日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎霧中(その21)

2023年12月10日 | ◎本日の想像話
 意識がなくなる刹那、ロボがミツオの顔を擦り付けている物が何であるかが分かった。
 ミツオは最後の力を振り絞って、ポケットからライターを取り出し。素早く着火する。ミツオの顔に埋もれている火災検知器をあぶった。コンマ5秒後、視界をうばう大量の水がスプリンクラーから降り注ぐ。
 防水処理のされていなかった精密機器は、一発で昇天した。エラー音と共に機能は停止する。ミツオはロボの腕に足をかけて締め付ける腕を外し、やっと呪縛から解放される。水浸しの床にがっくりとうずくまった。のろのろと立ち上がり、ミツオは部屋を後にする。
 なんとか建物の外にでたミツオは車のドアに手をかける。ずぶ濡れの体をシートに預けることに抵抗はあったが、そんなことを言っている場合ではない。
 エンジンに火を入れて、一速にギアをたたき込む。バックミラーに、東方室Aの建物から、後輪をスライドさせて飛び出す数台のエアバイクが見えた。


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◎霧中(その20)

2023年12月09日 | ◎本日の想像話
「私にはどうしてもコードを見つけることはできなかった。権堂はここにいる。見つけ出して停止コードを入手してほしい」
 エリーは埠頭の倉庫を示した地図を表示する。
「権堂はかくまわれているということか……」
 ミツオは腕を組んだ。
 その時、エリーの立体映像が乱れる。
「私の外部出力が阻害されます。ミツオさん。逃げてください。ここは東方室A。私を作った発注者の拠点です」
 言い終わる前に映像は消失する。室内には受付ロボとミツオだけになった。
「おまえはどちらかというと俺の見方だよな」
 ミツオは震える声で受付ロボに話しかける。ロボの瞳の発光が緑から赤に変化する。直後、モーター音が響き、ミツオとの距離をつめる。ミツオは何も出来なかった。首に痛みが襲う。
 ミツオの首を締めるける腕が圧縮空気の音と共に真上に伸びる。持ち上げられたミツオはもがいた。天井に頭をぶつける。遠のく意識。視界がうすれていく。

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◎霧中(その19)

2023年12月07日 | ◎本日の想像話
「あなたが目にした私は、霧中に照射した実体のない映像。そして私は実体のないプログラムなのです」
 エリーはミツオの目を見ている。ミツオは言葉を失う。
「私のプログラム母体は、レベルE。権堂達によって開発されました」
「あんたプログラムだったのか。驚いたな。そんなあんたがどうして権堂を俺に探させている」
「現在、レベルEが組み込まれていないパソコンは存在しない。問題は私。プログラム・エリーなのです」
 エリーは視線をおとした。
「私は隠されたウイルスとして眠っています。しかし権堂がコードを入力すれば、たちまちすべてのシステムが乗っ取られてしまいます」
「おいおい」
 ミツオは唖然とした。


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◎霧中(その19)

2023年12月06日 | ◎本日の想像話
 次の日、ミツオは東方室Aに再び足を運んだ。無人のロビーを進む。先日の受付ロボがカウンターからすべるようにやってきた。
「本日はどういったご用件でしょうか」
 ミツオは胸ポケットをまさぐる。
 コードが印刷された名刺大のアクリル板をとりだす。受付ロボの前に差し出し、読み込ませる。
 このアクリル板は、大家の元に息子の死後届いたものだ。生前に送付したものだろう。息子からの最後のメッセージだとミツオは直感した。
 アクリル板を認識したロボの様子に変化が現れる。ミツオを促すようにロボが動き出した。あわてて後に続く。別室に案内され、ミツオが入室すると後ろでドアが閉まる。
 ロボは顔を上げて、空間に映像を照射した。
 ミツオは声を失う。
 空間に現れたのはエリーだった。

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◎霧中(その17)

2023年12月03日 | ◎本日の想像話
 大家の部屋を後にしたのは深夜になった。遠山たちの姿は無い。自分の車に乗り込みながら、エリーは、はたして大丈夫だったのかを考えた。瞬間的に姿を消したようにも見えたエリー。依然として何者なのかが分からない状況に、釈然としないものを感じながらとりあえず岐路につく。 尾行の有無を確認しながら運転はする。上空からの尾行はほぼ不可能だ。なぜならオートパイロットを切っての運転は、人間業ではできない難しさだからだ。
 3Dプリンターによって作られた建物は大家の思想を色濃く反映していた。ミツオのアパートはガウディの聖堂を小さくしたような外見をしている。その小ささが逆に貧乏くさく感じることに大家は気づいてはいない。
 自室のドアにミツオは顔を寄せる。生体スキャンによって鍵が開いた。
 靴を脱ぎながら、車の鍵を棚に置く。そのすぐ横には琥珀色のアルコール。グラスに注ぎ飲む。

