ここでは、世界に400種生存していると言われるサメのうち、代表的な種を紹介します。
めくるめくサメの饗宴も、ついにたけなわになってまいりました……ラストスパート、せまる!
メジロザメ目(つづきその3 ドチザメ・カリフォルニアドチザメ・ホシザメ・アカシュモクザメ・シロシュモクザメ・ヒラシュモクザメ・ウチワシュモクザメ・トラザメ・ナヌカザメ)
ドチザメ(奴智鮫) Triakis scyllium
ドチザメ科ドチザメ属
英名 …… Banded hound shark (バンデッド・ハウンド・シャーク)
体長 …… 0.9~1.5メートル
分布
太平洋の北西部、すなわち日本の北海道南部以南から、朝鮮半島、台湾、東シナ海にかけての沿岸に生息し、フィリピン近海にも進出すると推測される。比較的に水深の浅い海域を好み、岩礁や藻場にも現れる。海底近くを泳ぎ、遊泳力は強くない。しばしば海底で休んでいる姿が見られる。河口などの塩分濃度の低い環境にも耐えられる。
形態
体型は細長い流線型。頭部はやや長く扁平で丸い。背ビレはやや後方に位置し、尾ビレは上葉が長く伸びて大きい。頭部には短い2本の鼻弁(口ヒゲ)を備え、口のまわりには唇のようなシワがある。
体色
背側は黒色から灰色で、暗い黄色や褐色がかることもある。側面に複数の暗い横縞やまだら模様が見えることもある。腹側は白い。
生態
小魚や甲殻類、その他の無脊椎動物を捕食する。ほとんど単独で行動し、群れをつくることはない。
胎盤を形成しない卵黄依存型の胎卵生である。1回に産む個体数は10~24尾。オスは体長90~100センチメートルの5~6歳、メスは100~120センチメートルの6~7歳で成熟する。出生時の幼体の体長はおよそ20センチメートル。寿命はオスが15歳で、メスが18歳である。
人との関わり
おとなしく、人間を襲うことはない。
漁業の対象種ではなく、刺し網や定置網で混獲される程度で一般には出回らないが、一部では食用になる。
日本の温帯の磯浜では普通に見ることができ、また、全国各地の水族館で飼育されている。身体が比較的丈夫なことと、あまり動き回らないこと、性格がおとなしいことから飼育がしやすく、個人の家庭の水槽でも飼うことが可能である。
カリフォルニアドチザメ Triakis semifasciata
ドチザメ科ドチザメ属
英名 …… Leopard Shark (レパード・シャーク)
体長 …… 0.7~2.0メートル
体型
典型的なドチザメ属の体つきで、目は水平方向に長い。胸ビレは成熟した個体の場合は、ほぼ二等辺三角形になる。
体色
明るい茶色がかった灰色の地に、身体全体に鞍状の黒い鮮やかなヒョウ柄の模様が入る。
分布
主に太平洋の北東、すなわちアメリカ・オレゴン州からメキシコのカリフォルニア湾にかけて分布する。温帯海域の表層面から水深90メートルの海域に生息する。
生態
海底付近でよく見かける。砂底か泥状の海底を持つ入り江を好み、時間帯によってそこから出入りすることから、回遊している可能性がある。ヘビのように身体をくねらせて泳ぎ、活動的である。他のドチザメ属と一緒に漁獲されることがある。海底に住む軟体動物を捕食するが、幅広い食性を持ち、魚類やエイ、小型のサメまで食べることもある。
胎卵生で、1回に4~30尾の幼魚を産む。成長は遅く、成熟するまでに10年かかる。オスは体長70~120センチメートル、メスは体長110~130センチメートルで成熟する。
ホシザメ(星鮫) Mustelus manazo
ドチザメ科ホシザメ属
英名 …… starspotted smooth hound (スタースポッテッド・スムースハウンド)
体長 …… 1.5メートル
分布
北海道以南の日本列島の沿岸に生息する。
形態
同じ科のドチザメに似ている。主に甲殻類、軟体動物などを常食している。
体色
背側が灰色で、腹側は白色である。背中に斑点模様を持つ。
人との関わり
海岸や船釣りでよく釣られる。肉は美味とされ食用となり、かまぼこやはんぺんなどの練り物の原料となる他に刺身でも食べられるが、サメ類独特のアンモニア臭がある。ヒレももちろんフカヒレとして食べられる。
また、古くから漁港として栄えた福岡県宗像市の鐘崎では、この地で盛んなフグ漁の際に網にかかるホシザメを背開きにして寒風にさらして干物を作る。この干物は「ノウサバ」と呼ばれ、湯通ししてほぐしてから細かく切り、醤油、砂糖、みりん、酒で味を付けて食する。この料理は食感がコリコリとして数の子に似ていることから、「玄海かずのこ」「鐘崎かずのこ」などと呼ばれている。
アカシュモクザメ(赤撞木鮫) Sphyrna lewini
シュモクザメ科シュモクザメ属
英名 …… Scalloped Hammerhead (スカロープト・ハンマーヘッド)
体長 …… 1.8~4.3メートル
形態
オスは体長1.8メートル・体重30キログラム、メスは体長2.5メートル・体重80キログラムで成熟する。
頭部の「ハンマー」は湾曲し、中央に窪みがあることが特徴で、ここが他のシュモクザメ類と見分けるポイントになる。第2背ビレの終わりは尾ビレに続いている。
体色
暗い黄色、もしくは明るい茶色。腹のあたりは白っぽい。胸ビレの先は黒い。尾ビレの上葉はよく発達している。
和名の「赤」とは、肌と肉の色に赤みが入っていることからであり、外観が赤いというわけではない。同属のシロシュモクザメは名前のように、肉の色が白みがかっていることから、その名が付いている。
分布
世界中の熱帯、亜熱帯、温帯の沿岸付近に現れる。大陸棚や島の周辺海域にいるが、外洋に泳ぎ出すこともある。表層面から水深280メートルの海域に生息する。
生態
