防衛省(東京都新宿区)
防衛省・自衛隊は2023年度中にも大学や研究機関と先端技術の活用に関する定例協議の枠組みを初めて設ける。軍事と産業の両方に使える軍民両用(デュアルユース)の研究の成果や方向性を共有する。使い道を広げて技術革新を後押しする。
防衛省・自衛隊はアカデミアと呼ばれる研究者との接点が少なかった。これまでは非公式に個別に意見を聞く程度の付き合いが大半だった。
国の機関としてアカデミアを代表する日本学術会議が軍事目的の研究に反対してきたことが背景にある。同会議が22年に「従来のようにデュアルユースとそうでないものを単純に二分することは困難」との見解を出したのを受け、研究者との関係を強化する。
自衛隊制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長は7月の日本経済新聞のインタビューで「民生技術を防衛に転用する仕組みをつくる」と述べた。「アカデミアは長らく軍事にあまり触らない風潮が強かった。アカデミアと直接的な対話を始めたい」と強調した。
新設する枠組みは大学や政府の研究機関、国立研究開発法人の研究者らを呼ぶ想定だ。防衛装備庁が23年度以降に設ける専門組織や防衛研究所、情報通信政策研究所などを候補として見込む。
内閣府や文部科学、経済産業両省などとの共催も視野に入れる。政府全体で必要とする技術開発を説明し、軍民両用技術の研究支援制度の活用を促す。
学術界の最新の研究成果を防衛装備の研究開発や部隊運用により幅広く生かす方策を探る狙いがある。
ドローン(小型無人機)や自動運転の研究は測位システムに頼らずに部隊を展開する技術の獲得に結びつく可能性がある。旅客機の運航やロケットの発射の技術は戦闘機の高速飛行に応用できる。
エネルギーの伝送や望遠の技術は電磁波の目標物への照射精度の向上に寄与するとみる。
防衛省は23年度予算で部隊運用に人工知能(AI)を使う研究や、偵察・攻撃用の無人機の運用実験といった経費を計上した。通信衛星によるミサイル探知精度を上げる技術実証や、高出力マイクロ波の照射装置の取得も入れた。
こうした研究開発や運用を迅速に進めるため研究機関の知見を借りる。
多様で複雑な先端技術の使い道を基礎研究の段階で判断するのは難しい。軍民両用の活用方法を探り、研究開発の推進や技術革新につなげる。
米政府は軍事目的でコンピューターや半導体の技術を強化し、民生に活用した。逆に民間の技術を軍事に取り込む政策も推進し、インターネットや全地球測位システム(GPS)が普及した。
23年度予算の防衛費のうち研究開発費は契約ベースで22年度比3倍の8968億円に増えた。全体に占める割合は13.1%だった。国防費の10〜15%前後を研究開発に充てる米国や韓国の水準に近づいた。
政府全体の科学技術関係予算のうち防衛省所管分は23年度予算で5%程度にとどまる。全体の5割ほどを占める米国や1割近い英国、フランスより少ない。米欧や中国と比べて軍民両用を推進する視点が日本は乏しかった。
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日経記事 2023.08.11より引用
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