とある昼下がりの出来事だった。
「金を出せ!」
カウンターに並んでいた男が突然叫んだ。
手にはピストルが握られている。
しかしその場にいる人々、行員の反応は薄い。
ATMの処理を淡々とするもの、雑誌から顔を上げ、つまらなそうにまた雑誌に視線をおとすもの。
男一人だけが心拍数を上げ、汗をかいていた。
「いらっしゃいませ。どうか興奮されずにこちらのカウンターまでどうぞ」
男を呼ぶ女性行員はいたって冷静だ。
男は行員に走り寄り「金をだせ!」
先ほどと同じ台詞を言った。
「はい、かしこまりました。ちなみにお伺いいたしますが、警察を呼ばれるのはお好みですか?」
「だめに決まってるだろ!早く金をだせ!」
「はいはい、お金はお出しします。が、最後にお聞きいたしますが、警察沙汰にはしたくないのですね」
「金は欲しい。警察にはつかまりたくない。当たり前だろ」
「かしこまりました。それではとりあえず500万円お出しいたしましょう。」
カウンター下をゴソゴソとさぐった行員は100万円の束5個をトレーの上に出した。
「おう」
男は手を出し、お金を取ろうとした。
女性行員はそのタイミングでトレーをひっこめた。
「なにしやがる」
男はいらついた。
「お金を渡すのはいいのですが、ご納得していただけますか?ただではありませんよ」
男には何のことだか分からなかったがとりあえず「分かった」と答えて金を袋に詰め、店を後にした。
エンジンをかけたままにしておいた車に乗り込み、男は走り去った。
ここまでくれば大丈夫だろう。
2時間ばかり逃走しやっと部屋にたどりついた。
しかし、不思議だった。
逃げている間、多数のパトカーがサイレンを鳴らして走り回るわけでもなかった。
いつもと同じ日常の風景。
銀行強盗がおこった事を報じるニュースもない。
男がビクビクして暮らしたのは最初の1週間だけだった。
なぜ通報しなかったのか。
男には分からなかったが、100パーセント成功した。
短絡的に、そして盲目的に自分を信じた。
2週間目からは豪遊が始まった。
金が無いつらさを男はすっかり忘れた。
男はあれだけ飲めていた酒にめっぽう弱くなった。
まあ、そんな事もあるかな。
男は気にはしなかった。
手元にある金がすっからかんになるにはそれほど時間はかからなかった。
4週間後。
男はまたあの銀行の前に立っていた。
「金をだせ!」
男を見た行員は笑顔を浮かべた。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ。この前はありがとうございました」
(ありがとうございますだと?なにを言ってやがる)
「金だ!金をだせ」
「ありがとうございます。前回と同じでよろしいですか?」
「ああ、前回と同じでいい。警察沙汰にならないようにな」
「かしこまりました。では500万円になります」
カウンターに出された5束の札束。
手にとった瞬間、地球の重力が3倍にも感じられた。
少しよろめいた。
「大丈夫ですか?」
行員は聞いた。
「ああ、大丈夫だ」
よろよろと車に乗りこんだ。
行員はにやりと笑う。
行員は視線を自分の手に落とした。
手には男の心臓が握られていた。
手の中にある心臓は緩やかに鼓動をくりかえしている。
男が店を後にすると、銀行だった建物は消えた。
そこには何もなかった。
そして日常が繰り返されていた。
「金を出せ!」
カウンターに並んでいた男が突然叫んだ。
手にはピストルが握られている。
しかしその場にいる人々、行員の反応は薄い。
ATMの処理を淡々とするもの、雑誌から顔を上げ、つまらなそうにまた雑誌に視線をおとすもの。
男一人だけが心拍数を上げ、汗をかいていた。
「いらっしゃいませ。どうか興奮されずにこちらのカウンターまでどうぞ」
男を呼ぶ女性行員はいたって冷静だ。
男は行員に走り寄り「金をだせ!」
先ほどと同じ台詞を言った。
「はい、かしこまりました。ちなみにお伺いいたしますが、警察を呼ばれるのはお好みですか?」
「だめに決まってるだろ!早く金をだせ!」
「はいはい、お金はお出しします。が、最後にお聞きいたしますが、警察沙汰にはしたくないのですね」
「金は欲しい。警察にはつかまりたくない。当たり前だろ」
「かしこまりました。それではとりあえず500万円お出しいたしましょう。」
カウンター下をゴソゴソとさぐった行員は100万円の束5個をトレーの上に出した。
「おう」
男は手を出し、お金を取ろうとした。
女性行員はそのタイミングでトレーをひっこめた。
「なにしやがる」
男はいらついた。
「お金を渡すのはいいのですが、ご納得していただけますか?ただではありませんよ」
男には何のことだか分からなかったがとりあえず「分かった」と答えて金を袋に詰め、店を後にした。
エンジンをかけたままにしておいた車に乗り込み、男は走り去った。
ここまでくれば大丈夫だろう。
2時間ばかり逃走しやっと部屋にたどりついた。
しかし、不思議だった。
逃げている間、多数のパトカーがサイレンを鳴らして走り回るわけでもなかった。
いつもと同じ日常の風景。
銀行強盗がおこった事を報じるニュースもない。
男がビクビクして暮らしたのは最初の1週間だけだった。
なぜ通報しなかったのか。
男には分からなかったが、100パーセント成功した。
短絡的に、そして盲目的に自分を信じた。
2週間目からは豪遊が始まった。
金が無いつらさを男はすっかり忘れた。
男はあれだけ飲めていた酒にめっぽう弱くなった。
まあ、そんな事もあるかな。
男は気にはしなかった。
手元にある金がすっからかんになるにはそれほど時間はかからなかった。
4週間後。
男はまたあの銀行の前に立っていた。
「金をだせ!」
男を見た行員は笑顔を浮かべた。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ。この前はありがとうございました」
(ありがとうございますだと?なにを言ってやがる)
「金だ!金をだせ」
「ありがとうございます。前回と同じでよろしいですか?」
「ああ、前回と同じでいい。警察沙汰にならないようにな」
「かしこまりました。では500万円になります」
カウンターに出された5束の札束。
手にとった瞬間、地球の重力が3倍にも感じられた。
少しよろめいた。
「大丈夫ですか?」
行員は聞いた。
「ああ、大丈夫だ」
よろよろと車に乗りこんだ。
行員はにやりと笑う。
行員は視線を自分の手に落とした。
手には男の心臓が握られていた。
手の中にある心臓は緩やかに鼓動をくりかえしている。
男が店を後にすると、銀行だった建物は消えた。
そこには何もなかった。
そして日常が繰り返されていた。