自民党の坂本哲志国対委員長は24日、立憲民主党の笠浩史国対委員長と国会内で会談し、年金制度改革法案の国会提出の遅れを陳謝した上で5月中旬の提出を目指す考えを示した。笠氏は25日中に提出日を明示するよう求め、回答がない場合は、福岡資麿厚生労働相の不信任決議案提出の準備を進めると伝えた。(井上峻輔)
◆野党は石破首相や福岡厚労相の責任を追及する構え
年金法案は、首相が本会議や委員会の質疑に出席する「重要広範議案」に与野党が指定している。立民など野党は、重要法案の提出が大幅に遅れているとして、石破茂首相や福岡氏の責任を追及する構えだ。
自民の厚労部会は24日、法案の対応を長坂康正部会長に一任した。焦点だった基礎年金(国民年金)の底上げは法案から削除されたものの、部会で賛否がまとまらなかった。
長坂氏は部会後、記者団に「両論を併記した上で政調審議会に上げることは一任をもらった。あとは政調審議会や総務会が決める」と説明した。夏の参院選への影響を懸念する改選議員を中心に、今国会提出の見送りを求める声がある。
法案にはパートらの厚生年金加入拡大、高所得者の保険料引き上げなどが盛り込まれている。厚生年金の積立金を使った基礎年金底上げは、自民議員が「国民の理解を得られない」と反発し、厚労省が削除を決めている。
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政府は5年に1度の今回の年金制度改革で、全ての国民が受け取る基礎年金(国民年金)の給付水準底上げを最重要課題に位置付けていたはずだった。だが、夏の参院選で年金問題が争点化することを恐れる自民党内の反対論に押され、改革案は検討過程で次々に見送られた。制度の見直しが先送りされ、老後の生活を支える年金の将来に不安はないのか。
◆「改革法案の目玉部分が削除…あんこのないあんぱん」
「改革法案の目玉部分が削除され、あんこのないあんぱんだ。就職氷河期世代を見捨てたような話だ」。立憲民主党の山井和則氏は23日の衆院厚生労働委員会で基礎年金の底上げ見送りを追及した。国民民主党の玉木雄一郎代表も23日の党首討論で、底上げ策が「就職氷河期の最低限の年金を保障する意義があった」と政府・与党を批判した。
将来世代の給付水準については、厚生労働省が2024年に実施した公的年金の健全性を5年に1度点検する「財政検証」で、基礎年金の給付水準は57年には現在より3割低下するとの結果が示された。特に非正規雇用の期間が長い40~50代を中心とした就職氷河期世代は老後、低年金に陥ると見込まれる。
◆負担増の議論「国民に理解されない」
厚労省が当初検討していたのは、基礎年金保険料の納付期間を現行の40年から45年に延ばすことで給付水準を上げる案だ。受給額が年間約10万円増える一方、60歳を過ぎた後も5年間で計100万円の保険料を支払うことになる。国民からの反発が予想され、政府は昨年夏の時点で早々に検討対象から外した。
次に議論の中心になったのは財政が堅調な会社員らの厚生年金の積立金を活用して、基礎年金を底上げする案。難点は、積立金の活用で一定期間は厚生年金の受給水準が下がり、将来的に兆円規模の追加財源が必要になることだ。
政府・与党は「厚生年金の流用だ」との批判を恐れ、底上げ策について、法案に盛り込みつつ、実施判断を2029年の次期財政検証以降に先送り。それでも、自民内には参院選を控えて負担増の議論が「国民に理解されない」と慎重論が消えず、最終的に底上げ策自体が削除されてしまった。
◆首相は「きちんと対応」と言うけれど…
少子高齢化で年金財政は厳しさを増す。手を打たなければ、年金の支給水準が低下し、老後の生活が困難になる懸念は消えない。
石破茂首相は党首討論で「年金についてはきちんと対応する。納得いただける法案を提出するために最終的な議論をしている」と述べるにとどめ、具体策は示さなかった。