一番長いお付き合いのお友達、M子さんと、ランチをした。
そのとき、彼女が語った、お出かけの日の不思議な出来事。
M子さんはジュエリー好きだ。
多かれ少なかれ、女ならみんなそうでしょ。
彼女の好みは、一言で言えば「ゴージャス」。
その日、お出かけのお供に選んだのは、彼女が持っている中でも一番ゴージャスな指輪。
プラチナと18Kのコンビで中心に大き目のダイヤが一つ、それをメレやらテーパーやらがびっしり取り巻いて、地金も見えないという一品。
レストランなどの明かりの下では目が眩むほどの輝きだ。
実は、私達は質屋さんのバーゲンのファンで、その指輪もそこで買った。
だから、かなりお安く手に入れている。
「安かった」という満足感は、主婦にとって何よりも重要だ。
高いものを安く買う、それこそがお買い物の醍醐味と言わずして何と言おう。
つい魔が差して、定価で買うなんて芸のない事をしてしまったら、
「こんなお高いもの、どうして買ってしまったの?私としたことが、血迷ったしか思えない。ああ、修行が足りない。夫になんて言おうかしら?いえいえ、隠さなければ、ああ、どうしよう~~~」
と、もんもんとして眠れぬ夜を過ごすかも知れない。
でも、格安なお品を手に入れたときは、なんとも晴れやかな気分。
夫とて、高品質のものを少しでもお安く手に入れようと奔走する健気な妻に何の文句が言えようか。
高価で気に入ったものを格安でゲットできたときは、まあ、なんというか、
「私、ベテラン主婦としての手腕を存分に振るったわ」
という満足感がひたひたと押し寄せる。
「ああ、女で良かった~、至福の時ってこういうことかしら」
と、幸せに浸るのだ。
おっと、話がそれてしまう。
早い話が、彼女はその指輪を、デザイン、輝き、その価格、その他あらゆる意味でとても気に入っていた。
そして、その日、お気に入りの指輪をしてバスに乗った。
バスの中でも、わが手の指の燦然とした輝きにうっとり。
手をかざしては、その動きにつれて輝きがきらきらと七色に変わるのを楽しみ、右手の指でちょっと回してみたり、触ってその感触を確かめたり。
口元は自然にほころび、 乙女のような微笑がおのずと湧き上がる。
やがて、バスは札幌駅へ。
銀行で用を足した後、大丸、東急をブラブラ、いくつかの店舗ではちょっとしたカットソーなど試着をし、当たらないとしりつつ、ロト6を何口か買った。
最後に、スタバでコーヒーを飲んで、さて帰ろうかと、立ち上がりながら、目が何気なく左手へ。
すると、何か変と感じた瞬間、気がついた。
指輪がない!
なぜ、どうして?!
ザーッと血の気が引く。
と、次の瞬間、その引いた血が一挙に頭に駆け上ったのだそうだ。
さあ、大変!
彼女は走った。
自分が歩いた道を戻り、寄ったお店を一つ一つ訪ね、指輪が落し物か忘れ物でなかったか、聞いて歩いた。
アラ還とはいえ彼女は美人だ。
その美人の鬼気迫る形相に、店員さんが思わず一歩も二歩も引いたのは言うまでもない。
最初の銀行にまで戻ったけれど、どこにもない。
自分の電話番号を伝えて、もしもあったら連絡をくれるようにお願いして帰るしかなかった。
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