言わずと知れた特徴的な頭部を持つシュモクザメ類の代表である。目が異常に横に突き出たその変わった頭の形状は、常に一定の深さにとどまるため、胸ビレのように発達したものと思われる。性格は臆病といわれるが、人間にも危険性があるといわれているので、あくまでも注意が必要である。
さまざまな種類の魚類、甲殻類、頭足類(イカ、タコなど)を捕食する。また、小型のサメやエイも捕食の対象になる。アカエイ類は尾に鋭い毒針を持つが、アカシュモクザメには通用しないらしく、口や消化管内からこの毒針が多数見つかることもある。
特徴的なT字型の頭部で海底付近のエイのいる場所を探して掘り出し、砂地からエイを追い出した後に、頭部をエイに打ちつけて弱らせ、更に頭部でエイを海底に押さえ込む格好にしてから捕食する。なお、頭部はカナヅチのように片方だけを使うのではなく、T字部分全体を相手に振り下ろす形で使用するとされる。
胎卵生で、胎児は子宮内で卵黄の栄養分を吸収しながら成長する。メスは9~10ヶ月の妊娠期間を経て、1回に12~38尾の幼体を産む。産まれたばかりの幼体の体長は40センチメートル前後で、ハワイなどではより大型のサメが入ってこない島の浅瀬などに幼体の成育所があり、しばらくの間はそこに留まって成長する。
群れで泳ぐその美しい姿は圧巻である。群れを形成する理由は、おそらく自然環境で発生する磁場に惹きつけられるためと考えられている。群れの中では社会的秩序があることが知られている。
人との関わり
日本近海には本種の他にシロシュモクザメ、ヒラシュモクザメなどが分布しているが、本種はその中で最も個体数が多く、日本近海のサメ類全体の中でも、かなり警戒されている種である。一般的にシュモクザメ類は、メジロザメ科のサメ類(第4~6集参照)や、ホホジロザメ(第1集参照)ほど人間を襲うことはなく死亡例もほとんどないと言われるものの、やや性質が荒く、特に本種は海水浴場のような場所や、人が脚で立てるような比較的浅い海域にも進出し、駆除の対象にもなるため、近寄ってはならない。 水産上重要種ではないが、その肉はかまぼこなどの材料にされる。
個体数の減少が指摘されるが、詳しいことは分かっていない。ただ、大西洋の北西に生息するシュモクザメ類は、乱獲の結果89% も減少したと報告されている。
シロシュモクザメ(白撞木鮫) Sphyrna zygaena
シュモクザメ科シュモクザメ属
英名 …… Smooth hammerhead (スムース・ハンマーヘッド)
体長 …… 2.1~5.0メートル
分布
世界中の暖海域に広く分布し、日本近海や太平洋にも生息している。
特徴
最大で全長5.0メートル、体重400キログラムに達する。平均的には体長2.5~3.5メートル程度であり、成熟サイズは、メス2.7メートル、オス2.1~2.5メートルである。
鼻先の部分が、同属のアカシュモクザメよりもやや前に突き出る格好となる。
外洋で、群れている姿をスキューバーダイビングの際に見ることがあり、ダイバーたちを楽しませている。
アカシュモクザメに比べて外洋に生息し、沿岸にはあまり近づかないことから、海水浴場でもあまり見られず、ほとんど漁獲されないために水産上の重要種ではなく、アカシュモクザメほどの危険性は人間に対しては知られていない。
体色
アカシュモクザメに似ているが、白みがかった体色と肉の色が特徴である。
人との関わり
アカシュモクザメほど人との接触やトラブルがさしてない種であり、あまり事故の報告も聞かれない。
しかし、歯が鋭いことが共通しているシュモクザメ科であるだけに安心はできず、基本的に手を出さない方が無難な種であることに変わりはない。
漁獲された個体はフカヒレとかまぼこの材料となる。
ヒラシュモクザメ(平撞木鮫) Sphyrna mokarran
シュモクザメ科シュモクザメ属
英名 …… Great hammerhead (グレイト・ハンマーヘッド)
体長 …… 2.1~6.1メートル
形態
シュモクザメ科の最大種で、全長6.1メートル、体重450キログラムに達する。オスは体長2.3~2.7メートル・体重50キログラム、メスは体長2.1~3.0メートル・体重40キログラムで成熟する。
シュモクザメの頭部の「ハンマー」の形状は、同科の他種を見分けるポイントになる。ヒラシュモクザメの頭部は前端の中央部がほぼ平らな輪郭を持ち、同じ場所に窪みが見られるアカシュモクザメや、逆に出っ張っているシロシュモクザメと区別できる。
なによりも目立つのは、まっすぐに尖って直立した第1背ビレで、他種と見間違えることはない。胸ビレも大きな三角形で、腹ビレはアカシュモクザメと違って大きく湾曲する。尾ビレの上葉はよく発達している。角張った口には、三角形で鋸歯状縁のある歯を持つ。
体色
背側は褐色か灰色で暗い黄色がかっていることもあり、腹側にいくにつれて白色になる。若い個体の場合は第2背ビレの端に黒い点が認められるが、成体になると無くなる。
分布
ほぼ世界中の熱帯の大陸棚付近で見られる。
生態
大きな回遊をおこなって流浪生活を送る。
大型の捕食者であり、無脊椎動物、硬骨魚類、小型のサメ、エイなどを捕食する。特にアカエイ類が大好物で、砂の中に隠れているエイから発せられる電気を感知し、頭部で掘り起こして丸呑みにしてしまう。エイの毒針で刺されても平気で、胃の中からは丸呑みにされたエイ類と未消化の毒針が見つかることもある。また、共食いをすることでも知られている。
幼魚は成長したヒラシュモクザメやオオメジロザメ(第4集参照)などの大型のサメに捕食される。成魚になると天敵はいない。
日本近海に生息するシュモクザメ科は他にアカシュモクザメやシロシュモクザメがいるが、これらの種の生息数のほうがヒラシュモクザメよりも多い。
危険性
ヒラシュモクザメに関する人身事故はほとんど報告がない。ただし、非常に大型なサメであり、肉食性であることから人間にとって潜在的に危険であると考えられる。
水産
他のサメ類と同様に、ヒラシュモクザメのヒレは商業価値が高く、フカヒレの材料として取引される。ただし、漁でヒラシュモクザメのみを対象にすることはなく、延縄(はえなわ)漁などでの混獲が主である。ゲームフィッシングの対象にもなる。
ウチワシュモクザメ(団扇撞木鮫) Sphyrna tiburo
シュモクザメ科シュモクザメ属
英名 …… Bonnethead (ボンネットヘッド)
体長 …… 1.0~1.5メートル
特徴
シュモクザメ科の最小種である。
頭部は大きく湾曲しており、横への張り出しが弱い。「ハンマー」というよりも、シャベルやスコップの形に近く、他のシュモクザメ類と区別がつきやすい。このような形になったのは本種が他のシュモクザメに比べ、より沿岸に適応したためであると考えられている。サンゴ礁や磯浜などの障害物の多い環境を自由に泳ぐ際に、頭部の張り出しは縮んだものとなり、同時に身体の小型化が進んだ。あるいは、他の大型のシュモクザメ類との競合を避けるために独自の進化を遂げたと考えられている。
生態
アメリカ大陸の沿岸にのみ生息する。大西洋側では、アメリカ東海岸からキューバ、バハマ、カリブ海を通って、メキシコ湾、ブラジル沿岸まで。バミューダ海では見られない。太平洋側では、アメリカ・カリフォルニア州南部からエクアドル沖まで。水深の浅い海域を好み、浅い湾内やサンゴ礁、砂泥質の海底、河口域などに現れる。
普段は15尾以下の群れで泳ぐが、季節回遊の際には数百尾の大群になることもある。温暖な環境を好み、海水温が低下する冬季には赤道付近に移動する。逆に、夏季には高緯度海域に回帰する。
小魚や甲殻類、頭足類(イカ、タコなど)を捕食する。
胎卵生。子宮内で孵化した胎児は卵黄の栄養分を使って成長する。サメの中で最も妊娠期間が短く4~5ヶ月で出産する。メスは体長35センチメートル程度の幼体を4~14尾産む。
沿岸性で観察しやすいこと、小型でおとなしいことなどから、シュモクザメ類の中では生態研究が比較的よく進んでいる種である。
人との関わり
小型でおとなしく、まず人間を襲うことはない。ただし歯は鋭いので、驚かせたり不用意に手を出したりするようなことは避けるべきである。
トラザメ(虎鮫) Scyliorhinus torazame
トラザメ科トラザメ属
英名 …… Cloudy cat shark (クラウディ・キャットシャーク)
体長 …… 50センチメートル
和名と英名について
トラザメの英名は「 Catshark (キャットシャーク)」であり、Tigershark (タイガーシャーク)ではない。「 Tigershark 」は、本種とは反対の獰猛な大型種イタチザメ(第4集参照)を指す。このように、サメの名前は日本語を英語に直訳しても通じないばかりか、別種のサメを指してしまうことが多い。例として、同じメジロザメ科のツマジロ(第5集参照)は英訳すれば「 Whitetip reef shark 」になるが、海外では「 Silvertip shark 」と呼ばれる。
ちなみに、「 Catshark 」を日本語に直訳すれば「ネコザメ」だが、日本でネコザメといえばまた別種のサメになる。ネコザメの海外名は「 Bullhead shark 」で、「牛頭鮫」という意味になる。
また、英語の「 Catshark 」はトラザメ科のサメ類の総称であり、本種のみの場合は「 Cloudy catshark (クラウディ・キャットシャーク)」という。
分布
日本の北海道以南から東シナ海、東南アジアまでの西部太平洋に分布する。海岸近くから水深100メートルまでの比較的浅い岩場などを好む。
形態
体型は円筒形でヒレはいずれも小さい。2基の背ビレは身体の後方にある。目がネコ科の動物のようなスリット状で、和名の「トラ」はここに由来する。
体色
全体的に茶褐色をしており、英名「 Cloudy 」の通りに、雲状の黒褐色の斑紋がいくつかある。また、それよりも小さな白色の斑点も多数見られる。この模様は、生息する岩や石の多い環境に溶け込むためと考えられている。
生態
底生性で、日中は岩の間などに身を潜めてじっとしているが、夜になると餌を求めて動き出す。
卵生。ナヌカザメやトラフザメ(第3集参照)などと同様に、「人魚の財布」と呼ばれる特徴的な卵を産む。大きさは5センチメートル程度で、半透明な竪琴状の卵殻の中に胎児が入っている。外側の袋の端にはつる状の構造物があり、これで海藻などに絡みついて卵を固定する。胎児は卵黄の栄養分を使いながら卵の中で約1年をかけて成長し、体長5~10センチメートルの大きさになってから孵化する。
性格はおとなしく、人を襲うことはない。丈夫であまり泳ぎ回らず小型種であるため、水族館はもちろん、一般家庭での飼育にも適している。
ナヌカザメ(七日鮫) Cephaloscyllium umbratile
トラザメ科ナヌカザメ属
英名 …… Blotchy swell shark (ブロッチー・スウェル・シャーク)
体長 …… 1.2メートル
和名「七日鮫」は、生命力が強く水から揚げても七日間生きるといわれた伝承から、その名が付いた。
ナヌカザメ属のサメ類は世界に7種分布するが、日本近海に生息するのはナヌカザメ1種のみである。
分布
日本近海から南シナ海までの西部太平洋、タスマニア島のバサースト湾に分布し、パプアニューギニア周辺海域にも生息している可能性がある。
形態
体型は円筒形だが胴体の前半が膨らみ、ややどっしりとした印象を受ける。ヒレは小さく、速く泳ぐよりは、身体をくねらせて狭い所を泳ぎ抜けるのに適している。
体表はかなり粗くザラザラしている。細長い身体は岩や海藻の陰に身を隠しやすく、全身の模様が背景に溶け込んでさらに発見しづらい。口幅は広く、小さな歯が多数並んでいる。
体色
全体的に褐色で、黒っぽい大小の斑点が散在している。夜行性で小魚や甲殻類、頭足類を捕食する。
生態
底生性で、海中林やサンゴ礁などで生活する。水深400メートルほどの深海で暮らしている。性格はおとなしく、日中は岩陰でじっとしてあまり動かない。
危険を感じると、海水や空気を吸い込んで胃を膨らませるという特徴的な習性を持つ。これによって外敵に身体を大きく見せたり、隠れ場所の岩の隙間などに身体を固定したりすることができる。このため、英名ではナヌカザメ属のサメ類を「 Swell shark(スウェル・シャーク 膨らむサメ)」、または「 Balloon shark(バルーン・シャーク 風船ザメ)」と呼ぶ。
近縁のトラザメと同様に、「人魚の財布」と呼ばれる卵を産む。大きさは10センチメートル程度で、トラザメのものよりも一回り大きい。卵はイソギンチャクやサンゴのような刺胞動物にからみついて固定される。出産から孵化までには1年かかる。
飼育
丈夫でおとなしく飼いやすいことから、世界的に水族館での飼育が多い。
カスザメ目(カスザメ・ホンカスザメ)
11~15種現存するといわれるこの仲間は、どれもエイを連想させるように体型が平べったいが、それでもれっきとしたサメである。胸ビレは非常に大きく、また尾ビレは上葉よりも下葉の方が長い。尻ビレは持たない。身体を海底に隠し、目だけを突き出して獲物を狙う。歯は鋭く、いきなり飛び出して獲物に噛みつく様子は迫力がある。うっかりふんずけたりすると人間も被害を被るが、普通は危険性はない。この仲間は主に温帯の沿岸部に生息している。
カスザメ(糟鮫) Squatina japonica
カスザメ科カスザメ属
英名 …… Japanese angel shark (ジャパニーズ・エンジェル・シャーク)
体長 …… 2.0~2.5メートル
分布
日本近海からフィリピン周辺海域にかけての温暖な海に生息する。底生性で、沿岸域から大陸棚までの海底で生活する。
形態
サメ類の中でも特に風変わりな体型をしており、上下に著しく扁平で、大きな胸ビレが横に大きく張り出すのが特徴である。ほとんどエイのような格好をしているが、エラが側面に開いていることから、サメであることがわかる。普段は砂の中に潜り、獲物を待ち伏せする。
2枚の背ビレは小さく後方にまとまっている。尾ビレは下側が水平に長く伸び、上側はまるで3枚目の背ビレであるかのように見える。尻ビレは無い。口は身体の先端にあり、まわりに皮弁(ヒゲ)を備える。
カスザメの体型は、生活と密接に関わっている。平たい身体は速く泳ぐことには適していないが、身を隠すには都合が良い。多くのエイやカレイのように、カスザメは平たい身体を生かして海底の砂に潜りこみ、大型の捕食者をやり過ごしたり、獲物を待ち伏せたりする。
海中で野生のカスザメを発見するのは容易ではない。また、口が他のサメ類とは異なり、身体の下ではなく前面に向かって開く。これは砂に潜ったまま、頭上を通る獲物を捕らえるためである。カスザメの口は財布のガマ口のように大きく開くことができ、射程距離内に入った獲物を海水ごと吸引して丸呑みにしてしまう。歯は鋭く尖り、くわえた獲物を逃さないようになっている。
体色
背側は周囲の海底に溶け込むように、ベージュか灰色の地に黒い斑点が散りばめられた砂地模様である。
生態
カスザメは昼間は獲物を待ち伏せて狩りを行うが、本来は夜行性なので、夜になると餌を求めて活発に動き回る。餌は魚類や甲殻類、軟体類(イカ、タコなど)である。
人との関わり
気性は穏やかで、人間を襲うことはない。ただし、無闇に手を出せば反撃をしてくる可能性はある。大きい個体は大人の背丈ほどもあり、口も大きいので注意が必要である。
水産上は重要でない。しかし、古くからカスザメの皮はさまざまな加工品に利用されてきた。カスザメの皮もむろん鮫肌であり、その表面はザラザラしている。日本で刀剣の柄に巻いてすべりを防いだというのは有名である。その他、やすりなどにも使われる。
ホンカスザメ(本糟鮫) Squatina squatina
カスザメ科カスザメ属
英名 …… Angel shark(エンジェル・シャーク)
体長 …… 1.3~2.4メートル
体型
平べったくて幅が広く、まるでエイのような体型をしている。鼻先は非常に短く、小さな目は頭の上部に存在する。噴水口はその後ろにあるが、目と噴水口の距離は目の直径の約1.5倍の長さである。小さなトゲが身体の中心線に沿って生えているが、目の上にも小さなトゲがある。2枚の背ビレは尾ビレ付近にまで後退しており、第1背ビレは腹ビレの終わる地点から始まる。尻ビレは存在しない。
体色
カムフラージュするために、海底に似た配色の緑がかった茶色である。
分布
ノルウェーの南からスウェーデン、シェトラント諸島からモロッコ、西サハラまでの北東大西洋の大陸棚と、カナリア諸島、地中海に生息し、海岸から水深150メートルまでの海底に棲む。
生態
このサメは泥状や砂状の海底を好み、砂の中に隠れて住んでいるが、目だけは水中に出ている。エサを待ち伏せする手法を得意とし、夜行性である。主に魚類を捕食するが、カニや軟体動物も食べる。卵胎生で、1回に9~20尾の幼魚を産む。産まれたばかりの幼魚は体長24~30センチメートルくらいである。メスは体長1.3メートルで成熟する。人間に危険性はないものの、いたずらをしたり踏んだりすると噛みつかれる可能性はある。
IUCN(国際自然保護連合 1948年に設立された、国家と NGOからなる国際的な自然保護機関)は、ホンカスザメをレッドリストのなかで「絶滅危惧第2類」に指定している。
めくるめくサメの饗宴も、ついにたけなわになってまいりました……ラストスパート、せまる!
