日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎望郷(未来探偵ロクロ その20)

2024年04月29日 | ◎本日の想像話
 須田は、博士の言っている意味が理解できずに困惑している。
 そのとき、エリーは床に倒れている二人の看病をしていた。二人の生体反応をスキャンしていたエリーは、どうやら命には別状が無い状況であると判断する。
 エリーは静かに自分の手を壁にかざす。手のひらから、プロジェクターの光があふれる。壁にライブ映像が映し出された。化学界の一大スキャンダルを女性キャスターが声高に報じている。須田は驚きの表情でニュースを見ている。同じ情報が連呼されているのを見て、エリーが説明を始めた。
「行きの軌道エレベーターの中で、ミツオと私はどうしたら良いのかを考えた。須田さんを止めるには、一刻も早く公表するしかないと博士を説得しました。公表するにしても、すぐには地球に戻れない。通信も遮断されている。だから地表から宇宙へと続く軌道エレベータのライトを使って、洗いざらいの情報を流しました。モールス信号です。さすがに世の中の人が気づくのには難問だったようですが」
「すまなかった」
 やっと上半身をおこした博士が、口をひらく。
「研究費の打ち切りが決まっていて、どうしても結果が欲しかったのだ。君の命ともいえる研究発見を盗んでしまって、今更だが申し訳ないと思っている」
 須田はだまって博士を見ている。須田は奥さんに向けた刃を下ろした。呪縛の解かれた妻は、博士に駆け寄った。座り込んでいる博士のすぐそばに同じように倒れ込んだ。
「今回の発表は私も加担しているのです」
 妻の目には涙があふれていた。 

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◎望郷(未来探偵ロクロ その19)

2024年04月27日 | ◎本日の想像話
 ミツオは床に転がる男女が道明寺と佐々木である事に気づいた。明らかな外傷は無い。ではなぜ動かないのか。ミツオは二人の名前を呼ぶが、反応は無い。
「須田、二人に何をした」
 須田はミツオの問いには答えない。「博士はどこにいる」
「さっき俺たちが乗っていた脱出ポッドを見ただろう。宇宙空間での生活が長い博士が、地球の重力に直ぐに慣れるわけがない」
 ミツオは須田に羽交い締めされている奥さんに、大丈夫かと話しかけた。奥さんは数度うなずく。身振りで返答するのがやっとのようだ。姿の見えない娘の安否は分からない。
「須田、どうしてこんな事をしたんだ」
「どうして?ミツオさん、あなた博士と話をしたでしょう。動機は理解しやすい話のはずだ」
 そのときミツオの背後の扉が開く。博士が這いつくばってここまで移動してきた。
「妻を離せ」
「お久しぶりです博士」
 博士の姿を確認した須田は満足げに言葉を続ける。
「私は何度もそちらに伺う打診をしました。ことごとく無視されたあなたの罪は重い。要求は、私への行いすべての公表です」
「……」
 博士は沈黙した。その姿を見た奥さんがたまらず口を開く。
「須田さんから経緯を聞いたわ。紙と鉛筆を持って、新たな研究をゼロから始めればいいじゃない」
「もう発表ずみだ」
 博士が須田の目を見て返答する。 状況の分からない須田が困惑の表情を浮かべる。

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◎望郷(未来探偵ロクロ その18)

2024年04月16日 | ◎本日の想像話
 須田の手には刃物があった。
 須田はかすかに上空を見やった。あきらかに脱出ポットの存在に気づいている。須田がドアノブに手をかける。施錠されていなかったドアが開き、するりと室内へと侵入した。脱出ポッド内部では地表に降り立つのももどかしく感じていた。出来ることはシートベルトを外すことぐらいだった。モニターに釘づけになっている博士の心中は痛いほどミツオには分かった。しかしミツオはどうすることも出来ずにいた。地面に降り立った感触が足下から伝わり、ハッチが開く。エリーがハッチの隙間から真っ先に飛び出す。ミツオは無重力にいた体に突然戻った地球の重力がこたえていた。思うように体が動かない。宇宙での生活が長い博士はなおさらだ。
「須田を止めます」
 ミツオはそう言って博士をハッチ上部から見下ろす。
「たのむ」
 絞り出す博士の声は切実だった。
 博士の自宅のすぐ前に脱出ポッドは接地していた。先に飛び出したエリーの姿はすでになく。自宅の扉は開いたままになっている。
 ミツオは、はうようにして自分の体を鼓舞した。
 ようやく室内に飛び込んだミツオが目にしたのは、床に転がる男女二人、刃物を奥さんの喉にあてがう須田、呆然と見つめるエリーがそこにいた。
 ミツオに振り返ったエリーは「どうしましょう」とつぶやいた。

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◎望郷(未来探偵ロクロ その17)

2024年04月15日 | ◎本日の想像話
「空気の層をぶちぬいて地表に到達するための角度は非常に繊細だ。角度が浅ければ大気圏に弾かれ、角度が深すぎると機体は燃え尽きる。運転はすべて自動運転。人間の介在する余地はない」
「軌道エレベーターでは地球に到達するには最低3日かかります。今すぐ地球に戻らなければ奥さん達に危険がせまっている」
 ミツオとエリーの気持ちは決まっていた。ほぼ同時に二人は返答する。
「博士、行きましょう」
 天空では多くの人々が忙しそうに働いていた。行き交うクルーは博士の姿を見て挨拶を交わす。後に続いて歩くミツオ達は曖昧に会釈を繰り返すしかなかった。クルー達は博士がどこに向かっているのかは知るよしも無い。
 脱出ポットらしき機体が整然とならぶ部屋に入ったミツオは言葉を失う。
 その機体はすべすべとした金属の輝きこそ放ってはいたが、形は初めて月面着陸をとげたアポロ号そのものだった。
「脱出ポットの原理は簡単だ。ここから打ち出されてそのまま地表に到達する。当時はパラシュートを介して海に着水したが、現在ではそのまま空中移動が可能になっておる。大丈夫だ機体の安全性は歴史が証明しておる。さあ、乗り込むぞ」
 博士は搭乗階段を登り、脱出ポットの扉を開ける。乗り込んだ三人は扉をロックし、座席に腰を下ろした。五点ベルトを黙々と装着する。コックピットには操縦桿らしきものと、ボタンが数個、非常にシンプルな運転席となっていた。博士が運転席に座った。
「おのおの方、出発だ」
 博士はとびきり大きなボタンをたたくように押した。 
 
 座席の下部より響く振動。機体は持ち上がり魚雷発射装置のような機構に押し込められる。扉が閉まり、発射口が開いたであろう振動を感じた直後、漆黒の宇宙空間に脱出ポットが排出された。運転席前面にあるモニターが外部を映し出す。青い地球がみるみる大きく迫ってくる。そうこうする間に、モニターは空気抵抗により外部が真っ赤に燃える。一同は押しつぶされそうな恐怖を外部に出さないように努力する。外部の赤色が次第に収まりだした。
「どうやら無事、大気圏を突破できたらしい」
 博士は冷静につぶやく。自動運転のナビゲーションにより機体は自宅に向かっている。宇宙から最短距離で近づいたおかげで、まさに博士の自宅上空に機体は到達する。モニターにはまさに須田が扉を開けて侵入する姿が映し出された。
「須田だ」
 博士は絶句する。


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◎望郷(未来探偵ロクロ その16)

2024年04月13日 | ◎本日の想像話
「空気の層をぶちぬいて地表に到達するための角度は非常に繊細だ。角度が浅ければ大気圏に弾かれ、角度が深すぎると機体は燃え尽きる。運転はすべて自動運転。人間の介在する余地はない」
「軌道エレベーターでは地球に到達するには最低3日かかります。今すぐ地球に戻らなければ奥さん達に危険がせまっている」
 ミツオとエリーの気持ちは決まっていた。ほぼ同時に二人は返答する。
「博士、行きましょう」
 天空では多くの人々が忙しそうに働いていた。行き交うクルーは博士の姿を見て挨拶を交わす。後に続いて歩くミツオ達は曖昧に会釈を繰り返すしかなかった。クルー達は博士がどこに向かっているのかは知るよしも無い。
 脱出ポットらしき機体が整然とならぶ部屋に入ったミツオは言葉を失う。
 その機体はすべすべとした金属の輝きこそ放ってはいたが、形は初めて月面着陸をとげたアポロ号そのものだった。
「脱出ポットの原理は簡単だ。ここから打ち出されてそのまま地表に到達する。当時はパラシュートを介して海に着水したが、現在ではそのまま空中移動が可能になっておる。大丈夫だ機体の安全性は歴史が証明しておる。さあ、乗り込むぞ」
 博士は搭乗階段を登り、脱出ポットの扉を開ける。乗り込んだ三人は扉をロックし、座席に腰を下ろした。五点ベルトを黙々と装着する。コックピットには操縦桿らしきものと、ボタンが数個、非常にシンプルな運転席となっていた。博士が運転席に座った。
「おのおの方、出発だ」
 博士はとびきり大きなボタンをたたくように押した。 

