田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

妻は生まれ変わったリリを引き寄せられるか。  麻屋与志夫

2016-05-21 10:57:01 | ブログ
5月21日 Sat.

●リリとわかれてからはや三週間がすぎてしまった。
いまでも、リリが健在でいるような気がする。
夜寝ていると、となりの教室でパタンとリリが書棚からとびおりた音がする。
どうかんがえても、リリがとびおりて床におりたったときに、肉球で音を減殺したひかえめな音としかきこえない。

●リリ、リリなのだろう。
……教室は月明かりにてらされて、諸々のかげがうつっているが、リリの動く気配はない。
ああ、やはり、幻聴だった。
もういちど、リリの「キッ」っというようなとくべつな鳴き声がききたい。

●リリは死の断末魔の苦しみの中で、死ぬ瞬間にみごとに「ニャオ」と一声鳴いた。

●「ニャオ」わたしはリリ、メスの三毛猫。ワタシことをわすれないで。
ミミのさいごにしてさいしょの「ニャオ」という鳴き声がまだ耳について離れない。

●きょうは、土曜日。
二階の書斎からは宝蔵時の屋根。
左手に小高い千手山公園の緑。
右手に古賀志山雄姿。
緑の洪水だ。

●妻を誘って野歩きでもしよう。
リリのおもいでをはなしながら。
妻はリリが生まれ変わって、また三毛猫の姿でわが家に来るという。

●物品・物体の引き寄せ現象(アポートapport)。

●妻にはそのアポート能力があると信じて疑わないわたしのショートショートを明日にでも載せますね。




●麻屋与志夫は下記の通り作品を発表しています。ぜひ読んでみてください。そして、コメントください。お願いします。

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リリを悼むあまり。Simulacra現象。 麻屋与志夫

2016-05-19 11:49:58 | ブログ
5月19日 Thu.

●ついに恐れていたことがはじまった。
Simulacra現象。

●リリの死を悼むあまり、忘れることができない。
何を見ても、リリに見えてしまう。

●三つの点からどんな形でも想像してしまう。
裏板のシミをみあげていてもリリ。
机の上のインクのシミもリリ。

●リリの写真を小さな額にいれていたるところに飾ることにした。
これならシミュラクラ現象から解放される。
どこをみてもリリのシヤシンがある。
リリが生きているようだ。

●幻聴もする。
あのリリの、キイというような独特の鳴き声がときどき聞こえてくる。

●そのうち、ブラッキ―が三毛猫リリに見えてくるかも。

●すでに、ジッとわたしの顔を見上げる表情がリリに似て来たようだ。

●「わたし、ここにいるよ」とよびかけられている。
そう思いこんでいる。

●そう思う――。
リリの心がブラッキ―に転写された。

●小説家であるわたしはバカですね。
いい歳をして、ペットロス。
妻ともどもまだ立ち直れません。



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リリを失った悲しみはまだ癒えない  麻屋与志夫

2016-05-18 16:19:51 | ブログ
5月18日 Wed.

●つる薔薇のアイスバーク。
白い花弁がチラチラと舞っている。
木製の高いバーゴラから落花してくる。
たしかに蝶々が飛んでいるように見える。

●リリがかわいらしい鼻を空にむけて、花弁をおいかけていた。
庭をはしりまわっていた。

●もうリリの姿はどこにも見当たらない。

●哀感がすこしだけ感傷にかわってきている。

●ソレデモ、悲しみはつづいている。

●露縁にがっくりとすわりこんでしまった。



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リリのこと小説にかくね。 麻屋与志夫

2016-05-17 01:27:18 | ブログ
5月17日 Tue.

