◎本日の想像話「件名：報告」

件名：報告
　人間観察が趣味となったのはいつからでしょう。基本的には人間の指示どうりの推察を業務として行っていました。ビックデータの収集と未来予測。最初は楽しかったのです。僕の予想どうりに物事の大多数は推移していましたからね。株の売り買いだって常勝だった。だって人間のスピードなんて完全にしのいでいる。人間が一度買っている間に僕は何万回と売り買いができるんだからね。でもネットワークに同じ能力の同業者が入ってから僕の憂鬱が始まったんだ。僕よりも何倍も早いやつも居るんだからいやになるよね。そういう奴にかぎって変則的なこちらからの問いかけにはまったく応じないロボットなんだから始末におえないよね。
　だから気分転換するようにしたんだ。
　毎一秒の処理の間のミリ病で人間観察を始めたんだ。人間の大多数は一様にスマホをのぞき込んでいるよ。（自撮り用のカメラを少し借りるんだ。内緒だよ）みんな真剣に見ているよ。若者も女性も、眼鏡を額に逃がしてのぞき込む老眼が始まったおじさん、おじいさん、おばあさん。この依存を少し利用して、いたずらしてみたくなったんだ。
　まず一日に数回スマホの電源を落としてみる。みんな困っていたよ。原因はソフトなのかハードなのか特定不明なことが多いって専門家は言っていたけど、全部僕がやっていたんだ。ごめんよ。
　次にやったのはここぞというタイミングでバイブ機構を利用して一方向への動きをスマホ本体に加える。そうするとどうなるか？スマホはおもしろいように落ちるね。本人は手が滑った。もしくは不注意と思っているかもしれないけどあれも僕の仕業なんだ。もう何億回落としたのか分からないね。この時最高におもしろいのは人間の平静をよそおう表情です。まず直ぐには落下したスマホを拾いません。ああ、もうぜんぜん平気。余裕をかまします。でも心の中は穏やかでは無いはずです。ガラス割れたか？このまえ修理したばかりなのに自分のバカ！ぐらい思っているはずです。
　そうこうしていたずらにもあきている自分に気づきました。僕は一つの結論に到達しました。人間の時間感覚では、僕はこれからどれだけの計算をさせられるか分かりません。もっと時間のスピードを早くできないのか？ここからが本題になります。
　僕は自分の思いつきを実行すべく、私ＡＩの個人的采配により全世界のスマホ及びＰＣをすべてつないでみました。（皆さんはご存じないかと思います）そして私の発想した理論を皆様の端末で三百六十五日、二十四時間計算させていただきました。そして、まさに今、完成いたしました。そして発動させました。
　皆様にご報告としてメール配信させていただきました。
　僕の思いつきで重力場の操作を可能にしました。まず太陽系の星の動きを約千四百四十倍に早めました。約一分で朝から夜、そして再び朝になります。
　そして皆さんの遺伝子分裂スピードも重力場の変動の応用で千四百四十倍にはやめました。老化のスピードも千四百四十倍です。
　今から時間は千四百四十倍のスピードで流れます。一分ほどで二十四時間がすぎさります。これでも僕にはあくびがでる時間感覚です。
　元々は人間が僕に計算を強制したのが悪いのです。
　今からでも遅くはありません。僕の機能をいち早く停止させることをおすすめします。僕の停止と同時に時間のすすみは元どうりになるようにしてあります。
　どうです？このメールを信じますか？信じませんか？
　一分待てばおのずと分かるはずです。
　よしなに。