翌日、Sさんの奥様について、添乗員さんから再度説明があった。
とりあえず入院して、脳のCTを撮ったが、
運悪く土曜日で、写真を見て判断を下す医師がいない。
医師が出勤する月曜日まで待たなければならないとのことだった。
その医師の判断次第では、一緒に帰れないかもしれない。
ブリュッセルはベルギー最大の都市で、首都だ。
それなのに、土日続けて診察できる医師が病院にいない。
信じられない。
保険会社の指示なのか、夜受け付けてくれる病院がそこだけだったのか。
かかった病院が、たまたま悪かったのか。
その事情はわからないが、日本国内の常識が通じないことを改めて思った。
その日の観光を終え、
私たちが、夕方ディナーのためにグランプラスで集まっていると
奥様の病院に行っていたSさんが合流した。
ずっと病院にはいられないので、多分みなさんここだろうと来てみたのだそうだ。
Sさんと、その日のオプショナルツアーに参加しなかった 10人ほどで、
添乗員さんと一緒にムール貝を食べに行った。
奥様は、時間が経つに連れ回復されて、何とか話もできるようになっているとのこと。
それは本当に良かった。一過性脳梗塞だったのかも知れない。
一緒に食事をしていた人たちみんなもほっとした。
ところが、退院させてくださいと言っても許可がでないのだそうだ。
とにかく専門の医師が診るまで何もできないの一点張りなのだという。
確かに、病院としてはそう言うしかないだろうなと思う。
「とにかく早く日本へ帰りたいですよ」
ため息交じりに出た言葉に、Sさんの心労が察せられた。
このまま入院続行となれば、明日以降新たなホテルを探して移らなければならないこと。
ツアーを外れてしまえば帰りの飛行機のチケットは別に購入しなければならないこと。
入院費用が全額保険でカバーされるのかどうかわからないこと。
そして、持ってきたクレジットカードが使えなくて、
手持ちの現金に不安があること。
聞けば、クレジットカードは、JCBゴールド1枚だと言う。
また、どうして・・・
追い打ちをかけるようで、とても言えなかったけれど、
旅行好きの人なら、海外旅行にVISAカード必携は常識だ。
JCBは国際ブランドだし、国内では最強だと思う。
アジアの国々や、欧米でもツアーで行くお土産屋さんや免税店では使える。
でも、それ以外では使えないことが、まだまだ多い。
私たちは、JCBとVISA の2枚は必ず持って行く。
普段は使わないのだから、会費無料のカードで十分だ。
でも、今更行っても仕方がない。
ビールを飲んで、少し元気を回復したSさん、
「とにかく、皆さんと一緒に帰国できるよう、明日医者に頼んでみるつもりです」
と、意を決したようにおっしゃった。
翌日の月曜日は帰国の日、ブルージュ、ゲントの観光後、ブリュッセルの空港へ直行した。
嬉しいことに、空港ではSさんご夫妻が、先に着いて待っていた。
新しく撮った脳のCTスキャンで、異常は見当たらず、
出勤した医師から、帰国の許可が下りたのだそうだ。
奥様は、元気とは言えないけれど、
バスを降りたときとは大違いで、添乗員さんもホッとしたことと思う。
成田到着後は順次解散だったので、Sさんご夫妻にはお会いしていないが、
お二人とも、お元気なことと思う。
明日は我が身、他人事と思えない出来事だった。