昭和21年6月、日本敗戦後に中国の長春第八陸軍病院で働かされていた
22名の従軍看護婦が集団自殺を遂げたという事件がありました。
この事件について現場でそれを知る立場だった堀喜身子婦長は、
後年詳しい経緯を手記にまとめて発表し、世間に衝撃を与えました。
この実話をベースに昭和34年新東宝が制作したのが、
本作、「戦場のなでしこ」です。
当時扇情的なエロティシズムが売りの作品が多かった新東宝が、
慰安婦にされた従軍看護婦の実話を映画化製作するということには、
あるいは眉を顰める向きもあったかと思われましたが、
この作品の演出において、俗世間の思う「新東宝臭」は封印されています。
「日本人の正しさ逞しさをバックボーンにした」
という監督の石井輝男の言葉からは、実際の被害者を描くにあたり、
鎮魂の思いを込め、悲劇の伝承を目的に制作されたことが伝わりますし、
また、実際に内容を見ても、問題のシーンはかなり抑制され、
象徴的な表現に終始しており、それでいて史実であったところの悲劇は
ちゃんと受け手に伝わる作りとなっています。
後年詳しい経緯を手記にまとめて発表し、世間に衝撃を与えました。
この実話をベースに昭和34年新東宝が制作したのが、
本作、「戦場のなでしこ」です。
当時扇情的なエロティシズムが売りの作品が多かった新東宝が、
慰安婦にされた従軍看護婦の実話を映画化製作するということには、
あるいは眉を顰める向きもあったかと思われましたが、
この作品の演出において、俗世間の思う「新東宝臭」は封印されています。
「日本人の正しさ逞しさをバックボーンにした」
という監督の石井輝男の言葉からは、実際の被害者を描くにあたり、
鎮魂の思いを込め、悲劇の伝承を目的に制作されたことが伝わりますし、
また、実際に内容を見ても、問題のシーンはかなり抑制され、
象徴的な表現に終始しており、それでいて史実であったところの悲劇は
ちゃんと受け手に伝わる作りとなっています。
ただ、映画の個人的感想としては、あまりに悲劇に感情移入しすぎて、
特にラストシーンでは表現の抑制が効かず、暴走気味と感じられました。
具体的にいうと、女優さんたちの泣きの演技がオーバーリアクションで、
ちょっと辟易してしまったというのが率直なところです。
今回わたしがこの映画をセレクトしたのは、前回の映画シリーズで
「陸軍の美人トリオ」という米陸軍WACものを取り上げたことから、
同じ女性を使った戦争映画を並べてみたかったからですが、
はっきりいって共通点は「女性」と「戦争」という2点のみ。
色んな意味で状況が違いすぎて、比較にもならなかったことを告白します。
ナプキンのような紙片にマジックインキ(本当)で書かれた献辞が現れます。
「この一編を
異国の地に春なき青春を散らせた
白衣の天使たちに捧ぐ」
ここは終戦後の新京駅。
今や敗戦国民となった日本人に牙を剥く中国人暴徒の群れから逃れて、
内地に戻ろうとする日本人たちが、列車を待っています。
特にラストシーンでは表現の抑制が効かず、暴走気味と感じられました。
具体的にいうと、女優さんたちの泣きの演技がオーバーリアクションで、
ちょっと辟易してしまったというのが率直なところです。
今回わたしがこの映画をセレクトしたのは、前回の映画シリーズで
「陸軍の美人トリオ」という米陸軍WACものを取り上げたことから、
同じ女性を使った戦争映画を並べてみたかったからですが、
はっきりいって共通点は「女性」と「戦争」という2点のみ。
色んな意味で状況が違いすぎて、比較にもならなかったことを告白します。
ナプキンのような紙片にマジックインキ(本当)で書かれた献辞が現れます。
「この一編を
異国の地に春なき青春を散らせた
白衣の天使たちに捧ぐ」
ここは終戦後の新京駅。
今や敗戦国民となった日本人に牙を剥く中国人暴徒の群れから逃れて、
内地に戻ろうとする日本人たちが、列車を待っています。
ここでは特に婦女子対する注意喚起が行われていました。
「進駐軍から身を守るため、髪を短く切って男に化けるように」
そこに、ソ連軍が元従軍看護婦を徴用にやってきました。
(この徴用は軍正規ルートによるもの)
実在に婦長で、この事件を著した堀喜身子の手記によると、
婦長の堀婦長始め、一団の看護婦たちは、
長春の紅軍第八救護所で務めることになりました。
看護婦の一人、小田みちこを演じるのは大空真弓。
荒井秀子看護婦を演じる三ツ矢歌子。
荒井秀子看護婦を演じる三ツ矢歌子。
彼女らが送られた長春の病院には中国人(満人)が主に入院していました。
日本語を喋る病気の子供(満州の学校では日本語教育がなされた)
につきそう母は、夫を日本人に殺されたこともあって、
