人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

(録画編)2011年 ホセ・クーラ、ミラノ・スカラ座で道化師のカニオを歌う

2020-03-29 | オペラの舞台―道化師

 

 

世界を覆う新型ウイルス拡大の脅威のもと、各地のオペラハウスは公演キャンセル・閉鎖を余儀なくされています。そんななか、多くの劇場が、外出禁止のため自宅で過ごさざるをえない人々のために、公演のライブ放送や録画のアップをしてくれています。本当に感謝です。

今回は、イタリアのテレビ局RaiがネットサイトRaiPlayにアップしてくれた、ホセ・クーラ主演のレオンカヴァッロのオペラ、道化師を紹介したいと思います。

2011年1月~2月、イタリアのミラノ・スカラ座での公演です。指揮はダニエル・ハーディング。通常通り、カヴァレリア・ルスティカーナ(トゥリッドウが故リチートラ)とのダブルビルで上演されましたが、現在(3/29時点)公開されているのは道化師だけのようです。日本でもNHKの深夜枠で放映されたので、ご覧になった方もいらっしゃると思います。

オペラ情報サイトのoperawire.comによると、2020年4月6日と12日に、この道化師とカヴァレリアの2作品が同時にストリーミングされるそうです。これは、スカラ座がRaiと協力して、3月23日から4月21日までの間、オペラを無料ストリーミングする一環のようです。RaiPlayなどで、2008年から19年に上演された、バレエを含む30の作品が公開されるそうです。ストリーミング後も、1か月ほどはオンデマンドで視聴可能なようです。素晴らしい作品、第一線のアーティストによる舞台がずらりと並んでいますので、ぜひ興味のおありの方はチェックされてみてはいかがでしょうか。

 

 

 


 

 

 

PAGLIACCI 
TEATRO ALLA SCALA 2011

Directed : Mario Martone
Scenes: Sergio Tramonti
Costumes: Ursula Patzak
Orchestra: Orchestra of the Teatro alla Scala
Conductor: Daniel Harding
Choir: Chorus of the Teatro alla Scala
Chorus Master: Bruno Casoni
Lights: Pasquale Mari

Nedda:  Oksana Dyka
Canio:  José Cura
Tonio:  Ambrogio Maestri
Beppe: Celso Albelo
Silvio: Mario Cassi

 

 

*この画像に、Raiの動画サイトRaiPlayの道化師のページにリンクを張ってあります(全編、約1時間20分)。

このリンク先がいつまで視聴可能なのかわかりませんが、4月6日に道化師とカヴァレリアがストリーミングされ、その後も1か月はオンデマンド放送されるそうですので、リンク切れの際は、RaiPlayで検索してみてください。

 

 

 


 

 

≪舞台の様子≫

 

この道化師のプロダクション、現代的で、なかなか美しい舞台です。カニオ一座の劇団員たちや、観客など、それぞれが生き生きと演技をしていて、ドラマティックに緊迫感を増していくクーラの演技・歌唱とも、しっかり相互に支え合っているように思います。

 

 

 

何より見どころは、クーラが演じる道化師一座の座長カニオです。クーラはいかにも支配欲、権力欲が強い、嫉妬深く暴力的な夫の役をいやらしく演じています。自然でリアル、ドラマティックな演技、一瞬たりとも気を抜かない、役柄になりきったクーラの姿は、クーラ本人がこういう嫌な性格の人物かと錯覚するほどです(笑)。特に、ラストシーンに向けて、たたみかけるような緊張感と緊迫感。客席まで巻き込んで巧みに動線をつくった演出、ラストのクーラの迫力は、最前列の観客をかなり驚かせたらしいです。

クーラのこのようなドラマティックな歌唱には賛否両論あり、この公演でも初日は天井桟敷からブーも出たそうです。批評でも、ドラマ性を評価しつつ、歌のフレージングが失われているというような指摘もありました。このあたりは、好みもありますし、オペラに何を求めるか、ということもあるかと思います。現代のオペラのあるべき姿として、キャラクターの人間性とドラマを演技と歌唱によってリアルに描きつくすことをめざしているクーラ。キャラクターとドラマのリアリティためにはメロディや音を歪ませることも厭わないと考えています。この点については、様々なお考えの方がいらっしゃることと思いますが、私にとっては、ここがクーラに惹きつけられる大きな魅力のひとつでもあります。

 

 

 

 

 

≪クーラとスカラ座≫

 

クーラは1991年、母国アルゼンチンから、祖母の出身地でもあったイタリアに移住しました。まずは親戚を頼って、イタリア北部、トリノやジェノヴァに近いサント・ステーファノ・ベルボという町に行ったようです。

その後、北部のジェノヴァやヴェローナ、トリノ、そしてミラノなどの劇場で活動の場を得て、テノール歌手として知られるようになっていきました。1997年1月には、このミラノ・スカラ座で「ジョコンダ」のエンツィオ役でデビューを果たします。それ以降、98年(マノン・レスコー)、99年(運命の力)、2011年(道化師)、15年(カルメン)に出演しています。

クーラのミラノへの思い、当時の様子、移民として重ねた苦労、キャリアが順調になるまでの苦闘については、これまでのいくつかのインタビューを紹介しています。クーラの人となりがよくわかりますので、お読みいただけるとうれしいです。

