中国が南太平洋で島しょ国の軍事拠点化を進めるのではないかとの懸念が高まっている。南シナ海で実効支配を拡大してきた中国は、これ以上地域の脅威になるような動きを強めるべきではない。
警戒感が一気に広がったのは、中国が南太平洋の島国ソロモン諸島と安全保障協定を結んでからだ。協定内容は公表されていないが、中国艦艇の寄港や軍隊、警察の派遣を認める内容とみられる。
ソロモン諸島の南に位置し、協定の調印に反対してきたオーストラリアやニュージーランドが「中国がソロモンに軍事施設を設ける恐れがある」と反発したのは当然であろう。
米国は二十二日、国家安全保障会議高官をソロモンに派遣し、中国軍駐留につながる行動には「相応の措置」で対抗する考えを伝えた。ソロモン側は中国軍の駐留はないと強調したという。
中国外務省の副報道局長は協定締結を発表した後の二十日の会見で「第三国に向けられたものではない」と述べたが、協定の目的や内容が不明確である以上、関係国の不安が払拭(ふっしょく)されるはずもない。
南太平洋の島しょ国をめぐっては、中国が経済援助をテコに台湾との断交工作を繰り広げるなど中台対立の最前線になってきた。ソロモン、さらにはキリバスが二〇一九年に台湾と断交し、中国と国交を結んだ。ソロモンは二一年には治安維持を理由に中国の警察を受け入れるなど両国とも対中傾斜を強めている。
さらに、ソロモン諸島周辺は日本や米国などの船舶にとっても海上交通の要衝である。米、豪、日などの対応が後手に回った感は否めない。この上は、三カ国にインドを加えた「クアッド」を中心に、外交力を総動員し、中国がソロモンなどを利用する形で軍事拠点を築く動きに断固対抗していくべきである。
南シナ海においても中国は一八年、紛争を防ぐための「行動規範」について「三年以内の交渉妥結」を関係国に表明した。だが、その後の一方的な人工島建設や軍事演習で交渉を停滞させている事実を思い起こさざるをえない。
日本政府は二十五日、外務政務官をソロモン諸島に派遣した。「自由で開かれたインド太平洋」を実現し、南太平洋を中国による新たな火種とせぬよう、関係国と連携し外交努力を尽くしてほしい。
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