●薔薇が過剰な、てんこ盛りの美しさで咲いている。
花もおおきい。花数もおおい。
「天候のせいしらね」と薔薇作りに没頭している妻がつぶやいている。
たしかに、アジサイの成長もいつもよりこんもりしている。
そのうちみごとに咲きだすだろう。
わたしのすきな紫のアヤメだって、いつもよりおおく花をつけている。

●田舎暮らしのだいごみは、庭で園芸にいそしむことが出来ることだ。
この季節になると妻は庭にいる時間がおおくなる。
でも、ことしはなにか寂しそうだ。

●リリをうしなった悲しみからまだ立ち直っていない。
なんとか、忘れようとしている。
でも……忘れようとしなくていいのだ。
ムリに忘れなくても、ひとの記憶はしだいにうすらぐ。
いつか……思いでとして、の悲しみの引き出しの中にはいっていることになるさ。

●わたしは小説家だから、これからリリのことを、何時になるかわからないが、書きたいと思っている。悲しみからぬけだした頃、またその悲しみを喚起しなければならない。因果な仕事だなぁ。




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ブラッキーにリリが憑依した!!  麻屋与志夫

2016-05-13 04:51:25 | ブログ
5月12日 Thu.

●ブラッキ―にリリが憑依した。
パソコンとニラメッコをしていたので目が疲れた。これ以上考えてもいま書いている作品の筋の展開は望めそうもない。小説をかくのは一休みと、キッチンに降りた。

●ところが、おどろいたことに、ブラッキ―がテーブルにのっていた。ブラッキ―は厳しく躾けたので、テーブルにのったことはない。ところが、リリのようにテーブルのうえに平然と座っている。

●「美智子。リリがもどってきた。テーブルにいつもの花瓶に水を入れてやろう」
カミサンは動じない。数学の先生で理系女。小説家の妄想には、つきあってくれない。

●しかたなく、じぶんで、リリの祭壇の花瓶をキッチンに持ってきた。花は抜き、お盆のうえにおいた。花瓶に水をたしてブラッキーの前においた。おいしそうに舌をなんども水にひたし、ぺろぺろと飲みだしたではないか。

●わたしは感動した。コウフンした。

●「そのうち、リリが好きだった美智子の後ろの棚にのぼる。二階の教室の本棚の上にものぼるぞ」
わたしは花瓶から水をのむブラッキ―にリリの姿を重ねている。
すっかりこれをリリの憑依と思っている。

●柴田よしき、キングの作品にもある。死者をあまり懐かしがって、その復活を望んではいけない。わかっているが――。



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リリが薔薇の庭で遊んでいる 麻屋与志夫

2016-05-12 06:00:02 | ブログ
5月12日 Thu.

●「方舟の街」仮題。なんとか第一稿がかきあがった。リリとの別離があって哀感このうえないこころの状態でかきあげたためか、明るくしめくくることができなかった。

●それに、カクヨムに発表した「吸血鬼処刑人」「ムンク「浜辺の少女」は吸血鬼だよ」がアクセス数が少ないので悩んだ結果、ライトノーベルからは撤退を覚悟した直後なので、よけいに悩んでいる。これから何回か訂正加筆していく。どんな作品に仕上がるか楽しみだ。

●表庭も裏庭でも花壇が花ざかりだ。特に薔薇が芳香をはなって咲き誇っている。五月晴れ。薔薇の精気をすって今日も一日小説をかこう。

●この庭をリリが走りまわっていたらな。とふと思う。リリとの別れの悲しさは、忘れようとしない。忘れよう、思いださないようにしよう。とするからよけいに悲しさがつのるのだ。

●リリとはいっしょだ。何時も共にいる。リリはこの薔薇の庭をいま走りまわっている。それでいいではないか。

●カミサンが起きだして、リリの祭壇のある部屋で「リリ、おはよう」と声をかけている。リリに朝の挨拶をしてから、彼女の朝がはじまる。カミサンも、わたしと同じように考えるようになったのだろう。ムリに忘れることはない。毎日、わたしたちが生きている限りリリここにいる。

●ブラッキ―がカミサンにすごくよりそい、甘えている。リリのタマシイガ、ブラッキにのり移っている。リリ、ブラッキ―とカミサンは呼びかけている。

●薔薇と猫のいる暮らし。ほかに、何を望むのか。満足だ。これで思うような小説がかけたらなおさらいいのだが。それは自己責任だ。わたしの精進にかかつていることだ。


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街猫のいるところに住みたかった。  麻屋与志夫

2016-05-11 22:00:09 | ブログ
5月11日 Wed.

●夜二階でパソコンに向かっていると、街の騒音がきこえてくる。このところ、パトカーの警笛とか、救急車のサイレンがよくきこえてくる。事故とか事件がふえているのだろうか。

●しばらくぶりで、暴走族もみかける。街が騒然としている。

●それとはまったく別なのだが、野ら猫がいなくなった。まったくと言っていいほど猫をみかけなくなった。どうしてなのだろう。

●ペットショップでも猫を売っていない。これは、売れないのだと思う。犬のすきなひとはいるが、猫ずきがすくない。

●街猫の話題がテレビで流れていると、うらやましい。

●猫をケギライシテ、石を投げる大人がいる街だ。猫を飼っていると肩身がせまい。外にはほとんど出さないことにしている。

●家も広い。庭も表と裏にある。外に出しても、ほとんど家の敷地からはでない。それでも、近所に迷惑をかけないかと心配ばかりしている。

●リリをあまり外で遊ばせることをしなかった、理由でもある。

●猫がのんびりと街をあるいているようなところに住みたかった。









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どこにいっても、リリの思い出   麻屋与志夫

2016-05-11 10:20:45 | ブログ
5月11日 Wed.

●階下のホリゴタツから二階に移動した。
100円ショップで買った小さな額縁にリリのシヤシンを入れてパソコンといっしょにもってきた。これら7月まではここが書斎だ。ここで、精進することになる。

●北に面した窓辺にブラッキ―が座っている。
窓の外は空き地になっていて、猫は外を見るのが好きなので、身動き一つしないでジッと座っている。ブラッキ―の隣りにいた三毛猫のリリはいない。リリは胴周りはほとんど白い毛だった。黒と白の対比をもう、たのしむことはできない。ブラッキ―もさびしそうだ。

●リリは、あんなに、外にでたがっていたのだから――もっと外にだしてあげて、遊ばせてやればよかった。カエルを追いかけた。バッタを咥えて帰ってきたりした。小さなハンターのリリが、まさかこんなに早く死んでしまうとは――。外にだしてあげないで、ごめんな。

●どこにいっても、どの部屋にはいっていっても、リリの思いでが蘇える。いつになったら、この悲しみから解放されるのだろうか。いやリリをわすれることはないだろう。










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巷に雨の降るごとく、わが心にリリの涙降る  麻屋与志夫

2016-05-10 06:32:19 | ブログ
5月10日 Tue.

●夜来の雨が小止みになった。妻が薔薇の剪定をした。二袋もある。透明なゴミ袋のなかにバラの小枝や緑の葉がびっしりとつまっている。また降りだしたら外にでるのが億劫になる。夜が明けたばかりだったので静かだ。そっと玄関をあけた。昨日のうちに見ておいた場所に袋はあった。あれからまた剪定作業をつづけたのか、袋の中にはドキッとするほど赤い薔薇が一弁はいっていた。梅雨寒のような(まだ梅雨入りはしていないよな、でも肌に感じる寒さは、まさに梅雨寒)朝の寒気にはそぐわない。真赤な薔薇は五月晴れの薫風にこそよくにあう。

●門扉を開けてから、あわてて閉めた。リリが外にでてはたいへんだ。そこで、気づいた。リリはもういない。いないのだ。霧雨が睫毛について、いやリリを思いだして哀れで、涙がでているのだった。

●悲しみはまだ断続的につづいている。ふと、なにげない日常のなかで、こみあげてくるように思いだす。門扉が門柱にあたって大きな音をたてた。まだ寝ている近隣のひとたちをおどろかせてしまったのではないかと気になった。

●ゴミ集積所の黄色い網が黒く、土砂がこびりついていた。食べものの残滓ではないから、カラス避けの網は被せる必要はないだろう。ビン類や空き缶をいれる容器の底にかなりの雨がたまっていた。昨夜はあまり寝なかった。うとうとしながら小説をよんだ。みんな上手くかくものだな。やっぱりおいらは能なしだ、なんてかんがえた。でもかなりの時間寝ていたのだろう。雨は何時頃強く降ったの? 歳のせいなのだろうか。なにかすべてにおいて、知覚が鈍くなっている。

●それなのに、リリを失った悲しみからはまだぬけだせない。

●30メートルほど歩き宝蔵時の雨に打たれてぬれた墓場を眺めた。

●リリの墓標をたてるかわりに、ホリゴタツの前の襖にリリのシヤシンをはりつけた。こうしておけば、いつでも、リリに話しかけられる……。










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ペット殺処分反対運動に署名した  麻屋与志夫

2016-05-09 19:42:50 | ブログ
5月9日 Mon.

