詩人PIKKIのひとこと日記&詩

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パリの窓から : ワクチン・薬品をビッグファーマから取り戻そう

2021年05月18日 | 情報


 第76回・2021年5月18日掲載

ワクチン・薬品をビッグファーマから取り戻そう


*サノフィの従業員のデモ「薬品は商品ではない。健康は投資の製品ではではない。闘う従業員たち」

 

 フランスは新型コロナによる3度目のロックダウン(2度目のゆるい制限)の制限を5月3日から徐々に解除し、19日以降は劇場・映画館、美術館、商店、テラスが再開する予定だ。第3波の初期に学校閉鎖など厳しい制限措置を施行した国々では、フランスに先立ち解除が始まっている。英国変異種による感染の凄まじい波及に昨年末から見舞われ、多数の死者を出したイギリスでは、感染と死亡者数が激減した。

 ヨーロッパ諸国はそれぞれ感染の広がった時期や制限措置が異なるので比較は難しいが、イギリスの特徴は、制限措置と同時にワクチン接種のスピードが際立って速かったことであり、それが急速な感染後退に影響したとみられる。5月14日現在、イギリスで少なくとも1度ワクチン接種を受けた人の割合は人口の53,5%(2度終わった人は29%)、続くドイツが36,3%でフランスは29,2%だ。46,7%のアメリカ合衆国(2度は36%)でも感染は同様に激減したが、イギリスでは毎日の新たな感染者数が、感染者や死者数が桁違いに少ない日本より減ったほどだ(英国公衆衛生局PHEの調査によると、1度の接種でも症状を60〜65%抑えられ、家庭内感染などがかなり減るという)。

 ワクチンに関しては様々な問題がこれまで指摘されているが、新型コロナによる急速な開発・製造はワクチンをはじめ医療品がいかに大製薬企業(ビッグファーマ)の利益追求と大国(経済力がある国)の支配下におかれているかをあらわに示した。昨年9月すでに、欧米など金持ちの国(世界人口の13%)は、まだ試験中のワクチンの半分以上の量を予約購入した。貧困と闘うONEというNGOによれば、今年の3月までに、アメリカ合衆国、イギリス、EU、オーストラリア、カナダ、日本は、30億回分以上のワクチンをキープした(必要な量を10億回分超える)。残りは25億回分で、貧乏な国の多数の住民は今年中に接種を受けられない。世界じゅうのあちこちにワクチン接種を波及しなければ、パンデミックは収まらない(より強力な変異種がどんどん生まれる危険性)のに、金持ちの国々は愚かなエゴイズムからワクチンを買い占めたのだ。


*街中の薬局が歩道に設置した抗原検査用テント。予約なしで30分以内に結果が出る。PCRより信頼度は低いがこれも無償。

 この不平等を想定し、2020年5月に世界各地の(元)政治家や国際機関関係者、学者など130人がWHOの会合を前に声明を発表した。WHOの指導・管理のもと、新型コロナの検査、ワクチンや治療薬を万民が速やかに無償で受けられるように、各地の科学研究の成果やテクノロジーを共有し、富裕な国が資金を提供し、特許を放棄せよという内容だ。しかし、強国は貧しい国92か国の人口のたった2割分のワクチン購入援助(つまりビッグファーマへの支払い)の機構Covaxを作っただけで、特許やワクチンを買い占めた。南アフリカ共和国とインドは10月2日、WTO(世界貿易機関)でコロナ用ワクチンの特許の一時的放棄を要請した。昨年末にはアムネスティーやオックスファムなど国際NGOもワクチンの特許放棄、テクノロジーと製造ノウハウの共有を製薬会社と強国に求め、国際署名や汎EU署名が始まった。今年の1月にはルーラなど南アメリカの政治家、アミナタ・トラオレなどアフリカの政治家、フランスのジャン=リュック・メランションなどが同じ呼びかけを行い、3月初めにWHOの事務局長もワクチンの一時的放棄を呼びかけた。

 しかし、ビッグファーマはさることながら、欧米や日本など強国はずっとそれに反対し続けている。したがって、5月5日に特許の一時的放棄を呼びかけたアメリカのバイデン大統領の発言は、「革命的」と評されたほどだ。翌日、WHOとEU、国内でも特許放棄に反対し続けてきたフランスのマクロン大統領と閣僚は突然、「バイデンの提案に好意的」と前日までの立場をひるがえしたが、これは国内向けのいつもの虚言パフォーマンスにすぎない。続くEU首脳会議では、ワクチン開発と接種実践の勝ち組である英米がワクチンの流通を止めていると批判し、「賛同するが特許放棄では問題は解決できない」と、実は自国の巨大製薬企業サノフィ(コロナ用ワクチンはまだ作れていないが)を代弁する論理を展開した。ドイツのメルケル首相も(ビオンテックがワクチンに成功しただけに、より正直に)自国の製薬企業を代弁して反対したので、EUで特許放棄は進まない。(ふだんアメリカに追随する日本政府は、ワクチンの特許放棄についてどんなコメントをしたのだろうか。)

 特許放棄だけでは世界じゅうにワクチンが行き渡らないのはたしかで、レシピだけでなく製造ノウハウの細かい部分まで伝達し、各地の工場で急いで生産体制を整えなければ、十分な量のワクチンはつくれない。しかし、「特許を放棄したら今後、研究開発資金が出せない」というビッグファーマや強国の政府の言い分は、「盗人たけだけしい」と言わざるをえない。ファイザー=バイオンテックのワクチンはドイツのスタートアップの成功物語として紹介されたが、バイオンテックはドイツの公費3,75億ユーロ以上、欧州投資銀行から1億ユーロ以上の投資を受けた。モデルナはアメリカ国立衛生研究所NIHの機構を利用し、アメリカ生物医学先端研究開発局BARDAから9,53億ドルを受けた。アストラゼネカ(イギリスの製薬企業)のワクチンはオックスフォード大学の研究機構と、アメリカ生物医学先端研究開発局BARDAの10億ドル超の出資から生まれた。そして何より、mRNAにせよベクター型にせよ、昨年3月のWHOのパンデミック宣言後、急スピード(8か月)でワクチンが開発できたのは、公共研究機関による20年来の研究開発のおかげなのだ。アメリカ国立衛生研究所NIHだけでも20年間に172億ドルを研究に投じたと、科学雑誌「ワクチン」の今年4月の記事が述べている。

