ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「1941」はスピルバーグの’黒歴史’か〜その3

2020-03-24 | 映画

スピルバーグの「1941」を考察する企画、三日目です。

この映画の製作費は3,500万ドル、ざっと39億6千万ですから、
当時の貨幣価値からみても結構なお金がかかっています。

ジョン・べルーシが乗り回すウォーホークを始め、駐機してあるB-18は本物。
その他、登場してくる第二次世界大戦時の飛行機などのレプリカを作るだけで
巨額の予算が必要となったでしょう。

で、これに対し興行収入は9,490万ドル、約4分の1くらいです。
つまり興行的には失敗だったということになるわけですが、
それは決して「flop」(映画・興業の失敗)ではないという意見もあります。

 

この映画のエピソードは決して無自覚に盛り込まれたものではなく、
そのほとんどが歴史的なトリビアに精通している人に限り
ニヤリと笑うことができる、(逆に無知な人にはわからない)というものですが、
そんな「選ばれた民」から(のみ?)擁護されているのかもしれません。

まあでも、そんな「選民」だけに受け入れられる映画が
人気のあるエンターテイメントになるわけがありませんよね(笑)

さて、それではもう1日頑張って続けます。

ところでみなさんはもう忘れてしまったかもしれませんが、前半で
クリスマスツリーに変装し上陸した伊潜乗員に拉致られた、
ホリー・ウッド氏のその後についてどうなったか書いておきます。

→お菓子のおまけに磁石が見つかる

→これでハリウッドに行けると皆大喜び

→そうはさせじとウッド、それを飲み込む

→無理やり下剤を飲まされる

→皆が見ていたら出るものも出ないと言って一人になり、脱出を図る

→潜航中のハッチから無理やり外に出てしまい海の中←いまここ

こちら演説の後、なぜか「あかりを消す」ことがミッションだと思い込み、
戦車で電線を切ろうとして巨大なサンタを倒し、それが頭にあたって
昏睡状態になったトゥリー軍曹。

さっきまでセーラー服だったダンサーのウォーリーは、
どさくさに紛れてかっぱらった軍曹の上着を着ていたため、
周りに代わりに指揮を執るように要請されます。

「軍曹、どうしましょう?」

「よし、灯りを消すんだ!」

すっかりやる気になったウォーリー、ベティともハッピーエンドに。

こちら飛行機フェチのドナと彼女をなんとかしたいために
飛行機に乗せて飛び立ったバークヘッド大尉。
操縦中についそちらに夢中になっているうちに・・・

ビル・ケルソー大尉に敵機と思われ撃墜されてしまいました。
墜落する機内で、決死の不時着を試みる大尉。

「ウィ・キャン・ドゥー・イーーット!」

「ユー・キャン・ドゥー・イット!」の画像検索結果

不時着したところがなぜか恐竜の模型がある化石発掘地。
恐竜の出現に怯える二人の姿に、現代のわれわれはスピルバーグの

「ジュラシック・パーク」

を思いださずにいられない訳ですが、同映画が公開されたのは
この映画の14年も後のことになります。

 

こちら、庭先が迫撃砲基地にされてしまったダグラス家。
当家の奥方がバスを使っていると何やら外が騒がしく・・・。

大喜びでそれを見物している艦長以下伊潜の皆さん。

「敵襲だ!」

慌ててウォード・ダグラスが銃を構えるのを見る艦上では、乗員が

「あれはウィンチェスターの散弾だけですよ」

などとしゃべっております。

そこで、陸軍から「触らないように」といわれていた庭の対空砲を
引っ張り出してきて、砲撃を行おうとするウォードですが・・。

どうみても無理ゲー。

さて、民間防衛の一翼を担うため、この有志二人(と腹話術人形一体)は、
ずっと観覧車に乗って武装し敵の来るのを待ち構えていました。

そこにやってきたのがジョン・べルーシのケルソー大尉のウォーホーク。

「わかったわかったわかった!あれは中島の97型だ!」

いや、ウォーホークと97式、これっぽっちも似た要素はありませんが。
おそらくわたしでもこれは間違えないと思う。

彼らは果敢にも攻撃を行い、ウォーホークを撃墜してしまいました。

 

ミタムラ艦長「よくやった!」

乗員「(あれ?俺撃ってないけど)・・・・どもありがとございます」

USOの前の路上にウォーホークを不時着させたケルソー大尉は
潜水艦に仇を打つため盗んだバイクで走り出し、方やど素人の
ウォーリーが引きいる戦車は、恋人の家が戦闘中ときいて海岸に急行。