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◎霧中(その16)

2023年12月02日 | ◎本日の想像話
「私の息子は権堂と同じ会社、アリスコーポレションでプログラマーとして働いておりました。ある日、遠山がやってきて、息子に仕事を依頼したそうです」
「Eシステム」
 ミツオはぼそりと言った。
「そうです。Eシステムの基本的な骨格はすでに完成していて、その革新的なアイデアに息子は興奮しておりました。しかし、仕事を進めるうちに、あらゆるシステムを乗っ取って遠隔操作できるシステムであることに息子は気づいたのです」
 大家はコーヒーを飲んだ後、話を続けた。
「完成を拒んだ息子は遠山から執拗な嫌がらせ受けました。耐えきれなくなり息子は自ら死を選びました」「お悔やみ申し上げます」
「Eシステムの基本骨格を作ったのは東方室Aです」
「えっ」
 ミツオは声を失った。

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◎霧中(その15)

2023年12月01日 | ◎本日の想像話
「君がやられた男の名前は遠山。私は磯山会に恨みがある人間だ。だから君に協力する」
 大家は布でこしたコーヒーをミツオに差し出しながらつぶやいた。
「ありがとう」
 ミツオは受け取ったコーヒーを一口すする。酸味のある浅煎りの香りと味わいがとてもうまいと感じた。ミツオは何を言えばよいのか考えていたが、よい言葉が思い浮かばない。沈黙が空間を支配する。
「一人息子を失った」
 大家が口を開く。沈黙に耐えかねたという風にもとれるが、誰かに聞いてほしいという気持ちもあるのだろうとミツオは感じた。
「権堂が何をしていたのか、もしかして知っているのか」
 大家はこくりとうなずいた。

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◎霧中(その13)

2023年11月29日 | ◎本日の想像話
 顔をなめるざらついた舌の感触でミツオは目を覚ました。猫がそこにいた。白地の三毛猫がじっとミツオを見ていた。三毛猫は意識が戻ったことを確認して満足したかのように一声小さく鳴いた。こぎれいな部屋。フローリングの床にブランケットが敷かれている。その上にミツオは寝かされていた。
「気がついたかね。あんた、あの連中が誰だか知っているのかね」
 奥から出てきたのは先ほど立ち話をした大家だった。
「知らない」
 大家は心配そうに、ミツオをのぞき込み、ひとりうなずいた。いそいそとミルに豆を入れだす。どうやらコーヒーをいれるつもりらしい。
「権堂には近づくなと言われた」
「あの連中はこの辺り一帯を取り仕切る磯山会と呼ばれる荒くれ者達だ。デジタル関連のしのぎも得意と聞いておる。コーヒーでも飲むかい」
「ありがとう。いただくよ」

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◎霧中(その12)

2023年11月28日 | ◎本日の想像話
 ミツオのそばでたたずむ男は一人ではなかった。ボス格の男が手下に指示を出す。ミツオの両脇を抱え上げてむりやり立たせ、車に投げつけた。
「あんた探偵さんだろ」
 焦点の合わない瞳でミツオは、ボスらしき男を見る。背は低いが、首の太さが尋常では無い。目の輝きには感情が無い。は虫類を想像する切れ長の目。 
「あのエリーとか言う女に頼まれて権堂を探してるな」
 男は懐からタバコの箱を取り出し、はみ出したフィルターを口にくわえた。すかさず左右の手下から火が二つ灯される。
「これが最終通告だ。次に会う時にはこれではすまない。この件から手を引け」
再びアスファルトにミツオは転がされる。立ち去る足音だけが耳にとだいている。
 エリーはいつの間にかいなくなっていた。

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◎霧中(その11)