メジロザメ目(つづきその3 ドチザメ・カリフォルニアドチザメ・ホシザメ・アカシュモクザメ・シロシュモクザメ・ヒラシュモクザメ・ウチワシュモクザメ・トラザメ・ナヌカザメ)
ドチザメ(奴智鮫) Triakis scyllium
ドチザメ科ドチザメ属
英名 …… Banded hound shark (バンデッド・ハウンド・シャーク)
体長 …… 0.9~1.5メートル
分布
太平洋の北西部、すなわち日本の北海道南部以南から、朝鮮半島、台湾、東シナ海にかけての沿岸に生息し、フィリピン近海にも進出すると推測される。比較的に水深の浅い海域を好み、岩礁や藻場にも現れる。海底近くを泳ぎ、遊泳力は強くない。しばしば海底で休んでいる姿が見られる。河口などの塩分濃度の低い環境にも耐えられる。
形態
体型は細長い流線型。頭部はやや長く扁平で丸い。背ビレはやや後方に位置し、尾ビレは上葉が長く伸びて大きい。頭部には短い2本の鼻弁(口ヒゲ)を備え、口のまわりには唇のようなシワがある。
体色
背側は黒色から灰色で、暗い黄色や褐色がかることもある。側面に複数の暗い横縞やまだら模様が見えることもある。腹側は白い。
生態
小魚や甲殻類、その他の無脊椎動物を捕食する。ほとんど単独で行動し、群れをつくることはない。
胎盤を形成しない卵黄依存型の胎卵生である。1回に産む個体数は10~24尾。オスは体長90~100センチメートルの5~6歳、メスは100~120センチメートルの6~7歳で成熟する。出生時の幼体の体長はおよそ20センチメートル。寿命はオスが15歳で、メスが18歳である。
人との関わり
おとなしく、人間を襲うことはない。
漁業の対象種ではなく、刺し網や定置網で混獲される程度で一般には出回らないが、一部では食用になる。
日本の温帯の磯浜では普通に見ることができ、また、全国各地の水族館で飼育されている。身体が比較的丈夫なことと、あまり動き回らないこと、性格がおとなしいことから飼育がしやすく、個人の家庭の水槽でも飼うことが可能である。
カリフォルニアドチザメ Triakis semifasciata
ドチザメ科ドチザメ属
英名 …… Leopard Shark (レパード・シャーク)
体長 …… 0.7~2.0メートル
体型
典型的なドチザメ属の体つきで、目は水平方向に長い。胸ビレは成熟した個体の場合は、ほぼ二等辺三角形になる。
体色
明るい茶色がかった灰色の地に、身体全体に鞍状の黒い鮮やかなヒョウ柄の模様が入る。
分布
主に太平洋の北東、すなわちアメリカ・オレゴン州からメキシコのカリフォルニア湾にかけて分布する。温帯海域の表層面から水深90メートルの海域に生息する。
生態
海底付近でよく見かける。砂底か泥状の海底を持つ入り江を好み、時間帯によってそこから出入りすることから、回遊している可能性がある。ヘビのように身体をくねらせて泳ぎ、活動的である。他のドチザメ属と一緒に漁獲されることがある。海底に住む軟体動物を捕食するが、幅広い食性を持ち、魚類やエイ、小型のサメまで食べることもある。
胎卵生で、1回に4~30尾の幼魚を産む。成長は遅く、成熟するまでに10年かかる。オスは体長70~120センチメートル、メスは体長110~130センチメートルで成熟する。
ホシザメ(星鮫) Mustelus manazo
ドチザメ科ホシザメ属
英名 …… starspotted smooth hound (スタースポッテッド・スムースハウンド)
体長 …… 1.5メートル
分布
北海道以南の日本列島の沿岸に生息する。
形態
同じ科のドチザメに似ている。主に甲殻類、軟体動物などを常食している。
体色
背側が灰色で、腹側は白色である。背中に斑点模様を持つ。
人との関わり
海岸や船釣りでよく釣られる。肉は美味とされ食用となり、かまぼこやはんぺんなどの練り物の原料となる他に刺身でも食べられるが、サメ類独特のアンモニア臭がある。ヒレももちろんフカヒレとして食べられる。
また、古くから漁港として栄えた福岡県宗像市の鐘崎では、この地で盛んなフグ漁の際に網にかかるホシザメを背開きにして寒風にさらして干物を作る。この干物は「ノウサバ」と呼ばれ、湯通ししてほぐしてから細かく切り、醤油、砂糖、みりん、酒で味を付けて食する。この料理は食感がコリコリとして数の子に似ていることから、「玄海かずのこ」「鐘崎かずのこ」などと呼ばれている。
アカシュモクザメ(赤撞木鮫) Sphyrna lewini
シュモクザメ科シュモクザメ属
英名 …… Scalloped Hammerhead (スカロープト・ハンマーヘッド)
体長 …… 1.8~4.3メートル
形態
オスは体長1.8メートル・体重30キログラム、メスは体長2.5メートル・体重80キログラムで成熟する。
頭部の「ハンマー」は湾曲し、中央に窪みがあることが特徴で、ここが他のシュモクザメ類と見分けるポイントになる。第2背ビレの終わりは尾ビレに続いている。
体色
暗い黄色、もしくは明るい茶色。腹のあたりは白っぽい。胸ビレの先は黒い。尾ビレの上葉はよく発達している。
和名の「赤」とは、肌と肉の色に赤みが入っていることからであり、外観が赤いというわけではない。同属のシロシュモクザメは名前のように、肉の色が白みがかっていることから、その名が付いている。
分布
世界中の熱帯、亜熱帯、温帯の沿岸付近に現れる。大陸棚や島の周辺海域にいるが、外洋に泳ぎ出すこともある。表層面から水深280メートルの海域に生息する。
生態
言わずと知れた特徴的な頭部を持つシュモクザメ類の代表である。目が異常に横に突き出たその変わった頭の形状は、常に一定の深さにとどまるため、胸ビレのように発達したものと思われる。性格は臆病といわれるが、人間にも危険性があるといわれているので、あくまでも注意が必要である。
