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映画「軍医ワッセル大佐」The Story of Dr. Wassell 前編

2022-09-11 | 映画

海軍軍医が主人公であり、さらに舞台は日本が侵攻していたジャワ、
という大変珍しい戦争映画、

「軍医ワッセル大佐」The Story of Dr. Wassell

をご紹介します。

この珍しい映画は、古い戦争映画ばかり、作品解説を一切廃して
低価格に抑えたシリーズの中の収録作品の一つでした。

このシリーズ、これまで3セットを購入してきたのですが、
いわゆる誰でも知っている名作が一つもないのが特徴です。

あえてマイナーな作品ばかりを集めているため、
中には「OKINAWA」のような世紀の駄作も混じっているとはいえ、
「僕は戦争花嫁」とか、この「軍医ワッセル大佐」のような、
変わった視点からの戦争映画も混じっているので、侮れません。


さて、本作「軍医ワッセル大佐」は、1944年作品。
時期的にも国威発揚プロパガンダ映画ということになります。

ゲイリー・クーパー演じる主人公海軍軍医ワッセル大佐は実在の人物で、
映画制作当時本人もバリバリ生存中でした。


■コリドン・マクアルモント・ワッセル博士

コリドン・マクアルモント・ワッセル(1884- 1958)は、
アメリカ海軍の軍医としての活躍で知られる医師であり、
劇中でも触れられている通りアーカンソー州リトルロックに生まれました。

ワッセルは大学で博士号種取得後、医師として活動を始めますが、
これも映画にある通り、医療宣教師として中国に渡っています。

その後1936年、ワッセルは米国海軍予備軍でサービスを開始。
第二次世界大戦中の1942年には、海軍中佐として、ジャワ島で
USS「マーブルヘッド」の負傷者の連絡役を務め、
ジャワ島で日本軍に捕まる寸前の重傷者12人を救い、
安全なところまで導いた功績で海軍十字章を受章したのでした。

ワッセル医師の功績について、ルーズベルト大統領が
ラジオ演説で取り上げたことをきっかけに、この映画が制作されることになり
ワッセル大佐をゲイリー・クーパーという超大物が演じることになりました。

ちなみに、ワッセル大佐は映画でも描かれていたように、
自分を前に出さず、控えめで無私の人物で、映画の撮影では
技術顧問を務めましたが、タイトルに名前は出さないようにと依頼し、
さらに映画で得た収益を、地元の盲ろう者病院に全額寄付しています。

ただし、寄付のことも技術顧問のことも本人が黙っていたので、
ひ孫の証言によって初めて余人の知るところとなりました。

というわけでこの映画ですが、ワッセル博士の功績はともかく、
全体的にポピュリズムに傾いていて、何のことはない
戦争を舞台にした恋愛映画みたいになっているのがちょっと残念です。

まあ、実際に起こったことだけでは、ワッセル博士が真面目すぎたせいで、
映画にするにはあまりにもネタ不足だったのが本当のところかもしれません。



まず、「錨を揚げて」が延々とタイトルをバックに流れたのち、
アメリカの当時の町医者を表す馬車が象徴的に現れます。

新しい命を迎え、人の最後を看取り、
人々に愛され、信頼される医師。
ワッセル博士はそんな医者の一人でした。


アメリカ海軍とオランダ軍が帝国海軍との厳しい戦いに挑んでいた頃、
ワッセル博士は海軍の軍医としてジャワにいました。


そしてその戦いに負けたアメリカ海軍の軽巡洋艦「マーブルヘッド」
必死のダメコンで沈没は免れましたが、大きな被害を出しました。


ジャワの港に着き、降ろされてきた「マーブルヘッド」の負傷者を
岸壁で迎えたのは、赴任したばかりの海軍軍医ワッセルでした。


ワッセルはここで奇遇にも旧知の人物に声をかけられました。
中国で研究助手をしていたピンは、「マーブルヘッド」に乗り組んでいて
不運にも重傷を負っており、助かる見込みがなさそうに見えます。


