このブログをご覧いただいているなかには、たまたま検索で訪れてくださった方も少なくないと思います。
今回は、このブログでとりあげているホセ・クーラについて、どういうアーティストなのか、これまでのキャリアと現在、最近の活動について、改めて簡単に紹介したいと思います。
クーラは先月、2018年9月、プッチーニの「西部の娘」をバルト三国エストニアで演出・指揮する新プロジェクトに取り組みました。そして9月21日の初日を前に、9月10日には、エストニアの国立大学、音楽劇場アカデミーがクーラの講演会を企画・実施しました。その案内のページや劇場のHPに掲載されたのが、ここで紹介する文です。
短いながらも、アーティストとしてのクーラの多面的なキャリアをわかりやすく記述しています。
→ 原文はこちらのエストニア音楽劇場アカデミーのページをご覧ください。
なお、付け加えると、ホセ・クーラは、現在も歌手としてオペラやコンサートの舞台にたつとともに、指揮者、演出、舞台デザイン、衣装・照明、そして作曲家として、世界的に活動しています。1962年生まれで、今年2018年12月で56歳。日本では、1998年1月新国立劇場の開場記念公演アイーダがデビュー、現在のところ、最後の来日は、2006年のボローニャ歌劇場来日公演のアンドレア・シェニエです。
そしてこのブログは、日本ではほとんど伝わってこない、クーラの最近の活動、また彼のユニークな生き方、芸術に対する真摯な姿勢などを紹介したくて、ささやかながら、1ファンとして始めたものです。カテゴリー別に一応記事を分けていますので、もし興味をお持ちのものがありましたら、お読みいただければありがたいです。
●エストニアの大学で講演するクーラ
≪ホセ・クーラとの集いーーエストニア音楽劇場アカデミー≫
アルゼンチン人のトップテノール、指揮者、指揮者、演出家であり、作曲家のホセ・クーラは、エストニアの国立音楽劇場アカデミーを訪れ、プロフェッショナルなアーティストとしてのキャリアと、音楽界での成功への対処について語る。講演会は「知的正直さの反対としての知的誠実さ」(“Intellectual Sincerity as Opposite to Intellectual Honesty” )と題して行われる。(注*この和訳が難しく、私には十分ニュアンスが理解できていないのをご了承ください)
クーラは言う。「これは難しいことだが、アーティストにとっては必要な話だ。もし私たちが、我々の仕事で未来を確かなものにしたいと望むのなら」と。
ホセ・クーラはオペラスターであるだけでなく、作曲家、指揮者、ディレクター、デザイナーであり、質の高い音楽で観客を魅了し教育する、偉大なアーティストでありエンターテイナーである。
ーー歌手として
故郷であるアルゼンチン・ロサリオでオーケストラの指揮と作曲を学んだ後、ホセ・クーラは1984年、さらなる前進のためにブエノスアイレスに移った。人生の次のステージに移る準備のために、1984年から88年まで、テアトロコロンの合唱団で働いた。そこで彼は、深いバリトンのような色合いをもち、つよく、輝きのあるテノールのための強力な声を開発し、評判を得た。
1991年以来、ホセ・クーラのキャリアは、彼を世界の最も有名な劇場に導き、彼は、イタリアとフランスの伝統的なレパートリーの最も偉大なパフォーマーのひとりとなった。オテロ、スティッフェリオ、サムソン、カニオ(道化師)、カラフ(トゥーランドット)、カヴァラドッシ(トスカ)とディック・ジョンソン(西部の娘)などの、高い評価を得た伝説的な役柄の解釈のリストに、2017年、リヒャルト・ワーグナーのタンホイザーとベンジャミン・ブリテンのピーター・グライムズの2つを加えた。
●何か図のようなものを書きながら語っている・・
ーー指揮者として
1999年、ホセ・クーラは、指揮者としてのキャリアを続けた。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、シンフォニア・ヴァルソヴィア、アルトゥーロ・トスカニーニ・フィルハーモニー管弦楽団とハンガリー・フィルハーモニー管弦楽団などを指揮。これらのコンサートは観客に支持され、継続的な成功を得た。
ーー演出