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◎望郷(未来探偵ロクロ その15)

2024年04月06日 | ◎本日の想像話
 軌道エレベーターの上昇が止まった。
「天空に到着したようです」
 二人は到着するまでの間、今回の依頼において何が最善かを話し合った。しかし明確な結論は得られなかった。とにかく博士と早急に話す必要があった。
 外部へと続く扉が音も無く開く。
 そこには伊集院博士が立ち尽くしていた。一人だ。博士の背後には大きな窓。漆黒の闇が広がっている。星はきらめいていた。まさしく宇宙に到達した事実にミツオは震えた。
「天空へようこそ。早速だが須田からの手紙を見せてくれるか」
 博士の震える手で手紙を受け取る。文面を開くこともおぼつかない。何とか開いた手紙を読み終えると博士は膝から崩れ落ちた。博士の履いている靴にはマジックテープが装着されているようだった。その姿を見たミツオが博士に寄り添うように宙をおよいで近づく。
「地上にメッセージを送り続けていました。世界中の誰かはメッセージを読み下したはずです。しかし本人の行動を止めるには須田への謝罪と贖罪が必要だと思います。博士どうですか?」
 うなだれたまま博士はミツオの話を聞いていた。静かに博士はうなずく。
「二人を助けてやれるものなら、何でもする」
 博士の言葉を聞き遂げたミツオはエリーの目を見る。エリーは瞳を閉じる。エリーはあらかじめ考えていた地上へのメッセージを更新した。
「博士、すぐに地上に戻りましょう」
 エリーは博士に提案する。博士は眉間にしわを寄せて苦しげに話した。
「一つ提案がある」
「どんな提案でしょうか」
 ミツオは博士の瞳を見た。
「天空には脱出ポットというものが備わっている。一瞬で地球に戻ることが出来る」
「それはいいじゃないですか。すぐに戻りましょう」
「大気圏突入を伴うものだが、君たちはどうするね」
 博士の目はすわっている。 
 

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◎望郷(未来探偵ロクロ その14)

2024年04月02日 | ◎本日の想像話
「軌道エレベータは膨大な重量を支える必要がある。軽く、なおかつとんでもない強度を持つ物質。私は政府からの資金で研究を続けていた。しかし、おもわしい成果はいつまでも得られなかった。いよいよ政府から研究資金打ち切りの打診があった。追い詰められた私は須田の基礎研究を盗んでしまった。須田の研究を私の名前で発表したのだ。しかし発表をもって世界中の研究者が動いた。その事で、軌道エレベーターは完成したのだ。盗んだのは事実だ。しかし妻子の命を奪っても良いという道理はない」
 一通りの告白を聞いたミツオが口を開く。
「命を救う方法を一つ思いつきました。しかし絶対というものではありません。地上への通信手段が無い今、それしかないと考えます。やらせてもらえますか」
 伊集院博士に断る理由は無かった。 協力の同意を得たミツオはエリーと博士に指示を出した。
 その間にも軌道エレベーターは静かに上昇を続ける。


 同時刻、地上。
 道明寺と佐々木が肩を並べて夜道を歩いていた。道明寺の足下は心もとなく揺れている。したたかと酔っているようだ。佐々木は転ばないように道明寺の肩を支えている。
「何だが、今夜はずいぶんチカチカするわね」
「何がだ」
「いつもあんなにチカチカしていたかしら。それても私が酔っているからかしら」
「だから何がだ」
 佐々木は道明寺の言っている事が分からなくて声を荒げる。
「軌道エレベーターのライト」
 佐々木は見上げる。
 たしかに上空に伸びる軌道エレベーターの支柱にしつらえてあるライトが点滅を繰り返している。
「どうだったかな」
「うそでしょ」
 驚きながら道明寺はハンドバッグから、あわててタブレットを取り出す。
 ペンを一心不乱に走らせ、書き留める。理解出来ない佐々木はしばらく道明寺を観察していたが、いっこうに止まらない手にしびれを切らせて道明寺に問いかける。
「お取り込み中、恐縮ですが、何を書いていらっしゃいますか」
 道明寺は、佐々木の方を見ずに一点を見据えたまま返答する。
「軌道エレベーターの点滅に意味があるの。あれはモールス信号よ。それに信号を送っているのはミツオとエリーよ」  

