田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

超短編 4  「ある殺し屋の挽歌」  麻屋与志夫

2015-04-08 16:11:25 | 超短編小説
4 ある殺し屋の挽歌

子猫だった。
まだよちよち歩きの子猫だった。
「ニャア」と鳴いていた。
生後一月くらいだったろうか。
わたしは、抱きあげようとした。
さっと身をかがめた。
プシュと銃声がした。
コールデン街の薄闇にマズルフラッシュが一瞬きらめいた。
サイレンサーをつけていても光はかくせない。
音だけは確かに低かった。
わしは耳もとに衝撃波を感じた。
子猫を抱きあげた。
逃げた。
おそわれるのには馴れていなかった。
銃撃の的にされるなんて、この俺が――。
ふところで子猫が鳴いていた。
「おまえのおかげで、命拾いをした。おまえを抱き上げようと屈まなければ命はなかった」
恐怖で全身グッショリと汗をかいていた。
殺し屋が死を恐れるようでは、ヒットマンとしてはやっていけない。
わたしはその場から逃げた。
都落ちした。
――あのときの子猫は、20歳になっていた。
「よく今までおたがいに、生きてこられたな。猫の20(ハタチ)は成人式ではない。いつ死んでもおかしくはない歳だ」
すっかり老けこんだ殺し屋はスーパーのカートを押しながら、独り語と。
ふいにパンパンと銃声。
子どもがオモチャのピストルでかれを撃った。
かれは「ウッツ」とカートに上半身を倒した。
ソノ見事なリアクションに撃った子どもは、びっくりしている。
殺し屋のふところから老猫が転がり落ちて「ニャア」と鳴いた。

   




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