そして、ワッセル中佐は中国赴任で思いを寄せていた看護師、
マデリンにも偶然再会しました。

まだこの段階では事情は明かされませんが、二人は辛い別れをしていました。
挨拶もそこそこに、ワッセルの汽車は出発してしまいます。



移動の列車の中で負傷者たちの診察が始まりました。
アイダホのカウボーイ、フランシス
フォンデュラク(ウィスコンシン)出身のクラウス・シュラプネル

アンダーソンという水兵はマサチューセッツ出身ですが、
オランダ人の看護師、ベッティーナはこれが読めません。

「僕は戦争花嫁」でもフランス人がこれを読めずに苦労していましたが、
Massachusetts、アメリカ人にとっても普通でないスペルらしく、
(二つあるはずのSが一つしかないので子供が書いたとバレるとか)
何かと間違いがネタにされる州です。



「ホッピー」というあだ名のホプキンス水兵には輸血が必要ですが、
ジャワ人の看護師、トレマティニと血液型が適合しました。

トレマティニを演じているのはアメリカ人女優。
アメリカ人から見てそれらしく見える容貌の人が選ばれたようです。

アメリカ男たちは、すぐに彼女に
「スリー・マティーニ」とあだ名をつけて呼び始めました。


ワッセル中佐は、同じアーカンソー出身のホッピーの治療をしながら、
問わず語りに、故郷で巡回医をしていた頃、
子豚が診療代替わりだったこともある、などと思い出話を始めます。


調子に乗った?ワッセル、その頃アーカンソーの新聞記事で見た
在中国の従軍看護師に一目惚れしてして、
会いたさ見たさで中国まで行ってしまった
、という話までしてしまいます。

むむ、これは先ほど登場したマデリン看護師ではないですか。

いくら何でも雲をつかむような話だと思うけど、医師と看護師なら
向こうで必ず会えるはず!とか思ってしまったのね。



さて、ジャワの病院に落ち着いた海軍兵と医療スタッフですが、
映画の進行上、自然発生的にカップルが出来上がっていきます。

ホッピーに献血してから彼と今や一体だと信じているスリーマティーニは、
早速アーカンソーで一緒になりたい、とアプローチを始めました。

他の患者のケアもしろよって話ですが。



アンディは美人のオランダ人看護師ベッティーナにデレデレです。


ジョニー、こいつはとにかく若い美人なら誰でもいい肉食系。


その時、ワッセルは同僚の中国人医師から、
シンガポールの海軍基地が日本軍の攻撃に陥落したと聞かされます。


そしてその後、我が方の5倍の兵力の日本軍が
ジャワに上陸したニュースに司令部は不安を募らせます。

侵攻してきたら、現在の42人の傷病兵をどうするかが問題です。


しかし、兵隊と一部の看護師は呑気な限りで、病室で歌ったり踊ったり。
3マティーニに至っては、白衣を脱いで半裸になり、
ジャワの踊りとやらを男たちに囲まれて得意になって披露し始めました。


ホッピー、それにむしろ興醒めの様子。
なんか見てはいけないものを見てしまった的な?

トレマティーニはすぐにワッセルに職務怠慢を叱られます。


両手が使えないホッピーにワッセルは故郷から来た手紙を読んでやりました。
女名前の手紙の送り主に、トレマティーニの目がキラリと光ります。

音読していたワッセルは途中で読むのをやめ、目で追ってから、
彼女が彼の同僚と結婚するらしい、と告げました。


その時都合よく?警報が鳴り出しました。
全員で緊急時の避難を行います。

「マーブルヘッド」副長は逃げ隠れはしない!と妙な虚勢を張りますが、
有無を言わせずベッドの下に押し込まれてしまいました。



傷病者は避難壕に入れないので、皆ベッドの下に避難です。



目をやられたクラウスはすっかり音だけで機種がわかる名人です。
ジョニー「そうだな、そして操縦士は出っ歯だ」←おい

あのさー、この人種差別的な表現、いい加減やめてもらえないかな?
日本人が出っ歯というイメージ、どこから出てきたんでしょうか。

プロパガンダ漫画では、東條英機も昭和天皇も出っ歯に描かれていますが、
どちらも全くそうではないんですけどね?