ペンキ工場に突入し、派手にペンキを撒き散らします。

ものすごいシーンですが、当時ですからもちろんスタジオで撮影されたものです。
このセットだけできっと1千万はかかってるな・・・。

伊潜の上では、フォン・クラインシュミットが、ミタムラ艦長に
潜航させるべきだと強弁し、銃を突きつけて脅します。

「やっぱり総統は正しかった!
第三帝国には黄色い豚のための場所などない!」(ドイツ語で)

しかし、

「大日本国海軍は、貴様の命令など聴けん!」

ミタムラ艦長、クラインシュミットを海に投げ落としてしまいました。

「ザッツオールライ!」∠( ̄^ ̄)∠( ̄^ ̄)∠( ̄^ ̄)

そのときになって、ダグラス家の庭から渾身の対空砲が着弾しました。

「戦闘用意!左15度!」

「発射ヨーイ!・・・・・・ん?」

その時、観覧車の二人を助けにきたつもりのウォード家のガキが、
適当にスイッチを押してしまって、灯火管制で真っ暗だった遊園地が
赤々と照らされてしまいました。

それをみて感極まった航海長イトウ大尉、

「は〜りう〜っど〜〜〜」(ToT)

全裸美女目撃の最初から最後まで彼の台詞はこれだけ(笑)

クリスマスツリーに変装して上陸作戦を行った時には
最先任として一人だけツリーに飾りをつけております。

この俳優さんは清水宏といい、今でも芸能活動されている様子。
それにしても三船敏郎にビンタを張られる役なんて、役者冥利すよね(笑)

「右35度軍需工場!」

目標の「ハリウッド」に向かって行われた伊潜の全力攻撃で
民間防衛の二人(プラス人形)が乗っていた観覧車が
外れて転がり出し、海に落ちてしまうという大スペクタクル!

このシーンはミニチュアを使って特殊撮影が行われ、
実際の車輪を転がして合成したそうです。

「やったやった!」

艦体をバンバン叩いて喜ぶミタムラ艦長。

「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」\( ˆoˆ )/\( ˆoˆ )/\( ˆoˆ )/

「ハリウッド〜お・・・・」

こちら陥落する映画の都「ハリウッド」に落涙してしまうアシモト中尉。
ミタムラ・アキオという俳優さんが演じています。

そのとき桟橋に駆けつけた?ダンサーのウォーリー率いる戦車を、
桟橋を魚雷で破壊することで撃破した帝国海軍伊17潜、意気揚々と、

「帝国海軍はアメリカ合衆国軍隊と交戦し、
敵に大損害を与え、多大なる戦果を収む。
只今より、基地に帰投する!」

そして潜航を始めたところ・・・・・・。

盗んだバイクで桟橋を疾走し海に飛び込んできたケルソー大尉が!

「待て!まだ潜るんじゃない!」

潜水艦に乗り込もうとしているではありませんか。
そんなケルソーに海上にぷかぷか浮きながら敬礼を送るトゥリー軍曹。

やはり海上で偽軍人のウォーリーは、

「おい、やっつけたのか?」

と聞かれて、

「と思う。沈んでいく」

潜水艦だからそら沈むがな。

潜航していく潜水艦のハッチをいとも簡単に外から開け(笑)
突入していくケルソー大尉。

「俺はワイルド・ビル・ケルソー様だ!!!

・・・・おっと・・・・」

「オーライ、もしついでがあったら東京まで連れてってくれない?」

スピルバーグのファンにとっても、べルーシのファンにとっても、
見てはいけないものを見せられたような気まずい気持ちになるシーンです。

これを演じさせられたジョン・べルーシは、映画出演後のある日、

「スティーブン・スピルバーグ1946〜1941」

とプリントしたTシャツを着ているのがハリウッドで目撃されました。
これが稀代のコメディアン、べルーシのこの映画に対する評価の全てでしょう。 

まあただ、べルーシが黒沢と三船敏郎をパロディにした

「サタデーナイトライブ・サムライ」シリーズ

のいくつかは、このときのオチレベルにスベってるようですが・・。

Samurai Hotel - SNL

パワーワードは「ユア・ママさん」(笑)

サムライ離婚法廷

これもなかなか。
子供の手を引っ張り合うところで大岡裁きがくると思ったらまさかの・・。

こちらのパワーワードは「ガッジラ」。
彼らのインチキ日本語を聞くと、フランソワーズ・モレシャンに

「フランス語みたい」(だけど意味がわからない)

と言わせたタモリの4カ国語麻雀芸はすごかったんだなと思います。

 

明けて翌日。

戦いの最前線となったダグラス家の庭。
朝のニュースではいまだに、

「アメリカ本土に初めて敵機が来襲、爆撃はありませんでした」

などと報じています。
そこにスティルウェル少将がやってきました。

「損害は?」

「戦車一台と観覧車です」

「敵の船は沈みました。この目で見ました!」←ウォーリー

 

