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参院選の東京選挙区(改選数六)では与野党が三議席ずつ分け合った。自民、公明両党は三候補とも当選したとはいえ、物価上昇など暮らしへの不満など政権批判を無視してはならない。岸田文雄首相は自ら掲げた「丁寧で寛容な政治」に努め、大都市東京の多様な民意に耳を傾けるべきである。
東京では自民が二議席、立憲民主、公明、共産、れいわ新選組の各党が一議席を獲得した。改選数「六」は全国最多で、大政党の候補者以外にも当選の余地がある。れいわの山本太郎代表が当選したのも、一人区では切り捨てられる少数派の民意が反映しやすいからだろう。公約に「消費税廃止」を掲げて政権との対決姿勢を打ち出したことで、生活不安を抱いたり、大政党に希望を持てなくなったりした都民の票の受け皿になったと考えられる。
二年半も続くコロナ禍を振り返れば、感染拡大の影響で解雇や雇い止め(見込みを含む)にあった東京の労働者は累計約二万六千人に上り、全国の19%を占める。雇用調整の可能性のある東京の事業所は累計約四万九千カ所で、全国の36%に達する。
物価高対策や社会保障、子育て支援など、暮らしを守る政策を優先すべきは当然で、緊急性を欠く改憲や、必要性や財源があいまいな防衛力増強に突き進むときではあるまい。
選挙戦では、選択的夫婦別姓や同性婚など新しい家族の形に後ろ向きな自民の姿勢が際立った。
しかし、姓を変えない事実婚を選んだり、同性のパートナーを持ったりするケースは現実には少なくない。
三月に公表された内閣府の世論調査によると、選択的夫婦別姓を肯定する答えは東京二十三区で全体を約6ポイント上回った。四月に都内で行われた性的少数者(LGBTQ)当事者らのパレードには、約二千人が参加した。
海外では、夫婦別姓は欧米や中国、韓国などで広く認められ、同性婚も近年、導入する国が増えている。当事者の生きづらさを社会が理解し、人権を尊重した結果であり、日本の遅れは著しい。
大勝したとはいえ、自民の主張だけに縛られていては社会の閉塞(へいそく)感は解消しない。多様性を求める東京の選挙結果を、未来に通じる「窓」にしなければならない。
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