国民が中央省庁などに情報の開示を求める「情報公開請求」を巡り、オンラインでの申請手続きを導入しているのが、主要な15の府省庁などのうち、厚生労働省と国土交通省のみであることが取材で分かった。デジタル化推進の司令塔となるデジタル庁も書類申請のみで対応していた。政府はマイナンバーカードの普及など、行政手続きの簡素化に積極的だが、国民の「知る権利」に関するデジタル化は進んでいない。(大野暢子)
◆閣議決定から1年 未対応の省庁の説明は…
政府は昨年6月に閣議決定した「規制改革実施計画」で、行政手続きのデジタル化の一環として、文書の開示請求のオンライン化など、利用率向上に必要な措置を講じると明記。手数料のキャッシュレス化も含め、各府省庁などに対応を促した。
閣議決定から1年たった今月、本紙が主要な15の府省庁・内閣官房に確認したところ、5日現在で13がオンラインでの情報開示請求に対応していなかった。
総務省の情報公開担当者は「必ずしも国民のニーズが高いとは認識していない」と回答。経済産業省は「実施には省のシステムの改修が必要だ」と説明した。デジタル庁は「使い勝手の向上、費用対効果などから検討したい」と答えた。
◆導入したら、便利だし安い
一方、導入済みの2省は利便性を強調する。2002年度から始めた国交省の担当者は「来省や郵送が不要な上、1件ごとの手数料も紙の申請より安い。省側のデメリットも特に思い当たらない」と説明。21年度は、新規申請の約7%がオンラインだった。省独自のシステムを使い、手数料決済や開示資料の提供もオンラインでできる。
03年度に始めた厚労省は21年度の約1万1000件の申請のうち、2割弱をオンラインで受理。省庁横断的なシステムを利用しており、来年度は手数料の電子決済も可能になる見通しだ。担当者は「労働保険や年金などオンライン手続きが多い省なので、情報公開請求でも進めやすかったようだ」と話す。
情報公開のデジタル化に携わる政府関係者は、開示請求のオンライン化が政府全体に広がっていない現状について「さまざまな行政手続きに利用できる省庁横断的なシステムは既に構築されており、導入費もかからない。あとは各機関のやる気の問題だ」と語る。
行政文書の開示のあり方を研究してきた龍谷大の本多滝夫教授(行政法)は「政府の推進するデジタル化は、個人情報のマイナンバーへのひもづけや利用範囲の拡大に偏り、情報公開の領域では遅れている。国民ではなく、政府の『知る権利』に資するデジタル化になっている」と指摘した。
情報公開法に基づく開示請求 国民主権の理念に基づき、「行政機関の保有する情報の一層の公開を図る」と定めた同法により、誰でも行政機関が保有する文書や図画、電子データの開示を求めることができる。請求を受けた機関は、特定の個人を識別できる情報や、国の安全を害する情報などを除き、開示しなければならないと規定される。
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