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携帯がなった。
開く。
キリコの声がとびこんできた。
「どこ」
「回転寿司『元禄』の前だ」
「すぐむかえにいくから。
店の前の大通りでまっててぇ。
スシなんかパクつきださないでよ」
のんびりした声だ。
悠長な話し方だ。
コケタようなことをいってるいる。
キリコがむかえにくるのに。
スシなんかパクつくわけがない。
かなり緊張しているのだ。
なにか重大なことが起きている。
「わるいけど、寿司はこのつぎにしましょう」
ほどなくキリコが現れた。
「いつもおふたりでペアなんだ。仲がよくいいですね」
「ありがとう、三品さん」
キリコがまんざらでもない声で三品に挨拶をする。
「連絡がはいったの。
ぐうぜんなのかしら。
ウチのビルのちかくなの……、
へんな紙、拾った子どもがいたの」
「コナンの漫画みたいだ」
隼人は日本にきてから、アニメ番組にもあかるくなつた。
窓から救出を求める紙片が降ってくる。
コナンにでてきそうなsituationだ。
キリコは車を急発進させた。
東品川へ向かっている。
「紙が空からふってきた。
美智子さんにに捧げる百本の薔薇という文章がのっているプリントよ。
問題はその裏に口紅で『助けて』と書いてあることなの。
大きな文字で。助けて。その紙切れをビルの窓から投げている。
女のひとがいるって通報が交番からあったの」
「まちがいない美智子さんだ。彼女は口紅をいつもポケットにもっている」
山のレストランでプレスの人たちと会う前にも。
口紅をポッケからとりだしていた。
女優としての身だしなみなのだろう。
それが、どうやら役にたったらしい。
現場には所轄の刑事が来ていた。
だが美智子はいなかった。
「誰もいないじゃないか」と刑事。
「でも、たしかにこの部屋です。あの窓です」と交番の巡査。
まだ鉄骨の足場が組まれている。
建築半ばのビルの一室。
コンクリートの打ちっぱなし。
がらんとしていた。
美智子はほかに搬送されたらしい。
人の気配はなかった。
人の気配はないが……。
隼人とキリコは鬼の残留思念を読みとっていた。
鹿沼のマヤ塾で感じたあの不気味な感じだった。
空気がチクチクして、生臭い。
鬼の気配を感じるのはキリコのほうが鋭かった。
隼人は凍てついた。
隼人の周りでは、時間が逆流した。
美智子がいた。
「まちがいない。アイツラがここにいたシ」
そして、美智子もいた。
美智子の吐息がきける。
美智子の匂いがする。
美智子の嘆く声がする。
隼人の視界に美智子の横顔がある。
たったひとりぼっちで、孤独を漂わせていた。
救いをもとめている。
タスケテ。
タスケテ。
隼人はイメージの美智子に近寄ろうとした。
いま目前にある、幻惑の世界の美智子に駈け寄った。
その瞬間。
戦慄の光景が展開した。
美智子を襲う鬼神。
多毛な腕がのびてきた。
美智子がひきずられていく。
美智子の危機。
でもまたして、隼人の手はとどかない。
「隼人。隼人! 隼人!! しっかりして。なにか見えるの」
キリコが呼んでいる。
「直人。直人! 直人!!」
美智子が叫んでいる。
美智子が直人に救いを求めている。
隼人はつらかった。
美智子が助を呼んでいる。
美智子が直人に助けを求めている。
直人はいない。
もう直人はいないのだ。
隼人は心に決めた。
直人の代わりに。
どんな障害があっても守る。
守る。守る。守る。
美智子を守ると決意した。
美智子さん。
どこに連れて行かれたのだ。
どこにいる。
どこにいるのですか。
いまいく。
いまいく。
ブジでいてくれ!!!
イメージは瞬時に消えていた。
美智子への〈愛〉にめざめた。
隼人は独りぼっちで立っていた。
歓喜にみちたよろこびがこみあげてきた。
ぼくは、美智子さんを〈愛〉している。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
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キリコの声がとびこんできた。
「どこ」
「回転寿司『元禄』の前だ」
「すぐむかえにいくから。
店の前の大通りでまっててぇ。
スシなんかパクつきださないでよ」
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悠長な話し方だ。
コケタようなことをいってるいる。
キリコがむかえにくるのに。
スシなんかパクつくわけがない。
かなり緊張しているのだ。
なにか重大なことが起きている。
「わるいけど、寿司はこのつぎにしましょう」
ほどなくキリコが現れた。
「いつもおふたりでペアなんだ。仲がよくいいですね」
「ありがとう、三品さん」
キリコがまんざらでもない声で三品に挨拶をする。
「連絡がはいったの。
ぐうぜんなのかしら。
ウチのビルのちかくなの……、
へんな紙、拾った子どもがいたの」
「コナンの漫画みたいだ」
隼人は日本にきてから、アニメ番組にもあかるくなつた。
窓から救出を求める紙片が降ってくる。
コナンにでてきそうなsituationだ。
キリコは車を急発進させた。
東品川へ向かっている。
「紙が空からふってきた。
美智子さんにに捧げる百本の薔薇という文章がのっているプリントよ。
問題はその裏に口紅で『助けて』と書いてあることなの。
大きな文字で。助けて。その紙切れをビルの窓から投げている。
女のひとがいるって通報が交番からあったの」
「まちがいない美智子さんだ。彼女は口紅をいつもポケットにもっている」
山のレストランでプレスの人たちと会う前にも。
口紅をポッケからとりだしていた。
女優としての身だしなみなのだろう。
それが、どうやら役にたったらしい。
現場には所轄の刑事が来ていた。
だが美智子はいなかった。
「誰もいないじゃないか」と刑事。
「でも、たしかにこの部屋です。あの窓です」と交番の巡査。
まだ鉄骨の足場が組まれている。
建築半ばのビルの一室。
コンクリートの打ちっぱなし。
がらんとしていた。
美智子はほかに搬送されたらしい。
人の気配はなかった。
人の気配はないが……。
隼人とキリコは鬼の残留思念を読みとっていた。
鹿沼のマヤ塾で感じたあの不気味な感じだった。
空気がチクチクして、生臭い。
鬼の気配を感じるのはキリコのほうが鋭かった。
隼人は凍てついた。
隼人の周りでは、時間が逆流した。
美智子がいた。
「まちがいない。アイツラがここにいたシ」
そして、美智子もいた。
美智子の吐息がきける。
美智子の匂いがする。
美智子の嘆く声がする。
隼人の視界に美智子の横顔がある。
たったひとりぼっちで、孤独を漂わせていた。
救いをもとめている。
タスケテ。
タスケテ。
隼人はイメージの美智子に近寄ろうとした。
いま目前にある、幻惑の世界の美智子に駈け寄った。
その瞬間。
戦慄の光景が展開した。
美智子を襲う鬼神。
多毛な腕がのびてきた。
美智子がひきずられていく。
美智子の危機。
でもまたして、隼人の手はとどかない。
「隼人。隼人! 隼人!! しっかりして。なにか見えるの」
キリコが呼んでいる。
「直人。直人! 直人!!」
美智子が叫んでいる。
美智子が直人に救いを求めている。
隼人はつらかった。
美智子が助を呼んでいる。
美智子が直人に助けを求めている。
直人はいない。
もう直人はいないのだ。
隼人は心に決めた。
直人の代わりに。
どんな障害があっても守る。
守る。守る。守る。
美智子を守ると決意した。
美智子さん。
どこに連れて行かれたのだ。
どこにいる。
どこにいるのですか。
いまいく。
いまいく。
ブジでいてくれ!!!
イメージは瞬時に消えていた。
美智子への〈愛〉にめざめた。
隼人は独りぼっちで立っていた。
歓喜にみちたよろこびがこみあげてきた。
ぼくは、美智子さんを〈愛〉している。
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