のために主を裏切ったユダを祖先とするものだものな」
話しかけながらかんがえた。
どうする。
どうしたらいいのだ。
このままでは園児たちが椅子の洪水でおしつぶされる。
死人が出る。
どうしたら。

神父は園児と悪魔の間で十字架を高くかかげて、悪魔退散の祈りをささげている。
なんの予告もなく梅安がうかびあがった。
昨夜テレビでみた仕掛け人梅安の針。

悪魔の背後にまわりこんだ。
必殺の突きを首筋に。
悪魔が緑の粘液となってとける。
ふたり目もおなじ粘液にするのに瞬く間だった。
「たすかった」
神父さんがふらついたのをたすけたのはあの少年だった。

「おじさんすごいね吸血鬼ハンターなのだ」
「あるいは、悪魔祓いかな」
「エクソシストだね」
わたしはむかしこの子と同じ言葉を大人の人にかけたような記憶がある。
これで、やっと、ながい使役から解放される。

しかし、ハンターとしての「技」をこの子に伝授するまでは――生きつづけなければ……。


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