晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

藤原伊織 『てのひらの闇』

2009-07-23 | 日本人作家 は
最近気になっていることが、本の帯に書かれているキャッチ
コピーや物語の見せ場で、ほんとうに上手な仕上がりという
ものは少ない、だからして難しい仕事なのだなあと感心もす
るわけであります。
本作「てのひらの闇」の帯には

「感謝する・・・。その言葉に報いるため、男は闘うことを選んだ――」

「二人の男の道を決定づけたのは、生放送中のスタジオで発せられた
 不用意な、しかし致命的な一言だった――
 二十年後、その決着をつける時が訪れ、一人は自死を、一人は闘う
 ことを選んだ」

そして、じっさい読み終えてみると、前者のコピーは、作品の
情報を漏らしすぎず、かといって与えすぎずのちょうどよい塩
梅なのですが、後者はというと、たしかに気になるキャッチー
なコピーではあります。そしてこの部分は、物語の重要なカギ
で、話がこれから面白くなってゆく分岐点でもあるのですが、
これこそがまさに決定的な因果とまではいえないかな、と思い
ました。

大手の飲料会社の宣伝部に勤務する男は、会社の業績悪化に
伴う早期希望退職を承諾し、投げやりな態度で残りのサラリー
マン生活を送ろうとします。
男が手がけた新商品のCMが好評な中、ある日会長に呼び出さ
れます。そして会長の持っていたビデオ映像を見せられます。
それは、会長が趣味の散歩を兼ねて家庭用ビデオカメラで撮影
をしている風景で、マンションから子供が転落し、それをたまたま
通りかかった男性がキャッチした、というもの。
会長は、この映像が現在好評の新製品のキャッチコピーに適し
ていると思うので、これを使えないかと要求。
男はこの映像を調べてみると、合成された映像であることが分
かり、それを会長に報告すると、会長は「感謝する」という言葉
を男にかけるのです。
その日の深夜、会長が自殺したと会社から電話があり・・・

男と、その部下の女性が名コンビとなり、難局を打開していく
のですが、ときにコミカルで面白く、ほかの登場人物も個性を
打ち出しています。
そして主な舞台となる飲料会社の内部事情も、経済小説にな
らない程度にしっかりと描かれて、ハードボイルド小説といえば
良くも悪くも主人公のキャラで話を引っ張るものが多いなか、き
ちんと均衡のとれた、それこそ「よい塩梅」な作品でした。

コメント
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