*写真は左から、ワロン王立歌劇場のトゥーランドット、プラハ交響楽団コンサート、モンテカルロ歌劇場タンホイザー、ボン劇場ピーター・グライムズ、ワロン王立歌劇場オテロ
すでに2016/17年のシーズンを終了し、休暇に入っているホセ・クーラ。
あらためて振り返ると、クーラの今シーズンは、新しい挑戦と探求、創造、成熟と実りの年であり、クーラの長く豊富なキャリアにおいても画期的な1年だったといえるのではないかと思います。
というのは、これまで何度も紹介してきましたが、ワーグナーへの初挑戦があり、長年の念願であるピーター・グライムズで演出・舞台デザイン・主演デビューがあるなど、新たな地平を開く挑戦があり、一方で、長年歌い続けてきたオテロや西部の娘での円熟の役柄での大成功があり、そして20代の若い頃に作曲した作品の世界初演もありました。
今年12月には55歳になるクーラ。歌手として、ベテランの域に入り、役柄と解釈を成熟させながら、今でも輝かしい声とのびやかな歌をもっていることを証明してくれました。また、もともとの志望であった指揮者・作曲家として、さらに近年、活動を広げている演出家・舞台デザイナーとしても、重要な成果を得ました。オペラと音楽において、多面的にフルパワーで活動し、芸術的探求と創造性で豊かな成果を築いた1年でした。そしてその多くが映像化されたのも嬉しいことでした。
これまでの投稿でも紹介してきましたが、あらためてこのシーズンをざっくりと、主な公演にしぼって振り返ってみたいと思います。これまでブログをお読みいただいている方がいらっしゃるとしたら、しつこくて恐縮ですが、現在のクーラの到達点を多くの方に知っていただきたいと思い、できるだけ動画のリンクも紹介したいと思います。
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≪歌手として――迎えた円熟の時、そして新たな挑戦≫
●2016年12月、プッチーニ「西部の娘」のディック・ジョンソンで、みずみずしい解釈と歌唱――ウィーン国立歌劇場でライブ放映
今シーズン前半、昨年12月に、クーラが長年歌ってきた役柄のひとつであるプッチーニ「西部の娘」でウィーン国立歌劇場に出演、この舞台がライブストリーミングに登場しました。実は、クーラのジョンソンが正規の映像になるのは、これが初めてのことでした。
ライブ放送は終わりましたが、YouTubeに非公式にアップされた録画が削除されずに残っています。いつまであるかわかりませんが、リンクを紹介します。
伸びやかな声と歌唱の魅力、そしてジョンソンのキャラクター、心理の分析、解釈をふまえた、クーラの控え目ながらリアルな演技、舞台上の存在感が見ものです。レビューも、「クーラはトップフォームにあった」など大変好評でした。
前半
Puccini - La fanciulla del West (Part I) Eva-Maria Westbroek, Tomasz Konieczny, Jose Cura
後半
Puccini - La fanciulla del West (Part II) Eva-Maria Westbroek, Tomasz Konieczny, Jose Cura
●2017年6月、ヴェルディ「オテロ」、20年の解釈、円熟の到達点示す――ワロン王立歌劇場のライブ放映
今年6月には、ベルギーのワロン王立歌劇場で今シーズン最後の演目オテロに出演しました。幸い、これも日本でライブ放映され、見ることができました。
20年間歌い続け、さらに演出、指揮もしているオテロ。2006年のリセウ、2016年のザルツブルク復活祭音楽祭の舞台もDVDになっていますが、このワロン王立歌劇場のオテロは、それらをはるかに凌ぐ、クーラ渾身のオテロ、円熟の到達を示す舞台だったと思います。
「今日この役の最もふさわしい解釈者の一人であり、端的に言えばそれは、巨大なオテロ」など、最大級の賛辞をレビューからも得ました。 → くわしくはこちらで紹介しています。
フランスTVによって収録され、CultureBoxにより放映、
*公式チャンネルからは見られなくなりました。他にアップされている動画リンクです。
“Otello” de Verdi - Opéra Royal de Wallonie
●2017年2月、ワーグナー「タンホイザー」に初挑戦(パリ版仏語上演)――モンテカルロ歌劇場からライブ放映
長年、ワーグナーを歌いたいと願いながら、ドイツ語が不十分という理由で断りつづけてきたクーラ。今季、最大のニュースのひとつが、そのワーグナーについにチャレンジしたことでした。
ワーグナー自身が手を入れた台本によるフランス語版での上演。パリでの初演以来、初めての復活という歴史的意義のあるプロダクションでした。
→ タンホイザーについてはこちらで詳しく紹介しています。
そしてその注目のプロダクションで、初挑戦のタンホイザーを成功させ、これまでにない魅力のキャラクター像をつくりあげました。
「めったに聞く機会がない美しいタンホイザーの解釈」などと絶賛され、とりわけ第3幕のローマ語りは、多彩なニュアンスと豊かな解釈に満ちた感動的な場面となっています。
こちらもCultureBoxにより放映され、
*同じく現在では見られなくなりました。別のリンクで紹介します。
