本日、自民党総裁選がおこなわれ、決選投票で河野太郎氏を引き離し、岸田文雄氏が新総裁に選ばれた。だが、これは「岸田自民党、岸田政権の誕生」ではなく、「安倍自民党、安倍傀儡政権の誕生」と呼ぶべきものだ。
今回の総裁選で安倍晋三・前首相は、同じ極右思想を持つ高市早苗氏を支持。2ショットポスターを作成させたり、高市氏以外を支持する若手議員に直接電話をかけまくる「アベノフォン」に勤しむほど入れ込んでいた。
読売新聞によると、安倍前首相は「(他の候補を入れると)衆院選の応援は難しくなるよ」などと、露骨な恫喝までしていたという。
今回、1回目の投票で、高市氏の国会議員票が河野氏を上回るという驚きの結果が出たが、これはこうした安倍前首相の圧力の結果と言っていいだろう。
だが、安倍氏が躍起になり、ネトウヨが熱狂したのと裏腹に、高市氏は「支持急増」と言われていた党員票で伸び悩み、26〜27日には、決選投票に残れる可能性がゼロに近いことが判明していた。
すると、安倍前首相は一転、「アベノフォン」をやめ、岸田氏に恩を売る動きを見せる。それが、27日の甘利明・税調会長との会談だった。甘利氏は安倍前首相の最側近ながら、早くから岸田氏支持を打ち出し、岸田氏の選挙対策の要の役割を担っていた。安倍氏はこの会談で、高市陣営が決選投票で岸田氏を推すことを甘利氏に約束したと言われている。
「報道では、逆に岸田陣営が高市氏を支持することも確認する『2位、3位連合』の話し合いということになっているが、これは安倍氏のメンツも考えた表向きの名目。実際は、高市氏が決選投票に残れないことを悟った安倍氏が甘利氏に決選投票で『岸田支持』に動くことを表明し、改めて、自分への忠誠を要求したのではないかと言われている」(全国紙自民党担当記者)
結果、国会議員票が大半を占める決選投票では、岸田氏が河野氏を圧倒した。これで、岸田氏はますます安倍前首相に逆らえなくなるだろう。
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“影の総理”今井尚哉、“元内調”北村滋、代弁者NHK岩田明子…岸田陣営に送り込まれていた3人の安倍側近
もっとも、岸田氏は最初から安倍氏の支配下にあった。高市支持を表明した後も、「高市支持は河野氏の票を削るためで、安倍氏の本命は岸田氏」との解説も流されていた。
実際、安倍前首相は、岸田氏が総裁選出馬を表明する少し前から、岸田陣営に自身の代理人を送り込んでいる。
そのひとりが、安倍政権時代、安倍氏の側近中の側近だった今井尚哉・元首相補佐官。今井氏は安倍政権時代、「影の総理」と言われるほどの存在だったが、菅首相になってからは外され、政界から遠ざかっていた。ところが岸田氏が総裁選に名乗りをあげる少し前から、その今井氏が岸田事務所に出入りするところが頻繁に目撃されてきた。
また、安倍政権時代は内閣情報官としてさまざまな政敵潰しの謀略を仕掛け、「官邸のアイヒマン」とも言われた北村滋・元国家安全保障局長も、やはり岸田氏が総裁選に立候補を表明する少し前から岸田陣営と接触。岸田氏と北村氏は開成高校の同窓で、北村氏は安倍氏と岸田氏をつなぐパイプ役にもなってきたが、今回、今井・北村は岸田陣営で自民党議員や党員の情勢情報をあげてきたほか、公安ネットワークを使って石破氏や河野氏のスキャンダルを必死で探していると囁かれていた。
さらに、安倍政権下では「安倍首相にもっとも食い込んでいるジャーナリスト」と呼ばれ、安倍首相辞任の際もその一報をスクープしたNHKの岩田明子氏までもが、岸田陣営に出入り。岩田氏も菅政権になったことで政治部からネットワーク報道部という地方部に異動となっていたが、この総裁選では「もはや岸田選対の一員ではないか」と言わるほどの目撃情報があったという(「週刊新潮」9月21日号/新潮社)。
つまり、安倍前首相は「高市支持」で極右・ネトウヨ層を盛り上げる一方、ちゃっかり岸田氏の戦力を強化すべく、自身にとって最強の最側近や記者を送り込んでコントロールしていたのである。
実際、岸田氏は、総裁選を控えてのテレビ出演や討論の場で、あからさまに安倍前首相の顔色を伺う姿勢を見せていた。
まず、岸田氏の安倍前首相への秋波があらわになったのが、憲法改正をめぐるスタンスだった。岸田氏は憲法9条の改憲に消極的だと言われてきたが、この総裁選で、岸田氏は安倍氏が乗り移ったように、「憲法改正は絶対に必要」「自衛隊の明記は違憲論争に終止符を打つために重要」「国民の憲法を取り戻したい」などと前のめりな発言を連発。
また、安倍前首相の疑惑追及にも終始、消極的で、森友問題については「さらなる説明をしないといけない」と述べたものの、安倍前首相がこの発言に激高したと伝えられると、大慌て。「再調査するとは言っていない」などと前言を撤回した。
さらに、岸田氏は選択的夫婦別姓を実現する議員連盟の呼びかけ人のひとりでありながら、総裁選討論では一気にトーンダウン。また、9日に『バイキングMORE』(フジテレビ)に出演したときは、出馬表明会見ではつけていなかったブルーリボンバッジを着用。こうした言動はあきらかに安倍前首相を意識したものだった。
安倍前首相は、岸田新総裁決定を受けて「高市氏が確固たる国家観を示した」と強調
直接の支持も取り付けられなかったというのに、一貫して安倍前首相に尻尾を振りつづけた岸田氏。しかも、決選投票での密約や、高市氏が国会議員票をとったことで、この安倍氏の支配はさらに強化されるだろう。
当然、党役員人事や組閣では安倍前首相の意向を汲んだ人事がなされることは必至。敗れた高市氏を幹事長や官房長官、重要閣僚で登用せざるをえなくなっていると言われている。
いや、人事だけではない。安倍前首相は岸田新総裁決定後、高市陣営の会合で「高市氏を通じ、自民党がどうあるべきかを訴えることができた」「(高市氏が)確固たる国家観を示した」とした上で、「次の衆議院選挙、今度は岸田新総裁のもとに、共に勝ち抜いていこうではありませんか」と力を込めて呼びかけた。この発言からも、今回、高市陣営が打ち出した「国家観」とやらを岸田氏が政策に落とし込まざるを得なくなるはずだ。
選択的夫婦別姓、女系天皇の否定はもちろん、岸田氏が「任期中にめどをつけたい」と言っている改憲をめぐっても、高市氏は私権制限の明確化にまで踏み込んでおり、その方針がさらにエスカレートする可能性がある。
ようするに、岸田新首相の誕生は、菅政権以上に安倍前首相の存在感が増した「安倍政権の復活」でしかなく、自民党の刷新どころか、安倍・菅政権の総括もなく膿を溜め込んでいくだけになるのは間違いない。
だが、忘れてはいけないのは、これはしょせん自民党総裁を決める党内の選挙に過ぎないことだ。きたるべき衆院選で国民がNOを突きつければ、この「安倍政権の復活」は止めることができる。次の選挙は、安倍政治に終止符を打つための選挙であることを野党は徹底して訴えていく必要があるだろう。(編集部)