トランプ米大統領がイスラエルのネタニヤフ首相との会談後の共同記者会見で、パレスチナ自治区ガザを米国が「長期的に所有」し、経済開発を進めることを提案した。
米国が戦闘で倒壊した建物や不発弾を撤去する一方、ガザ住民は域外の第三国に移住させ、恒久的に再定住させるという内容。実現性は乏しいとはいえ、民族自決権を無視し、民族浄化を促しかねない暴言だ。撤回を求める。
ガザでは1月19日、イスラム組織ハマスとイスラエルとの間で停戦が発効。避難民となった大半の住民が帰還を急いでいる。
トランプ氏は先月下旬にも近隣国のエジプト、ヨルダンにガザ住民の受け入れを要請し、両国などアラブ諸国が激しく反発した経緯がある。トランプ氏の「ガザ所有提案」に対しても、ハマスやパレスチナ自治政府、サウジアラビアが即座に拒否を表明した。
ネタニヤフ氏はトランプ氏の提案を「注目に値する」と評価したが、当事者やアラブ諸国の反発で実現の可能性は極めて低い。
ただ、イスラエルは2023年10月のガザ攻撃開始以降、民族浄化を疑わせる行動を繰り返してきた。同月に明らかになったイスラエル政府の文書にはガザ住民のエジプトへの追放案が記され、24年10月にガザ北部を集中攻撃し、援助物資を遮断した際にはガザ北部の無人化と併合、再入植計画があるのではと取り沙汰された。
トランプ氏の娘婿である実業家クシュナー氏がガザについて「非常に価値ある水辺の不動産」と評し、住民を一掃して開発を進めたいと発言したこともある。
トランプ氏の提案は、これらの住民追放策と軌を一にする。
住民追放による民族浄化は、国連憲章第1条が定める民族自決権に反する犯罪で、断じて許されない。米国のガザ所有提案は、米国自身や国連が主張してきたパレスチナ国家建設を前提に和平を結ぶ2国家解決案とも矛盾する。
戦後の国際秩序が崩壊するか否かの岐路だ。日本を含む国際社会は実現可能性が低いとしても看過せず、厳しく指弾すべきである。
◆<東京新聞社説>靖国合祀判決 「政教一体」疑い晴れぬ
靖国神社への戦没者合祀(ごうし)訴訟の判決で、最高裁は、国が戦没者名簿を神社側に提供した行為が政教分離を定める憲法に違反するかどうか判断しなかった。
ただ、裁判官4人のうち三浦守裁判官は高裁での審理やり直しを主張する反対意見を述べた。違憲の疑いが拭えない以上、審理を尽くすべきでなかったか。
靖国神社は幕末以降の戦死者らを祭神として祀(まつ)る。戦前や戦中は軍国主義を支える国家神道の中心として陸海軍が管理し、戦後はA級戦犯も合祀した。
終戦直後は占領軍が合祀祭を中止させていたが、占領終了後に国が戦没者の名簿提供を開始。その後、約30年にわたって名簿を作成し、神社側に提供していた。
「靖国神社合祀事務協力要綱」という文書が残るように名簿提供が特別な協力だったことは明らかだ。憲法が定める政教分離に抵触すると疑うのが自然だろう。
原告の韓国人らの父親らは、日本統治下で軍人軍属として動員されて戦死や戦病死し、植民地時代の日本名で合祀されたという。
遺族として「侵略した側との合祀は侮辱的。静謐(せいひつ)な環境で追悼する宗教的人格権を侵害された」との怒りや訴えは理解できる。
しかし、最高裁第2小法廷は今回、損害の発生から20年で賠償請求権が消滅する除斥期間が過ぎたとして上告を棄却した。
「時の壁」によって、違憲性の判断を糊塗(こと)したと受け取られても仕方があるまい。
三浦裁判官は反対意見で、国が靖国神社と協議を重ねて一体で合祀を行い、政教分離に違反した可能性を指摘。遺族が合祀を認識できなかった年月を除斥期間に算入するのは不合理と疑問を呈した。うなずける点が多い指摘だ。
政教分離を定めた憲法20条は、国が国家神道により国民の思想の自由を統制し、戦争に突き進んだ負の歴史の反省の上にある。
ただ、政教分離に関する過去の判例は、国と宗教との関わりをある程度認めた上で、宗教に対する助長や圧迫などの影響が著しい場合などに限って違憲とする限定的な解釈の上に立つ。
判例を国に有利なように恣意(しい)的に適用し、政教分離を空文化させているのが実態ではないか。最高裁は憲法判断から逃避せず、「憲法の番人」としての役割を全うすべきである。
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