 一方、ビッグファーマはここ10年以上、自ら研究に資金を投じるよりスタートアップなどが開発した薬品やワクチン、検査の特許を多額で買いあさり、それを人件費の安い国の工場で製造して利潤を上げることに力を注いできた。フランスのサノフィもその典型的な例だ。

 元は石油会社エルフの子会社(衛生・健康部門)として1973年に設立されたサノフィは、1928年創立のローヌ・プーランクを吸収したアヴァンティスと2004年に合併した。フランスのワクチンや薬品研究・開発の歴史的2大リーダーは、パスツール研究所(1888年創立)とメリユー研究所(1897年創立)である。経営困難に面したパスツール研究所は1960年代後半に国の援助を受けて製造部門を分けて設立し、その会社は1970年代からサノフィの傘下に入った。一方、メリユー研究所は1967年にローヌ・プーランクの傘下に入り、ローヌ・プーランクは経済的困難を1982-1992年の国営化によって切り抜けた。こうして経営困難時は国のおかげで存続できたメリユーとパスツール研究所のノウハウを、買収・合併を経てサノフィは手中に収め、世界各地に研究所と製造工場を持つ有数のビッグファーマになった。

 ところが、そのサノフィはいまだ新型コロナのワクチン製造に成功していない。それもそのはず、2009年からこの多国籍企業は研究開発部門を縮小し続け、フランス国内の研究者数は6200人強から半数以下になったのだ。モンペリエに2012 年に完成した新しい研究所は一度も使われずに5年後に壊され、研究・開発の数も薬品の数も減った。儲からない研究と薬品はとりやめ(雇用削減)、特許購入や買収でサノフィの利潤と株主配当は増え続けた。

 破廉恥なことにサノフィはその間、国から「研究助成金」を毎年1,2〜1,5億ユーロ受け続けたのだ。昨年はコロナ危機にもかかわらず、トランプがコロナ治療に使った薬などで儲けて前年比340%増、123億ユーロの利益を上げた。新型コロナ用のワクチン開発援助金も受けたが、現在まだ2段階目の試験期間中だ。それでも今年、40億ユーロを株主に配当し、フランスでまた400雇用を削ると告げたので従業員のストが起き、市民団体や野党に糾弾された。ちなみにサノフィは、妊婦が服用すると子どもに奇形や早期神経発達障害などの疾患が起きる抗てんかん薬のデパキンを、1980年代からその事実を知りながら隠して売り続けた。被害者家族が長年をかけてようやく訴訟を勝ち取り、サノフィは有罪を言い渡されたが非を認めず、賠償金の支払いを拒否して上訴した(cf.『裏切りの大統領 マクロンへ』フランソワ・リュファン著、拙訳)。

 その間、国は大学の研究所や公共機関への予算をどんどん削ったため、雇用が稀で給与が低いフランスから多くの若い科学者が国外に流出した(昨年ノーベル化学賞を受けたフランスの女性科学者も、自国では自分がしたい研究ができないので外国で働き続け、現在はドイツ)。また、2003年のSARS以降、フランスの公共機関でコロナウイルスを研究していた科学者は、近年予算を得られなくなって研究を中断せざるをえなかった。ドイツのSARS共同発見者のドロステン氏(ベルリン、シャリテ大学病院)は、新型コロナのPCR検査を最初に開発し、第1波の速やかな対応に貢献したが、フランスはPCR検査もすぐに開発できなかった。

 つまり、検査やワクチン、薬品の開発・発見の多くは、公共機関による長年の基礎研究を土台にして生み出されるが、商品化された後の利益は特許によって高い製品を売るビッグファーマが取得し、株主が潤う。彼らは公共の助成金を受けるのに、ワクチンや薬品の成分や原価を明かさない。ワクチンや薬品は健康保険で還付されるが(フランスでは新型コロナのPCR検査やワクチンは還付100%で無償)、私たちは実は公共予算(税金)と健康保険(分担金)をとおして、製薬企業に二重に支払っていることになる。そして、サノフィのように薬品の害が立証されて有罪になっても、被害者の救済を国(つまり私たち)に押し付けようとするのだ。

 3月にワクチンの一時的特許放棄を呼びかけたWHOの事務総長は5月14日、大人へのワクチン接種を終えて子どもに接種を始めようとする金持ちの国々に対して、その分のワクチンを貧しい国(医療スタッフ用ワクチンさえ不足)に譲ってほしいと訴えた。そして各地にワクチンが行き渡らない限り、新型コロナによる今年の死者は昨年を超えるだろうと警鐘を鳴らした。フランスでは1959年まで、ワクチンは特許の対象ではなかった。「公益」という公衆衛生の原理と倫理は、資本主義と市場経済の圧倒的な成長の中で忘れ去られたのだ。

 健康と公衆衛生は、万民が享受できる権利のはずだ。したがってこの部門は、利潤追求だけが目的の市場経済から除外すべきではないだろうか。コロナ危機は、必要な検査、薬品、反応体、ワクチンなどを自国で供給できない現代の資本主義体制の欠陥をあらわにした。また、特許などによる薬品・ワクチン価格の異常な上昇により、C型肝炎など治療薬が高価すぎて、健康保険ですべての患者を治療できないという問題が起きている。この状況に対して、「薬品政策の透明性監視局」というNPOは、「公共薬品局」を設け、開発・製造と価格をコントロールすべきだと主張している。左派野党「屈服しないフランス」の政策綱領にも「公共薬品局」の設置が含まれているが、私たちは破廉恥な略奪者のビッグファーマの手中から、医療品を取り戻す時に来ているのではないだろうか。

 2021年5月17日 飛幡祐規

 

羽田空路変更から1年2か月。このままでいいのか?!

