日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日の想像話「思考遊戯」

2022年12月30日 | ◎本日の想像話
 漆黒の闇にひっそりと佇む一軒家。
 深夜二時、あたりに人影はない。
 私は玄関に忍び寄る。
 ポケットからピッキングツールを取り出し、細心の注意をはらいつつそっと鍵穴に手を添える。
 音もなくドアを開け、中に入る。
 何も見えないが、問題ない。
 家の構造はすべて頭に入っている。 主は2階の寝室で眠っているはずだ。
 私はその人物を殺す仕事を請け負ったヒットマンだ。
 なぜ殺される理由があるのかは私には関係ない。
 証拠を残さず、事故死に見せかけることが私の仕事だ。
 寝室に入った私は、早速、暖房器具の細工に取りかかる。
 この細工により、不完全燃焼を続ける暖房器具ができあがる。
 スイッチをいれる。
 このまま立ち去れば、燃焼ガスが充満し、男は静かに息をひきとるはずだ。
 私は完璧な仕事を確信しながらベットを見た。
 そこには二人の人影。
 おかしい。
 今夜この家にいるのは殺すべき男が一人だけのはずだ。
 私は確認のためベットに近づく。
 我が目を疑った。
 そんな馬鹿な。
 もう一人は女性。
 見覚えのある顔。
 それは見間違うはずのない女性、私の妻だ。
 どうして……
 どうする……
 私の思考は停止しそうになる。
 私はいつも保険を用意している。
 この仕事で学んだことだ。
 麻酔ガスを眠っている二人に流し込む。
 反応を鈍らせた後、妻だけを抱え上げ、一階のソファに寝かした。
 妻の寝顔を見ながら毛布をかける。 そして私は家を後にした。
 仕事は達成しているが、心には深いわだかまりがあった。




 一斉に湧き上がる拍手。
 スポットライトが何本も私に浴びせられる。
 私は明かりの灯った客席に目をやる。
 観客は皆、私の一人芝居に満足したようだった。
 私のパントマイムにも似た演技だけで、殺し屋の悲哀を感じたようだ。
 私は一人、舞台の上、何度も頭を下げた。
 拍手はいつまでもなりやまない。

コメント
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