75
臭い吐息。
悪臭だけが司の彩音にふりかかった。
コウモリとなった稲本は飛び去った。
「われらが飼育を拒むというなら、やはりこの鹿沼はいったん滅びてもらうことになる。われらが牧場となって飼育されるのがいやなら、滅びるがいい」
さすがにここで争うことの愚をさとったのだ。
稲本の遠吠え。
死人の肌のような。
土気色に濁った空にこだました。
でも負け犬の遠吠えなどではない。
稲本にはそれだけの能力を備えているのだろう。
「この隙に噛まれていないものを全員助けだすのだ。そしてこの街を去れ。この低い場所にいたら上空のコウモリ花粉にやられるだけだ。うしろをふりかえらずにさっさとこの低地の街からさるのだ」と麻屋。
「お父さんは? ぼくらといきましょう」と源一郎。
「いやこの街と運命を共にする。このひとたちをみすてるわけにはいかない。覚悟はきまった。残るのはわたしひとりでいい。美智子も源一郎がつれていってくれ」
源一郎が悲痛な顔で父を見ている。
「おれだけでいい。おれは吸血鬼に侵されたおおぜいの教え子の最後をみとってやる」
「おじいちゃん」
校庭では悲鳴があがりつづけている。
女生徒を凌辱するものたちの数はいっこうにへらない。
「なくな、彩音」
「しばらくはまた闇ね……」
黄金色の光のなかでかすかな気配がする。
麻屋は狐にむかって祈る。
「玉藻さま一族のものをよろしくお導きください」
「あのとき九尾のちからを封印しなければ、あなたたちを苦しめないですんだのですね」
狐の口をとおして玉藻の声が聞こえてくる。
こんどは怯まない。
戦いぬく。
吸血鬼と黄金の狐。
闇と光の戦いがいま再開された。
玉藻の声が力強くひびく。
高音でコーンというような狐の鳴き声にきける。
だが鹿沼滅亡までのカウントダウンははじまっている。
麻屋がはったバリヤ消滅まであと10時間。
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悪臭だけが司の彩音にふりかかった。
コウモリとなった稲本は飛び去った。
「われらが飼育を拒むというなら、やはりこの鹿沼はいったん滅びてもらうことになる。われらが牧場となって飼育されるのがいやなら、滅びるがいい」
さすがにここで争うことの愚をさとったのだ。
稲本の遠吠え。
死人の肌のような。
土気色に濁った空にこだました。
でも負け犬の遠吠えなどではない。
稲本にはそれだけの能力を備えているのだろう。
「この隙に噛まれていないものを全員助けだすのだ。そしてこの街を去れ。この低い場所にいたら上空のコウモリ花粉にやられるだけだ。うしろをふりかえらずにさっさとこの低地の街からさるのだ」と麻屋。
「お父さんは? ぼくらといきましょう」と源一郎。
「いやこの街と運命を共にする。このひとたちをみすてるわけにはいかない。覚悟はきまった。残るのはわたしひとりでいい。美智子も源一郎がつれていってくれ」
源一郎が悲痛な顔で父を見ている。
「おれだけでいい。おれは吸血鬼に侵されたおおぜいの教え子の最後をみとってやる」
「おじいちゃん」
校庭では悲鳴があがりつづけている。
女生徒を凌辱するものたちの数はいっこうにへらない。
「なくな、彩音」
「しばらくはまた闇ね……」
黄金色の光のなかでかすかな気配がする。
麻屋は狐にむかって祈る。
「玉藻さま一族のものをよろしくお導きください」
「あのとき九尾のちからを封印しなければ、あなたたちを苦しめないですんだのですね」
狐の口をとおして玉藻の声が聞こえてくる。
こんどは怯まない。
戦いぬく。
吸血鬼と黄金の狐。
闇と光の戦いがいま再開された。
玉藻の声が力強くひびく。
高音でコーンというような狐の鳴き声にきける。
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