年が明けて、早くも半月近くがたちました。すっかり更新が滞ってしまいました。
ホセ・クーラの2019年初の公演は、1月19日、スペイン・リェイダでのコンサートです。
クーラは指揮者として、ロドリーゴ「3つの古い舞曲の調べ」、「アランフェス協奏曲」、ベートーヴェン「交響曲第4番」を振ります。オケは、フリア・カボネル・デ・レス・テレス・デ・リェイダ交響楽団。 → クーラ2019年カレンダー紹介記事
近々、リハーサル風景などがアップされるかもしれません。楽しみに待ちたいと思います。
ということで新年の公演の紹介記事はまだ先になりそうですので、今回は、昨年2018年に、クーラが舞台デザイン、演出を手がけたカヴァレリア・ルスティカーナと道化師のプロダクションの、サンフランシスコでの再演の様子、レビューの抜粋などを紹介したいと思います。
2018年はクーラにとって、演出の分野で大きな仕事が相次いだ年でした。すでに紹介しましたが、6月にプラハでナブッコ、9月にエストニアの西部の娘の新プロダクションの演出・舞台デザインを手がけ、西部の娘は指揮も行いました。そして米国サンフランシスコオペラでは、クーラが演出・舞台デザインしたカヴァレリア・ルスティカーナと道化師のプロダクションが、シーズン開幕公演として再演されました。演出家・舞台デザインを手がけるアーティストとして、クーラは、すでに国際的な評価が確立しているといえるのではないでしょうか。
≪CAST AND CREATIVE≫
Conductor= Daniele Callegari *
Production= José Cura
Revival Director= Jose Maria Condemi
Chorus Director= Ian Robertson
Turiddu= Roberto Aronica
Santuzza= Ekaterina Semenchuk
Alfio= Dimitri Platanias *
Lola= Laura Krumm
Mamma Lucia= Jill Grove
Canio= Marco Berti
Nedda= Lianna Haroutounian
Tonio= Dimitri Platanias *
Silvio= David Pershall
Beppe= Amitai Pati
2018年9月7~30日
(告知編)でも紹介しましたが、このサンフランシスコオペラでの再演にあたっては、ちょうど、エストニアの新プロダクションの準備・初演と時期が重なっていたために、クーラは歌手として出演しなかっただけでなく、演出としても参加していません。再演の演出は、同郷アルゼンチン出身のホセ・マリア・コンデミがおこないました。
カヴァレリアのトゥリッドゥはロベルト・アロニカ、道化師のカニオはマルコ・ベルティが歌いました。
初日の様子、SNSなどに投稿された舞台写真、劇場がアップした動画、レビューの一部などを紹介します。
≪SNSより、舞台の出演者の様子≫
●クーラの姿も見える、劇場を飾る大きな垂れ幕
●初日を迎えた劇場内の様子――オケのFBより
●最終日、出演者揃って――劇場ゼネラルマネージャーのインスタより
Farewell to the vibrant colors of Buenos Aires and Jose Cura's Cav/Pag. We've been blessed @sfopera by such fantastic artistry in a production that has taken audiences on searing journeys into the passions of humanity. Thank you to everyone @sfopera for making this extraordinary. pic.twitter.com/dfxU9y7sBm
— Matthew Shilvock (@MatthewShilvock) 2018年10月1日
「ブエノスアイレスとホセ・クーラのCav / Pagの鮮やかな色彩にお別れ。私たちはサンフランシスコオペラにおいて、観客を人間の情熱への燃えるような旅に連れ出した作品の、このような素晴らしい芸術に恵まれた。この素晴らしいものをつくりだしたサンフランシスコの全ての皆さんにありがとう。」
≪華やかな初日≫
初日には、沢山のセレブが豪華な衣装で集い、記念レセプションも行われて、非常に華やかなものだったようです。
サンフランシスコオペラの拠点であるこの歌劇場は、「戦争記念オペラハウス」と呼ばれている歴史的な建造物です。
1951年、第二次世界大戦後の日本と連合国側との講和条約が、ここで締結されたのだそうです。ここで結ばれたから「サンフランシスコ条約」とも呼ばれるということです。
