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新東宝映画「憲兵二部作」〜「憲兵とバラバラ死美人」

2019-06-15 | 映画

「憲兵二部作」にまとめて見たものの、ここに至って

「憲兵とバラバラ死美人」1958年 大蔵貢作品

は、戦争ものや軍隊ものではもちろんなく、かといって
憲兵ものでもないような気がしてきました。

人格高潔な正義漢、冷静で民間人にも低姿勢の憲兵曹長が
難問を解決していく。
つまりこれは軍隊を舞台にした「名探偵もの」に属する話のようです。

さて、名探偵もののサスペンス、特に日本のテレビドラマには
当たり前すぎてまたか、というパターンですが、本作における

「逆玉狙いの野心家の男が、妊娠したそれまでの愛人を殺す」

という動機が「お約束」になったのはいつからのことでしょうか。


ただ、小説のモデルとなった実在の事件で、妊娠した恋人を殺した兵隊には
逆玉とかいう事情はなかったようです。

軍隊ラッパ(らしきメロディのラッパ)とともに浮かび上がるタイトル。
画面がグラグラ揺れていかにもおどろおどろしげですが、
これは単にフィルムの質が悪く安定していないだけのようです。

いきなりネタバレですが、この人がバラバラ死美人。
男の子供を妊娠しているというのに、男が結婚しようと言わないので、

「あなたの隊長にわたしたちのことを話すから」

男は軍服姿だけで顔は見せませんが、とりあえずなだめるために

「わかったよ。君と結婚するよ」

「うれしいわ。きっと、きっとよ」

男がどんな態度でもとりあえず結婚しちまえばこっちのもの、
ということなんでしょうか。

映画では、実際の殺人事件が起きた仙台歩兵4連隊が舞台です。

事件後半年ほどして、第4連隊営庭の炊事用井戸を汲んでいた兵隊たちが、

「水が臭い」

と口々に騒ぎ出します。

クレジットもされていませんが、細川俊之にちょい似の軍曹が、

「連隊の命の水にケチをつけやがって」

と部下を、事情も聞かず確かめもせず、問答無用で殴りまくります。
なのに、その後水を飲むなり吐き出して、

「臭い!魚のはらわたのようだ」

こういう脳筋バカが当時の軍隊にはいて、不条理を絵に描いたような
パワハラを日常的に行っていた、といいたいようです。
まあ実際、それに近いかそんなものだったという話もありますが。


