◎体操、呼吸法、食事はセットメニュー
導引とは、体操プラス呼吸法。
「食事をしたかい?」というのは、中国での日常の挨拶ことばで、「こんにちは」みたいなものである。それほどに中国の食糧事情は歴史的に厳しくあり続けてきたものだと思う。パール・バックの小説「大地」で、清朝末期が舞台だったかと思うが、安徽省の村が、冬になると村ぐるみで暖かい広東省の方に乞食をしに行く話が出ているし、最近はいざ知らず、大陸の中国人と言えば痩せているものと相場が決まっていた。
鄧小平の時代になってからは、食糧の安定供給ができるようになったようだが、共産中国は、1948年の建国以来、人民を腹一杯食べさせることが主要テーマであった。食糧が十分でなければ、栄養不足を原因とする病気が蔓延しがちになるので、政府として何か手を打たなければならない。それが国家を挙げての気功の推奨だったのではないだろうか。
今の日本は栄養不足ではなく、栄養過多と栄養の偏りの調整が問題になっているけれど、導引・気功もそれなりに効果があることと思う。
1970年代に馬王堆漢墓から導引図が出土して、中国では2千年前から、導引がメジャーな健康法として行われてきた痕跡が明らかになった。中国歴代王朝では、道教の人気は高く、特に元代、明代に盛んに養生書が出版され、現代に至るまで連綿と導引は生きのびて来た。特に明代は、オカルティズムが盛んであった時期で、今残っている中国流の人相、手相、四柱推命(淵海子平)の源流をたどると明代の書物に行き当たることが多い。
日本では、医心方という平安時代の医学書に導引が最初に登場。その後江戸時代に盛んに導引が行われていたようだ。そして明治になってから西洋式の体操が入ってからは導引は全く省みられなくなった。ノウハウの退化である。
馬王堆漢墓の導引図のあった場所に『却穀食気』という文献があり、これは、絶食ないし節食しながら、呼吸法をやることで、当時から体操、呼吸法、食事コントロールは、全部セットで求道者のトレーニング・メニューであった。