さまざまな種類の魚類、甲殻類、頭足類(イカ、タコなど)を捕食する。また、小型のサメやエイも捕食の対象になる。アカエイ類は尾に鋭い毒針を持つが、アカシュモクザメには通用しないらしく、口や消化管内からこの毒針が多数見つかることもある。
特徴的なT字型の頭部で海底付近のエイのいる場所を探して掘り出し、砂地からエイを追い出した後に、頭部をエイに打ちつけて弱らせ、更に頭部でエイを海底に押さえ込む格好にしてから捕食する。なお、頭部はカナヅチのように片方だけを使うのではなく、T字部分全体を相手に振り下ろす形で使用するとされる。
胎卵生で、胎児は子宮内で卵黄の栄養分を吸収しながら成長する。メスは9~10ヶ月の妊娠期間を経て、1回に12~38尾の幼体を産む。産まれたばかりの幼体の体長は40センチメートル前後で、ハワイなどではより大型のサメが入ってこない島の浅瀬などに幼体の成育所があり、しばらくの間はそこに留まって成長する。
群れで泳ぐその美しい姿は圧巻である。群れを形成する理由は、おそらく自然環境で発生する磁場に惹きつけられるためと考えられている。群れの中では社会的秩序があることが知られている。
人との関わり
日本近海には本種の他にシロシュモクザメ、ヒラシュモクザメなどが分布しているが、本種はその中で最も個体数が多く、日本近海のサメ類全体の中でも、かなり警戒されている種である。一般的にシュモクザメ類は、メジロザメ科のサメ類(第4~6集参照)や、ホホジロザメ(第1集参照)ほど人間を襲うことはなく死亡例もほとんどないと言われるものの、やや性質が荒く、特に本種は海水浴場のような場所や、人が脚で立てるような比較的浅い海域にも進出し、駆除の対象にもなるため、近寄ってはならない。 水産上重要種ではないが、その肉はかまぼこなどの材料にされる。
個体数の減少が指摘されるが、詳しいことは分かっていない。ただ、大西洋の北西に生息するシュモクザメ類は、乱獲の結果89% も減少したと報告されている。
シロシュモクザメ(白撞木鮫) Sphyrna zygaena
シュモクザメ科シュモクザメ属
英名 …… Smooth hammerhead (スムース・ハンマーヘッド)
体長 …… 2.1~5.0メートル
分布
世界中の暖海域に広く分布し、日本近海や太平洋にも生息している。
特徴
最大で全長5.0メートル、体重400キログラムに達する。平均的には体長2.5~3.5メートル程度であり、成熟サイズは、メス2.7メートル、オス2.1~2.5メートルである。
鼻先の部分が、同属のアカシュモクザメよりもやや前に突き出る格好となる。
外洋で、群れている姿をスキューバーダイビングの際に見ることがあり、ダイバーたちを楽しませている。
アカシュモクザメに比べて外洋に生息し、沿岸にはあまり近づかないことから、海水浴場でもあまり見られず、ほとんど漁獲されないために水産上の重要種ではなく、アカシュモクザメほどの危険性は人間に対しては知られていない。
体色
アカシュモクザメに似ているが、白みがかった体色と肉の色が特徴である。
人との関わり
アカシュモクザメほど人との接触やトラブルがさしてない種であり、あまり事故の報告も聞かれない。
しかし、歯が鋭いことが共通しているシュモクザメ科であるだけに安心はできず、基本的に手を出さない方が無難な種であることに変わりはない。
漁獲された個体はフカヒレとかまぼこの材料となる。
ヒラシュモクザメ(平撞木鮫) Sphyrna mokarran
シュモクザメ科シュモクザメ属
英名 …… Great hammerhead (グレイト・ハンマーヘッド)
体長 …… 2.1~6.1メートル
形態
シュモクザメ科の最大種で、全長6.1メートル、体重450キログラムに達する。オスは体長2.3~2.7メートル・体重50キログラム、メスは体長2.1~3.0メートル・体重40キログラムで成熟する。
シュモクザメの頭部の「ハンマー」の形状は、同科の他種を見分けるポイントになる。ヒラシュモクザメの頭部は前端の中央部がほぼ平らな輪郭を持ち、同じ場所に窪みが見られるアカシュモクザメや、逆に出っ張っているシロシュモクザメと区別できる。
なによりも目立つのは、まっすぐに尖って直立した第1背ビレで、他種と見間違えることはない。胸ビレも大きな三角形で、腹ビレはアカシュモクザメと違って大きく湾曲する。尾ビレの上葉はよく発達している。角張った口には、三角形で鋸歯状縁のある歯を持つ。
体色
背側は褐色か灰色で暗い黄色がかっていることもあり、腹側にいくにつれて白色になる。若い個体の場合は第2背ビレの端に黒い点が認められるが、成体になると無くなる。
分布
ほぼ世界中の熱帯の大陸棚付近で見られる。
生態
大きな回遊をおこなって流浪生活を送る。
大型の捕食者であり、無脊椎動物、硬骨魚類、小型のサメ、エイなどを捕食する。特にアカエイ類が大好物で、砂の中に隠れているエイから発せられる電気を感知し、頭部で掘り起こして丸呑みにしてしまう。エイの毒針で刺されても平気で、胃の中からは丸呑みにされたエイ類と未消化の毒針が見つかることもある。また、共食いをすることでも知られている。
幼魚は成長したヒラシュモクザメやオオメジロザメ(第4集参照)などの大型のサメに捕食される。成魚になると天敵はいない。
日本近海に生息するシュモクザメ科は他にアカシュモクザメやシロシュモクザメがいるが、これらの種の生息数のほうがヒラシュモクザメよりも多い。
危険性
ヒラシュモクザメに関する人身事故はほとんど報告がない。ただし、非常に大型なサメであり、肉食性であることから人間にとって潜在的に危険であると考えられる。