それはともかく、水が臭いのも当たり前、なんと井戸からは
菰で包んだ人間の胴体が出てきました。

ということがわかったのに、その水を使った賄いが作られ、
下士官が新兵に無理やり食べさせるという罰ゲーム展開に。

下士官の口からはとても書けないようなグロい冗談が飛び交います。

そこに士官がやってきて、ゲラゲラ笑っている下士官を叱りつけ、

「初年兵をいじめるとは何事か。お前らも食え!」

って、あなたのやっているのも下士官いじめだと思うんですが。

「どうだ、バラバラ死体の味がようついとるじゃろうが」

いやそれって、さっきまで下士官が言ってた・・・・。

「だらしがないぞ!こんな飯が食えんようで戦地の飯が食えるか」

じゃあ自分は食ったのか、とは士官なので誰も言えません。
しかし、戦地の飯とか以前に、こんなもの食べて集団食中毒起こしませんかね。

ちなみに、出演しているほぼ全員が坊主刈り風のヅラを被っています。
陸軍ものはこれがねえ・・・。

憲兵隊は早速事件の全容解明に向け動き出しますが、
被害者が民間の女性だったということで仙台警察も捜査を始めました。

憲兵は内部のことに外部が関わるべきではないという理由でそれを阻止しようとします。
実際にも仙台憲兵隊は、統帥権干犯という言葉まで使って警察の介入を拒否しました。

一ヶ月経っても事件の手がかりが掴めないため、応援を要請された
東京の憲兵隊から、エース(とそのカバン持ち)が投入されました。

本編の主人公、小坂憲兵(中山昭二)です。

もちろん仙台の憲兵はこの東京からの憲兵派遣が面白くありません。

「東京の憲兵に先にホシを挙げられては仙台憲兵の恥辱ぞ」

憲兵曹長萩山(細川俊夫)を筆頭に、チクチク嫌味を言ったり、
先回りしようとしたり、縄張り意識丸出しで東京組に全力で反抗してきます。

さすがにムッとした小坂は、憲兵隊の紹介を断って、
同行の高山(鮎川浩)の知り合いの旅館に投宿することになりました。

旅館の女将兼おでん屋マダム(若杉嘉津子)とその妹(江畑洵子)。
実は高山、妹のおしのちゃんに想いを寄せています。

 

捜査が進まず焦る仙台憲兵隊チームがようやく証言者を得ました。

彼は、深夜、井戸にものを投げ込む音を聞いたあと、恒吉軍曹(天知茂)が現れ、
口止めのタバコを渡していったと証言したのです。

「恒吉軍曹はが男前で女にモテたので、いつも帰りが遅かったのであります」

それを聞いた萩山曹長、おもむろにペンを取り、一言書き記して
丁寧に折りたたんでから
部下に渡しました。

一礼して受け取った部下がおもむろに開いてみるとそこには。

恒吉を洗へ

これくらい口で言えばいいと思うのですが、証言者に聞かれないようにかな?

さらに、恒吉の女が働いていた料亭の女将から、
彼女が退職して今行方不明と聞き、さらに疑惑を深めます。

一方小坂は、下宿のおでん屋で働いている老婆の息子が
陸軍病院に入院していて、
明日手術だということを知ります。

息子の手術成功を祈って一心不乱に祈りを捧げる老婆。

その後ろ姿を見ながら小坂が考えたのは全く別のことでした。

「陸軍病院の手術室なら短時間に遺体をバラバラにできるのでは・・・」

翌日、陸軍病院を訪ねた小坂は、手術で亡くなってしまったらしい
昨夜の老婆の息子の通夜に遭遇します。

読経の流れる中、猫の鳴き声が聞こえてきて、ふと目をあげた小坂が窓に見たものは・・。
なんとまたしても「憲兵と幽霊」状態か?

窓から外を覗くと、陸軍病院にある井戸の上に猫が。
ここは黒猫にしていただきたいところですが、スタッフの飼い猫
(首輪をしている)には三毛しかいなかったようです。

翌日、小坂が井戸を浚わせると、長い髪のついた頭皮が出てきました。
素手で手にとって持ったまま嬉しそうに笑う小坂と高山。

でたあああ!

というわけでついに行方不明だった頭部発見。

「悔しいだろう。犯人は必ず挙げてやるよ」

というわけで、現時点で容疑者ナンバーワンの恒吉が尋問を受けることに。

天知茂はこの一年後、「憲兵と幽霊」で妖艶なワル憲兵を演じることになりますが、
兵隊ヅラをつけてしおらしく座っている様子は、小物臭満点です。

種明かしをしておくと、恒吉は確かに軍の衣服を横流しして
小銭を不当に稼ぐという犯罪を犯していたものの、所詮は小悪党。
もちろんいなくなったという女中を殺した覚えなどないので、
否定するしかなく、そうなると憲兵も拷問するしかありません。

「そんなにしらばっくれるなら貴様の体にきいてやる」

でたよお約束の憲兵のセリフ。


やってないものはやっていないので、恒吉も口を割らないのですが、
そうなると拷問がエスカレートしていくのもお約束。

っていうか、拷問って、無実の人を冤罪にするためのシステムですよね。

拷問で自白させたって真実の証言が得られるとは限らない、
とやんわりたしなめる小山ですが、
案の定萩山は烈火のごとくこれに反発し、

「恒吉が犯人じゃないという証拠はあるんですか!」

と悪魔の証明を求めてくるのでした。

何が何でも恒吉に自白をさせるのが自分のやり方、と意固地になり、
拷問はさらにエスカレートしていきます。


しかし、鞭打ちこそないものの、撮影で逆さ吊りにされて水をぶっかけられる
(絶対これ鼻に入ってる)拷問シーンに耐えたこの時の天知茂は偉かった。

20歳から映画界入りしたものの、大部屋時代が長く、まだこの頃は
ちょい役しかもらえず困窮していたという天知は、
食費にも事欠く生活のためか
ご覧のようにガリガリに痩せています。

