《しんぶん赤旗》
=「日の丸・君が代」起立斉唱強制=
◆ 国連自由権規約委が是正勧告 日本は誠実に向き合え
~阿部浩己さんに聞く 明治学院大学教授(国際法)
教員が本人の意思に反して「日の丸・君が代」への起立斉唱を強制されている問題で、各国の人権状況を審査している国連自由権規約委員会が11月、日本政府に対し是正を求める勧告(別項)を出しました。
同様の勧告は国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(ユネスコ)がすでに2度にわたり出しています。
勧告の意味や、政府が果たすべき点について、明治学院大学の阿部浩己教授(国際法)に聞きました。(田中真聖)
市民的・政治的権利の保障を定めた国連の自由権規約は国際人権条約の中で最も中心的なものです。それを締約国がきちんと守っているかを監視するのが自由権規約委員会です。
その勧告で日本が抱える重大な人権問題の一つとして、教員に対する「日の丸・君が代」の起立斉唱強制の問題が指摘されました。
◆ 人権機関が必要
日本では1999年の「国旗国歌法」成立以降、各目治体や教育委員会が教員に対し、式典での起立斉唱を通運や条例で強制するようになりました。今回の勧告は、不起立で処分された教員が「受けるべきではない処分を受けた」と主張することに、国際人権法上の正当性が与えられたことを意味します。
勧告は、日本における「日の丸・君が代」の起立斉唱問題を自由権規約第18条の「思想・良心の自由」の問題と捉えています。起立斉唱命令に従わない教員への処分が許される範囲を超えていると指摘しています。
日本では処分を受けた教員の多くが裁判で訴えてきました。しかし判決の多くは被告の東京都などに有利な判断になっています。裁判に訴えても人権が実現しない。背景には日本の司法における人権や自由の捉え方が弱いことがあると考えます。
裁判以外で人権を実現させる仕組みが求められています。国から独立した人権機関をつくることがその一例です。
裁判に訴えることは大変なことです。金銭的、時間的な問題が出てくる。独立した人権機関があれぱ、被害を受けた人に寄り添った形で手続きが取られます。
国際的な人権基準を国内で実現しやすくすることで、政府や行政の政策にも影響を与えるでしょう。
◆ 戦争責任の問題
教員がなぜ起立しないのか。それは「日の丸・君が代」が戦争に利用された歴史、日本の戦争責任の問題とかかわっています。だからこそ国は容易に態度を変えない。今回の勧告を契機に、国際人権の枠組みで歴史認識の問題を議論できればいいと思います。日本は責任ある国際社会の一員です。今後もその一員でありたいのであれぱ、勧告に対し誠実に向き合うべきです。
そのためには勧告の実現に向けて、教員の側と協議をすることが大切です。
軍事費をGDP比2%にして、力を誇示するのではなく、人権保障で世界をリードしてほしいと思います。
※ 自由権規約委の日本政府への勧告(要旨)
委員会は締約国における思想・良心の自由の制限についての報告に懸念を持つ。学校の式典において、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することに従わない教員の消極的で非破壊的な行為の結果として、最長で6カ月の職務停止処分を受けた者がいることを懸念する。児童・生徒らに起立を強いる力が加えられているとの申し立てを懸念する。
締約国は思想・良心の自由の効果的な行使を保障し、規約第18条により許容される制限事由を超えて当該自由を制限する、いかなる行動も控えるべきである。締約国は自国の法令・実務を18条に適合させるべきである。
◆ 「日の丸・君が代」強制
「日の丸・君が代」を国旗・国歌と定める「国旗国歌法」の成立(1999年)以降、学校の教職員に卒業式・入学式などで起立斉唱が強要されています。東京都では2003年以降、起立斉唱の職務命令に従わなかったなどとして、約20年間にのべ約500人が処分されました。
『しんぶん赤旗』(2022年12月10日)
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