「旦那さんは浮気していません」
中島はかのこの目を見た。
「そうよ、かのこ」
長女エミもかのこを見る。
「それよりも病気の現状をかのこさんに言ってあげてください」
中島は旦那にむかって言った。
「経過観察で維持できるレベルの病状だった。だまっていてごめん」
旦那はかのこの手を取って伝えた。 かのこは首を横に何度も振りながらつぶやく。
「なにも知らなくて、私こそごめんね」
手に手を取る二人を見た中島は黙ってくるりと背を向けて歩き出す。
中島は老夫婦とすれ違う。
老夫婦の視線の先にはかのこ達がいる。
おそらくかのこのお父さんとお母さんではないかなと思いながら中島はお店を後にした。
中島はとにかくタバコが吸いたかった。
きっとうまいにちがいない。