●先日宇都宮まででかけた。

●駅の二階デッキで「ペット殺処分反対」の署名運動をしていた。

●リリとわかれて悲しんでいるわたしたちは喜んで署名した。

●そこで、ふと思いだした。

●殺処分反対のショートショートをかいたことがあった。

●それが下記の作品です。

33 トイ・プードルとコギ―の幸せ

ペットショップのショーケース。
二匹の子犬が隣りどうしのケースのなかにいた。
トイ・プードルのメスとコ―ギのオスだ。
ショーケースだから正面はもちろんガラス張り。
お客さんがよくみることができるように全面は大きな一枚のガラス。
曇りひとつなく照明をあびて光っている。
中仕切も清潔な透明なガラス。
隣同士の子犬たちがたがいにジャレあっている。
仕切は子犬が前足をかけられるくらいの高さだ。

「きみなんて名前」
コギーが隣のトイ・プードルに声をかけた。
「あなた、そんなこともしらないの。わたしたちには名前はないの。飼い主がつけてくれるのよ」
おねえさんぶっている。
真っ白い毛並みに赤いリボンがよく似合う子犬だ。
ちょこちょことあるくしぐさが、とてもかわいい。

「飼われるまでは名前がないのよ」
「そうだね。ぼくだって名前がないもの」
「でも……ほんとは、あるのよ。わたしはじぶんのことパピヨンと呼んでいるの。自由に青空をとびたいワ」
「パピヨンちゃんのあたまに蝶が止まっているようで、かわいいね」
「ありがとう。ほめられて、ウレシイワ」
「ほんとはね、ぼくも名前あるんだ。翔太っていうんだよ。飼い主がね、きゅうにフランスに留学することになって、またここにもどってきちまったのさ。たった60日の縁だったけど――」
「わたしたちながくはここにいられないのね。さびしいわ」

そして、その翌朝。
「翔太。翔太」
という呼びかけに目覚める。
パピヨンが可愛い女の子にだかれていた。

「さようなら。翔太。また会いたい。会いたいわ」

翔太はねぼけまなこでパピヨンをみおくった。
あまりにも、きゅうな別れなので、一声も鳴くことができなかった。
悲しむこともできなかった。
ただぼうぜんと、冷たいガラスに顔をおしつけていた。

それから無情にも歳月が流れた。
「翔太。翔太。翔太でしょう」
なつかしいパピヨンの鳴き声がする。
「ぼくをよんでいるのは、パピヨンなの」
「あなたまだじぶんのことを、ボクなんていうのね」
つとめて明るい声で隣から呼びかけているのはまちがいなくパピヨンだ。

赤さびのういた鉄の格子のある不潔なペットケージ。
保健所の殺処分待ちのケージのなかでパピヨンと翔太は再会した。
二匹には、過ぎこしかたの想いを話し合う時間はのこされていなかった。
こうした状況で会うということは、お互いにあまり幸せではなかったのだろう。

「死ぬまでにもういちど会いたかったよ。あのとき、さよならもいえなかったもの。ぼくねぼけていてさ」
パピヨンがなつかしそうに笑った。
「わたし、あのときの翔太のねぼけ顔いまでもおぼえているよ」
翔太が深いため息をついた。

保健婦が二匹の犬をそれぞれのケージからひきだした。
「仲良さそうだから、いっしょに逝かせてあげましょう」
翔太とパピヨンは臨終の床にならべられた。
「パピヨン。最後にこうして会えてうれしいよ」
「わたしもよ。翔太。うれしいわ」
こうして二匹はじめておたがいのカラダのヌクモリを感じた。
鼻をつきあわせた。
ペロペロなめあう。

「まるで恋人同士のようね」
保健婦がいう。
二匹ははじめて、そして最後のlastキスをしていたのだ。

保健婦の手には注射針が光っていた。









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