だからこそ逆さ吊りにも耐えられたっていう説もありますが、とにかく
東宝が経費節減のため安いギャラで使える男優を使い回しするようになって、
天知茂がようやく主役と言える作品に抜擢されるようになったのは、
この「憲兵とバラバラ殺人」の次に制作された「暁の非常線」からなのです。

逆さ吊りされても文句言わず頑張った甲斐があったね(涙)

文句なしの主役だった「憲兵と幽霊」(変な役でしたが)に至るまで、
7本もの映画でソコソコの役を演じ、59年には東海道四谷怪談で演じた
伊右衛門の役で評価された天知は、その後、明智小五郎が当たり役となって
押しも押されもせぬスターダムにのし上がりました。

東京組と仙台組憲兵隊の対立は場外乱闘にも及ぶようになり、
おでん屋で伍長同士の取っ組み合いが始まってしまいます。

小坂はそんな雑音など耳に入らぬほど一心不乱に捜査に邁進していました。

事件当時、陸軍病院に勤務していた内部の者を四人ピックアップし、
写真を提出させて一人ずつ洗っていくという科学的捜査の開始です。

おでん屋の女将で小坂の短期下宿の家主、喜代子は、彼の誠実な態度や
仕事に対する熱心さにいつの間にか惹かれていきます。

「こんなおばさんですもの、貰い手があるかしら」

などと自虐して、否定して欲しそうですが、鈍感な小坂はこれをスルー。

しかし、次の瞬間、着替えを手伝う手が彼の手に重なってしまうという
巧妙な作戦が見事功を奏して小坂の心をぎゅっと鷲掴みに(個人の主観です)

そんな時、ひょんなことから、妹の友人妙子の婚約者、君塚軍曹が
事件当時陸軍病院に勤めていた四人のうちの一人であることがわかりました。

聞き込みによって、彼が不審な荷物を使役に運ばせていたということも明らかになります。

小坂は仙台警察の老刑事と協力して証拠固めに入りました。

被害者が生きているように偽装した手紙の筆跡、写真館で撮った
君塚と被害者の写真、そして歯科医に照合させた歯型。

全てが君塚が犯人であることを裏付けるものとなりました。

満州で独身ライフを謳歌している君塚、姑娘とイチャイチャしているところに
突如彼を捕まえるために派遣された小坂憲兵が現れてビビりまくり。

そんな君塚に、小坂は被害者の写真と遺体の胴体の写真を突きつけて、
火曜サスペンスのように、滔々と自分の推理を語るのでした。

全ては小坂の推理通りでした。

衛生兵だった君塚は遺体を手術室に運び、医療器具で切断していたのです。
死んだ百合子を手術台に乗せた時の、自分を見ているかのような
彼女の眼が思い出され、今さらのように彼は絶叫するのでした。

「百合子お!許してくれえ!」

 

さて、それでは次回最終回として、憲兵とこれらの映画について
もう少しだけお話ししたいと思います。

続く。

 


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1 Comments

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憲兵 (Unknown)
2019-06-15 17:20:30
中山昭二さんというと、やっぱり「ウルトラセブン」まだ戦後二十年くらいで、戦争経験者はそこら中にいました。

憲兵。今で言うと「警務隊」になります。ほとんどの自衛官は、定年まで勤め上げても、警務隊と関わることはありません。彼らも、服務の宣誓をし、普通の自衛官な訳ですが、関わるとあまりいい事はないので、出来れば関わりたくないというのが本音です。ごめんなさい。

そんな警務隊を主人公にした小説があります。「深山の桜」なかなかいいですよ。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B7%B1%E5%B1%B1%E3%81%AE%E6%A1%9C
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