"Tannhäuser" de Wagner en français - l'Opéra de Monte-Carlo
≪演出家・舞台デザイナーとして――創造性と誠実さ、チームワークを大事にして≫
●2016年9月、プッチーニ「トゥーランドット」の演出・舞台デザイン・主演――ワロン王立歌劇場(ラジオ中継あり)
2008年以降、本格的に演出家として活動を始めたクーラ。今季も2つのプロダクションを演出、そのひとつが、これもクーラが何度も主演してきたトゥーランドットです。クーラは演出と舞台デザインを担当しつつ、カラフで出演もしました。
残念ながら、録画放映はまだされていませんが、ネットラジオでライブ放送されました。録画はしているようですので、DVDにぜひしてほしいものです。実はトゥーランドットのカラフでのクーラの正規映像もまだないのです。
劇場の提案でリューの死で終わるプロダクション、寓話的要素を強調するため、子どもたちの学ぶ様子をフレームにした、カラフルで楽しい、そして最後にあっと驚くエンディングがある演出です。
「クーラは、演出家・舞台監督としてプッチーニの未完のオペラへの説得力あるアクセスを見つけることができたことを証明しているだけでなく、王子カラフの挑戦的な役柄で輝くことができる。テノールらしい旋律の美しさと、猛烈な『私は勝利する』(Vincerò)を歌いあげ、有名な『誰も寝てはならぬ』を形づくった。」――などの高い評価をえました。
全編の録画は公開されていませんので、劇場の予告編と、短い録音のリンクを掲載しておきます。
クーラの演出構想やレビュー、舞台写真などは、以前の投稿でまとめています。
Turandot (Puccini) - La Bande Annonce
Jose Cura 2016 Turandot Act1 last
Jose Cura 2016 turandot Act2 last
●2017年5月、ブリテン「ピーター・グライムズ」の演出・舞台デザイン・主演――ボン劇場(モンテカルロ歌劇場と共同制作)
今季のもうひとつのビッグチャレンジが、ブリテンの英語のオペラ、ピーター・グライムズです。こちらも演出と舞台デザイン、衣装などを担当しつつ、主演もしました。
長年、歌いたいと言い続けてきたグライムズの夢がようやく実現したものです。
「プレミアの観客は、熱狂的なスタンディング・オベーションと賞賛で、参加者全員を祝った。ピーター・グライムズは典型的な敗者だ。しかし、彼の解釈者であるホセ・クーラは、すべての分野における勝者だった。演出家として、衣装・舞台デザイン、タイトルロールの解釈においても。」――観客からの熱狂的な喝さい、感動をよび、レビューでも高く評価されました。
このプロダクションはモンテカルロ歌劇場との共同制作で、来年2018年2月に、モンテカルロで再演の予定です。もちろん主演もクーラ。今度もライブ放映されることをつよく願っています。
まだ録画も録音もありませんので、劇場の予告編を。またグライムズに関するくわしい紹介はこちらでまとめています。
画像をクリックすると、ボン劇場のVimeoの紹介動画にリンクしています。
こちらはYouTubeにアップされているカーテンコールの様子。
長く続く拍手とブラボー、そして立ち上がる観客、クーラは舞台上に裏方さんたちも呼んで、みんなで成功を喜びあっています。
José Cura - Curtain Call "Peter Grimes"
≪作曲家、指揮者として――初心を貫き、活動が広がる≫
●プラハ交響楽団でのレジデントアーティストとして2年目
最後は、作曲家、指揮者としての活動の展開です。2015/16シーズンから始まった、プラハ交響楽団のレジデントアーティストとして2年目の今季は、3回6公演のコンサートに出演しました。
→ プラハ響との活動はこちらで詳しく紹介しています。
もともと作曲家・指揮者をめざして、大学でも作曲と指揮を専攻したクーラ。このプラハ響との活動で、指揮、歌手としてとともに、若い頃に書き溜めていた作曲作品の初演に取り組んでいます。
今季、初演されたのは、クーラ作曲のオラトリオ「ECCE HOMO(この人を見よ)」。指揮は友人のマリオ・デ・ローズが行いました。
オケはプラハ響、そしてソリスト男声2人、女声2人、混声合唱合唱団と子どもの合唱団、さらにクーラ自身が、キリスト役の声として歌いました。まだ録音、録画は公表されていません。
来季で3年目、2017/18シーズンが最後の年です。来季も、歌手として、指揮者として、作曲家として、クーラの多彩な側面を楽しめるコンサートが予定されています。
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多彩なチャレンジで、ハードワークにつぐハードワークの1年だったと思います。でもその努力に報いるだけの豊かな実りがあった1年といえるのではないでしょうか。
現在は休暇中とはいえ、たぶんクーラは、自宅・事務所で来季の準備、秋の新しい作曲作品の初演、演出の仕事、また自作の音楽劇の作曲・・と、知的好奇心とチャレンジ心、自らの可能性と才能をどこまでも広げていくための努力と探求をさらに続けているようです。
さらに来季以降が楽しみです。