2021年05月18日 | 情報

羽田空路変更から1年2か月。このままでいいのか?!

動画(1分6秒)

羽田空路変更(昨年2020年3月29日)から1年2か月がたった。私は品川区在住、私の住むマンション(7階)から見ると航空機は斜め上の方向を通る。初めは、本当にびっくりいしたが、自宅の真ん前を国道が走るので、騒音的には気にならなくなった。そして、今は慣れてしまっている自分がいる。

ふと今日、JR大崎駅を歩いていたら、真上を航空機が通過した。しかも、3分間隔でである。新羽田ルートは2ルート(下図)。南風時の時に午後3時から午後7時ぐらいまで新ルートで航空機が羽田空港に進入する。大崎駅上空では、高度約300メートル。車輪が完全に出され、着陸態勢に入っている。高度は、さらに下がりJR大井町駅上空から大田区大森へ。住宅密集地の上空を通過し羽田空港に着陸する。
↓羽田新空路(2019年3月29日~)

↓羽田旧空路

今、改めて感じる。空路の真下ではとても怖い、とてもうるさい。そして重要なことは、コロナがあけたら国際線が再開され、こんなもんじゃなくなるということだ。なぜ、コロナで本数が減っているはずなのに、むりやり新空路を飛ばしているのか。やはり、羽田新空路は再検討すべきだ。7月4日に都議会議員選挙がある。この問題を政策に掲げない政党には、都政を語る資格はない。(湯本雅典)

 

 

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世に倦む日日 @yoniumuhibi

2021年04月18日 | 情報

戦前、社会大衆党やら日本無産党やら、いわゆる無産政党が大政翼賛会に合流して戦争政策を支持したわけだが、それがどういうことだったかよく分かる気がする。今、眼前で起きている出来事が当時も起きたということだ。戦前は一つだけ反対した政党があったが、今回は一つもない。

「戦争をさせない1000人委員会」、今回の日米首脳会談にダンマリ。コメントなし。無関心でスルー。52年ぶりの「台湾」明記で、台湾有事への自衛隊出撃態勢のコミットなのに。https://twitter.com/committeeof1000  高田健もスルー。https://twitter.com/ken_takada  憲法9条は..?

日中平和友好条約の破棄ですね。日本による事実上の破棄決定の瞬間だ。「一つの中国」の原則を破って「二つの中国」へと方針転換した。https://www.tokyo-np.co.jp/article/98611 

志位和夫のツイッター。日米首脳会談のタイミングに合わせて、中国叩きのインタビューを文藝春秋に載せ、それを宣伝している。意図は明白。日本共産党が日米同盟の側に付いてアシストしている。まさか官邸と握っているのか。ファシズム。右から左まで対中国戦争の決意で一致。https://twitter.com/shiikazuo/status/1383227936703057922  https://twitter.com/shiikazuo/status/1383227936703057922
 
ユネスコ憲章前文。「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」。これが憲法9条の思想ですよね。今、この思想にコミットする日本人が皆無だ。左翼(しばき隊共産党)が率先して中国叩きに血眼。右翼のお先棒を担いでいる。https://www.unesco.or.jp/sanda/kensho/ 
 
戦争を止めようとする勢力や声が全く無い。左翼も中国叩きに血道を上げて、右翼と政権をアシストしている。憲法9条はどこへ行ったんだ。どいつもこいつも「日米同盟を強化せよ」ばかり。軍事力で中国を脅せば相手が怯んで戦争を回避できると思っている。戦争で犠牲になるのは誰なんだ。
 
総理大臣の8月15日の靖国参拝も、これで解禁になるかもしれない。アメリカの民主党政権はこれまで容認してなかったが、方針転換してゴーサインを出す可能性がある。アメリカの方が積極的に日本会議(安倍晋三)に合わせるようになった。靖国国営法案、天皇の靖国参拝も近い。戦争始めるわけだし。
 
約20年の時を経て、再び米国の「悪の枢軸」策が復活している。前回は、北朝鮮・イラン・イラクだった。今回はスケールが大きくて、中国・ロシア・イランの3国。悪魔化し、全否定し、国際社会から排除しようとしている。政権と体制を崩壊させようと目論み、軍事的手段すら行使しようとしている。
 
「NATOの価値観の世界標準化 - 米国は安倍晋三にノーベル平和賞を授与か」をアップしました。https://critic20.exblog.jp/32091492/ 
 
民間企業のファイザー社に、日本政府の強い要請を拒否する理由はないですよね。現に、アストラゼネカ社やモデルナ社は委託生産させてくれと日本政府に打診している。ファイザー社だけが断る理由はない。玉川徹、そこを突っ込んで聴き出さなきゃ。裏に何かあるわけでしょ。EUと米国の日本仕置きとか。
 
「テレビを買い換えようか迷っている – インターネットとテレスクリーン」をアップしました。https://critic20.exblog.jp/32088603/

〔週刊 本の発見〕軍国主義が深化した時代の流行語『戦前尖端語辞典』

2021年04月02日 | 情報

毎木曜掲載・第198回(2021/4/1)

軍国主義が深化した時代の流行語

『戦前尖端語辞典』(平山亜佐子 著、山田参助 イラスト、左右社、1800円)評者:大西赤人

 

 この本の内容は、「おわりに」において、「本書は、大正八年から昭和一五年にかけて発行された新語、流行語辞典およそ三〇冊から、発想に新鮮さを感じたり、すでに一般語となったものの由来がわかるものや、今見ても面白い言葉を取り上げて解説した辞典風の読み物である」と端的に説明されている。「大正八年から昭和一五年」とは、西暦で言えば1919年から1940年までの約二十年間。時代背景的には、第一次世界大戦終結(パリ講和会議)以降、関東大震災、昭和恐慌、五・一五事件、二・二六事件、日中戦争勃発、日独伊三国軍事同盟条約締結などが起き、いわゆる大正デモクラシーからエロ・グロ・ナンセンスを経て軍国主義が深化した時期ということになるであろう。