皆、爆撃の中、不安に顔を引き攣らせながら冗談を言ったり、
音楽を演奏したり、ワッセルの陰口を叩いたりして過ごしていました。

マードックが、ワッセルが中国から去ったのは怖かったからだ、
という噂を広めているので、かつて助手だったピンは語り始めました。

ここからは(瀕死の)ピンが語るワッセル軍医のこれまでです。
どうして映画では瀕死の人間が滔々と語り続けるのか。



看護師マデリンに一目惚れし、会いたいという不純な理由だけで中国に渡り、
期待しながら現地で疫病の研究をしていたワッセルでしたが、
ある日、ついに病気の子供たちを引率してきたマデリンに出会うことに。


もうこれは運命?
勝手に決めてかかり、一人で静かに盛り上がるワッセル。
彼女はワッセルの助手を務めるようになり、二人は急激に接近します。

良かったですね。



しかし、好事魔多し。

ワッセルは派遣医師会の命令で、長子への転勤を命じられました。
ここで離れてたまるものかと、彼はマデリンを同行することを主張しますが、



彼の後任に来たウェイン医師は、仕事でもワッセルの競合相手というか、
同じような研究をしていて、まあ言うたらライバル関係です。

そのウェイン医師、ワッセルの言い分を聞いていたと思ったら、
おもむろに、長子というところは前線で疫病もあり危険な場所だよー?
と気のせいか楽しげに言い出すではないですか。

それを聞いたワッセルは、あっさりと前言をひるがえし、
マデリンを連れて行くことをやめてしまいました。
ウェイン医師はむしろこれにはびっくりして、

「連れて行かなくていいのか?私は彼女に興味を持っているぞ」

置いていったら俺が彼女を取っちゃうよという意味でよろしいか。
それでも仕方ない、とワッセルは一人で出発していきました。

ていうかさー、あんたたち、女性の方にも選ぶ権利があるって思わないの?
連れて行くとか行かないとか、それ以前に、
ウェイン医師の、自分がその気なら、即自分のものになるの決定!
みたいなこの自信は一体どこから?




とここまで話した時、爆弾が至近距離に落ち、
爆風で倒れた鉄材に体を貫かれてピンは死んでしまいました。

それまでも瀕死の状態だった割には
ほっぺたがツヤツヤ光っているのは言いっこなし。


こちら、オランダ人看護師ベッティーナに恋してしまったアンダーソン。

直接本人に告白する勇気がないものだから、
マサチューセッツにいる恋人に送る手紙を口述筆記させるふりをして、
自分の彼女への想いの丈を切々と語っております。

書き留めるベッティーナが彼に同情的なのに調子づくアンダーソンですが、
現実はそんなに甘いものではなかった。


そこに颯爽と洗われたオランダ人士官(イケメン)。
ベッティーナはペンを放り出して彼に抱きつくではありませんか。

彼女はオランダ陸軍のディルク・ヴァン・ダール大尉と付き合っていました。
アンダーソンなどまるでいないも同然のベッティーナが、
目の前でヴァン・ダール中尉とキスを交わす様子にアンダーソン呆然。


