晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

不知火京介 『マッチメイク』

2009-07-10 | 日本人作家 さ
こちらの作品は江戸川乱歩賞受賞作品で、物語の内容はというと、
プロレス団体での話。過去けっこう受賞作品を読んできましたが(全
部ではありませんけど)、「マッチメイク」はある意味異質で、どこか
ユーモラス。でも広義の意味でミステリーですし、筋もしっかりしてい
ますし、そして何よりもパワーを感じます。

大阪に本拠地を置くプロレス団体の新人レスラー山田聡はメインイベ
ントの会長の試合の直前、会長から暗号のような言葉を投げかけられ
ます。試合がはじまり、相手レスラーの凶器攻撃で会長は流血し、そ
のまま倒れてしまいます。心配する山田をよそに先輩レスラーも同期
入門の本庄も余裕。しかし事態は深刻で意識の戻らない会長は病院
に搬送され死亡。

死因は蛇の毒。凶器に仕込まれていた可能性があり、山田は控え室
にあったカッターの行方が気になります。
犯人が特定できないまま月日は経ち、山田は門番としての修行をはじ
めることに。門番の仕事は、たまに来る道場破りに絶対に負けてはなら
ず、しかしプロレスの試合ではその強さを封印し、わざと負けたりする、
いわば日陰の存在に徹すること。
先輩から厳しいトレーニングを課せられている最中、その先輩がバーベ
ルで圧死しているのが発見されます。

会長と先輩の死は関連があるのか、連続殺人だとすれば犯人は団体
の中の誰かということに・・・

作品中に、プロレスはある程度「お約束」があり、凶器攻撃による流血
もじつは自分で傷つけたりレフェリーが上手に傷つけたりします。
さらに、試合終了までの流れ自体が事前に決まっていたりもします。
しかしこれは八百長とは違い、はじめからガチンコではなくエンターテイ
ンメントとして考えれば演出や演技は必要。
こういった事情や営業法人としてのプロレス団体の一面、門番になるべ
く修行する山田のトレーニング風景など、とてもわかりやすい描写。

とても個性的なキャラクターをこの一作で封印してしまうのはちょっともっ
たいない気もします。続編を希望するところです。
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宮部みゆき 『R・P・G』

2009-07-09 | 日本人作家 ま
『R・P・G』は、ほかの宮部みゆき作品となんだか雰囲気が違う
というか、もともとは舞台のために書かれた作品のノベライズ版
のような印象(つかこうへいのような)を持ったのですが、じっさ
いは文庫用に書き下ろしたもので、行動範囲が狭く、一場劇の
ような物語の展開だったので、そう感じてしまったのかと。

この作品には、「模倣犯」と「クロスファイア」の登場人物が出て
きます。登場人物といっても刑事と女性警官。推理小説におけ
る“追う側”はポワロやホームズのようにシリーズ化したり、シリ
ーズとまではいかなくとも、ミステリー系の作品では再登場して
別の事件に関わり、前作では語られなかった部分を描いたりと
いったことがけっこう見られます。
これがマニア心をくすぐるといいましょうか。

ある日の夜、どこかから争う声と悲鳴が聞こえたと通報があり、
警官が付近を調べてみると、建設途中の家の中から男の死体が
見つかります。
その数日前、ここからだいぶ離れた現場で、カラオケボックスの
入居するビルの非常階段で女性が殺されます。
このふたつの事件は被害者が生前関係があったことから、連続
殺人事件として捜査され、はじめは殺された女性と恋愛トラブル
を抱えていた同じ大学に通うA子が疑われます。
やがて、殺された男がパソコン内で「擬似家族」を作って交流し、
そしてこの擬似家族と会っていたことがわかり、こちらの方面か
らも捜査され、母親役、娘役、息子役の3人が参考人として署で
質問されます。その質問の様子は隠し部屋で、殺された男の実
の娘が見ており、父が殺される数日前に誰かと話しているところ
をこの娘は目撃、この3人のうちの一人なのではないかと面通し
するのですが・・・

あとがきで著者自身がお詫びしているように、この作品では推理
小説として「え、そんなのアリ?」と思う部分がありますが、まあ
それが物語を台無しにしているなんてことはありませんでしたし、
相変わらず人間の描き方は上手く、そして荒んだ人間関係の中
でも光明を見出して生きるんだという希望で締めくくる。
これが説教くさくなくて、宮部みゆきの本の醍醐味ですかね。
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マイケル・オンダーチェ 『イギリス人の患者』

2009-07-07 | 海外作家 ア
「イギリス人の患者」はブッカー賞受賞作品で、映画化されて
アカデミー賞9部門を受賞するという快挙を成し遂げました。
映画のタイトルは本作の原題「The English Patient」で、小説
のほうもできれば原題カタカナ表記のほうがしっくりくるのにな
あ、なんて思ったものです。なんだか「イギリス人の患者」だと
小説のタイトルとして雑な感じがするんですよね。

