田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

詩2  リリよ  麻屋与志夫

2023-04-17 20:33:58 | 
詩2 リリよ

冷凍室をあけると薄緑のアイスノンが目につく
リリは一晩この人工の氷にひやされていた
ほんとうは
人肌であたためていたかったのだが
かなしくてそれができなかった
週刊誌大の氷のうえで
ひと晩独りぼっちだったのだね
リリ
つめたかったろう
リリ
さびしかったろう

こころぼそかったろう
くやしかったろう
病気にさえならなければ
まだまだ生きていられたのに
たった1年8カ月のいのちだったね

腐敗したっていい
腐臭を部屋に充満させたっていい
氷で冷やしておくなんてこと
しなければよかった
腐って
臭くて
リリのことがイヤニなっていれば
リリの
みにくい容姿をみていたならば――
こんなにかなしまなくてすんだ

リリ、リリ、リリ
おまえはさいごまで
かわいいかった

あまりにあいらしいので
「リリ、カワイイ」
ワタシタチノ言葉に応えて
目を細めて
よく――
くるりとよこになったね

あの
あいらしいすがた
いまでも目にうかぶよ

どうして人間のかんがえから
ぼくらはぬけだせないのだろう
かなしいよ
かなしいよ
氷のうえに置き去りにして
ゴメンよ
ほんとうは
庭の隅に埋めたかった
土葬にして
毎日涙をながして
おまえの上にそそいだら
猫の木の芽が
でたかもしれない
大木になったら
ぼくは
おまえに寄りかかって
まいにち、嘆きの詩を
きかせてやれたのに
おまえは
一握りの
骨と灰になってしまった

2016,5



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