しかも残酷なことに、アンダーソンをただの患者としか思っていない彼女は
筆記の続きをヴァン・ダール大尉に頼んでいくではありませんか。

「悪いのだけど、この患者さんの手紙の代筆の続きをお願いできる?」

「いいよ。やあ、こんにちは」

挨拶する大尉にあきらめ悪く聞いてみるアンダーソン。

「もしかして彼女の・・・お兄さんだったりします?」

兄妹が人前でディープキスなんかしないっつーの。

彼の態度から、アンダーソンがベッティーナを好きなのだと気づいた大尉は、

「戦時中だからこれからどうなるかわからないけど、
終戦後、運がいい男が勝ちだ。
生き残った方が彼女を守ろうじゃないか」


と男前なことを言い、アンダーソンを感激させます。

しかし、大尉がアンダーソンに言わず、
ベッティーナだけにオランダ語で伝えていたことがありました。

「ここにいる米兵たちはもうすぐ帰国する予定だ」

ふーん。

何を言おうが横恋慕しようが、すぐにいなくなるって思うからこその余裕か。
っていうか、ヴァン・ダール大尉ってば、なかなか人が悪いっすね。



ヴァン・ダール大尉がベッティーナに伝えたニュースは本当でしたが、
ワッセルたちにとって問題だったのは、命令には続きがあったことです。

それは、

「帰国できるのは自力で歩くことができる者のみ」



しかし帰国のニュースはあっという間に駆け巡り、皆興奮の坩堝に。
ニューヨーク出身のジョニーがしている一発芸、「自由の女神」。


「歩けないものは連れて帰れない」

この一言を、皆の興奮と先回りした喜びにかき消され、
なかなか言い出せないうちに、ワッセル中佐は密かに決心しました。

軍の命令がどうあっても、こいつらを連れて帰ってやる!と。


たった一人、ホッピーを失うかもしれないトレマティーニだけが、
必死に、一緒にアメリカに連れて行ってくれと彼に懇願します。

「私たち二人を離さないで!
でないとあなたたち全員不幸に見舞われるわ」

現地の女性の報われない愛への怨念が何かを引き起こすってか?


そして移動の日がやってきました。

各艦船に兵を割り振っていきますが、ワッセルは負傷兵たちに
歩けないと思われるな、健康そうに振る舞え、と一生懸命注意を与えます。

そりゃそうです。歩けなきゃ置いて行かれるんですから。



しかし、歩けないと船に乗せてもらえないという命令を知らない彼らは
何が起こっているのかわからず、現状に不信感を持ち始めていました。



そこに船一隻が到着したので、ワッセルは躊躇うことなく
残った負傷兵を全部積み込んでしまうことを決心します。


しかし、やってきたオランダ軍輸送担当大尉に、
歩けない者を担架で運んでいるのを見つかってしまいます。

「担架の者は乗船させるなという命令だ!」


ワッセルは食い下がりました。

しかしオランダ軍大尉も、輸送船は敵の標的になりやすいから、
彼ら全員を海で死なせることになるぞ、と負けていません。

断固として命令を覆さない(というか上官が海の上なので覆せない)担当。

わたしも兵と一緒に残る、とさらに食い下がるワッセル中佐に、
じゃあ、残って何があっても彼らと行動を共にしろ、と言い捨てます。

「数分後に君はジャワ当唯一の米海軍将校になる。幸運を祈る」


こうなったらもうヤケクソです。

ワッセルは、健康な兵を全員「ペーコス号」に乗船させてから、
初めて今まで言えなかった命令を彼らに伝えました。

「実は歩ける兵だけが帰国できることになっている」







彼らが船に乗り込もうと必死で無駄な努力を続けている間に、
「ペーコス」号は舷門を上げ、出航してしまいました。



岸壁に取り残され、呆然と出航していく船を見送る負傷兵軍団。

唯一歩けるのはジョニーですが、彼は女性を口説いていて
出航の集合に間に合わず置いていかれたという相変わらずのていたらく。

この人は健常者なのに、いわば性癖に問題があったといえます。



自嘲する者、悔しがる者。
しかしそんな彼らにワッセル中佐はいうのでした。

我々はアメリカ海軍だ。
生きている限り米国海軍の一員として振る舞え。
私の命令に従い、行動してほしい。
海軍兵であることを忘れるな。

これから我々は病院に戻る。そして・・・」


「・・日本軍を待つ(笑)」


即座に誰かが混ぜっ返します。

彼らの絶望した眼差しの中、夕陽に包まれた輸送船が
港を出ていくのが見えました。

さあ、どうなる?ワッセル軍医と負傷者軍団!

続く。