 現代においても新語、流行語は大いに人々の興味を惹き、毎年、新語・流行語大賞が選定されたりもするわけだが、その過半は一過性の――刹那的な――ブームに留まり、何年か経てば、どんな機会にどんな意味合いで使う言葉だったかさえ朧げになってしまうことも珍しくはない。本書に収録された三百ほどの「尖端語」においても、たとえば「アルバイト」「イミシン」「艶歌」「ツンドク」「猟奇」などのように、多少のニュアンスの変化こそあれ時を経ても日常に定着している例もある一方、今からでは語意の見当さえつかない言葉も多い。本書は、単に当時の辞典から語句を選んだだけではなく、それらが実際に用いられている文章を様々な小説、随筆等から丹念に引いており、具体的にイメージが喚起される(当時のカット類に加え、いかにもその時代を感じさせる山田の数多い「新作」イラストも効果的である)。

 大西の父親は1916(大正五)年に生まれた人間だったから、まさにこの『戦前尖端語辞典』に収められた新語、流行語をリアルタイムに見聞きしながら少青年期を過ごしたものと思われる。実際、「鉄管ビール」や「シャン」くらいはその口をついていた記憶があるけれども、一般にその種の言葉を好んで使うタイプであったとは考えにくいし、そもそも、年齢を重ねても新語、流行語を連発しつづける人間は限られるところではあろう。さはさりながら、上記のような「まさにこの『戦前尖端語辞典』に収められた新語、流行語をリアルタイムに見聞きしながら少青年期を過ごした」人々は既に皆無に等しく、従って、これらの言葉がどこまで世間に広まっていたのか、世相を的確に反映していたのかに関しては、いささか疑わしく思われる部分はある。

 もちろん大西も当然その時代を知らず、それゆえの浅慮かもしれないが、たとえば「寄生聴」に「自分の家にはラジオを備えず、隣家のを聞いて、それで間に合わせること」との(辞典原物から引いた)語釈がありながら、「当時の受信機は七割が鉱石ラジオ。(中略)一台に寄り集まって聞くしかない」との(平山による)解説が付されていると、両者に幾分の矛盾を感じる。あるいは、「赤大根」には「表面は赤く左翼的であるが、実際はそうでない人を指して言う」との語釈に加え、解説では「プロレタリア文学の流行とともに『プロ青年』たちがこぞってルパシカを着て闊歩していたが、関東大震災【1923年9月:大西注】後に大杉栄と伊藤野枝が虐殺された途端に影を潜めた」と正岡容の文を引いている一方、「築地型」の語釈では「築地小劇場が創立【1924年6月:大西注】された当時は、同劇場に属するものは、揃いも揃ってルパシカに黒のハンチングと云うソヴエット仕込の恰好で、銀座狭しとばかりに練り歩いたものである」と説明されており、いささか辻褄が合わない。

 また、「一人一殺主義」には「社会主義者用語。乃《すなわ》ち一人の主義者が一人の資本家を殺して、その目的を達せんとする意で、理論より実行を主とした語である」との語釈を示した上で、「テロ集団『血盟団』(後に検事がつけた名称)が掲げた標語」として、「テロリズムは暴力や脅迫で社会を動かそうとする忌むべき方法だが、一人が一人を殺すというこの話は妙にわかりやすく人口に膾炙しただろうことは想像がつく」と補足している。昭和初期において〝一人一殺主義=社会主義者用語〟と解した原書のバイアスはさておき、現代では、この言葉は、明らかに右翼、国家主義、ファッショとの関係性で位置づけられるべき性質の物だろう。約九十年前の語釈を言わば漫然と踏襲・再生産する解説に関しては、労作であることを認めた上で、なお違和感を拭いがたかったところである。


世に倦む日日 @yoniumuhibiより

2021年03月27日 | 情報

アメリカでアジア系に対する人種差別の暴力が多発し、深刻化している。21世紀のアメリカの国富って、基本的に、国内のアジア系が稼いで積み上げたものですよね。企業のソフトウェア・エンジニアや大学の技術研究者。ざっくり言って、上のアジア系と下の中南米系の働きでGDPを増やしている。

クラシック音楽も、本来はヨーロッパの古典芸能だ。それを日本人がここまで極めたから、世界の標準文化として定着したとも言える。日本人の努力と営為が讃えられるべきなのだ。五輪のスポーツ競技でもそのことは言える。冬期の種目とか。19世紀20世紀の日本人のその方面での達成は立派。

ラーメンは世界の標準文化になった。日本食はかなり普及して一般化している。アニメも世界の標準文化になった。お花見も中国人が摂り入れて、年中行事の娯楽として生活に定着させ始めた。いずれ世界に広まるだろう。ハロウィンやバレンタインやクリスマスみたいに。中国人は夏祭りも始めているらしい。

能や歌舞伎を、欧米人や中国人が自ら演劇団体を作って自国内で公演興行するという、そういうところまで標準文化として定着させられないものか。本当はそこまでめざすべきで、この30年間に、日本経済が順調に成長して米国経済と肩を並べるまで大きくなっていれば、その地平も可能だったかもしれない。

考えさせられる三枝成彰の問題提起だ。娯楽と芸術。芸能と芸術。https://news.yahoo.co.jp/articles/c302487b6838fbc11353c9a97f419e45448e198f  東京五輪を開催するのなら、音楽・指揮は坂本龍一を当てるのがいい。企画・演出は宮崎駿と鈴木敏夫で。ジブリのアニメ作品は「国際標準の芸術」と呼んでいい内容と水準だろう。金熊賞も受賞しているし。

 


