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映画「戦場のなでしこ」〜映画の裏の「真実」

2023-05-04 | 映画

映画「戦場のなでしこ」続きです。
ソ連軍に派遣された従軍看護婦たちが、実は慰安婦にされていた、
という歴史の裏側の真実を描いた衝撃作である本作品。

映画に描かれていることだけでも十分に悲劇ですが、
本作のベースになった看護婦長、堀喜身子
の手記と照らし合わせると、史実は映画よりずっと悲惨でした。

後半では、映画に描かれなかった真実の「なでしこ」について解説します。




派遣看護婦の第一陣が帰らず、第二陣から何の連絡もないのに、
第三次派遣の要請が来るに及んで、これはおかしい!と
吉成軍医も婦長も疑念を抱きますが、総務課長の張(大友純)は、

「敗戦国民が我々に従うのは当然だ!」

と居丈高に逆ギレしてきます。


さて、看護師として派遣され、ソ連軍の将校宿舎で
慰安婦にされた看護婦5人の中で、一人無事だったのは荒井秀子でした。



看護婦村瀬知子が、ソ連軍将校に手籠にされてしまってから、
ふらふらと荒井秀子の部屋に行くと、そこにはまだ無事な彼女の姿が。

何かスケジュールの都合で?秀子の部屋にはまだ誰も来ていなかったのです。

そこで決心した村瀬知子は、ソ連軍将校が姿を表すと、
必死で立ち塞がり、彼女を守りました。

荒井秀子が吉成大尉との結婚を控えていたため、
せめて彼女だけは、と思ったのでした。

四人の女性は、口々に、
「秀子さんがわたしたちの最後の希望よ!」
といい、彼女を守り切る決意を固めます。

しかし、こんなことがいつまでも可能であろうはずがありません。
たまたま今回の相手が温厚だっただけかもしれませんし。


そこで女性たちは最後の手段に出ることにしました。

監禁されたということになっていますが、
互いの交流は可能だったようです。


何も知らない第三次派遣隊が送られてくる、と情報を得た田崎京子は、
これ以上犠牲を増やしてはならない!と
ここを脱走し、実態を皆に訴えに戻ることを決意しました。



京子の必死の脱出劇が始まりました。
追手の銃弾を逃れ、ワンピースにパンプスで山中を全力疾走です。



力尽きて途中倒れていたところ、彼女を救ったのはロシア軍の救急隊でした。


半死半生で第八救護隊に戻ってきた彼女は、苦しい息の下から
派遣された看護婦たちの無残な運命について語ります。

実に映画的な展開に思われますが、驚いたことにこれは事実でした。

第4回目の応援看護婦の要請を受けた日、掘婦長が回転ドアを押したら、
ドアの外から全身血みどろの女が倒れ込んできて、
それは第一次派遣の大島という看護婦だったというのです。

そして彼女は、

「もう、ソ連軍へ派遣を出さないで・・
慰安婦に、慰安婦にさせられますから・・」

それだけを言うと、瞼を閉じて、2時間後に亡くなったということです。



実情を知った吉成軍医は一人馬を駆って城子溝に向かいました。

宇津井健が疾走するシーンがロケされたのは富士山の御殿場です。
自衛隊の演習場を借りたのではないかと思われます。

一方、堀婦長はソ連軍司令部の将校に真相を訴えに行きます。



その頃徳は、他の看護婦たちに守られ、これまでひとり無傷だった秀子を
面白半分に手にかけようとしていました。



ちょうどそのとき、吉成が御殿場に到着。
馬で正門を突っ切って、直接基地に乗り込んできました。



出てきた女性士官の日本語での問いに、吉成は
日本人看護婦がここで慰安婦にされていると言うことを訴えますが、彼女は、



「我々の軍隊は厳しい軍紀で統率されており、
そんなことは決して起こらない!」

と断言。
まあ、彼女の中ではそうなんでしょうけど。



そこに論より証拠、徳の手から必死で逃れてきた秀子が、
表に逃げ出して衆人環視の中、吉成のもとに駆け込んできました。

奇しくも彼女の出現が吉成大尉の言葉を裏付ける結果になった、
と思いきや、ソ連軍、徳の言い訳を(ロシア語で字幕がないのでわからず)
真に受けて、どういうわけだか吉成の方を逮捕にかかります。