日本人看護婦の手当を拒否し、激しく日本を罵ってきます。
満人の医学生、陳(鮎川浩)は落ち込む彼女らに優しく声をかけるのでした。
「彼らも今にわかるから気にしないでください。
日本人、中国人、わかりあえる。日満友好ですよ!」
この映画では、ソ連軍、中国人を悪という色に塗りつぶすことなく、
善意の人々をそこここに登場させて、バランスを取る配慮がなされています。
そのとき病院に派遣されてやってきたのは、吉成陸軍軍医大尉(宇津井健)。
おっと、もう終戦後なので「元」が付きます。
吉成と荒井秀子は恋人同士でした。
「もう心配ないよ。日本に帰るまで一緒だ!」
頼もしい男の言葉に秀子は涙ぐみます。
徴用された日本人看護婦の生活は厳しいものでした。
満人看護婦がお腹いっぱい食べているのに、彼女らに与えられるのは
必要最低限の食事だけで、水を飲んで空腹をごまかさなくてはなりません。
しかし若い彼女らは女子らしいお洒落心も捨てていません。
小田みちこ看護婦の望みは、内地で恋人を作ること、
得意の歌をステージで披露できるような仕事。
そして今一番欲しいのは唇を彩る口紅でした。
「秀子さんの持ってる口紅、半分でももらえないかしら」
しかし「秀子さんの口紅」は秀子にとっては大切な宝物です。
欲しいと言われてあげられるものではありません。
日本語を喋る病気の子供(満州の学校では日本語教育がなされた)
につきそう母は、夫を日本人に殺されたこともあって、
日本人看護婦の手当を拒否し、激しく日本を罵ってきます。
満人の医学生、陳(鮎川浩)は落ち込む彼女らに優しく声をかけるのでした。
「彼らも今にわかるから気にしないでください。
日本人、中国人、わかりあえる。日満友好ですよ!」
この映画では、ソ連軍、中国人を悪という色に塗りつぶすことなく、
善意の人々をそこここに登場させて、バランスを取る配慮がなされています。
そのとき病院に派遣されてやってきたのは、吉成陸軍軍医大尉(宇津井健)。
おっと、もう終戦後なので「元」が付きます。
吉成と荒井秀子は恋人同士でした。
「もう心配ないよ。日本に帰るまで一緒だ!」
頼もしい男の言葉に秀子は涙ぐみます。
徴用された日本人看護婦の生活は厳しいものでした。
満人看護婦がお腹いっぱい食べているのに、彼女らに与えられるのは
必要最低限の食事だけで、水を飲んで空腹をごまかさなくてはなりません。
しかし若い彼女らは女子らしいお洒落心も捨てていません。
小田みちこ看護婦の望みは、内地で恋人を作ること、
得意の歌をステージで披露できるような仕事。
そして今一番欲しいのは唇を彩る口紅でした。
「秀子さんの持ってる口紅、半分でももらえないかしら」
しかし「秀子さんの口紅」は秀子にとっては大切な宝物です。
欲しいと言われてあげられるものではありません。
なぜならそれは吉成軍医にプレゼントされたものだったからです。
いつでも肌身離さず持っていたの、という秀子。
その夜、二人は久しぶりの再会に堅く抱擁を交わすのでした。
そんなある日、ソ連軍が看護婦5名を徴用するとの命令が降りました。
実際の命令は、ソ連陸軍病院第二赤軍救護所に、1カ月の期限で
看護婦3名を応援に派遣せよ、という内容だったそうです。
映画にも描かれている通り、堀婦長は31名の看護婦から3名を選び、
救護所に派遣したところ、二週間して追加で3名の要請、
さらに二週間後にまたしても3名を要請してきました。
そして1ヶ月過ぎても第一次派遣の看護婦は帰って来ず、
追加で送った者も一向に連絡が取れなくなってしまいました。
彼女らを連れて行くのは、いかにも狡そうな小悪党キャラ、
徳永長(並木一路)という中国人通訳です。
いつでも肌身離さず持っていたの、という秀子。
その夜、二人は久しぶりの再会に堅く抱擁を交わすのでした。
そんなある日、ソ連軍が看護婦5名を徴用するとの命令が降りました。
実際の命令は、ソ連陸軍病院第二赤軍救護所に、1カ月の期限で
看護婦3名を応援に派遣せよ、という内容だったそうです。
映画にも描かれている通り、堀婦長は31名の看護婦から3名を選び、
救護所に派遣したところ、二週間して追加で3名の要請、
さらに二週間後にまたしても3名を要請してきました。
そして1ヶ月過ぎても第一次派遣の看護婦は帰って来ず、
追加で送った者も一向に連絡が取れなくなってしまいました。
彼女らを連れて行くのは、いかにも狡そうな小悪党キャラ、
徳永長(並木一路)という中国人通訳です。
おそらく、当時ソ連軍のためにそういう汚い仕事をして
小銭を稼いでいた実在の中国人がモデルになっていると思われます。
小銭を稼いでいた実在の中国人がモデルになっていると思われます。