シビル市民講座4月~8月(全5回)案内

2021年03月23日 | 情報
投稿者: 小泉雅英

 【シビル市民講座 第40期】 2021年4月~8月(全5回)

自伝から読む歴史Ⅶ
新編・石光真清の手記 
全4巻(中公文庫) 

講師:加藤 晴康さん(横浜市立大学名誉教授)

★各回とも 会場:柴中会公会堂 (下図) 時間:13:30~16:30

第1回 4月21日(日) 第1巻 『城下の人』

第2回 5月16日(日) 第2巻 『曠野の花』

第3回 6月13日(日) 第3巻 『望郷の歌』

第4回 7月11日(日) 第4巻『誰のために』

第5回 8月8日(日) 補講「帝国日本の境界」とアジア

 本書は厳密な意味では自伝ではない。明治から昭和にかけて生きた著者 石光真清(い
しみつ・まきよ 1868~1942)の名は、この手記が表に出ることがなかったら、時代の激
動の陰でおそらく市井に埋もれたまま忘れ去られていたことだろう。しかし、著書は波乱
の足跡を希有な記録として残していた。これを著者の長男 石光真人(まひと)が、あら
ためて編集し出版したのが本書である。
 石光真清は維新前夜の熊本で生まれ、神風連の乱や西南戦争での熊本城の戦いを目の前
にして育つ。やがて軍人を志すも、迫ってくるロシアの脅威を前にロシア語を学び大陸に
渡る。この手記は、近代日本の帝国としての拡大の最前線で、その裏側にたち下積みとし
て生きた人物のまれに見る記録である。それだけに本書は、東アジアを巡る国家のせめぎ
合いのはざまで、歴史の表舞台には現れない、しかし歴史の現実に翻弄される人々の姿を
浮き彫りにしていて、近代日本の国家にとって境界の意味を考え直させるものでもある。
全4巻だが一気に読める面白さを持った本なので、自由に読後感などを話しあえる講座に
できたら、と考えている

会場 柴中会公会堂 (JR中央線 立川駅南口 徒歩4分  モノレール立川南駅 徒歩
2分) 地図参照
定員 25名 定員一杯になり次第締め切ります。
受講料 1回 1000円 会員・学生・経済的困窮者1回 800円(全回前納者は 4500円・会員
 4000円)
お問合せ/お申込み シビル1階事務室(平日13~19時 メール申し込みも可)
Tel:042-524-9014 Fax:042-595-9431 mail:civilt
achikawa@yahoo.co.jp
●オススメ 郵便振替口座で前納申込 口座番号「00170-0-481827 シビル運
営委員会」

郵便局にある振替用紙に、どの回を申し込むか、氏名・住所・電話・メールアドレス等を
明記してください。

◆コロナ事態の推移によって延期・中止する場合があり、その都度1週間前にはお知らせ
する予定です。
講師プロフィール:加藤 晴康(かとう・はるやす)さん 

 東京大学大学院で西洋史を専攻。フランス社会思想、社会運動、植民地関係史を主に研
究。横浜市立大学名誉教授。
 『ブランキ革命論集』(現代思潮社/訳編)、『歴史として、記憶として─「社会運動
史」1970-1985』(共著)などがある。シビル市民講座「自伝から読む歴史」をずっと担
当している。

一般社団法人 市民の学習・活動・交流センター シビル
tel 042-524-9014  fax 042-595-9431  立川市柴崎町3-10-4

【各回の概要】
(各回とも 会場:柴中会公会堂 時間:13:30~16:30)

第1回 4月18日(日)  第1巻『城下の人』
熊本に生まれた少年の体験する維新の変動の嵐。新政府に叛旗をひるがえした神風連の乱
や、西南戦争で西郷軍に包囲される熊本城の戦いを目撃する。軍人の道を歩み日清戦争に
従軍するも、ロシアの極東進出にロシア留学を志す。

第2回 5月16日(日)第2巻『曠野の花』
義和団の乱に揺れる清朝の支配と進出する列強。
 ウラジオストクで学んだ真清は、洗濯屋を開き諜報活動に従事する。満州で馬賊や現地
の日本人娼婦らと知り合い、日露のはざまにたつ中国人や朝鮮人たちの苦難を目の当たり
にする。 

第3回 6月13日(日)第3巻『望郷の歌』
日露戦争に少佐として従軍。しかし、戦後、軍人としての出世の道を捨て、ふたたび大陸
へ。渤海湾での海賊稼業や事業などに従事するも成功せず、失意のうちに帰国する。明治
は終わろうとしていた。 

第4回 7月11日(日)第4巻『誰のために』
ロシア革命がおこり、シベリアも革命と反革命の波にさらされる。真清はアムールへ。シ
ベリアの在留日本人のためにボリショビィキ政権とも接触する。そのなかで、日本軍はシ
ベリアに出兵。おりから日本では米騒動が……。 

第5回 8月8日(日)補講「帝国日本の境界」とアジア
石光真清の講座をふりかえり、やがて大陸進出から「満州事変」へと突き進む日本の歴史
にとっての東アジアの「境界」、そして「境界」のはざまに置かれた人々の問題を考えて
いく。なお、可能なら受講者による小レポートも実施したい。
 


世に倦む日日 @yoniumuhibiより 1.8

2021年01月08日 | 情報

トランプ派の勢力は当然残るから、共和党が分裂することになる。それは大いに結構なことだが、それを避け、分断の傷を癒やし、アメリカ合衆国の政治統治と国民統合を再建しようとするなら、悪であるトランプを逮捕・投獄するしかない。トランプ主義を潰すしかない。それができるかどうかだ。

トランプの負けだ。クーデターに失敗した。思ったほどDCにデモ人数を集められなかった。本当は何十万人と集めたかったんだろう。ジョージア州の州務長官に不正行為を要求して圧力をかけた電話音声。これを暴露されたのが効きましたね。トランプは逮捕・投獄するしかない。https://this.kiji.is/720081434630930432?c=39550187727945729 …