この劇場で締結されたサンフランシスコ条約にもとづいて再出発した戦後の日本。平和は回復されたものの、米軍基地は残り、アメリカのつよい影響力のもと、その後の複雑な歩みと現在に至る状況がもたらされました。いま朝鮮半島で新しい平和への模索が進みつつありますが、アジア、世界の平和、そこへの日本の立ち位置を考えるうえで、サンフランシスコ条約のもたらしたもの、現在と未来を考えずにはいられません。この劇場は、日本の歴史の大きな曲がり角になった、その条約調印を見とどけた場所でした。
≪好評だったレビューより≫
レビューはおおむね好評でした。特にクーラのカラフルで美しいセット、2つの物語を有機的に結び付けたコンセプトは、ドラマを深め、人間的な感情を掘り下げて大きな感動をよんだようです。
●コミュニティと家族の重要性のリアリティ
両方のオペラが非常に感動的だ。しかし今回のサンフランシスコオペラのダブルビルでは、カヴァレリア・ルスティカーナがより魅力的で説得力のあるオペラであることを感じた。
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ホセ・クーラによって設計・演出され、ここではホセ・マリア・コンデミによって再演された上演では、カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の両方が、ブエノスアイレスのイタリア移民地区に置かれる。アルゼンチン人であるクーラは、イタリア移民が定住したブエノスアイレスのラ・ボカ地区のローカル・カラーをよく知っている。
中央広場、居酒屋、色とりどりのアパート、教会がある、同じ舞台セットの中、両方のオペラを演出するにあたって、クーラは、地域のコミュニティと家族の重要性を強調する。
この点でそれは、ブエノスアイレスのイタリア人移民コミュニティと、これらのオペラが最初に設定された南イタリアのコミュニティの両方において真実だ。
(「berkeleydailyplanet.com」)
●人を飽きさせない独創的作品、並外れてドラマティック
ホセ・クーラの、人を飽きさせることのない独創的な作品は、ベルギーのワロン王立歌劇場のために制作された(2012年)。
よく知られているオペラの物語を別の時間と場所に移す非伝統的な作品は、元の作品に新しい洞察をもたらすことができることを、これまでも主張してきた。クーラのこの2作品のコンセプトは、並外れて、激しくドラマティックであり、そしてクーラの暖色系のセットは人の目を惹きつけるものだと感じた。
ロイヤルオペラのプロダクションのサンフランシスコオペラでの再演は、ホセ・マリア・コンデミ――クーラ同様にアルゼンチン生まれで- イタリアのルーツを持つ家族の出身――によって演出された。
オリジナルプロダクションのクーラのステージングの細部に忠実であるか、それとも新しい機能を追加するのかにかかわらず、コンデミの演出は、スタイリッシュでオペラの作曲家の意図に忠実であることが期待される。
特に「カヴァレリア」で注目に値するのは、マンマルチアの居酒屋に隣接するアパートや他の上層階のスペースを含む、村の空間を移動する村人としてのコーラスの効果的な使用だ。
(「operawarhorses.com」)
●物語の心に強く訴える再編成
ホセ・クーラは、マスカーニとレオンカヴァッロのオペラの舞台となるコミュニティを統合した。クーラの唯一の新しい村は、ブエノスアイレスのラ・ボカ地区のエネルギーを反映したものだ。
それによってクーラは豊かな環境を創り出した。アクションは映画的に動く。コーラスのすべてのメンバーは、コミュニティの中でユニークなストーリーと場所を持つ個人として行動する。再演の舞台でコンデミによって実現されたクーラのビジョンは、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の物語の心に強く訴える再編成をもたらした。
●興味深い新鮮な工夫
サンフランシスコオペラの第96シーズンは、ホセ・クーラによってリエージュの王立歌劇場のために上演されたマスカーニとレオンカヴァッロによる2つのオペラの大胆なプロダクションによって金色の幕を上げた。
クーラによるカラフルな舞台、コスチューム、鮮やかな照明によって、定番オペラのカップリングに興味深い新鮮な工夫が施された。
それは時には混乱を招くように感じるが、背景の変更は、愛、裏切り、殺人の物語の間にテーマ別のつながりを提供した。
暑苦しいほどの情熱と危険な接触の雰囲気、住民がそれぞれの個人的なドラマをもち、熱心な祈りを求める声が頻繁に聞こえてくる中で、全員が演じているのは驚くべきことだった。
舞台の動きと官能的な振り付けは、戦争記念館の舞台を活気に満ちた引き潮とイタリアの雰囲気で満たしている。演奏は灼熱の感動的な体温にマッチした。
≪出演者のインタビューより≫
道化師のシルヴィオを演じた若い歌手が、インタビューでクーラのプロダクションについて語っている部分を抜粋して紹介します。
