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どうして、帰るのだろう。
やっと抜けだした家に。
三人の姉妹は嫁にいき家には父と母しかいない。
母はすでに糖尿病。
どうして、もどるのだろう。
ぼくは彼女のいうように脆弱な男なのだろう。
情にモロイ性格なのだ。
どこに向けていいのか、わからない怒りの矛先。
――本気なのね。
彼女は追いすがってきた。
K大の学生が何人かぼくらをふりかえった。
赤いダブダブのセェターの彼女は、深紅の幻獣に姿を変えていた。
ぼくは逃げようとしている訳ではなかった。
彼女は距離を縮めようと必死で追いかけてくる。
追いすがってくる彼女との間隔は離れるばかりだ。
ぼくは立ち止まった。
誰もいない。
ぼくは公衆電話のボックスの中にいる。
乾いた姉の声が、父の病気を、家族の緊迫した状況を説明している。
こんどこそ、ぼくは、来週、帰るからと返事している。
――明日帰ってきなさい。
ぼくは、ボックスから出ようとした。
扉に指を挟まれた。
「痛い」
その声でぼくは、現実に呼びもどされた。
彼女がなにか探るような眼差しでこちらを見ている。
トマトジュースはほとんど空になっている。
――まだ痛むのね?
――出ようか。
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どこに向けていいのか、わからない怒りの矛先。
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赤いダブダブのセェターの彼女は、深紅の幻獣に姿を変えていた。
ぼくは逃げようとしている訳ではなかった。
彼女は距離を縮めようと必死で追いかけてくる。
追いすがってくる彼女との間隔は離れるばかりだ。
ぼくは立ち止まった。
誰もいない。
ぼくは公衆電話のボックスの中にいる。
乾いた姉の声が、父の病気を、家族の緊迫した状況を説明している。
こんどこそ、ぼくは、来週、帰るからと返事している。
――明日帰ってきなさい。
ぼくは、ボックスから出ようとした。
扉に指を挟まれた。
「痛い」
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彼女がなにか探るような眼差しでこちらを見ている。
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