ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

中国共産党の「三戦」と東アジア安全保障会議

2014-06-17 | 日本のこと

わいわいのりものフェスタの護衛艦見学の話の続きを読もうと思った方、
まことにすみません。
どうしてもこの話をしておきたかったので前回アンネの日記事件と絡めて
中国の三戦についてお話ししました。
つまりこちらが本題だったのです。今少しお付き合い下さい。 


去る5月30日、シンガポールで行われたアジア安全保障会議での
安倍首相の講演について産經新聞がこのように報じました。

安倍晋三首相は自身の靖国神社参拝について

「国のために戦った方に手を合わせる、
冥福を祈るのは世界共通のリーダーの姿勢だ」


などと語り、会場が拍手に包まれる一幕があった。

 講演後の質疑で、出席者の中国人男性が昨年の首相の靖国神社参拝について

「先の大戦で日本軍に中国人は殺された。その魂にどう説明するのか」

と質問したのに答えた。

 首相は

「法を順守する日本をつくっていくことに誇りを感じている。
ひたすら平和国家としての歩みを進めてきたし、これからも歩みを進めていく。
これは、はっきり宣言したい」

とも述べた。



「戦争で中国人だけが殺されたんじゃねーよ」

中国人記者のしたのは普通ならこう言い放ってしまえるレベルの愚問ですが、
こういう場でそんなことを答えるわけにはいきません。
たとえ内心そう思っていたとしてもね。

というわけで安倍首相、ストレートな答えを避け、一般論で切り抜けつつ、
返す刀で質問者の国の姿勢をバッサリ切ってしまいました。
まあ「バッサリ切られた」と当人が思ったかどうかは怪しいですが。

しかし、この答えに対して拍手が起きた、ということは
会議参加国はこの安倍発言が中国への皮肉になっていたことを
皆が理解したということでもあります。


アジア安全保障会議は、ASEAN10カ国に地域フォーラムとしての
日本・アメリカを含む14カ国で行われます。

最近はなぜかASEAN当事者ではない中国と韓国の学者が、

この二国以外には全く意味のない「過去の歴史認識」で日本非難を繰り広げ、
ともすれば日本を悪玉に仕立て上げる場のようになっていたわけですが、
今回は違いました。

それにしても日本がこういった場で自分の立場をこれほどはっきりと言明し、
さらに
中国の立場をはっきりとではないにせよ聞いているものがわかるように
非難したのは初めてのことではなかったでしょうか。


アメリカはまず「強い日本」をすぐさま後押ししました。
まるで「しつけの悪い犬をしかり飛ばすように」
ヘーゲル国務長官が中国を非難しています。
(BBC NEWS : Beijing destabilising" the South China Sea)


アメリカだけではなく、タイ、オーストラリア、そして現在進行形で
酷い目にあっているベトナムも、国際法違反であるとして次々に中国を非難。
これがほんとの四面楚歌。

さすがに四面楚歌の本場である中国。
それでもめげずに中国人民解放軍の王副総参謀長は不快感を示し、
(それにしても軍人が代表で出席するなんてどん引き~)

「安倍首相の発言は中国への非難を仄めかしている」
「日米は歩調を合わせ、会議の場で我が国への挑発と挑戦をした」

と日本を非難したそうです。

実は日本からはこの会議中、両国の協議申し入れを行っていたのですが、

王副総参謀長はそれを拒否したことを明らかにし、

「日本側に、わが国に対する誤った政策を改め
2国間の関係を改善する意志があるかどうかだ。
日本は関係修復のため、これらの誤りをできる限り早期に修正すべきだ」

と述べ、また米国の覇権主義についても批判したとのことです。
韓国さんも同じことを言っていたような。
さすがは「中華主義の本場国」と「中華主義の国」。
夫唱婦随って奴ですか。


この両国の「誤りを正すまで話し合いをしない」というのを聞くと
いつもいつも思うんですが、普通は問題があるからこそ
それを解決するために話し合いたいと思うんじゃないんでしょうか。


日本が誤っているのなら、そのとき言いたければ言えば?



ところで日本の総理がこの会議に出席するのは今回が初めてのこと。
初めての会議で、しかもオープニングで講演を行うことになったのは、
主催者の招待と指名によるものであることに注目したいと思います。

つまり、日本の首相に今講演をさせるということは、
どんな形になるかはわからないまでも対中批判をしてほしいという
ASEANの意向でもあったということではないでしょうか。