水産
他のサメ類と同様に、ヒラシュモクザメのヒレは商業価値が高く、フカヒレの材料として取引される。ただし、漁でヒラシュモクザメのみを対象にすることはなく、延縄(はえなわ)漁などでの混獲が主である。ゲームフィッシングの対象にもなる。
ウチワシュモクザメ(団扇撞木鮫) Sphyrna tiburo
シュモクザメ科シュモクザメ属
英名 …… Bonnethead (ボンネットヘッド)
体長 …… 1.0~1.5メートル
特徴
シュモクザメ科の最小種である。
頭部は大きく湾曲しており、横への張り出しが弱い。「ハンマー」というよりも、シャベルやスコップの形に近く、他のシュモクザメ類と区別がつきやすい。このような形になったのは本種が他のシュモクザメに比べ、より沿岸に適応したためであると考えられている。サンゴ礁や磯浜などの障害物の多い環境を自由に泳ぐ際に、頭部の張り出しは縮んだものとなり、同時に身体の小型化が進んだ。あるいは、他の大型のシュモクザメ類との競合を避けるために独自の進化を遂げたと考えられている。
生態
アメリカ大陸の沿岸にのみ生息する。大西洋側では、アメリカ東海岸からキューバ、バハマ、カリブ海を通って、メキシコ湾、ブラジル沿岸まで。バミューダ海では見られない。太平洋側では、アメリカ・カリフォルニア州南部からエクアドル沖まで。水深の浅い海域を好み、浅い湾内やサンゴ礁、砂泥質の海底、河口域などに現れる。
普段は15尾以下の群れで泳ぐが、季節回遊の際には数百尾の大群になることもある。温暖な環境を好み、海水温が低下する冬季には赤道付近に移動する。逆に、夏季には高緯度海域に回帰する。
小魚や甲殻類、頭足類(イカ、タコなど)を捕食する。
胎卵生。子宮内で孵化した胎児は卵黄の栄養分を使って成長する。サメの中で最も妊娠期間が短く4~5ヶ月で出産する。メスは体長35センチメートル程度の幼体を4~14尾産む。
沿岸性で観察しやすいこと、小型でおとなしいことなどから、シュモクザメ類の中では生態研究が比較的よく進んでいる種である。
人との関わり
小型でおとなしく、まず人間を襲うことはない。ただし歯は鋭いので、驚かせたり不用意に手を出したりするようなことは避けるべきである。
トラザメ(虎鮫) Scyliorhinus torazame
トラザメ科トラザメ属
英名 …… Cloudy cat shark (クラウディ・キャットシャーク)
体長 …… 50センチメートル
和名と英名について
トラザメの英名は「 Catshark (キャットシャーク)」であり、Tigershark (タイガーシャーク)ではない。「 Tigershark 」は、本種とは反対の獰猛な大型種イタチザメ(第4集参照)を指す。このように、サメの名前は日本語を英語に直訳しても通じないばかりか、別種のサメを指してしまうことが多い。例として、同じメジロザメ科のツマジロ(第5集参照)は英訳すれば「 Whitetip reef shark 」になるが、海外では「 Silvertip shark 」と呼ばれる。
ちなみに、「 Catshark 」を日本語に直訳すれば「ネコザメ」だが、日本でネコザメといえばまた別種のサメになる。ネコザメの海外名は「 Bullhead shark 」で、「牛頭鮫」という意味になる。
また、英語の「 Catshark 」はトラザメ科のサメ類の総称であり、本種のみの場合は「 Cloudy catshark (クラウディ・キャットシャーク)」という。
分布
日本の北海道以南から東シナ海、東南アジアまでの西部太平洋に分布する。海岸近くから水深100メートルまでの比較的浅い岩場などを好む。
形態
体型は円筒形でヒレはいずれも小さい。2基の背ビレは身体の後方にある。目がネコ科の動物のようなスリット状で、和名の「トラ」はここに由来する。
体色
全体的に茶褐色をしており、英名「 Cloudy 」の通りに、雲状の黒褐色の斑紋がいくつかある。また、それよりも小さな白色の斑点も多数見られる。この模様は、生息する岩や石の多い環境に溶け込むためと考えられている。
生態
底生性で、日中は岩の間などに身を潜めてじっとしているが、夜になると餌を求めて動き出す。
卵生。ナヌカザメやトラフザメ(第3集参照)などと同様に、「人魚の財布」と呼ばれる特徴的な卵を産む。大きさは5センチメートル程度で、半透明な竪琴状の卵殻の中に胎児が入っている。外側の袋の端にはつる状の構造物があり、これで海藻などに絡みついて卵を固定する。胎児は卵黄の栄養分を使いながら卵の中で約1年をかけて成長し、体長5~10センチメートルの大きさになってから孵化する。
性格はおとなしく、人を襲うことはない。丈夫であまり泳ぎ回らず小型種であるため、水族館はもちろん、一般家庭での飼育にも適している。
ナヌカザメ(七日鮫) Cephaloscyllium umbratile
トラザメ科ナヌカザメ属
英名 …… Blotchy swell shark (ブロッチー・スウェル・シャーク)
体長 …… 1.2メートル
和名「七日鮫」は、生命力が強く水から揚げても七日間生きるといわれた伝承から、その名が付いた。
ナヌカザメ属のサメ類は世界に7種分布するが、日本近海に生息するのはナヌカザメ1種のみである。
分布
日本近海から南シナ海までの西部太平洋、タスマニア島のバサースト湾に分布し、パプアニューギニア周辺海域にも生息している可能性がある。
形態
体型は円筒形だが胴体の前半が膨らみ、ややどっしりとした印象を受ける。ヒレは小さく、速く泳ぐよりは、身体をくねらせて狭い所を泳ぎ抜けるのに適している。
体表はかなり粗くザラザラしている。細長い身体は岩や海藻の陰に身を隠しやすく、全身の模様が背景に溶け込んでさらに発見しづらい。口幅は広く、小さな歯が多数並んでいる。
