ホセ・クーラは、2020年3月12日と15日の2公演、北ドイツのハンブルク歌劇場でヴェルディのオテロを歌う予定でした。
しかし急速に世界中に広がった新型ウィルスによる感染対策で、ドイツ政府は屋内では1000人以上のイベントを中止するよう勧告しました。当初は、ハンブルク市当局の方針をふまえて、個別に判断し、対策をしっかりとったうえでの公演続行を表明したハンブルク歌劇場でしたが、ドイツ国内での急速な感染拡大を背景に、3月13日から4月30日までの公演キャンセルを発表しました。
こうした経過をうけて、3月12日のクーラのオテロはぎりぎりで開催され、ハンブルク歌劇場が長期閉鎖になる前の最後の公演となりました。不幸中の幸いというべきか、一公演のみが実現したオテロ、さまざまな人々の思いをうけ、奇跡的な一夜となりました。
SNSや劇場のHPなどから、今回のオテロについて紹介したいと思います。
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*劇場HPのオテロ告知ページ。ただし舞台写真に写っているのはクーラではなく、初演時のマルコ・ベルティ
≪急激に広がった感染対策による劇場閉鎖≫
●クーラのFB
日本時間の3/11、現地では10日に更新されたクーラのFB記事です。すでに欧州での感染拡大が深刻化し、ドイツ国内での感染の拡がりもふまえて、確か9日だったと思いますがドイツ政府が、1000人以上集めるイベントを中止するように勧告しました。そういう状況のなかで、多くのファンが心配していることを考慮して、このコメントを出してくれました。
”親愛なるみなさん。多くの人たちが状況を考慮して、私がハンブルグでオテロに出演するかどうかを聞いてきている。私は、私たちキャストが皆、ここにいて、ショーをする準備ができていることを伝えて、みなさんを安心させたいと思う。しかし、状況は刻一刻と変化しているため、今後48時間でどうなるかはわからない。だから、警戒を怠らず、最善を尽くそう。 ホセ ”
●劇場によるオテロの告知
劇場側もハンブルク市当局と相談のうえだと思いますが、いったんは、公演続行を公表。オテロの告知が出され、その時はほっとしたのでしたが・・。
●公演キャンセルを伝える劇場HP
その後、さらに人数にかかわらず、イベント中止を求める当局の勧告が出されたこと、EU域内での感染拡大など、急速な事態の進展を背景に、ハンブルク歌劇場も、3月13日から4月30日までの公演キャンセルを発表しました。前後して、欧州の歌劇場のほとんどが、公演キャンセル、閉鎖をつぎつぎと決めていきました。ドイツ政府の対応、EUの状況、劇場の対応などが、わずか数日の間に急激に変化していった渦中のできごとでした。
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●オテロ初日の前日3/11に出されたFBでのキャンセル告知
≪閉鎖前の最後の公演に≫
1夜のみでしたが、日々激変する状況のなか、幸いにも実現したクーラのオテロの公演。時期的な偶然とはいえ、ハンブルク歌劇場のつよい意志も感じました。イタリアオペラを特集する企画の一環として取り組まれたものでした。
事前に告知されていたキャストからの変更もありました。デズデモーナは、ベテランのストヤノヴァから、若手のアメリカのソプラノ、アイリーン・ペレスに。指揮者も公演直前に、ダニエル・カレガリに変更になりました。新型肺炎対応もあり、落ち着いてリハーサルする時間も十分確保できなかったのではないでしょうか。
しかしオテロの公演は大成功、劇場閉鎖前の最後の一夜ということもあって、感動的な公演になりました。
●1夜だけとなったオテロの公演を前にーークーラのインスタより
”今夜のオテロの準備中。ハンブルク歌劇場が閉じる前の最後のショー。本当に奇妙で、悲しく感じる。 このトリッキーな瞬間、問題を抱えている皆さんに幸運を。一緒にいて、すぐに再起動する準備を !!! ”
●クーラがFBでシェアしたカーテンコールのスタンディング・オベーションの動画
”昨日のスタンディングオベーション。 感情的なショー!”
