アイヌの文化や伝統などに魅せられ、関係する人々をビデオに収めてきた小野邦夫さん(71)=札幌在住=がこのほど、DVD「知里真志保」を完成させた。
真志保は今年、生誕100年の節目を迎えるが、登別出身の偉大な言語学者の生涯を2時間余にまとめた渾身(こんしん)の出来栄えとなっている。
小野さんはこれまで、ライフワークとして道内で大きな足跡を残してきたアイヌやそれにかかわってきた人々を追い続け、知里幸恵、彫刻家・砂澤ビッキ、道内で布教活動に力を注いだ宣教師のジョン・バチラー、イギリス人医師のニール・ゴードン・マンロー、金成イメカヌ(和名・マツ)と次々にビデオ化してきた。
ビデオ制作のきっかけは知里真志保、知里幸恵の著作で知られ、平成17年12月に亡くなった藤本英夫さん(札幌)から勧められたのがきっかけ。「最初は冗談かと思った」と言うが、亡くなって「先生へのお礼はビデオの制作しかない」と決意した。
真志保は1909年、知里家の次男として幌別で誕生。登別尋常小学校、室蘭中学(現室栄高校)、東京帝国大学(現東大)と進み、北大の教授などを務めている。
1940年から43年までの3年弱、樺太庁豊原高等女学校で教べんをとっているが、この時期はアイヌ語辞典作成に大いに役立ったとされる。金田一京助や山田秀三らとも交流。各種文化賞なども受賞し、1973年には功績をたたえる記念碑が登別に建立されている。
小野さんは登別、旭川、名寄、稚内、宗谷、網走、室蘭、東京などゆかりの地を丹念に巡り、四季折々の風景を交え収録。ビデオでは誕生から室蘭中学、第一高等学校、東京大学、樺太、北海道大学、文学博士―と、時代時代の足跡を詳細に追い、関係者のインタビュー、樺太庁豊原高等女学校時代の教え子4人の聞き取り調査なども織り交ぜながらまとめた。
ナレーションは今回も小野さんが務めている。小野さんは「多くの人の支援があって完成したが、取材を進めていてあらためてすごい人だなと感じた。ものすごいインパクトを与えた先生だったようで、教え子が17回忌、23回忌にクラスの半分が集まり墓参りしている。学問的にも、アイヌ語の極め方というのが、通常では考えられないすごさがある」と感慨深げに振り返っている。
(注)若き日の・・まるで革命家のような知里真志保の姿は「十勝平野・下」(上西晴治)で読める。若き日の砂澤ビッキの姿は「森と湖の祭り」(武田泰淳)で。写真は砂澤ビッキの作品。