退任前に最大の正念場を迎える(日銀の黒田東彦総裁)/(C)共同通信社
まさかの“サプライズ利上げ”により、市場に冷や水を浴びせた日銀の黒田総裁。利上げはこれで済むのか──。20日の会見で「(長期金利の変動幅の)さらなる拡大は必要ないし、今のところ考えていない」と“追加利上げ”に否定的だったが、果たして市場が許してくれるのか。
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実際、国債市場は機能不全に陥っていた。10年国債は実態金利とかけ離れているため、日銀以外の買い手がほぼいなくなっていた。日銀は10年国債を無制限に購入し、利回りを0.25%以下に抑え込んできたが、その一方、他の年限の国債金利が上昇する事態が多発していた。
金融ジャーナリストの森岡英樹氏が言う。
「国債市場を正常化するため、10年国債の金利上限引き上げはやむを得ない措置です。一方で『国債市場が機能低下に陥れば日銀は上限を引き上げる』というメッセージを市場に送ったとも言えます。この先、ヘッジファンドなどが暗躍し、日銀が新たに設定した上限0.5%でも、日銀のコントロールが続くため、国債市場が機能しなくなることは十分あり得ます。その場合、今回のように市場に催促される形で、黒田総裁がさらなる利上げに追い込まれる可能性はあります」
退任までに2度の政策決定会合
黒田氏は「市場が催促することはいつでもあるが、そういう客観的な情勢はあまり考えられない」と楽観を装っていたが、心中穏やかでないかもしれない。日銀の金融政策決定会合は来年1月と3月に開かれ、来年4月の退任までに2度、金利をどうするのか判断を迫られるからだ。
「あと2回の金融政策決定会合で、10年国債の上限をもう一段引き上げることも考えられますが、それよりも市場が催促するのは、現在、短期金利に適用しているマイナス金利の解除とみられます。マイナス金利政策を採っているのは9月にスイスが脱し、主要中銀は日銀だけです。インフレ下、欧米の中銀が政策金利をどんどん上げているのに日本だけマイナスを続けるのはあまりにも歪んでいる。マイナス金利が解除されると、金融機関は短期融資の利上げに踏み切ります。中小企業は当面の運転資金を調達しづらくなり、大きな打撃となります」(森岡英樹氏)
■ゾンビ企業16.5万社の倒産ラッシュも
コロナ禍の資金繰り支援である「ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)」の受け付けは9月で終了。ここに利上げが加われば、中小企業の資金繰りは火の車だ。
帝国データバンクの推計によると、実質的に倒産状態でありながら、営業を継続している「ゾンビ企業」は16.5万社に上る。倒産予備軍がバタバタ倒れてもおかしくない。
黒田氏退任まで3カ月余。10年の任期の中で最大の正念場になりそうだ。
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