モーニングショーは岡田晴恵を毎日出演させるべきだ。コロナのコメントは岡田晴恵を定番にするのがいい。その上で、ゲストとして、尾﨑治夫や相澤孝夫や倉持仁や大谷義夫や渋谷健司を出して欲しい。この5人が日替わりゲストでいい。岡田晴恵は必須だ。そうじゃないと番組らしくない。


〔週刊 本の発見〕『偉大なる失敗――天才科学者たちはどう間違えたか』

2020年06月08日 | 情報
http://www.labornetjp.org/news/2020/hon161
毎木曜掲載・第161回(2020/6/4)
「専門家」を見直すための好適な一冊

『偉大なる失敗――天才科学者たちはどう間違えたか』(マリオ・リヴィオ 著、千葉敏生 訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫、940円)評者:大西赤人

 新型コロナウイルス感染症は、未だ収束には遠い。たしかに日本における死者の絶対数は欧米に比較すれば格段に少ないが、アジア各国に比較すると人口あたりの死亡率はむしろ高い。ソーシャル・ディスタンスの確保によって感染の勢いは一旦下がったと思われるものの、別に治療薬が出来たわけでもワクチンが出来たわけでもないから、人の行き来・接触が戻れば必然的に感染者数は再び増えてくる。東京では、「東京アラート」と称して都庁とレインボー・ブリッジを赤く染めるという極めて〝効果的〟な対策が打ち出される一方、歌舞伎町をはじめとする「夜の街」を槍玉に挙げながら、店に休業を求める――即ち補償する――こともなく、相変わらず客の側には「自粛」を迫り、ついには都と警察が協力して「見回り隊」が結成されるらしい(新撰組か?)。

 今回の経緯の中で、とりわけ興味深い点は、(医学的、科学的な)「専門家」という存在である。本欄で過去に紹介した『科学と非科学-その正体を探る』(中屋敷均)に描かれていた通り、未知の感染症に襲われた無力な人々は「専門家」を頼り、科学的な「神託」を求めている。しかしながら、言葉遊びめくけれども、未知の物に対して真の意味の「専門家」が居るはずはない。要するに彼らは、過去の似たような対象から類推し、信頼に足りそうな仮説を構築するに過ぎない。「数理モデル」と言えば聞こえはいいが、冷ややかに見れば、机上の空論と化す危険も大いにある(予測が当たれば「ホラね」、外れれば「条件が変わったから」となる)。

 本書は、近代科学の歴史において確固たる地歩を占める五人の科学者――ダーウィン、トムソン(ケルヴィン卿)、ポーリング、ホイル、アインシュタイン――を採り上げ、その現代にもつながる輝かしい業績と、彼らが傑出した能力の持ち主であったがゆえに犯した失敗とを綴っている。当然ながら、「失敗」とはいえ、いわゆる単純ミス、うっかりミスの結果ではなく、綿密な作業が過程のどこかで道を違《たが》え、誤った目的地へと向かってしまう。それは、「偉人たちの犯す失敗は、結果的に理論や考え方に間違いが見つかったとしても、ほかの科学者の発想を刺激したり、それに代わる新理論を生み出したり、時には何十年もたってからその価値が見直されたりするもの」(訳者あとがき)なのである。

 進化論、DNA、ビッグバン、相対性理論等々、大西もそれなりに興味はあるし、全く無知な事柄ではないにせよ、「加速する宇宙に関するもっとも説得力のある証拠は、ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機による宇宙マイクロ波背景放射のゆらぎの詳細な観測と超新星の詳細な観測を組み合わせ、この観測結果を現在の膨張速度(ハッブル定数)に関する個々の測定結果で補うことによってもたらされた」などという文章にぶつかると、全く意味不明。学問的内容をどこまで理解し得たかは、怪しい。

 しかし、五人の科学者、及び、その周辺を綺羅星のごとく取り囲んでいた傑物たちが、世俗とかけ離れた学究的側面と極めて生々しい感情や欲求に基づく人間的側面とを併せ持ち、その事が研究自体の軌跡にさえも時に影響をもたらしたことが窺われ、面白い。そして、――
「人々は認知的不協和を和らげるため、判断の誤りを認める代わりに、従来の意見を正当化するような新しい方法で、自身の見解を作り替えることがわかっている

「それがノーベル賞であれ、周囲からの羨望であれ、昇給であれ、〝激ムズ〟レベルの数独パズルを解くことへの単なる満足感であれ、努力しつづけるには、脳の側坐核に一定量の報酬が必要なのだ
「時に、人間は(科学者も含めて)自分の間違いをなかなか認めたがらないものだが、それと同じように、新しいアイデアに頑なに反対することもある

――というような部分に、自戒とともにうなずかされる。

 科学、及び科学的言説・価値基準に少なからず依拠して生活せざるを得ない時代、その程度がますます増大している時代において、それに携わる人々とその思考を知り、見直すための好適な一冊と言えよう。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、根岸恵子、杜海樹、ほかです。

ALONE ~孤独のサバイバー~ S3 第27話 食料探し

2020年05月01日 | 情報
https://gyao.yahoo.co.jp/player/11376/v00006/v0000000000000000119/

寒さが増し、食料不足が続く中、挑戦者たちはタンパク質の確保に注力する。魚を捕まえるため、凍えるほど冷たい水の中に飛び込む者、パタゴニアで最も賢い動物を仕留めようとする者、独創的な狩猟マシーンを手作りする者。粘り強い頑張りが報われる挑戦者がいる一方で、また1人限界へと達していく。

カンブリア宮殿 2020/4/16放送分

2020年04月30日 | 情報
https://gyao.yahoo.co.jp/title/%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AA%E3%82%A2%E5%AE%AE%E6%AE%BF/5b863377-a99d-4c31-b070-77a5629933b4