2023年11月27日 | ◎本日の想像話
 その後、大家と話した権堂という人物像はあまりいい人種ではないということが分かった。借金の返済に追われて、いつもがらの悪い輩に囲まれている場面を何回も目撃しているらしい。ミツオが手がかりの無さに、頭を抱えながら自分の車に戻る。「どう、なにかわかった」 
 ミツオは飛び上がって驚きながら声の方を見る。車から少し離れた位置にいたのは、傘もささずにたたずむエリーだった。聞きたいことは山ほどあったが、冷静をよそおいミツオは口を開いた。
「今のところ何も分からない。権堂は夜逃げ中、実績のある男が、どうしたっていうのだ。仕事の方はどうなってる」
「無断欠席が続いて、もうすぐ解雇扱いになる」
 捜索の依頼主であるエリーがあまり関心のないように見えるのがミツオには不思議だった。
「君と権堂はどういう関係?」
「権堂は良いことにも、悪いことにも私と関係がある。そして悪いことの方で、どうしても探してほしい用事がある」
 エリーの言葉が終わるか終わらないかのタイミングでミツオは激痛を後頭部に感じながら、自分の車にぶち当たる。
 その勢いで地面に倒れ込む、濡れたアスファルトの感触が顔面を支配した。
 ミツオを見下ろしながら、男のだみ声が聞こえた。

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◎霧中(その10)

2023年11月26日 | ◎本日の想像話
 夕闇へと向かう時間。
 霧、こまかい雨は降り続く。
 ミツオは権堂のアパートに到着した。十階建てのビルは威圧感を放ってそびえ立っている。
 オートロックに阻まれたドアの向こうにホウキとちりとりを手にした人物がいた。ミツオはドア越しに名刺を見せて面会を頼んだ。
「なんでしょうか?」
 人の良さそうな初老の男性が外に出てくれた。
「202号室の権堂さんはご存じですか」
「権堂さん……知るも知らないもないですよ」
「といいますと?」
「家賃滞納、音信不通、夜逃げ。どうもこうもないですよ。あなた権堂さんとどういった関係?」
「私も権堂さんの行方を捜しております」
「こっちが知りたいぐらいですよ」


 大家とミツオのやりとりを観察する車が一台。



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◎そんなことになりますか?シリーズ

2023年11月25日 | ◎本日の想像話
そんなことになりますか?シリーズ
「口元から血」のヒーロー?
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◎霧中(その9)

2023年11月24日 | ◎本日の想像話
 カオリに見送ってもらったミツオは、探すべき人物「権堂つよし」が務めている会社アリスコーポレーションに車をつけた。
 カオリの店でホットドッグを食べながら調べた情報をミツオは思い出している。
 アリスコーポレーションは近年「Eシステム」という革新的なソフトを開発して業績を伸ばしている会社らしい。そのプロジェクトのリーダーが「権堂つよし」ということがわかった。
 ミツオは社内の人間に直接話を聞こうと自動ドアをくぐった。広大なエントランスに人はいない。カウンターにはモニターが一台あるだけだ。つかつかと歩み寄ったミツオは呼び出しボタンを押す。
(アポイントメント・コード入力をおねがします)
 アポの無い人間は取り合ってもまらえないらしい。
 ミツオはアリスコーポレーションは後回しにして、権堂の住まいに向かうことにした。 

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◎霧中(その8)

2023年11月22日 | ◎本日の想像話
 エリーからの書類には画像が添えられていた。Tシャツ姿の筋肉質で精悍な若者が写っている。「権堂つよし33歳」職業はアリスコーポレーションに勤務するシステムエンジニア。
 半年前からこの人物と連絡が取れなくなった。消息を確認することが依頼内容だ。
 エリーの見立てでは、半年前から新しい取引先としてハバナ社との関係が始まっている。ハバナ社との間でトラブルがあったのではないかと彼女は考えているらしい。
「おまたせ」
 カオリがホットドッグと大きなマグカップに注がれたコーヒーを持ってきた。
 まずは腹ごしらえをしてからとミツオは紙ナプキンを首元に挟み込んだ。

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◎霧中(その7)

2023年11月21日 | ◎本日の想像話
 ミツオはフォグランプを点ける。視界が黄色に支配される。直列6気筒のエンジンに振動は無い。クラッチを踏み込み、ギアを入れる。四個のタイヤで地上を走る車は、ミツオの車以外ほぼいない。10メートル上あたりの空では結構な早さのビーグルが行き来している。自動運転で制御された物体に視界は必要ない。
 のろのろとした速度で車は、目的地に到着した。
「ひさしぶりだね」
 引き戸に連動したカウベルがカランコロンと鳴る。そのベルの音に紛れて店主のカオリが声が聞こえた。正確な年齢は知らないが、おそらく同世代だとミツオはかってに思っている。なかなかの美人だが、男のうわさは聞いたことがない。カオリの店には誰かしらいるのだが、今日は時間がまだ早いらしく、客は誰もいなかった。
「いつものおねがい」
ミツオは一番奥の席に座る。いつもの席と決めていた。

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