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◎望郷(未来探偵ロクロ その13)

2024年04月01日 | ◎本日の想像話
 手紙と荷物を預かった探偵だとミツオは告げた。聞いていた話と違う移動方法だと感じたので仕方なく手紙を読んだことも明かした。手紙をカメラとして機能しているエリーにかざす。ミツオが手紙を読み上げる。文章が進むにつれて伊集院博士の顔色がみるみる変わり、博士は全文を聞き終わる前に言葉を挟んだ。
「これは須田の仕業か……」
「といいますと?」
「君たちの乗っている軌道エレベーターで天空に荷物を上げるには5日間かかる。予定にはない便だ。何が起こっているのか原因究明をしていたところだった。突然、地上にも連絡が取れなくなってしまった」
「手紙と一緒に渡されたこの箱がもしかして何か関係があるのでしょうか」
 エリーが手のひらにのせた箱を博士に見せる。
「中を見てみようじゃないか」
 博士の提言に腹をくくる二人。改めて箱を観察したミツオとエリーは、いつの間にか、箱の中が、かすかに点滅していることに気づいた。二人は箱を机に押しつけるように固定しながら、慎重に包み紙をはがした。そして、箱を開けた。
 まばゆい光を放つ、つるりとした大きな碁石のような金属が中に入っていた。
「それは」
 すべてを理解したかのように博士は言葉を失う。
「分かりますか」
「須田が私のもとを離れる原因になったものだ。あらゆるプログラムに侵入できる危険な発明だよそれは」
 モニターの中の博士は大きな声を上げた。
「それよりも、私の妻子を30時間後に殺すと須田が言っている。地上への連絡手段が途絶えている。復旧の目処は立っていない。なんとかしてくれ」
 博士は藁にもすがる思いで助けを求めた。
「須田との間に何かあったのは事実なのですね……」
 ミツオは博士に問いかけた。

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◎望郷(未来探偵ロクロ その12)

2024年03月31日 | ◎本日の想像話
 小箱の中で小さな光が点滅しだした事実を二人はまだ気づいていない。
 エリーは突然、壁をはがし出した。ミツオは驚くが、エリーは冷静に答える。
「有線で、エレベーターの終点「天空」と話せないか試してみます」
「それはいいアイデアだ」
 「天空」とは、軌道エレベーターの終点。巨大な宇宙ステーションの名前だ。当然、伊集院博士もそこに常駐している。
「やった!アクセスポイントがここにありました」
 エリーは嬉々として自分の手首から通信ケーブルを引き出し、ジャックに差し込む。
「どうせなら伊集院博士と直接コンタクトをとりたいですね」
 エリーは「天空」の内部へと侵入していく。ミツオは思いつきを言ってみた。
「須田の名前を出せば、博士自ら応答するのでは」
「そうしてみます。須田の名前で博士を呼び出してみます」
 エリーは室内にあるモニターに、逆の手首からひきだしたケーブルをつなぐ。現在の進捗状況が映し出された。
「須田君、ひさしぶりじゃないか」 ロマンスグレーをオールバックになめ付けたギラギラした男がモニターに映る。二人は見たことのあるこの男が伊集院博士だと思った。伊集院博士は逆に見たことの無い男とアンドロイドが通信相手ということに気づいて驚く。
「君たちはいったい誰だね」
「その問いにお答えするその前に、ここが軌道エレベーター内からの通信かどうか博士のほうで分かりませんか」
 エリーが率直に一番の疑問点を聞いた。
「君たちは今、軌道エレベーターに乗っている。「天空」に向かっている最中だ。「天空」到着にはあと30時間ほどかかる」
「博士は須田という男をご存じですね」
「須田君と君たちは一体どういう関係かね。須田君は私の弟子だ」
 ミツオとエリーは顔を見合わせる。

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◎望郷(未来探偵ロクロ その11)