そこで少将の前にリースを持って進み出るウォード氏。

「サー、我々は昨夜敵発見後奮闘しました。
我々は団結し、アメリカ魂を見せてやった!」

「今から平和のシンボルとしてリースを玄関にかけます。
誰にも平和を、そしてクリスマスを我々から奪うことはできない!」

トントン (リースを釘で打ち付ける音)

ゴロゴロ〜(家が転がり出す音)

がらがら〜〜(崖から転がり落ちる音)

CGなどない当時、この撮影には本当に海沿いの斜面に
最後に落とすことのできる家を作りました。
レールを転がって落ちる仕組みになっていたそうですが、
莫大な制作時間(費用はもちろんですが)がかかりました。

待たされてキャストとスタッフは、撮影開始がいつになるか賭けをし、
その結果、ダン・エイクロイドがピッタリ賞で勝利を収めたということです。

ちなみにエイクロイドはカナダ人で、今回がアメリカ映画初出演でした。

初出演といえば、子供の後ろの戦車隊の兵隊はミッキー・ロークが演じています。
ご紹介した航空博物館のあるスケネクタディ出身で、これがデビュー作となりました。
一言も台詞はありません。

 

公開当時、映画館でこれを見たというアメリカ人の感想を見つけました。

映画が終わった時、不気味な沈黙が満員の会場を支配した。
一人が

『一体何だったんだ?』(What a hell WAS that?)

と叫ぶと、一同がどっと笑い転げた。

 

上質なエンターテイメントを求めて映画館に足を向けた観客の多くは
このように、がっかりさせられたということなのでしょう。

しかし、最初にも書いたように、ごく一部の「物知りな」人たちには、
この映画はたまらないネタの宝庫であることも事実です。

とくに、ロスアンゼルスの土地と歴史をよく知る出身の人々にとっては、
この映画に映るハリウッドブルーバード、サンタモニカの観覧車など、
ノスタルジアを掻き立てる懐かしいものが満載なのだといいます。

つまり、ねじれたユーモアを持つロサンゼルス出身の歴史愛好家、
という限りなくニッチな層にとってのお宝作品といえましょう。

 

敵として登場していた潜水艦の国の人にとってもしかり。

わたしもまた、この映画における伊潜と三船敏郎の描き方には
細部にまで見入ってしまったわけですが、「ロス愛好家」がそうであるように、
「海軍愛好家」にとっても、この映画は非常に好感が持てるものでした。

もちろん結果的に彼らが全力で攻撃し打撃を与えたと思ったのは、
無人の遊園地であり、アメリカにとってはなんの軍事的損失にもなっていない、
という壮大な「オチ」はありますが、敵であった日本を卑しめたりせず、
彼らを「愛すべきおばかさん」として描きながらも、なんといっても

伊潜攻撃のシーンは実に真面目です。(軍事的に正確かどうかはともかく)

特に三船のカットには特に彼の「名声」を傷つけないようにか、
細心の注意が払われていると感じます。

 

さらにアメリカ人のコメントを読むと、
好きか嫌いか、評価は真っ二つに分かれているようです。
嫌いな人はくだらないといい、好きな人はわかる人にはわかるといい・・。

わたしも好きか嫌いかでいうと、「好き」のほうですが、
じゃあ面白いか?というと(ブログ冒頭に戻る)

いろいろあった評価の中で、わたしが一番自分の感想に近いと思ったのが、
スタンレー・キューブリックがスピルバーグに直接言ったといわれる、

「Great, but not funny.」

でしょうか。

そして、特筆すべきは音楽をあのジョン・ウィリアムスが担当していること。
テンポが良くキャッチーなフレーズは、もし映画がヒットさえしていれば
もっと有名になっていたに違いないと思わせるものがあり、

スピルバーグ本人は

「全ての自分の映画音楽の中で一番好きだ」

と言っていたそうです(が、これはちょっと意地になって言っているような気が)

1941 March Soundtrack (John Williams)

 

というわけで、今回当ブログを読んで映画を観ようと思った方は、
事前にわたしがブログで書いたような、当時の歴史的背景や事件などを
ちょっと頭に入れてからご覧になることをお勧めします。

エンディングは、崩れ落ちたダグラス家上空を空撮したシーン。
ここに心温まる?オチが隠されていました。

ちょうどJOHNのOの字の下に黒い部分があるのですが、
これは、捕獲されたナチス将校、
ヴォルフガング・フォン・クラインシュミット少佐
を連行している一団らしいのです。


伊潜から突き落とされたあと、岸に泳ぎついたんですね。
よかったよかった。

それではこの映画では死んだ人はいなかったんだ。

 

・・・・え〜と。

ちょっと待てよ?

ホリー・ウッドさん・・・この後どうなった?

 

終わり。