30年も前に読んだものだから、記憶は定かではないけれど、シャーロック・ホームズシリーズの中のどこかで、ドクター・ワトソンがホームズについて、こう語っている。
ホームズの知識は驚くほど多岐にわたり、その博学にはいつも驚かせれるけれど、その反面、世間一般の常識的な知識にかけていたりする。
あるとき、ホームズが地球が太陽の周りを回っていること、所謂地動説を知らなかったことを知って、さすがに唖然としてしまった。
”それはほんとうか?”と真顔で尋ねる彼に、”君はそんなことも知らないのか!”と呆れて言ったら、ホームズはなんら恥じることも無く、”僕は無駄なことは憶えないことにしているのだよ”と答えてすましている。
ホームズによると、人間の記憶能力には限りがあり、一つ憶えたら一つ忘れるという。
だから、無駄なことを憶えておくことは、それこそ無駄ということだ。
そんな感じの内容だったと思う。
ホームズといえども、限界まで記憶能力をフル活動させているとは思えないから、天才である彼の脳には地動説を憶える余裕はまだ十分あると思う。
そんなことも知らないのか!と言われてむっとしたホームズがワトソンを煙にまいたのだろう
最近 テレビの番組で、学者の方が”物忘れ”について話しているのを観た。
その方によると、記憶というのは脳という大きな箪笥の、脳細胞という引き出しに、情報が一つずつ無造作に放り込んである状態らしい。
お目当ての情報が開けやすい場所の引き出しのほうにあればすぐに見つけられるけれど、上のほうや下のほうの引き出しに入っていたらなかなか見つけられない。
これが一般に言う”物忘れ”だそうだ。
人は生きている間、情報を蓄え続ける。
年をとると物忘れが増えるのは、脳が衰えるからばかりではなく、膨大な情報のなかから捜し出さなければならなくて、なかなか見つけられないからだそうだ。
そうか、確かに10個の引き出しの中から1個を探し出すのは容易だけれど、100個、1000個10000個の中からとなれば、だんだん難しくなるよね。
人間60年やってれば、それなりにいろいろな情報を吸収しているものね、
確かな情報と言うのはほんの少しで、うろ覚えが殆どと言うのは悲しいけれど。
さて、脳には無限の可能性が潜んでいるとはいえ、実際のところ、凡人のその引き出しの数には限りがあるのだそうな。
そこで、いっぱいになっているところへ新しい情報を一つ押し込もうとすると、一つ捨てなければならないわけで、その場合はほんとうに忘れてしまうらしい。
なるほど、そうなるとやはり、ホームズは正しい。
無駄な知識は蓄えておかないほうが良いと言うことになる。
ホームズに比べて、私の脳の箪笥はあまりに小さい。
尚更余計なこと憶えておくことないな。
なーんて、言い訳。
その小さな箪笥の数少ない引き出しさえいっぱいになっていないのに