キャスト
【ゲスト】 ボーダレス・ジャパン社長 田口一成【メインインタビュアー】 村上龍【サブインタビュアー】 小池栄子

多彩な経済人ゲストを宮殿に迎え、インタビュアー村上龍が経済の“今”を切り取る1時間のトークライブ。
カンブリア紀……地球で起きた生命の大爆発。次なる進化を求めて生物が一斉に誕生した。あれから5億5000万年……平成の時代に起きた経済の大変革。未来の進化を担って、今、多種多様な人物が次々と誕生している……そんな"平成のカンブリア紀の経済人"を迎える大人のためのトーク・ライブ・ショー 

「病院で感染」防ぐインフルエンザ発熱外来 インターパーク倉持呼吸器ペインクリニック内科院長倉持仁

2020年04月28日 | 情報
https://www.zakzak.co.jp/lif/news/190419/lif1904190009-n2.html
★インターパーク倉持呼吸器ペインクリニック内科院長・倉持仁さん(46)

 宇都宮市南部の閑静な住宅地に2015年に開業した「インターパーク倉持呼吸器ペインクリニック内科」は、次世代型の郊外型プライマリケア(初期診療)医療機関。院長の倉持仁医師は、「地域に必要とされる医療を考えていったらこうなったんです」と語る。

 365日診療、CTやMRI、内視鏡や気管支鏡など一通りの検査設備をそろえる。倉持医師が担当する呼吸器科の他に消化器内科、神経内科、膠原病リウマチ内科、ペインクリニック、放射線科などの専門医が、あらゆる症状に対応する。

 その手厚い診療体制は広範囲に知れ渡り、特に多くの医療機関が休診となる日曜祝日は、遠方からの患者も多い。

 「救急病院が受け入れられない時には、救急隊からの受け入れ要請が来ることもある。入院設備はないけれど、診ないことには始まらないので、とりあえず受け入れて、できるところまでをここでする。そうすれば状況も詳しくわかるので、その先を引き受けてくれる病院も探せるのです」

 同院には、もう一つ、きわめて先進的な取り組みがある。「インフルエンザ発熱外来」だ。

 クリニックの敷地内に設けられた別棟は、インフルエンザに代表される感染症の疑いがある患者を専門に診る外来棟。8つある診察室は通常の外来と完全に分離されている。換気や紫外線による殺菌設備も完備し、感染拡大を防ぐ仕組みだ。

 「病院で病気をもらうなんて本来あってはならないことですが、実際には医療機関が感染源になるケースは少なくない。また、医療従事者が感染すると、その地域の医療体制が崩壊してしまう。そうした問題を解決する手段として作ってみたのですが、使い勝手は悪くないです」

 いつでも、何でも診てくれるクリニックがある街の住人は幸せだ。そんな幸せな街づくりに向けた倉持医師の挑戦は続く。(長田昭二)

 ■倉持仁(くらもち・じん) 1972年、宇都宮市生まれ。98年東京医科歯科大学医学部卒業。青梅市立総合病院、横須賀共済病院、東京医科歯科大学医学部附属病院呼吸器内科勤務を経て、2008年、倉持病院副院長。15年から現職。日本呼吸器学会認定呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会認定専門医、日本内科学会認定医。医学博士。趣味はサックス演奏、海釣り、キャンプ。

ヤン・チェンニン(楊振寧) 素粒子の発見 みすず書房 1968[訳]林一

2020年04月20日 | 情報
https://1000ya.isis.ne.jp/

◆世界中がウイルス・パンデミックの渦中におかれることになった。RNAウイルスの暴風が吹き荒れているのである。新型コロナウイルスがSARSやMARSや新型インフルエンザの「変異体」であることを、もっと早くに中国は発表すべきだったのだろう。そのうえで感染症を抑える薬剤開発やワクチンづくりに臨んでみたかった。

◆ちなみに「変異」や「変異体」は21世紀の思想の中心になるべきものだった。せめてフランク・ライアンの『破壊する創造者』(ハヤカワ文庫)、フレデリック・ケックの『流感世界』(水声社)を読んでほしい。千夜千冊ではカール・ジンマーの『ウイルス・プラネット』を紹介したが、中身はたいしたことがなく、武村政春さんの何冊かを下敷きにしたので(講談社ブルーバックスが多い)、そちらを入手されるのがいいだろう。

◆それにしても東京もロックダウン寸前だ。「自粛嫌い」のぼくも、さすがに家族からもスタッフからも「自制」を勧告されていて、この2週間の仕事の半分近くがネット・コミュニケーションになってきた(リアル2・5割、ネット参加7・5割のハイブリッド型)。それはそれ、松岡正剛はマスクが嫌い、歩きタバコ大好き派なので、もはや東京からは排除されてしかるべき宿命の持ち主になりつつあるらしい。そのうち放逐されるだろう。

◆もともとぼくは外に出掛けないタチで(外出嫌い)、長らく盛り場で飲んだり話しこんだりしてこなかった。学生時代に、このコンベンションに付き合うのは勘弁してもらいたいと思って以来のことだ。下戸でもある。だから結婚式や葬儀がひどく苦手で、とっくに親戚づきあいも遠のいたままにある。

◆これはギリとニンジョーからするとたいへん無礼なことになるのだが、ぼくのギリとニンジョーはどちらかというと孟子的なので、高倉健さんふうの「惻隠・羞悪・辞譲・是非」の四端のギリギリで出動するようになっている。たいへん申し訳ない。

◆ついでにいえば動物園はあいかわらず好きだけれど、ディズニーランドは大嫌いだ。レイ・ブラッドベリの家に行ったとき、地下室にミッキーマウスとディズニーグッズが所狭しと飾ってあったので、この天下のSF作家のものも読まなくなったほどだ。これについては亡きナムジュン・パイクと意見が一致した。かつての豊島園には少し心が動いたが、明るい改装が続いてからは行っていない。