このプロダクションでは、2作品の舞台が連続してひとつの村での出来事として描かれます。道化師ではカニオの若い妻の愛人となる青年シルヴィオが、カヴァレリアでもマンマルチアのお店の店員として出演しています。クーラの演出は細部まで非常にきめ細かく、歌わない時、またコーラスもその1人ひとりが、それぞれの役柄と生活をずっと演じ続けています。非常にリアルでカラフル、そしてそうした描写を通して、登場人物の人生とドラマが浮き彫りにされています。この作品に出演したことは、若いこの歌手にとっても、非常に印象的な体験だったようです。
●キャラクターにより人間的側面をもたらしたプロダクション
シルヴィオを演じたデビッド・パーシャルにとって、ホセ・クーラのプロダクションでは、シルヴィオが「道化師」と「カヴァレリア・ルスティカーナ」両方に登場するために、彼の登場時間は拡大された
「演出のアイデアは、旅芸人一座が訪れた村は、カヴァレリア・ルスティカーナの舞台と同じ村だったというものだ。私は以前にオペラ全体に出演したことがあったので、それは物事を面白くした。楽しかったし、思ったよりもずっとステージタイムが長かった。」
パーシャルにとって、これは彼のキャラクターがより大きな発展を遂げ、より多くの行動をとることを可能にした。
「私はステージ上にいた時間がずっと長くなり、シルヴィオの物語は大きく変わった。カヴァレリア・ルスティカーナでは、私はマンマ・ルチアの居酒屋を手伝っている。そして彼女の息子トゥリッドウが殺害された後、私は彼女の息子になった。私はそれは、シルヴィオへの同情を築く良い方法だと思った。さもなければ、彼を正しく演じないと、彼はネッダとカニオの本当の関係を破壊する悪者として登場することになってしまう。
それは、ほとんどのプロダクションと比べても、キャラクターにより人間的な側面をもたらした。」
(「operawire.com」)
≪劇場が公表した舞台やリハーサルの動画≫
サンフランシスコオペラの動画サイトに掲載されている関連動画から、いくつか紹介します。
サンフランシスコオペラの予告動画①
クーラが両方を主演した2012年リエージュの舞台の抜粋です。
サンフランシスコオペラの予告動画②
リハーサル風景。動画の中では、非常に細かく書き込まれた演出ノートのようなものにもとづいてリハが進められている様子が写っています。クーラが参加していないこの再演の準備のために、コンデミ氏はクーラと打ち合わせと準備を積み重ねたということです。演出ノートも、こうした打ち合わせを経てクーラと共同作業で作られたものなのでしょうか。
サンフランシスコオペラの予告動画③
道化師のカニオ「衣装をつけろ」 マルコ・ベルティ
サンフランシスコオペラの予告動画④
カヴァレリア・ルスティカーナのサントゥッツァとトゥリッドゥの2重唱
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クーラ渾身のプロダクションが、初めて北米で上演されました。しかも、アメリカ西海岸の代表的なオペラハウス、歴史あるサンフランシスコオペラのシーズン開幕公演です。
2012年の初演では、クーラが両方の主演もおこない、2015年アルゼンチンのテアトロコロンでの再演では、クーラが演出、そしてカニオだけを歌いました。そして今回は、クーラのプロダクションだけが海を渡り、再演演出も、主演も、クーラ以外の人が担って成功しました。このことは、プロダクションが素晴らしく、高い評価を受けているからこそ、当初の制作者の手を離れて、プロダクション自体が独自に歩み出しているということなのかもしれません。
一方で、そうは思いつつ、クーラファンとしては、少し複雑な思いもありました。この演出、この主演は、クーラあってのもの、クーラにしかできないのではないか、クーラの情熱、演技力、歌唱あってのプロダクション、そういう思いがあったからです。
正直に言うと、サンフランシスコオペラの抜粋動画を見ただけの範囲の印象ではありますが、道化師カニオのベルティ、カヴァレリアのトゥリッドゥのアロニカは、それぞれ熱演でしたが、クーラとは歌唱のテイスト、演技力が違いすぎて、クーラがこのプロダクションに込めた情熱とドラマがどれだけサンフランシスコの観客に伝わったのだろうかという思いもありました。
でも、クーラが参加できない条件を知りつつ、あえてどうしても開幕公演にこのプロダクションをと考えたサンフランシスコの劇場関係者の情熱も、非常につよいものだったのでしょう。そしてそれが大きく成功したことは、本当に素晴らしいことでした。
以前投稿した、このプロダクションに込めたクーラの解釈を紹介した記事や、サンフランシスコ再演の(予告編)に、クーラが主演したリエージュの舞台の紹介動画もリンクしています。非常に美しい舞台、情熱的な歌唱、キャラクターの人間性、人生の切なさとドラマを掘り下げる演技・・動画は舞台のごく一部分なのが残念ですが、クーラのインタビューやリハ風景もあります。ぜひご覧ください。
初演時のリエージュでのクーラの舞台写真
*画像は、劇場のHPや関係者のSNSなどからお借りしました。