隙を見て馬に飛び乗り、秀子を置いて走って行く吉成大尉。

5秒前まで晴れてたのにいきなり雪積もってんぞおい。



「わたしに構わず逃げて!」

と叫びながら半袖のドレスとパンプスで雪の中を走る秀子。
女優も楽ではない仕事だと思うシーンです。



「撃たないで!撃たないで!」

空がまた晴れはじめました。



その頃、仕事をサボタージュして同僚が帰るのを待っている看護婦たちに、
陳は日本軍のやったことを論いながら、彼女らを口汚く罵っていました。



そして、

「お前ら日本人、何をされても文句を言える立場ではない。
言うことを聞かないなら、中国人の中に放り出して、
皆になぶりものにさせてやる!!!」


とえぐい脅迫をするのでした。
実際にこんな中国人は少なくなかったと思われます。



その頃、堀婦長は、単身ロシア軍の司令部に乗り込み、
これまでの実情と調査を訴えていました。


そしてこのブレジネフ眉毛の司令は、その訴えを受けて
軍の内部を調査することを命じたのです。



看護婦を慰安婦扱いしたものたちに罰則を。



そしてそれを計画立案した徳には最も厳しい処罰が降りました。



相変わらず字幕がないので分かりませんが、おそらくは
お前死刑な、と言っているような気がします。



言われた徳は慌てて逃げたため、追われてそのまま銃殺されてしまいました。



しかしその頃、残された看護婦たちは、自らの運命に絶望し、
吉成と婦長を待ちながら、死ぬ覚悟を決めつつありました。



故郷の思い出を語る者、歌を歌う者、
そして互いに化粧を施す者・・・・。



必死の脱出で実情を知らせた末亡くなった礼子にも化粧をしてやります。



中には二人の帰りを待とうという者もいましたが、それより敵が来て、
死に遅れたら取り返しがつかなくなる、と死を急ぐ声が勝ち、


吉成たちがもどったときにはもう手遅れでした。



ここで、堀喜身子の手記から、実際に起こった経緯を書いておきます。

真相を伝えに戻ってきて亡くなった大島看護婦を埋葬すると、
その後についてどうするかが看護婦部隊の中で話し合われました。

ここで驚くことに、この後に及んで堀婦長は、
くじを引いて三人のさらなる派遣を選抜していたらしいのです。

堀婦長、なんでそうなる。なんでそうする。

そして残った22名に、院長と民会本部に実情を訴えることを命じましたが、
堀婦長が救護所に戻ったら全員が青酸カリで死んでいた
というのです。

これって、堀婦長がまだこの状況で3人追加で送ろうとしたからじゃないの?
軍隊と一緒で、看護婦も当時は上官に逆らえないわけだし。

その後、ソ連の憲兵隊が調査に訪れて、現場の惨状に驚き、
(そりゃ驚くわ)翌日には、

「ソ連軍の命令で納得いかぬものがあれば、憲兵隊に問い合わせよ」

という布告が出されたのですが、解放されたはずの看護婦たちは
なぜかその後病院に戻ってきませんでした。

この事情もまたびっくりです。

憲兵隊の調査の後、彼女らは確かに解放されていたのですが、
どういうわけか、自分らの意志で帰ることを拒否し、
なんと、現地のダンスホールで働いていたのです。

これは、当時の一般女性の持っていた貞操観念から、

「女性の純潔を汚され、本来死ぬべきであった自分が
おめおめと生きて日本に帰っても、誰にも会わせる顔がない」


と絶望し、自暴自棄に身を投じてしまった結果ではないかと思われます。

中でも悲惨だったのは将校宿舎に送られ慰安婦にされた最初の六人でした。

彼女らはすでに梅毒に侵されており、ソ連兵をお客に取って
病気を感染させることで、彼らに「復讐」していたのです。

驚いた堀は彼女らを診察し、密かに治療薬を調達して与えましたが、
彼女らの病状はすでに薬では効かないくらいに進行していました。

そして9月、堀ら看護婦隊に引き揚げ帰国命令が下ります。

堀はダンスホールの女性たちに、一緒に日本に帰るよう説得しましたが、
夕刻の集結時間、駅にやってきたのはそのうち三人だけでした。

しかも、その三人は、堀に食糧と金を渡すと列車を降りていきました。
残された堀の耳に聞こえてきたのは、

「婦長さん!さようなら!」

という声と、3発の銃声でした。


映画では、戻ってきた秀子ら、慰安婦にされていた看護婦が、
泣きながら思い出を語ったり頬を擦り寄せたりするシーンが延々と続き、
彼女らが「綺麗なまま死んだ」ことが精一杯強調されます。


しかし、より悲惨で残酷な最後を遂げた、つまり
映画のいうところの「美わしい」まま死ねなかった看護婦たちの
凄絶な最後については、それが史実だったにも関わらず何も語られません。



終わり。




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1 Comments

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悲惨な史実 (お節介船屋)
2023-05-05 09:26:50
ソ連軍の進攻により占領された地区での悲惨な事象は今となっては史実ともなっていません。
凶暴なソ連兵等の毒牙に掛かった例は埋没していますがドイツにおける占領地区での多くの強姦や今回のウクライナ戦争での一般市民の殺害等の例のように旧満州等における悲劇は数多くあることは事実です。
拘束され心身ともにズタズタにされただけでなく死体となっても弄ばれた事実もあるようですが消されて埋没しています。ソ連囚人兵等の凶暴さに身の毛もよだつ例も数多くあると思います。
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