2007年、最初の作品は、ダンスとパントマイムによるオペラ「道化師」の創造的な再構成であり、クーラがデザイン、演出した。それは彼の演出家、アーティストのキャリアの基礎を築いた。2010年、カールスルーエ・バーデン州立劇場では、サン=サーンスの「サムソンとデリラ」の演出・舞台デザインに加えて、主役を演じた。この革新的なプロダクションはDVDになっている。仏ナンシー・ロレーヌ国立オペラのプッチーニ「つばめ」(演出、舞台デザイン、指揮)、ベルギーのワロニー王立歌劇場の「カヴァレリア・ルスティカーナ」「道化師」(演出、舞台デザイン、主演)(2012年)は、批評家と観客から評価され、演出家としてのクーラの名前にスポットライトがあたった。また2016年の秋、ワロニー王立歌劇場の「トゥーランドット」のプロダクション(演出、舞台デザイン、主演)は、広く世間の注目を集めた。2017年、ボンとモンテカルロの共同制作「ピーター・グライムズ」(演出、舞台デザイン、主演)は、「センセーショナルで偉大な夕べ」と評された。彼の最も最近の作品、2018年プラハ国立歌劇場「ナブッコ」(演出・舞台デザイン)は、「魅力的で深みのある舞台デザイン、光とコスチュームの一貫性」と評価を受けている。
ーー作曲
2014年、ホセ・クーラは作曲活動に戻り、10月に、南ボヘミア劇場(チェコ)で「スターバト・マーテル」(1989年作曲)、そして2015年にミラノ・スカラ座にカルメンのドン・ホセとして出演した後に、カターニアのマッシモベリーニ劇場で「マニフィカト」(1988年作曲)を初演した。
2015-2018年は、クーラはプラハ交響楽団のレジデントアーティストとなった。著名なオーケストラの前で、今シーズンは2回のシンフォニー・コンサートを行う(注:各シーズン3回のコンサート、うち毎年1曲の作曲作品の初演を行う契約)。彼らは、クーラの作品「マニフィカト」をチェコ初演(2016年)し、「Modus」(2017年作曲)を初演。またアリエル・ラミレスの有名な「ミサ・クリオージャ」と「Navidad Nuestra」を、著者の依頼でクーラがオーケストレーションを行い、シンフォニックバージョンを演奏した。
こうした教育と文化への貢献が認められ、2015年6月、母国アルゼンチンの上院から名誉表彰を受け、2017年11月にはロサリオ国立大学の名誉教授に任命された。
●学生の質問にも気さくに答え、楽しそうな様子
≪講演会終了後の報道より≫
100人以上の音楽劇場アカデミーの学生、学外からの研究者や音楽愛好家が集まったこの集いは、クーラが、世界で最も有名な歌劇場で主演するオペラ歌手であるだけではないことを証明した。オーケストラの指揮者や作曲家として音楽を学び始めたクーラは、40年以上にわたるキャリアを通じて、偉大なアーティストになっている。彼が演じる役柄は、心理的に高い完成度で構築されている。
イタリアとフランスの伝統的なレパートリーのパフォーマーとして知られるが、彼の役柄解釈は決して常に伝統的ではなく、批評家だけでなく、聴衆にもしばしば驚きを与える。しかし彼自身は驚いていない。「クーラは、彼がやるべきと期待されたこと以外の全てをやった」ーーこれはクーラが得た批評のなかでも最も象徴的なものだと彼は語る。
だからこそ、若いアーティストたちは、常に彼ら自身の信念にもとづいて、誠実な自己表現に頼るべきだという考えを、いつも彼らのなかに持っていなければならない。それが一般的に理解されてきたやり方と矛盾するとしてもーーとクーラは強調した。
学生とのミーティングの後、クーラは、まもなく完成する新しいホールの建築現場に案内された。
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今回の公演の内容は、詳しい報道が出ていないため、これ以上知ることができず残念です。
これまでも様々なインタビューなどで述べてきたこととも共通していますが、誰かの真似や、一般に信じられている方法をうのみにするのではなくて、自らの芸術的な信念にもとづいて、深めた自分の解釈、スタイル、表現を大切にしなければならないということを強調したようです。これらは実際にクーラがアーティストとしてのキャリア全体を通じて貫いてきたもので、非常に説得力があったと思います。
それにしても、このように大学が劇場と連携して、講演会や学生とのミーティングを開催することは、とても重要なことだと思います。とりわけクーラは、語りでも魅力的で、ユーモアがあり、率直な話しぶりは、学生にとって刺激的だったのではないでしょうか。
この紹介文で書かれている通り、クーラはこの間、指揮、作曲に加えて、演出、舞台デザインを行い、また照明や衣装も手掛けることがあるなど、オペラの仕事を総合的に理解し、経験と実績をつんできました。もちろんテノールとしてのオペラ出演やコンサート活動も続けています。40年間の多面的なキャリアを通じて、アーティストとしての成熟期を迎えているクーラ。つぎは何をやるのか、常に楽しみです。
まだ来年2019年の公式カレンダーは発表されていませんが、どれか1つでも、公演を聴きにいくチャンスがあることを心待ちにしています。
*画像は大学のHPなどからお借りしました。