◆スポーツ観戦は秩父宮のラグビーが定番だったけれど、平尾誠二が早逝してから行かなくなった。格闘技はリングスが好きだったけれど、横浜アリーナで前田日明がアレクサンダー・カレリンに強烈なバックドロップを食らって引退して以来、行かなくなった。ごめんなさい。子供時代はバスケットの会場と競泳大会の観戦によく行っていた。

◆つまりぼくは、できるかぎりの脳内散歩に徹したいほうなのである。それは7割がたは「本」による散策だ(残りはノートの中での散策)。実は、その脳内散歩ではマスクもするし、消毒もする。感染を遮断するのではなく、つまらない感染に出会うときに消毒をする。これがわが「ほん・ほん」の自衛策である。

◆ところで、3月20日に『日本文化の核心』(講談社現代新書)という本を上梓した。ぼくとしてはめずらしくかなり明快に日本文化のスタイルと、そのスタイルを読み解くためのジャパン・フィルターを明示した。パンデミックのど真ん中、本屋さんに行くのも躊らわれる中での刊行だったけれど、なんとか息吹いてくれているようだ。

◆ほぼ同じころ、『花鳥風月の科学』の英語版が刊行された。“Flowers,Birds,Wind,and Moon”というもので、サブタイトルに“The Phenomenology of Nature in Japanese Culture”が付く。デヴィッド・ノーブルさんが上手に訳してくれた。出版文化産業振興財団の発行である。

◆千夜千冊エディションのほうは『心とトラウマ』(角川ソフィア文庫)が並んでいる最中で、こちらはまさに心の「変異」を扱っている。いろいろ参考になるのではないかと思う。中井久夫ファンだったぼくの考え方も随所に洩しておいた。次の千夜千冊エディションは4月半ばに『大アジア』が出る。これも特異な「変異体」の思想を扱ったもので、竹内好から中島岳志に及ぶアジア主義議論とは少しく別の見方を導入した。日本人がアジア人であるかどうか、今後も問われていくだろう。
2020・3・30(月)

◆このところ、千夜千冊エディションの入稿と校正、ハイパーコーポーレート・ユニバシティの連続的実施(ビリヤード、遠州流のお茶)、講談社現代新書『日本文化の核心』の書きおろしと入稿、角川武蔵野ミュージアムの準備、ネットワン「縁座」のプロデュース(本條秀太郎の三味線リサイタル)、九天玄気組との記念的親交、イシス編集学校のさまざま行事などなどで、なんだかんだと気ぜわしかった。
◆こういうときは不思議なもので、前にも書いたけれど、隙間時間の僅かな読書がとても愉しい。1月~2月はガリレオやヘルマン・ワイルなどの物理や数学の古典にはまっていた。この、隙間読書の深度が突き刺すようにおもしろくなる理由については、うまく説明できない。「間食」の誘惑? 「別腹」のせい? 「脇見」のグッドパフォーマンス? それとも「気晴らし演奏」の醍醐味? などと考えてみるのだが、実はよくわからない。
◆さて、世間のほうでも隙間を狙った事態が拡大しつつあるようだ。新型コロナウィルス騒ぎでもちきりなのだ。パンデミック間近かな勢いがじわじわ報道されていて、それなのに対策と現実とがそぐわないと感じている市民が、世界中にいる。何をどうしていくと、何がどうなるはかわからないけれど、これはどう見ても「ウィルスとは何か」ということなのである。
◆ウィルス(virus)とはラテン語では毒液とか粘液に由来する言葉で、ヒポクラテスは「病気をひきおこす毒」だと言った。けれどもいわゆる細菌や病原菌などの「バイキン」とは異なって、正体が説明しにくい。まさに隙間だけで動く。
◆定義上は「感染性をもつ極微の活動体」のことではあるのだが、他の生物の細胞を利用して自分を複製させるので、まさに究極の生物のように思えるのにもかかわらず、そもそもの生体膜(細胞膜)がないし、小器官ももっていないので、生物の定義上からは非生物にもなりうる超奇妙な活動体なのである。
◆たとえば大腸菌、マイコプラズマ、リケッチアなどの「バイキン」は細胞をもつし、DNAが作動するし、タンパク質の合成ができるわけだ。ところがウィルスはこれらをもってない。自分はタンパク質でできているのに、その合成はできない。生物は細胞があれば、生きるのに必要なエネルギーをつくる製造ラインが自前でもてるのだが、ウィルスにはその代謝力がないのである。だから他の生物に寄生する。宿主を選ぶわけだ、宿主の細胞に入って仮のジンセーを生きながらえる。
◆気になるのはウィルスの中核をつくっているウィルス核酸と、それをとりかこむカプシド(capsid)で、このカプシドがタンパク質の殻でできている粒子となって、そこにエンベロープといった膜成分を加え、宿主に対して感染可能状態をつくりあげると、一丁前の「完全ウィルス粒子」(これをビリオンという)となってしまうのである。ところがこれらは自立していない。他の環境だけで躍如する。べつだん「悪さ」をするためではなく、さまざまな生物に宿を借りて、鳥インフルエンザ・ウィルスなどとなる。
◆おそらくウィルスは「仮りのもの」なのである。もっとはっきり予想していえば「借りの情報活動体」なのだ。鍵と鍵穴のどちらとは言わないが、半分ずつの鍵と鍵穴をつくったところで、つまり一丁「前」のところで「仮の宿」にトランジットする宿命(情報活動)を選んだのだろうと思う。
◆ということは、これは知っていることだろうと思うけれど、われわれの体の中には「悪さ」をしていないウィルスがすでにいっぱい寝泊まりしているということになる。たとえば一人の肺の中には、平均174種類ほどのウィルスが寝泊まりしているのである。
◆急にウィルスの話になってしまったが、ぼくが数十年かけてやってきたことは、どこかウィルスの研究に似ていたような気もする。さまざまな情報イデオロギーや情報スタイルがどのように感染してきたのか、感染しうるのか、そのプロセスを追いかけてきたようにも思うのだ。
2020・2・25(火)