このカーテンコール動画は、ドイツのオペラ雑誌Das Operanglasがアップしたものです。「とても感動的な舞台」とクーラが語ったように、この動画をみるとわかりますが、終演後も拍手が長く続き、最後は大勢の観客が舞台前に詰めかけてスタンディング・オベーション。エキサイティングな公演、素晴らしい出演者への喝さいと、劇場閉鎖前の最後の夜に名残を惜む思いが込められていたように思います。
●指揮者のカレガリ氏のツイート
Thursday was my last Otello’s performance at the Hamburg Staatsoper before this damned Coronavirus.... I hope this nightmare ends soon....
— Daniele Callegari (@callega3) March 16, 2020
Big hug to all the artists in the whole world 🇮🇹🙏 pic.twitter.com/PIpytmqqzA
”木曜日は、この悪名高いコロナウイルス(による閉鎖)の前の、ハンブルク歌劇場での最後のオテロの公演だった .... この悪夢がもうすぐ終わることを望む .... 全世界のすべてのアーティストに大きなハグを🙏”
●デズデモーナ役アイリーン・ペレスさんのFBより
”ハンブルク歌劇場でホセ・クーラとともに歌うことができたのは、とても名誉なことだった。彼は、舞台上での信じられないほどの芸術性と優雅さで、私が若い歌手として尊敬した最初のラテン系アーティストの1人。 彼のオテロとデスデモーナを歌えることができて、夢が叶った。”
●イアーゴ役アンドレイ・ドバー氏のFBより
”この写真は、「オテロ」公演の後、ちょうど1週間前にハンブルク歌劇場で撮影された。それ以来、世界は急速に変化したが、私たちは再び会って歌うだろう、きっと!”
●エミリア役のマリア・クリスティーナ・ダミアンさんのFBより
”昨日、ハンブルク歌劇場で最初で最後のオテロのパフォーマンスがあった。ユニークなホセ・クーラとステージを共有できたことに感謝。非常に驚くべき、理屈抜きの声、そして圧倒的な個性。まさに「Ecco il Leone」”
*「Ecco il Leone」=「これがライオンだ」ーーオテロは「ライオン=獅子」と称えられた勇敢な指揮官。ただしオテロの物語において、この言葉は、第3幕の終わり、イアーゴが、自らの策略に嵌り、自滅、混乱し倒れ込んだオテロを足蹴にしながら言い放つ。
●観客のSNSより
●帰国ーークーラのFBより
”バックホーム、安全と健全さを! 休息し、たくさんの新しい音楽を作曲する時間 ... みんな元気で。慎重に、注意を。遅かれ早かれ、これらは終了し、私たちは一緒に再起動する必要がある!!!”
感染症対策のため、世界各地で劇場をはじめとする文化施設が閉鎖されています。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場では、今シーズン(2019/20年、5月まで)の残りの公演を全てキャンセルし、劇場のオケ、スタッフ、合唱団の歌手らは一時解雇というニュースも流れてきました。日本でも、オーケストラ、文化団体、劇団、フリーランスのアーティスト、技術者など、大勢の方たちに深刻な影響が及んでいるようです。本当に辛い状況になってきました。
フランス、ドイツなどでは、公的助成を充実させるという動きもあるようです。ぜひ、人間のくらしと世界をより豊かに、美しくしてくれる、なくてはならない存在である文化と芸術の担い手のアーティストの皆さんが、権利と尊厳、そして生活が保障されるように、公的な助成の充実をつよく願っています。そして何よりも、一刻も早く、新型感染症が制圧され、事態の収束が図られることを。
さまざまな困難、懸念を乗り越えて、ハンブルク歌劇場の閉鎖前最後の公演、オテロを成功させてくださった、劇場関係者、クーラとアーティストの皆さん、指揮者とオーケストラ、技術者、スタッフの皆さんに、心からのお礼と感謝の思いを伝えたいと思います。ありがとうございました。
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*出演者、関係者等のSNSよりお借りしました。