2024年03月29日 | ◎本日の想像話
 意を決した二人はテーブルに腰をすえて手紙を開封した。達筆の毛筆の字体が目に飛び込んできた。
(拝啓 伊集院 銃朗殿
 貴君の活躍を地上からいつもながめております。さて、私がこうしてお手紙を差し上げた要件、重々承知の事と存じます。あなた様が取得されました特許案件。あれは私から奪った特許でございます。
 つきましては、その精算および、粛正の意味で、細君と愛娘のお命をちょうだいいたします。
 この手紙を手にするちょうど当日、決行いたします。
 ますますのご繁栄心よりお祈り申します。かしこ)
 二人は青くなった。
「大変なことが書かれている」
 エリーはわかりやすく動揺している。
「エリー、今現在、地上との通信は可能なのか」
 エリーは首を横に振る。
「試したけれど、地上との交信はできなかった」
「そうか。なれば、伊集院の自宅が、エリーの過去の記憶に無いか検索してくれ」
 エリーは静かに目を閉じる。
「伊集院博士は自宅を公開していました」
 エリーが住所を伝える。
「その住所、覚えがあるぞ」
 ミツオは自分の手帳を取り出してページをめくる。
「そこは須田の住まいと聞いて、俺が見に行った家だ。あの家は伊集院博士の家だったのか。ということは、あの奥さんと娘さんは伊集院夫人とその娘」
 ミツオは唖然とする。

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◎望郷(未来探偵ロクロ その10)

2024年03月28日 | ◎本日の想像話
 目をつむって自身の記録アーカイブを探っていたエリーが、カッと目を見開いた。
「同姓同名でなければ超有名人です。伊集院 銃朗は軌道エレベーターのプロジェクトリーダー」
 両手を広げてエリーは叫んだ。
「やはりそうか」
 ミツオが自身の考えが正しいことを確信した次の瞬間、二人の体が宙を舞い始めた。床に足を下ろそうとしてもなかなか下ろすことが出来ない。
「須田の奴、俺たちをコンテナごと軌道エレベーターに乗せやがった。数日上昇し続けているとしたら、ついにエレベーターが宇宙空間に到達したらしい」
 ミツオは思うように向きをコントロールできない自分の体をもてあましながら話す。
「手の込んだことをしてまで届けたい手紙と小箱に、一体なんの目的があるのでしょう」
 エリーは本格敵に無重力空間を泳ぎ始めた。
「俺はすごく悪い予感がしてきた」
 ミツオは背筋が寒くなってきたような錯覚を覚える。ミツオは冷静になるようエリーにうながしながら話す。
「あと数日はかかるだろうが、必ず上階でエレベーは止まる。その前に手紙はどうする。読むか」
「どうしましょう」
 二人はふわふわと浮遊しながら考える。


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◎望郷(未来探偵ロクロ その9)

2024年03月27日 | ◎本日の想像話
「上昇?コンテナを抱え込んでいたカーゴが上へ上へと上昇し続けているということ」
 エリーはミツオのただならぬ剣幕を感じて真剣に考えるようにした。
「どれだけ強力な反重力エンジンでも、重力がなくなってしまう成層圏を突破できないと思う」
「じゃあどういうことなの」
「俺の想像が正しければ、明日、とんでもないことが起きる。俺たちは、島には向かっていない。須田にはめられたのかもしれない」
 ミツオは須田から渡された箱を机の上に出した。
「緊急事態だ。荷物を確認する」
 エリーもミツオの手元をのぞき込む。百貨店の包装紙が巻かれている。繊細な指先の動きで包装紙を破かないようにきれいに開封する。そっけのない、平べったい箱が現れた。ミツオは箱のふたを持ち上げる。するりと開いた箱の中には手紙が一通ともう一つ箱が入っていた。中身はそれだけだ。ミツオは手紙を手に取る。宛名が筆の手書きで「伊集院 銃朗様」と書かれていた。
「エリー、誰だが知っているか」
「いじゅういん じゅうろう。変わった名前。もしかしてあの伊集院でしょうか」
「心当たりがあるのか」
 エリーは自身の記憶を検索する。

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◎望郷(未来探偵ロクロ その8)

