日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日の想像話「アプリ」

2014年07月27日 | ◎これまでの「OM君」
朝日の気配を感じる室内。
啓介は目をさました。
薄暗い寝室。
妻の京子と息子の芳雄は窮屈そうにくっついて眠っている。
休日の朝は早起きする。
平日は目覚まし時計が鳴り響いて、いやいや起きるというのに、休みの日は眠っていられない。
自然と早くに目が覚める。
妻と子供が眠っている間に撮りためたビデオをチェックする。
階下に降りリビングのソファに座った。
妻は家事は苦手だ。
昨夜の食器がシンクに放置されている。
しょうがないな…
そう思いながら食器を洗う。
冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出し、氷を入れた大きめのグラスに注ぐ。
昨夜の後輩の一言が蘇る。
「先輩、リアル・ワンって知ってます?ネットの噂ですごいらしいんです」
書類を片づけながら生返事を返した。
「ねえ、聞いてます先輩。自分の欲求が現実化するアプリらしいんです」
(リアル・ワンねえ)
そんな事をぼんやり考えながらテレビを点けた。

月曜日
昨日はショッピングモールにかり出された。
1日中妻と子供はモール内を歩き回っていた。
元気なもんだ。
後輩が話しかけてきた。
「おはようございます先輩」
「おお、おはよう」
「アプリ入れましたよ。最高です」
何だかうれしそうだ。
「何の話だっけ?」
「アプリですよ。俺、実は借金があって金がほしいって入力したんですよ。そしたら次の日の朝、ポストに封筒に入った現金が放り込まれてたんです」
「いくら入ってたの」
「200万」
絶句した。
「そんな大金、おまえ大丈夫なのかそれ」
「大丈夫っすよ。先輩もダウンロードした方がいいっすよ」
そう言いながら部屋から出て行った。
昼休みにスマホで検索する。
リアル・ワン
噂では確かに入力した希望が実現する夢のアプリらしい。
庭の草を刈ってほしい。
野良猫がうるさい。
ゴミ出しの監視がうるさい。
などなど。
次の日の朝には改善されているらしい。
しかし金となると話は別だ。
どこから来た金なのか。
どっちにしろ正体不明のアプリだと思った。

仕事が終わり家に帰った。
息子が出迎えてくれる。
妻も出迎えてくれた。
夕食の食卓で妻に言った。
「そういえば後輩が変なアプリにはまっているらしい」
「変って?」
聞いた話をそのまま言った。
妻はいぶかしがるどころか、興味津々なのが意外だった。

火曜日、会社の近所で金融機関が襲われたのを営業車のラジオで聞いた。
白昼堂々の犯行だった。
しかし、盗難車を何台も乗り継ぎ消えたとの事だった。
夕方、会社に戻り、車から降り、エレベータを待っていた。
後輩が営業車で戻ってきた。
よっと軽く手を挙げて挨拶したが、後輩は真っ直ぐ前を見たまま無視した。
変な感じだな。
そう思ったが、エレベーターは到着し、そのまま乗り込んだ。
そんな事もあるかな。

水曜日にはコンビニ、木曜日は銀行が襲われた。
いずれも会社の近所だ。
その日の夜、妻と話していた。
あれそういえば家の中が綺麗なことに気づいた。
以前は、洗濯物は2週間に1度、食器は3日に1回洗うのがやっとだったのに今は家のすみずみまで磨かれている。
「どうしたんだ。家事に目覚めたのかい。がんばってるね」
「うん、まあね」
そう言ってあいまいな表情を浮かべ、妻はキッチンに消えていった。

金曜日の夜、たまらない睡魔に襲われた。
妻が意味深にこちらを観察しているような気がした。
悪い予感がした。
(この眠気はおかしい。)
そう思った俺は直感的にトイレに這うように向かった。
そして指をのどに押し込み、吐いた。
これは薬物だ。
そう思ったのだ。
次の瞬間、誰かが背後から俺ののどを絞めた。
ぐう
なんだかわからい。
そのまま真後ろに飛び下がる。
廊下の壁にたたきつける。
首をしめる手の力がゆるんだ。
手を振り払い立ち上がる。
そこには気を失った妻が倒れていた。
なんで…

土曜日の早朝、後輩が捕まった。
会社の近所で多発していた連続強盗犯だ。
本人にはまったく覚えが無いとの事だが、奪われた同じ番号の現金が部屋から発見され逮捕された。
アプリでもらったと意味不明の供述を繰り返しているとの事だ。
妻はまだ眠っている。
妻の行動はいまだ理解出来ない。
なぜだ。
妻のスマホの電源を入れた。
そこには「リアル・ワン」があった。
起動する。
「なにをして欲しい?」
その問いかけに妻は「炊事」「洗濯」と打ち込んであった。
金曜日の朝はこう入力されていた。
「自分の時間が欲しい」
その後リアル・ワンの実体があきらかになってきた。
欲望を実行するのはアプリに操られた無意識の自分だったのだ。
コメント
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