ポピー、ひなげし、アマポーラ、そして、虞美人草。
虞美人草は、項羽に愛された美女 虞美人が流した血から咲いた花と言われているそうだ。
多分、高校の1年の時だと思うけれど、担任は、若いきれいな女の先生だった。
担当科目は英語。
その先生が、ある日授業中に、
”みなさんは、もしもタイムマシンで過去に行けたら、会ってみたい人はいますか?
と、質問された。
英語の時間にそぐわない質問に、みんなしーんとしていると、
”私は、虞美人に会ってみたいです”
とおっしゃった。
先生は、もしかしたらご存知だったのかも知れないけれど、
私達は、その少し前、漢文で、英雄項羽と美女虞の詩を習ったばかりだった。
だから、虞美人と聞いてすぐに、彼らの涙の場面を思い浮かべることができた。
四面楚歌のなか、項羽に勝ち目はない、生き延びることはできないと覚悟はできている。
しかし、自分亡き後、愛しい虞はどうなるのか。
いったいどうしたらいいのだろう・・・
”虞や虞や、汝を如何せん”
項羽は愛する虞に語りかける。
”そのときの虞美人の気持ちを聞いてみたいんです”
先生は、夢見るようにおっしゃった。
理知的で、いつもきりっと頭を上げ、前を見つめているような先生の
思いがけない面を見たようで、
何かが先生の心の中に入り込んでいる、そんな気がした。
それからすぐに、先生が結婚なさるらしいという噂が流れた。
それで、”ああ、そうだったのか”と、何となくではあるけれど、子供心に納得がいったのだった。
間もなく、先生は噂どおり結婚なさって、やがて女の赤ちゃんに恵まれた。
その赤ちゃんは、今は45歳くらいかしら。
先生も、まだまだお元気だろう。
申し訳ないことに、先生のお名前はすっかり忘れてしまった。
けれど、赤ちゃんの名前は憶えている。
桜子(さくらこ)ちゃんだった