2019年のブログです
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宮下奈都さんの『静かな雨』(2019・文春文庫)を読みました。
表題作の「静かな雨」は雑誌『文学界』2004年6月号に掲載されたなんと宮下さんのデビュー作。
それから15年しか経っていませんが、宮下さんは今や本屋大賞を受賞するような作家さんです。
デビュー作とはいえ、「静かな雨」は完成度の高いいい小説です。
交通事故で記憶力を失った女性とそれを支える男性の物語ですが、特に、女性の姿がすばらしいです。
おおらかで、生き生きとしていて、もちろん、哀しみを抱えていますが、めそめそはしていません。
静かな、静寂の中に、しっかりと生きています。
男性やその家族も温かいです。
びっくりしたのは男性の行助という名前。
彼のお父さんが立原正秋さんの『冬の旅』のファンという設定ですが、宮下さんも立原正秋さんファンなのかな?
さらに、併録の「日をつなぐ」は2008年の作品ですが、こちらも若々しい小説。
若い夫婦に子どもが生まれて、その子育ての苦労をうまく書いていますが、なかなかリアルです。
苦闘の末に、希望を見出したように見えますが、はたして二人の行方はいかに?という感じです。
いい小説を二つも読めて、幸せな10月です。 (2019. 10記)