体色
全体的に褐色で、黒っぽい大小の斑点が散在している。夜行性で小魚や甲殻類、頭足類を捕食する。
生態
底生性で、海中林やサンゴ礁などで生活する。水深400メートルほどの深海で暮らしている。性格はおとなしく、日中は岩陰でじっとしてあまり動かない。
危険を感じると、海水や空気を吸い込んで胃を膨らませるという特徴的な習性を持つ。これによって外敵に身体を大きく見せたり、隠れ場所の岩の隙間などに身体を固定したりすることができる。このため、英名ではナヌカザメ属のサメ類を「 Swell shark(スウェル・シャーク 膨らむサメ)」、または「 Balloon shark(バルーン・シャーク 風船ザメ)」と呼ぶ。
近縁のトラザメと同様に、「人魚の財布」と呼ばれる卵を産む。大きさは10センチメートル程度で、トラザメのものよりも一回り大きい。卵はイソギンチャクやサンゴのような刺胞動物にからみついて固定される。出産から孵化までには1年かかる。
飼育
丈夫でおとなしく飼いやすいことから、世界的に水族館での飼育が多い。
カスザメ目(カスザメ・ホンカスザメ)
11~15種現存するといわれるこの仲間は、どれもエイを連想させるように体型が平べったいが、それでもれっきとしたサメである。胸ビレは非常に大きく、また尾ビレは上葉よりも下葉の方が長い。尻ビレは持たない。身体を海底に隠し、目だけを突き出して獲物を狙う。歯は鋭く、いきなり飛び出して獲物に噛みつく様子は迫力がある。うっかりふんずけたりすると人間も被害を被るが、普通は危険性はない。この仲間は主に温帯の沿岸部に生息している。
カスザメ(糟鮫) Squatina japonica
カスザメ科カスザメ属
英名 …… Japanese angel shark (ジャパニーズ・エンジェル・シャーク)
体長 …… 2.0~2.5メートル
分布
日本近海からフィリピン周辺海域にかけての温暖な海に生息する。底生性で、沿岸域から大陸棚までの海底で生活する。
形態
サメ類の中でも特に風変わりな体型をしており、上下に著しく扁平で、大きな胸ビレが横に大きく張り出すのが特徴である。ほとんどエイのような格好をしているが、エラが側面に開いていることから、サメであることがわかる。普段は砂の中に潜り、獲物を待ち伏せする。
2枚の背ビレは小さく後方にまとまっている。尾ビレは下側が水平に長く伸び、上側はまるで3枚目の背ビレであるかのように見える。尻ビレは無い。口は身体の先端にあり、まわりに皮弁(ヒゲ)を備える。
カスザメの体型は、生活と密接に関わっている。平たい身体は速く泳ぐことには適していないが、身を隠すには都合が良い。多くのエイやカレイのように、カスザメは平たい身体を生かして海底の砂に潜りこみ、大型の捕食者をやり過ごしたり、獲物を待ち伏せたりする。
海中で野生のカスザメを発見するのは容易ではない。また、口が他のサメ類とは異なり、身体の下ではなく前面に向かって開く。これは砂に潜ったまま、頭上を通る獲物を捕らえるためである。カスザメの口は財布のガマ口のように大きく開くことができ、射程距離内に入った獲物を海水ごと吸引して丸呑みにしてしまう。歯は鋭く尖り、くわえた獲物を逃さないようになっている。
体色
背側は周囲の海底に溶け込むように、ベージュか灰色の地に黒い斑点が散りばめられた砂地模様である。
生態
カスザメは昼間は獲物を待ち伏せて狩りを行うが、本来は夜行性なので、夜になると餌を求めて活発に動き回る。餌は魚類や甲殻類、軟体類(イカ、タコなど)である。
人との関わり
気性は穏やかで、人間を襲うことはない。ただし、無闇に手を出せば反撃をしてくる可能性はある。大きい個体は大人の背丈ほどもあり、口も大きいので注意が必要である。
水産上は重要でない。しかし、古くからカスザメの皮はさまざまな加工品に利用されてきた。カスザメの皮もむろん鮫肌であり、その表面はザラザラしている。日本で刀剣の柄に巻いてすべりを防いだというのは有名である。その他、やすりなどにも使われる。
ホンカスザメ(本糟鮫) Squatina squatina
カスザメ科カスザメ属
英名 …… Angel shark(エンジェル・シャーク)
体長 …… 1.3~2.4メートル
体型
平べったくて幅が広く、まるでエイのような体型をしている。鼻先は非常に短く、小さな目は頭の上部に存在する。噴水口はその後ろにあるが、目と噴水口の距離は目の直径の約1.5倍の長さである。小さなトゲが身体の中心線に沿って生えているが、目の上にも小さなトゲがある。2枚の背ビレは尾ビレ付近にまで後退しており、第1背ビレは腹ビレの終わる地点から始まる。尻ビレは存在しない。
体色
カムフラージュするために、海底に似た配色の緑がかった茶色である。
分布
ノルウェーの南からスウェーデン、シェトラント諸島からモロッコ、西サハラまでの北東大西洋の大陸棚と、カナリア諸島、地中海に生息し、海岸から水深150メートルまでの海底に棲む。
生態
このサメは泥状や砂状の海底を好み、砂の中に隠れて住んでいるが、目だけは水中に出ている。エサを待ち伏せする手法を得意とし、夜行性である。主に魚類を捕食するが、カニや軟体動物も食べる。卵胎生で、1回に9~20尾の幼魚を産む。産まれたばかりの幼魚は体長24~30センチメートルくらいである。メスは体長1.3メートルで成熟する。人間に危険性はないものの、いたずらをしたり踏んだりすると噛みつかれる可能性はある。
IUCN(国際自然保護連合 1948年に設立された、国家と NGOからなる国際的な自然保護機関)は、ホンカスザメをレッドリストのなかで「絶滅危惧第2類」に指定している。