2024年03月26日 | ◎本日の想像話
 扉を開けるとそこには、ごく普通のワンルームがあった。しかし、普通、必ずあるはずの窓が無かった。外を確認することは出来ない。浮遊感があり、どこかにむけて移動している事は分かる。依然として正確な状況は分からない。
「私たち軟禁状態ですね」
 エリーが不安げな表情を浮かべている。
「簡単にいうとそういうことだな。まあ、須田の言うとおりするしかない。とりあえず、今日からはちょっとしたバカンスと思わなきゃやってられないな」
 ミツオは部屋を物色する。コンテナ自体の受け渡しを感じる振動があった。それ以降はずっと同じ調子の振動がつづいている。
 冷蔵庫の中にある食材を使って、エリーは料理を始める。高級ワインを見つけたミツオは早速、うきうきと一人飲み始めた。ちょっとしたリゾットを作り終えたエリーは、編み物を始めた。
 二人はそれなりに、この奇妙な状況を楽しんでいるようだった。ひとしきり満喫した二人は思い思いのタイミングで就寝した。
 次の日、ミツオは疑問に思っていることをエリーに聞く。
「どこに向かっていると思う」
「どこって、海外じゃない島にむかっているのでしょう」
 エリーは編み物の手を止めない。
「はたしてそうだろうか」
 エリーは編み物の手を止めてミツオを見た。
「どういうこと」
「進行方向が気になる。島ならまっすぐ海上を飛んでいると思う。でもこの振動は水平移動ではないような気がする」
「水平じゃなかったら何?」
 ミツオは一呼吸置いてから自分の考えを言った。
「上昇し続けているような気がする」

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◎望郷(未来探偵ロクロ その7)

2024年03月25日 | ◎本日の想像話
 夕刻間近。約束の埠頭に車を乗り入れた。ミツオ達の乗船するフェリーはすでに停泊している。二人を待ち構えていた須田が近づいてきた。
「時間どおりですね」
「時間厳守がモットーなんでね」
「このフェリーに乗れば良いのですか」
 エリーが須田に聞く。
「船旅といいましたが、こちらの船に乗り込んでいただけますか」
 須田が指し示した方角には、車が10台ほど格納出来るほどの巨大なコンテナを抱きかかえた、空飛ぶカーゴがあった。
「海上を飛んでいくのか」
「そうです。なにぶん定期便の存在しない場所に行ってもらうために、なんとか手配しました」
「約3日間の生活はどうなりますか?」
「ご安心ください。乗客はあなた達だけです。あのコンテナの中は特別仕様になっていて、ガス、水道、お風呂、食材、すべて完備しておりますのでご安心ください。車を中に入れてすぐ出発です」
 係員と須田が車を誘導する。
 係員がコンテナの扉がゆっくりと開く。車を一台固定する場所が用意されていて、扉で仕切られている。ミツオは駐車位置に車を停車した後、車止めにより四個の車輪が固定された。下車したミツオは係員に室内に移動するように促された。
「では、よろしくお願いいたします」
 コンテナの扉が外から閉められる。その隙間から須田が声をかけている。ガチャリと重い音に続いて、ロックされる音がこだました。
 二人は仕方なく部屋へと続くであろう扉を押し開けた。

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◎望郷(未来探偵ロクロ その6)

2024年03月24日 | ◎本日の想像話
 ミツオは窓ガラスを下げて須田に話しかける。
「ちょっと確認したいことがありまして。ちょうど近所を走っていたもので、もしかしたらいらっしゃるかなと思いまして」
「今日は妻と子供がいますので、家の中はご遠慮ねがいます。依頼の件は妻には内緒なのです」
「ですよね。ひとつだけお聞きしてもいいですか」
「なんでしょう」
「須田さんは、エンジニアとおっしゃていましたが、具体的にはどんな仕事になりますか」
「毎日ミツオさんは見ていますよ。はるか上空へと物資を運んでいるエレベーターの設計及び、運行の管理に携わっております」
「それは驚きました。では昨夜お聞きした日時と場所に、エリーと一緒に行きますので、どうぞよろしくお願いいたします」
 ミツオは偵察に来た事実を取り繕うことで精一杯だった。
「せっかく来ていただいたのに誠に恐縮です」
 須田は申し訳なさそうな素振りでミツオを見送った。
 ミツオが住居兼、事務所に戻るとエリーもメンテナンスを終えて帰宅していた。
「須田はいましたか」
「エリーは何でもお見通しだな。家にいたよ。でも奥さんには内緒の案件と言われた。仕事は軌道エレベーターの設計らしい」
「あれが出来て5年も経っていません。当時、ブレイクスルーの発明があって初めて完成にこじつけたと聞いています。もしかして、画期的な発明に関与しているかもしれませんね」
「そうだな。いずれにしても、ちゃちゃっとやっつけてしまおう。簡単な仕事だな」
 ミツオは夜のとばりが訪れるにつれてまた飲みに出かけようとしていた。しかし、エリーに首根っこをつかまれた。
「昨日飲んだでしょう。今夜はだめです。家で飲みましょう。何が食べたいですか」
「いたたた。分かりました。パスタでお願いします」
 ミツオはエリーにヘッドロックされながらかろうじて答えた。

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