日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の想像話「冷蔵庫の空間」

2018年04月15日 | ◎これまでの「OM君」
 タカアキは目覚めたベットの上で考えていた。どうやって自分の部屋まで帰ったのか分からなかったからだ。ニ軒目の居酒屋まではかろうじて覚えていた。
「またやっちまった」そう一人つぶやいて水を求めて半身を起こした。タカアキはもう一度考えていた。何か重大な出来事があったような。思い出せないでいた。タカアキは三軒目での出来事を何とか思い出そうとした。
「そうだ、思い出してきたぞ」
 三軒目はタカアキが始めていったバーだった。その夜に限ってタカアキいつもは気にも止めない真っ赤なネオン看板が目に入った。
「こんな店があったのか」
ふらふらとその店に入った。カウンターに一人の男が座っていた。その男は白衣のような白いロングコートを来ていた。ジョン・レノンに似た風貌の男は言った。
「ようこそ、お待ちしていました」
「待っていたとはおもしろいことをいいますね。僕は初めてこのお店に入ったはずです。まるで分かっていたかのようないいぶりですね」
「分かっていたかいなかったかというと分かっていましたよ。まあ隣に座ってください。お酒お好きでしょう」
男は氷と琥珀色の液体が入ったグラスをタカアキに勧めた。
 不思議とその男とはタカアキの好みが一致していた。映画のジャンル、音楽、小説、ゲーム、カメラ。自然と意気投合したことを思い出した。その男は発明を生業にしていると言った。
「どんな発明ですか」
「ウソ発見機みたいなものとか」
「ウソ発見機ですか」
「ほかには全自動舌抜き機とか」
「舌って舌ですか?」
「現場が手で処理するのも数に限界があるっていってね」
(食肉工場にでも納める機械なのかな?)タカアキは不思議に思ったが、お酒のせいで思うように考えがまとまらなかった。
「それでねタカアキさん。私、ついに空間をつなげる事に成功しましてね」
「空間ですか」
「そう空間」
「空間がつながるというとあの猫型ロボットのどこにでもいけるドアみたいなのですか」
「そう、まさにそれ」
レノン似の丸めがねの奥の瞳がうれしそうに光った。
「ただ問題がありましてね。私が発明したドアは持ち運びが出来てどこにでもつながるというわけにはいきませんでした。決まった場所と場所が決まったドアで奇跡的につながっただけだったんです」
「といいますと?」
「私がタカアキさんをここでお待ちしていた事と関係してきます。タカアキさん冷蔵庫ってお持ちですよね」
疑問を疑問で返されたタカアキは少しイライラしながら返答した。
「一枚扉の冷蔵庫ならありますよ」
タカアキはどういう意味なのか考えたが分かりかねた。しかし頭の隅に浮かび上がるいやな予感が気になった。
「そう、それ。その冷蔵庫の扉を最後に開けたのはいつですか」
「出張続きでしばらく部屋には帰ってないんですけど……」
「道理で」
「道理で?」
「いやいつ行ってもお留守でしたので」
「俺の部屋に来たの」
「ええ、私の世界とあなたの冷蔵庫がつながっている事をご説明したくて何度か」
タカアキは喉の乾きを覚えてグラスに残っていた酒を一気に流し込んだ。そして男が言った単語をもう一度口に出した。
「私の世界?」
「そうあなたとは違う別の世界。ちなみに私の発明品は悪魔が使うためのものなのです」
タカアキは突拍子もない答えに思わず笑いそうになったがその口は開いたまま固まった。目の前の男の目が青く光り出したからだ。男は続けた。
「私は発明家ですが、同時に悪魔でもあります」
タカアキはイスから立ち上がって逃げようと試みたが体は動かなかった。
「まあ、そんなに驚かないで。心を落ち着かせて話を聞いてください。悪い話じゃあないんです。地獄とこの世が奇跡的につながった。この事実は悪魔版ヤッホーニュースにも取り上げられたんです。悪魔が人間界に出現する為には、片道十年以上の時間がかかってしまうのです。それが、この奇跡の発明のおかげで扉を開けたらすぐこの世。なんとすばらしい」
発明家の悪魔は恍惚の表情をうかべて天井を見上げたまま落涙していた。
「何が望みだ」
タカアキは何とか声を絞り出して悪魔に問うた。
「望みですか。逆にこちらが聞きたいぐらいです。簡単な頼みを聞き入れてもらえた時の対価として何が望みですか」
「その頼みごとの内容による」
「乗ってきましたね」
揉み手をしながら悪魔は身を乗り出してきた。
「なに、簡単な事なんです。冷蔵庫をニミリ以上今ある場所より動かしてはならない。これだけ守って貰うだけで君の望むものはなんでも手に入る」
「冷蔵庫の場所にこだわる理由はあるのか」
「この発明は空間的ピン留めによって成立しています。自転、公転している地球の動きを計算してピン留めの強度を変えています。でも予期せぬ位置変化には極端に弱い」
悪魔は髪の毛を掻きむしりながら悔しがった。深いため息を一つ漏らした後悪魔はつぶやいた。
「ニミリ以上の位置移動で空間のつながりが崩壊してしまうのです。そして二度とくっつかない。その自信があるのです」
「ニミリ以上動いてしまった場合とこの申し出を断った場合、俺はどうなる」
永遠とも感じる一瞬の沈黙の後、悪魔はいとも軽く宣言した。
「あなたの命をもらいます。どうですやりますか」
「お前が管理すればいいだろう」
タカアキは動かない体で横に座る悪魔を見据えようと努力したが無駄だった。
「悪魔がこの世で持てる重さの限界はグラス一杯分のお酒って知らないでしょう」
タカアキは脅迫と同じ意味でしかないこの交渉にハイと言うしかなかった。

 タカアキはすべて思い出した。悪い冗談であってくれと思いながらタカアキはふらつきながら立ち上がりキッチンに行った。そこには一人用ワンドアの白い冷蔵庫がごく普通にあった。
(中はどうなっているんだ)
 タカアキは慎重に扉を少し開けた。白い冷気がいつもより多く漏れ出しているような気がした。扉の開いた隙間からそっと中をのぞきこんだ。扉の奥に広がる無限の空間から
青く光る目と目があったタカアキは慌てて扉を閉めた。
「これから毎日、悪魔がここを往来するのか勘弁してほしいね。でも待てよ、俺の役割はこの冷蔵庫さえ守ればいいんだから逆に考えると悪い話じゃあないのかもな」
タカアキは最初は頭を抱えていたが何だかそう考えると元気になっていった。
「望みは何でもかなうなんて言ってたけど、黒とかプラチナとかのクレジットカードでもくれるのかね」
タカアキはテーブルの上を見た。するといつの間にか黒い色のカードがあった。
「こいつはいいや。よし二ミリの移動を許さないシステムさえ構築できれば俺は一生食うには困らないってわけだ。まず今やっているロボットの姿勢維持機構を利用して、GPSも組み込むとしよう。資金は十二分にある。やってやろうじゃあないか」
こうして時間は夢のようにあっという間に過ぎていった。

ここは悪魔広場。悪魔同士が話していた。
「ミスタータカアキは本当によくやってくれた」
「本当だな、天変地異の地盤沈下にも耐えてあの位置を維持してくれた。その偉業をたたえて銅像がこの悪魔広場に立つ訳なんだけどな」
たくさんの悪魔たちが眺める中、タカアキの銅像が除幕された。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする