現金が盗まれている。
最初は自分の勘違いかと思った。
財布の残金が少なくなっている?
ある時、ATMで下ろした現金を辞書の間に挟んだ。
仕事から帰って、財布にお金を補充しようと思って辞書を手に取った。
1万円足りない。
たしかに15万円下ろしたはずのお金が14万円になっていた。
間違いない。
この部屋に泥棒が入っている。
しかもばれないよう、ちょっとずつ盗んでいるようだ。
怖い。
そう感じた。
警察に通報した。
近所の派出所からスクーターに乗って制服組の若者がやってきた。
事情聴取を受けた。
どうやら被害届けを作成するらしい。
事務的な対応をする若者だった。
抑揚の少ないボソボソトした声で「調査します」
そう言って帰っていった。
若者のどんよりした瞳が気になった。
怖いので暫くこの部屋には帰らない。
でも犯人を捕まえるため、辞書のある本棚が収まるようにカメラを隠して設置した。
知人の家、ビジネスホテルで過ごし、家に帰ってきたのは一週間後だった。
もう引っ越そう。
そう決めていた。
どういう方法かは分からないが犯人は自由にこの部屋に入ってこれるのだ。
残しておいた現金を確認する。
1万円少ない。
カメラを手に取る。
何が録画されているのか。
AC電源でHDDに転送するタイプなので1週間記録できる。
1日目、2日目、3日目、特に異常はない。
4日目の動画をチェックしようとした…
手が止まる。
あるべき4日目のファイルが無い。
5日目、6日目のファイルはある。
動画に異常も無かった。
4日目に何があったのか。
その時、インターホンが鳴った。
ドアを開けると、そこにはどんよりした瞳のあの時の警官が立っていた。
「部屋の明かりが付いたので、お戻りかと思いまして伺いました」
ほっとしながら話した。
「ちょうど良かったです。僕、この部屋にいるのが怖くて留守にしていたんです。
で、留守の間の室内を防犯カメラで記録しておいたんです。
でも、仕掛けて4日目のファイルが消去されているんです。
カメラは隠して設置したので犯人に気づかれる事は無いはずなんですが…」
うつろだった若者の瞳にひらめきが走ったのが見えた。
ギアを1段上げたかのように若者はテンションを上げて話し出した。
「私、犯人が分かりました。
実はあの後、このアパートの玄関の見える場所で張り込んでおりました私。
ちょうど、そのファイルの消された日も私ここにおりました。
ちなみにその日、あなたこの部屋に戻られましたか?」
「いいえ、ずっと留守にしていて今帰ってきました。」
「そうですか。その日、あなたこの部屋に帰ってこられましたよ。」
「え…」
「覚えありませんか。帰ってこられて5分もしないうちにまたお出かけになられたので、あわてて追いかけて声をかけたんです。
まるで私とは初対面のような対応でした。
そして、まるで泥棒に入った犯人が警官と対峙したような反応をされました。
手には1万円札を1枚握っておられましたよ。
逃げるように走って行かれました。
犯人はあなたです。
あなた通院されていますね。
調べさせてもらいました。
ドクターともお話しました。
夢遊病と言うんですか、目が覚めると覚えの無い場所で寝ていることがあるそうですね。」
私は病院に通院などしていない。
私は分かった。
どうやら、記憶がない状態の私が病院に通院しているらしい。
今、起きている私は、どちらの私なのだろう。
地面がグラリと揺れた気がした。
最初は自分の勘違いかと思った。
財布の残金が少なくなっている?
ある時、ATMで下ろした現金を辞書の間に挟んだ。
仕事から帰って、財布にお金を補充しようと思って辞書を手に取った。
1万円足りない。
たしかに15万円下ろしたはずのお金が14万円になっていた。
間違いない。
この部屋に泥棒が入っている。
しかもばれないよう、ちょっとずつ盗んでいるようだ。
怖い。
そう感じた。
警察に通報した。
近所の派出所からスクーターに乗って制服組の若者がやってきた。
事情聴取を受けた。
どうやら被害届けを作成するらしい。
事務的な対応をする若者だった。
抑揚の少ないボソボソトした声で「調査します」
そう言って帰っていった。
若者のどんよりした瞳が気になった。
怖いので暫くこの部屋には帰らない。
でも犯人を捕まえるため、辞書のある本棚が収まるようにカメラを隠して設置した。
知人の家、ビジネスホテルで過ごし、家に帰ってきたのは一週間後だった。
もう引っ越そう。
そう決めていた。
どういう方法かは分からないが犯人は自由にこの部屋に入ってこれるのだ。
残しておいた現金を確認する。
1万円少ない。
カメラを手に取る。
何が録画されているのか。
AC電源でHDDに転送するタイプなので1週間記録できる。
1日目、2日目、3日目、特に異常はない。
4日目の動画をチェックしようとした…
手が止まる。
あるべき4日目のファイルが無い。
5日目、6日目のファイルはある。
動画に異常も無かった。
4日目に何があったのか。
その時、インターホンが鳴った。
ドアを開けると、そこにはどんよりした瞳のあの時の警官が立っていた。
「部屋の明かりが付いたので、お戻りかと思いまして伺いました」
ほっとしながら話した。
「ちょうど良かったです。僕、この部屋にいるのが怖くて留守にしていたんです。
で、留守の間の室内を防犯カメラで記録しておいたんです。
でも、仕掛けて4日目のファイルが消去されているんです。
カメラは隠して設置したので犯人に気づかれる事は無いはずなんですが…」
うつろだった若者の瞳にひらめきが走ったのが見えた。
ギアを1段上げたかのように若者はテンションを上げて話し出した。
「私、犯人が分かりました。
実はあの後、このアパートの玄関の見える場所で張り込んでおりました私。
ちょうど、そのファイルの消された日も私ここにおりました。
ちなみにその日、あなたこの部屋に戻られましたか?」
「いいえ、ずっと留守にしていて今帰ってきました。」
「そうですか。その日、あなたこの部屋に帰ってこられましたよ。」
「え…」
「覚えありませんか。帰ってこられて5分もしないうちにまたお出かけになられたので、あわてて追いかけて声をかけたんです。
まるで私とは初対面のような対応でした。
そして、まるで泥棒に入った犯人が警官と対峙したような反応をされました。
手には1万円札を1枚握っておられましたよ。
逃げるように走って行かれました。
犯人はあなたです。
あなた通院されていますね。
調べさせてもらいました。
ドクターともお話しました。
夢遊病と言うんですか、目が覚めると覚えの無い場所で寝ていることがあるそうですね。」
私は病院に通院などしていない。
私は分かった。
どうやら、記憶がない状態の私が病院に通院しているらしい。
今、起きている私は、どちらの私なのだろう。
地面がグラリと揺れた気がした。