第2次世界大戦中、カナダ出身のハナはイタリアで看護婦と
して来る日も来る日も負傷兵の治療にあたり、絶望感に打ち
ひしがれます。そんな中、北アフリカの砂漠で飛行機の墜落
で瀕死の重傷を負った男が運び込まれてきます。
ハナの勤める病院も危険が迫り、みんな移動しますが、この
イギリス人と思われる患者は移動が困難ということで、ハナは
廃墟を病院がわりにして男の治療に努めます。
ほかにも、ハナの父親の友人で泥棒のカラバッジョ、インド出身
で爆弾処理の工作員キップもいて、4人で共同生活をします。

このイギリス人と思われる患者は、ほんとうにイギリス人なのか、
彼がなぜ砂漠で飛行機に乗って墜落し、イタリアまで運ばれてき
たのか、時間をさかのぼって描かれてゆきます。
カラバッジョとキップ、そしてハナも廃墟に来るまでの経緯が描か
れております。

物語性というよりは、幾編もの詩を紡ぎ合わせて小説に仕立て
あげたような作品。
4人それぞれの過去、そして廃墟での毎日、読むうちに不思議と
文中の世界観に誘われ、街外れの小さなカフェテアトロで退廃的
な雰囲気を醸し出す演劇を観ているような錯覚にとらわれてしまう、
そんな印象が残りました。

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浅田次郎 『シェエラザード』

2009-07-06 | 日本人作家 あ
『シェエラザード』とは、ロシアの作曲家コルサコフの有名な
交響組曲で、元の話は、アラビアンナイトに出てくる王妃シェ
エラザードが王に殺されないように毎夜おもしろい話を聞か
せて、千と一の夜語り続けて王は王妃を殺すのを諦める、と
いうおなじみの話。
このシンフォニーと、戦争中に沈没した豪華客船「弥勒丸」の
数奇な運命と沈没の真相、戦後幾十年経って謎の台湾人、
宋英明が弥勒丸引き揚げを熱望し、日本の各方面の大物に
資金を要請する、この無理難題とも思える三題話を見事に一
つの物語に紡ぎ合わせ、これぞ浅田次郎の世界といえる、あ
たかも史実に埋もれたアナザーストーリーのような創作物語
を見事にはめ込み、美しく昇華させるといった感じ。

元大手銀行マンと元自衛隊の経営する町金融のもとに、台湾
から来た宋栄明と名乗る老人が接触。戦争中、台湾沖に沈没
した豪華客船「弥勒丸」を引き揚げるための資金を出してもらい
たいとお願いしてきますが、しがない町金融に100億もの大金
は用意できず、この話はバックの暴力団組長に繋ぐべきか、そ
もそも胡散臭い話なので無視するか迷っているところに、宋栄明
が別方面から働きかけていたルートで次々と関係者が自殺。
逃げ場を失った町金融の二人は暴力団組長に話を持ち込み、
そして財界の大物や船舶振興会のトップも絡んでくるのです。
元大手銀行マンはかつての恋人で新聞社勤務の女に弥勒丸の
話をすると、女はこの話に乗って、新聞社を辞めてしまいます。

この現代の話に交互に折り重なるように、豪華客船「弥勒丸」
がナホトカから敵側捕虜のための物資を南方に運ぶところから
はじまり、条約により攻撃対象ではない緑十字の物資運搬船で
ありながら米軍潜水艦により撃沈させられるまでの、船内での
出来事が描かれていきます。

船員たちの弥勒丸に対する愛情はなみなみならぬもので、世界
一と豪語します。しかしそんな美しい船は軍の所有と成り果て、
不本意な仕事をさせられるのですが、その仕事の本質部分とは
思考停止に陥った軍の虚栄を満たすためだけの瑣末な“お使い”。

宋英明なる老人は何者なのか、弥勒丸引き揚げに尽力する理由
とは。新聞社を辞めた女は弥勒丸に取り憑かれたように調べあげ、
やがて弥勒丸唯一の生存者から話を聞き、シンガポールで弥勒丸
に関わった元軍人と街で偶然出会います。
弥勒丸を知る人たちの話によって、次第に全貌が見えてくるのですが・・・

戦後50年などの節目の年に、テレビでは先の戦争の検証や総括
といった番組が放送されるのですが、堂々巡りで前に進めず、停滞
し続け、結論は導き出せません。
それだけ難しくてナーバスな問題なのですが、だからといって「無か
ったことにしよう」という流れにだけはなってほしくありません。
過去を解くすべを持たぬ者は未来など見えず、その日その日を漂う
だけなのですから。
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薬丸 岳 『天使のナイフ』

2009-07-03 | 日本人作家 や
この作品の主テーマとなっている「少年法」のそもそもの成り立ちは、
日本が戦争に負けて、国じゅうに親を失った戦災孤児があふれかえり
生きる術として盗みや脅し、場合によっては殺人といった罪を犯すこの
子どもたちは、大人の身勝手により引き起こした戦争によって生まれた
存在であって、悪いのは大人であって子供ではない、だから罪を問うの
はよそう、という崇高な理念があったのですが、近年の犯罪の若年化
、しかもその理由が「遊ぶ金欲しさ」など、およそ少年法の保護下に置く
べき不幸な存在ではない動機が多いのです。
未熟がゆえの犯罪ならば少年法の適用は分かるのですが、性犯罪や
詐欺といった類の犯罪、さらには少年法の存在を悪用する場合は子ど
もの感性ではなく、それはもう大人の思考。