→ 「インタビュー 私にとってミラノは、壮大な都市であり、成功へのハードな闘争の象徴

→ 「2013年 ホセ・クーラ キャリアを拓くまでの苦闘、決断と挑戦、生き方を語る

 

またクーラの道化師の作品論と解釈、カニオ論についても、以下の記事などで紹介しています。

→ 「カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の演出

→ 「道化師の解釈 "私は仮面の背後にいる"

→ 「2005 ~ 2016年 ホセ・クーラ ベルリンの道化師

 

 

 

 

ーーこれらのインタビューから、いくつかの言葉を

 

●ミラノで開け始めたキャリア

1991年、私は2つの目的をもってイタリアに到着した。1つは、私自身のルーツを再発見するため。母方の祖母はイタリアのクーネオ県サント・ステーファノ・ベルボ Santo Stefano Belbo の出身だった。もう1つは、仕事を探すことだった。

私はオーディションを探し、エージェントをまわった。しかし、誰も私を評価してはくれなかった。私の最後のカードを使うことに決めた。テアトロ・コロンの歌の教師からもらった電話番号にかけた。テノールのフェルナンド・バンデラだった。彼は電話にでて、ミラノで会う約束をしてくれた。この街に着いたのは4月で、重い雨が降っていた。

(2015年インタビュー)

 

 

●ミラノで受けたオーディション

マエストロ・バンデラは、彼をミラノに来るように言った。そしてホセは、小さいビアンキで高速道路上のトラックの間にはさまれながら、再び大洪水のなか、風の中の葉っぱのようにミラノに向かった。

「私はミラノに初めて行ったので道に迷い、30分遅れて到着した。」

彼がバンデラの前に姿をあらわした時、先生は遅れのためにほとんど時間がなくなっていたが、ホセは3分間のチャンスを懇願した。

「認めよう」と彼がついに言った、「君は何を歌いたい?」

「アンドレア・シェニエの『ある日、青空を眺めて』を」とホセ

「それは偉大なテノールのためのものだ。難しすぎる」

「見てほしい。私に何らかの才能があるかどうか、あなたに示すのにはたった2分しかかからない。それは完璧ではないだろうが、あなたが判断するのに役立つはずだ」

生き残った。ピアノで伴奏していたバンデラ氏は、手を止め、そのような声がどこから来たのかと尋ねた。彼は自分の話と、帰国のチケットがあと数日で期限切れになるという事実を語った。「どこにも行ってはならない!」、バンデラ氏は急いで、エージェントに電話した。遅かれ早かれ何かがクーラに起こるだろうと確信し、イタリアで1か月暮らすための資金を提供しながら、ホセに忍耐するよう求めた。

(2013年)

 

 

●スカラ座のブーイングについて

これは全ての観客に関係することではない。また私だけにあることでもない。これらの人々は、個性あるアーティストをターゲットにして否定し、ブーイングの恐ろしさに対して何も配慮することがない。スカラでは多くのアーティスト、カラスでさえその対象にされた。口笛は、設計者ピエル・マリーニの時代以来、劇場の歴史の一部だ。今では、反対の意思表示以上のものになっている。

20年以上のキャリアを経て、私は、アーティストに敬意を示してくれる場所で観客の前に行き、演奏する喜びを感じている。非常に残念なことだ。オペラ劇場としてのスカラ座は、オーケストラ、合唱団、技術設備、もっとも優れたものを兼ね備えており、本当に驚くべき素晴らしさであるのに。

(2015年)

 

 

 

 

 


 

 

 

ミラノなどのイタリア北部の町々、ミラノスカラ座やボローニャ、トリノ、ヴェローナ、ジェノヴァと、それぞれの町にある世界でも有名な歌劇場の数々ーーそれらはクーラにとって、欧州移住とデビュー、キャリアの開始と展開の地であり、第2の故郷ともいえる場所ではないかと思います。クーラもスカラ座を愛し、スカラ座のオケ、合唱団、スタッフを高く評価しています。しかし、前述のインタビューでも紹介したように、天井桟敷に象徴される特殊な問題もあり、また緊縮財政、劇場首脳の経営方針等も相まってか、2015年のカルメン以来、残念ながらクーラはスカラ座には出演していません。

現在、イタリア北部は、新型ウイルスで非常に困難なたたかいを強いられています。クーラが現在住んでいるマドリードも、そして私たちの日本、東京も・・。世界中で劇場閉鎖も続いています。劇場の厚意で、無料のストリーミングや動画アップがなされているのは、本当に嬉しいし、大歓迎です。でも一方で、本来、これらによって収入を得ることができたはずの劇場、アーティスト、技術者やスタッフの方々が苦境におかれるのは困ります。

そんな中、欧州の国々の多くで、芸術文化事業、アーティストやフリーランスの方々に対し、助成金や給与補償などが実施されていることは本当に素晴らしい、希望ある動きだと思います。日本でも早く実現してほしいと切に願います。そして早く事態が好転し、安心して芸術・文化を楽しめる日が訪れることを。何よりも、クーラと、スカラ座をはじめとする劇場関係者、イタリアの皆さんが健康を維持され、再び劇場再開の日を無事に迎えられることを心から願っています。

 

 

*画像は動画や報道などからお借りしました。


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