派遣看護婦を送り出した後、第八救護所は漢子軍の攻撃を受けます。
病院の薬品を狙った窃盗のための攻撃でした。
しかもこんな最中に中国娘愛蘭の容体が急変。
手術室が使用できず、吉成元軍医は床で手術を始めました。
その時、室内に降り注ぐ銃弾で出た怪我人のところに駆け寄ろうとした
病院の薬品を狙った窃盗のための攻撃でした。
しかもこんな最中に中国娘愛蘭の容体が急変。
手術室が使用できず、吉成元軍医は床で手術を始めました。
その時、室内に降り注ぐ銃弾で出た怪我人のところに駆け寄ろうとした
山口玲子看護婦が弾に当たり負傷。
「腹部盲管銃創です!」
「腹部盲管銃創です!」
愛蘭のオペの機械出しをしながらテキパキと婦長は手当を指示しました。
手術の甲斐あって、愛蘭がなんとか命を取り留めると、
母親は、さっきまでとは態度をガラリと変えて泣きながら礼を言います。
手術の甲斐あって、愛蘭がなんとか命を取り留めると、
母親は、さっきまでとは態度をガラリと変えて泣きながら礼を言います。
しかし負傷した山口看護婦の状態は絶望的でした。
なぜ銃創なのに氷枕をしているのかわかりませんが。
歌の得意なみちこは、満州生まれの彼女の枕元で
「旅愁」をフルバージョン歌ってやります。
「♩ふけ行く 秋の夜 旅の空の〜」
元気な頃甘いものを欲しがっていた彼女のために、秀子は中国人に身を奴し、
満人の知り合いに紹介してもらった店に、菓子を買いにに行きました。
お金がないので、彼女は自分がはめていた腕時計を渡しますが、
店の男は彼女が日本人とわかると受け取ろうとしませんでした。
「それ持って早く日本にかえりなさい」
店の男が無料で分けてくれたお菓子ですが、
それを持って帰ったとき、もう礼子に食べる力は残されていませんでした。
そして、一週間という期限で看護婦の第二次派遣命令が降りました。
第二次隊5名の中には、荒井秀子が加わっていました。
変な石像の前で別れの挨拶をする二人。
別れの際、秀子はみちこに例の口紅を贈りました。
ソ連軍基地に到着した彼女らの敬礼(頭を下げる)に
軍人たちは一応敬礼で答えますが、
ニヤニヤしながら一人一人の顔を覗き込み出し、
女性たちは思わず顔をそむけてしまいます。
ちなみに出演者のほとんどはモノホンのロシア人です。
女性たちはまずシャワーを浴びさせられました。
しかし、徳が覗きをしているので、慌てて出て着替えようとすると、
今まで着ていた制服が脱衣所にありません。
代わりにあるのは、まるでダンサーが着るような派手なドレスや靴でした。
仕方がないのでそれを身につけるわけですが・・。
後はご想像の通り。
個室に一人ずつ入れられ、そこにロシア将校が入ってきて・・・・。
ただ、将校全員がこのことを知っていたわけではなかったようです。
こちらは歌えや踊れで楽しんでいる将校たち。
このグループには紅一点ながら女性士官も姿を見せます。
「全員が加担していたわけではなかった」というアリバイキャストですかね。
個室に一人ずつ入れられ、そこにロシア将校が入ってきて・・・・。
ただ、将校全員がこのことを知っていたわけではなかったようです。
こちらは歌えや踊れで楽しんでいる将校たち。
このグループには紅一点ながら女性士官も姿を見せます。
「全員が加担していたわけではなかった」というアリバイキャストですかね。
演じているのはピクスノヴァという(フルネームわからず)ロシア女性です。
この間、被害者たちが性的に蹂躙されていたことの比喩として、
踊りの輪の中の5輪の花が踏み躙られるシーンがあります。
この間、被害者たちが性的に蹂躙されていたことの比喩として、
踊りの輪の中の5輪の花が踏み躙られるシーンがあります。
しかし、看護隊の5人のうち、たった一人、
「乙女の誇り」を傷つけられなかった者がいました。
それは誰だったのでしょうか。
そして彼女はなぜ一人守られたのでしょうか。
続く。
「乙女の誇り」を傷つけられなかった者がいました。
それは誰だったのでしょうか。
そして彼女はなぜ一人守られたのでしょうか。
続く。
現在のウクライナ侵略同様に囚人兵を前線に使用しての進攻もあり、南方作戦に在満陸軍が相当転用され困難さもありましたが、民間人を守れなかった陸軍の不甲斐なさで、在満、在樺太等民間日本人の悲劇は数多くありました。サンフランシスコ条約で請求権は無くなったとしても日本人がソ連軍の国際法無視、戦争犯罪、残虐さを忘れたり、知らなかったりは本当に残念で情けないです。
題材の事実を知っていた堀婦長の存在や手記の発表があり、映画となったのでしょうが映画的脚色等で事実確認とはならないでしょう。
多くの埋もれた悲劇があることを今となっては掘り起こすことは困難ですが忘れてはいけないと思います。