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<社説>原発への回帰 前のめりは許されない '22参院選
松江市の中国電力島根原発は全国でただ一つ、県庁所在地にある原発だ。国から避難計画の策定を義務付けられた三十キロ圏内には、約四十六万人が居住する。東京電力福島第一原発事故以来止まったままになっている島根原発2号機の再稼働に今月、島根県の丸山達也知事が同意した。同意に際し、県議会で丸山知事は「不安と心配のない生活を実現するためには、原発はない方がよく、なくしていくべきだと私も考えています」と述べている。しかし一方で「原発が国のエネルギー政策の中で一定の役割を果たしているのは理解できる」。避難計画の実効性に不安を残したままの「苦渋の判断」だったという。もっとも再稼働は安全対策の遅れから、再来年以降になるもよう。電力逼迫(ひっぱく)が予想されるこの冬には間に合わない。主としてロシアのウクライナ侵攻に起因する石油や天然ガスの高騰を受け、脱炭素だけでなくエネルギー安全保障効果の高い電源として、政府・与党は「原発回帰」に前のめりの姿勢を強めている。岸田文雄首相は国会の答弁などで「安全の確認を前提として、原発再稼働をしっかりと進めていく」と強調してはいるものの、誰が安全を保証してくれるのか。原子力規制委員会の審査は、基準に適合するかどうかをみるだけだ。一方、福島第一原発事故の避難者が国に損害賠償を求めた裁判では、最高裁が「国に賠償責任はない」と判断した。「国策」と言いながら、保証も補償もないままに「原発神話」の復活を図るかのような政府の姿勢は危険である。名古屋大の竹内恒夫名誉教授(環境政策論)は「日本のロシア産エネルギーへの依存度は高くない。他の輸入先を探す外交努力で乗り切るべきだ。ウクライナ情勢をどうして原発再稼働に結び付けるのか、わからない」と疑問を投げかける。ウクライナ危機が浮き彫りにしたのはむしろ、有事の際に攻撃対象になりうる原発という存在の危うさである。エネルギー安全保障を図るとすれば、燃料を輸入する必要のない再生可能エネルギーこそ王道だ。「不安と心配のない生活」を実現するために、エネルギー源を選ぶ参院選にしたい。
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<社説>続く物価高 問われるアベノミクス '22参院選
参院選で最大の争点は物価対策である。私たちの暮らしを追い詰める物価上昇の痛みを和らげるには、どういった政策が適切か。各党、候補者の公約や訴えを比較、吟味して投票先を決めたい。原油高とともに、物価や光熱費上昇に拍車をかける円安への対応が大きな課題となっている。日銀は二〇一三年、当時の安倍内閣と出した共同声明に基づく大規模金融緩和を今も続ける。その結果、日銀が銀行経由で国債を引き受け、それを財源に野放図な財政支出をする図式が常態化した。
財政悪化は金融政策に限らず、税制など経済政策全般で選択肢を極端に狭めた。政府が物価対策の定番である利上げや、消費税を含む減税に二の足を踏む要因に、金融緩和と財政出動を軸に据えた第二次安倍内閣以降の経済政策「アベノミクス」が招いた極度の財政悪化を挙げざるを得ない。岸田内閣はアベノミクスの基本路線を継承している。自民、公明、日本維新の会、国民民主各党は金融緩和を支持する一方、立憲民主、共産両党などは共同声明の見直しを訴える立場だ。金融緩和から利上げへの転換は急激な円安を止め、物価上昇に歯止めをかける有効策になり得る。その一方、企業の資金調達コストや住宅ローン金利の上昇を招き、国債の価値も下落しかねない。消費税への対応でも各党の主張が鮮明に分かれた。自民、公明の与党は現状維持、立民、共産、維新、れいわ新選組など野党七党は税率引き下げか廃止を訴える。消費税減税は、所得階層にかかわりなく恩恵が広がり、物価対策としての即効性は期待できる。ただ、税率1%当たり約二兆六千億円の税収が不足する。景気が上向き、所得税など税収の伸びで減収分を穴埋めできる可能性がないわけではない。ただ消費税が社会保障の主要財源である以上、減収となれば国債増発などで直ちに補う必要が出てくる。有権者は物価高対策としての金融緩和、消費税の双方で、それぞれリスクを抱える政策の一方を選ぶという難しい判断を迫られるが、忘れてならないのは そうした苦しい状況に至った背景にアベノミクスがあることだ。その是非も同時に問われるべきであろう。
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