しかも安倍首相の演説は当の中国でさえ「仄めかした」と言うしかない
非難色の少ないもので、

「法を遵守する日本」

を強調するに留まる(しかしそれが非難にもなっているところが巧い)
文明国の格を見せつけるような完璧なスピーチだったわけです。


ところで前回中国共産党の「三戦」についてお話ししました。

「輿論戦」「心理戦」「法律戦」

の三戦を中共は軍の政治工作の項目にしていると言う話です。

この「輿論戦」(よろんせん)の「輿論」とはあまりなじみがない言葉ですが、

 日本語の「世論」とだいたい同じ意味だと思えばいいかと思います。

特に最近の中国を見ていると、しかしこの「輿論戦」を中共は
「やり過ぎ」ているとしか見えません。

何度も言いますが、中国人というのは「白髪三千丈」の文化で、
なんでも数を膨大にすれば説得力が増すと考えている節があります。

「南京大虐殺」の犠牲者数が10万単位で増えていっているのもそうですし、
先日の中国船とベトナム船の衝突では、
ベトナム側に中国側がぶつかっていっている動かぬ証拠映像を公開されても

「ベトナムが147回ぶつかってきた」

などと、即座に「なわけあるか」と突っ込まれてしまうような数を
思わず言ってしまうのも、この習性によるものです。

何しろ数が多ければ相手が納得するという文化であるゆえに、
「輿論」のための示威行動もどんどんエスカレートしてしまうのでしょう。

ベトナム戦争にはじまって天安門、そして最近の領海を巡っての暴虐。

天安門は国内は押さえ込めたかもしれませんが、
国際的な非難の大きさまでは予想できなかったと見えます。
(困って日本の天皇陛下をイメージ修復に利用したのは記憶に新しいところ)

今回もベトナム船は「147回」ぶつかったといい、またドイツに行って

「日本は昔ホロコーストで30万人の中国人を虐殺した」といえば
中国の正当性が主張できると思っているあたりがすでに
世界の常識的外交センスとはかなりかけ離れていると言えます。 

そんなことをしたって世界の誰も中国の正当性を認めることはないのに。




「三戦」のうちの「法律戦」というのは、

「国際法および国内法を利用して、国際的な支持を獲得する」
というものですが、今回安倍首相に中国が「してやられた」のは
安倍首相への反発のなかで、中国自身がこの国際法を守っていないことを
自ら認めてしまったことです。


「国際法を遵守する」と日本が自国の立場を表明しただけで
「中国のことを仄めかしている」といきり立ってしまいました。
いわば「語るに落ちた」というやつで、もし自国が国際法を遵守している、
という自覚があれば、この発言を皮肉ととるはずもないのです。 



しかしながらこの会議はその話し合いに法的拘束力を持つものではなく、

このため中国は今日も周辺国との間に危険が高まっています。

南沙諸島海域にはたった約5平方キロメートル足らずの陸地しかないのですが、
そこに中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾が
いずれも前哨基地を構えており、あたかも一触即発の火薬庫のような様相です。




三戦のうち「心理戦」は、敵の軍人およびそれを支援する文民に対する

抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じて、
敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするものです。

先日、我が航空自衛隊のYS11EB電子情報収集機と
海上自衛隊のOP3C画像情報収集機が、
中国軍のSu27戦闘機2機の異常接近を受けました。
30~45メートルまで中国機は接近したということですが、
政府は外交ルートを通じて中国側に厳重抗議しました。

これに対し中国はうっかり

「自衛隊機の方が接近してきた」

と言い返したものだからとたんに

「偵察機なのに戦闘機に追随できるなんて自衛隊って凄~いw」

などと突っ込まれてしまいました。
それでもめげずに(本当にめげてない)

「日本側の偵察行為からは、中国の軍備近代化に対する焦燥ぶりが窺い知れる。
東シナ海における日本との中国の力関係がすでに逆転し、
我が方は日本のいかなる形による挑発行動をも挫く能力を完全に有した」

と主張したのことです。
 こういったアナウンスも「心理戦」と考えてやっているんだな、と
その舞台裏をわかっていれば、中国がいかにも言いそうな内容ですね。


しかし「三戦」のどの局面においても、中国という国は世界基準とは
その「加減」というのが乖離しているため、どうもやればやるほど
自分で墓穴を掘っているだけのように思えるのですが・・・。



アメリカが介入して来ることを、実は南沙諸島の当事者国は
内心期待していると言われているのですが、指導者があのオバマなので(笑)
当分は当てにならず、だからこそ今回、日本の毅然とした態度が評価されたのでしょう。

際立った効果はないにせよ、これらの中国非難の合唱は少なくとも
中国のメンツを失わせ、それゆえそれでなくても弱まっていると言われる
習近平の求心力も急降下しそうです。

というわけでわたしは、安倍総理と小野寺防衛大臣の対中姿勢は
今のところ間違っておらず、むしろ非常にうまくいっていると感じます。

日本は毅然と「遵法精神」を謳い、国際世論を味方につけて
中国の「三戦」に打ち勝ち・・・・というより中国が
自爆するまで粘り強く相対するというのが今のところ良策ではないでしょうか。




(冒頭写真は中国人民解放軍に一人で相対するウィグル人の老婆)