一概に子どもだから法で守る、というのは当初の崇高な理念からかけ
離れているような気がするのです。年齢ではなく、罪の種類を問うべき
なのでは。

「天使のナイフ」は、そんな少年犯罪と贖罪を扱った作品で、江戸川乱歩
賞受賞作品。
妻を中学生3人組に殺されて、その罪の軽さに理不尽さと怒りを感じつつ
も男は残された一人娘を育て、カフェ店長として働く毎日。
ある日、警察が男のもとへやって来ます。男の勤めるカフェの近くの公園
で少年が殺されているのが発見され、その少年は「少年B」、妻を殺した
当時中学生3人の1人だったのです。
少年Bを知る少女から話を聞くと、Bは心の底から反省し、罪を償いたい
と周囲に語っており、さらに共犯の2人と連絡を取りたがっていた様子。
情報を頼りに主犯とされていた少年Aを探しにいくも会えず、その帰りに
駅のホームで男の隣にいた人がホームに転落。その転落した人は少年C。

まるで男が復讐しているような、次々と身の周りに起こる偶然。そして
少年Aから連絡が来るのです。待ち合わせ場所を指定され、「あんたに
面白いものを見せる」と言います。Aに会おうとするのですが、娘が急病
になり、病院へ向かいます。そして翌日、Aが殺されたというニュースが・・・

妻、妻と生前知り合いだった娘の通う保育園の保育士、妻が子供のころ
に住んでいた家の近所に住む老人、この人たちの過去が複雑にもつれた
糸のように絡み合い、そしてようやくほぐれて見えた一筋の糸の先には、
ええ、この人が犯人だったのか、と驚きと同時になんとも複雑な気持ちに
させられました。

読んでいて、どうしても頭や胸の片隅にへばりついていたモヤモヤのような
ものがあったのですが、それは主人公が進む道の先には事件解決の糸口
が転がっていて、なんだか主人公がオリエンテーリングをやっているくらい
スムーズに進行していってるなあ、という思いがあったのですが、本の後ろ
にあった乱歩賞選考委員の寸評の中に「主人公のご都合主義的なところが
あった」とあり、それこそが読んでいて感じたモヤモヤだと膝を叩いて納得。
さすが乃南アサさん、敬服。
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新保裕一 『真夜中の神話』

2009-07-01 | 日本人作家 さ
だいぶ前にテレビで、日本の小説を海外に紹介するといった番組
がありまして、その中に新保裕一「ホワイトアウト」も翻訳されると
あって、ちょっと嬉しくなったものです。

この人の息つかせぬスピード感と臨場感のアクションエンタテイン
メント作品は海外の有名作家にひけをとらないと思っていたのです。

「真夜中の神話」は、インドネシアのカリマンタン島に残る吸血鬼伝
説の話。事故で夫と一人娘を失い、勤めていた大学の薬学研究室
を辞めてアニマルセラピーの研究をはじめた晃子は、インドネシアで
イルカの介在療法をしている所に行くために飛行機で向かおうとしま
すが、上空で爆発して墜落します。
奇跡的に助かった晃子は、病院とは呼べない粗末な建物で寝かされ、
治療だといわれて連れていかれたのが洞窟。そこには少女がおり、
歌を唄うのですが、その歌を聴いているうちに全身の痛みがやわらぎ
夢心地になってゆくのです。
なんとか歩けるまでに回復した晃子は山のふもとまで下りて、自分は
事故のあった飛行機に乗っていた日本人だとジャカルタに連絡。
しかし、ふもとの村人や病院の医者は、晃子が山奥の吸血鬼の村から
来たと恐れている様子。ホテルでも宿泊拒否され、村にある教会に
泊まらせてもらうことになり、牧師に山奥の吸血鬼伝説を教えてもらい
ます。

一方ジャカルタで、華僑系の老人が惨殺死体で発見されます。この
老人は3年前に晃子と同じく山奥の村で少女の歌声で治療を受けた
のでした。さらに別の場所でこの山奥の村出身と思われる男も、老人
と同じく心臓を杭で刺されて死んでいるのが発見されます。

飛行機の墜落事故によって明るみとなった吸血鬼伝説の村とは。その
村の不思議な力の歌声を持つ少女とは。この村に関係した人が次々と
殺されていくのは・・・

物語の重要人物として、ヨーロッパの通信社所属のイタリア人カメラマン
と教会の牧師が出てくるのですが、彼らがなぜインドネシアまで来たのか
その素性がぼんやりと判明するのですが、これは想像の域で断定ではあ
りません。おそらく、中世ヨーロッパの吸血鬼伝説がアジアに渡っていまだ
に残っているという神秘的なテーマなので、ここをはっきりさせずに曖昧な
ままで締めくくったほうが神秘さが増すという演出?
だからといって物語が不完全燃焼だったというわけではありませんでしたが。
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