病院に外出許可を取った日、ルネさんが私を連れて行
ってくれたのは、病院から車で数分の市中にある、古く
てこぢんまりした建物でした。
そこは、ルネさんが信仰している、ある宗教の信者の
ための集会所のような場所で、2階が畳敷きの大きな
広間になっていました。
そこへ行くことは自分で決めたには違いないのですが、
祭壇らしきものが設えられ、ピーンと張り詰めたような
独特の空気に、私は少し及び腰になっていました。
でも、そのまま帰ってしまうこともできず、せっかく来た
のだから、見るものを見て、話を聞こう、そう覚悟した
のでした。
そんな私にルネさんは、その集会場に所属する信者
さんを統括する、支部長のような立場の人(年配の男
性)と、その部下にあたる、三十代半ばくらいの男性
を紹介してくれました。
その二人はどちらも、修練を積んだ人の醸し出す厳粛
な雰囲気があり、私は彼らから、その宗教の成り立ち
のおおもとについての話を聞いたのだと思います。
今はもう、細かい内容は思い出せないのですが……。
その日、集会場には、私とルネさんのほかにも、信者
の人たちが数人訪れて、例の手かざしを受けていまし
た。
一人の四十代くらいの女性が私に、手かざしがいかに
日常的に役立っているかを話してくれました。
その人が言うには、子どもが風邪を引くなどして体調
を崩した時にも、自分が手かざしをしてやると、すぐに
よくなるということでした。
本当に、そんな都合のいい話が……?
正直言って、そう思いました。
そんな、半信半疑の心境で、その日私は、支部長の
部下の男性(以下、セドさんと呼びます)から、手かざ
しを受けることになったのです。
私がそうすることに決めたのは、内心、大腸ガンの治
療のための開腹手術を、できればしたくないという気
持ちがあったからでした。
実は、この時にはすでに、主治医の内科の先生と外科
の先生から、今後の治療方針についての話を聞いてお
り、直腸のガンを外科手術で切除すれば完治する可能
性があることを知らされていました。
もちろん、客観的に見れば、それが一番確実な治療法
に違いないと、自分でも理解はしているつもりでした。
でも……
入院生活の初心者で、手術らしい手術をしたことのない
私は、できることならお腹を切りたくない、自分の体に傷
をつけたくない、そういう思いがあったのです。
だからこそ、手かざしのエネルギーにすがりたい、私にも
ルネさんのような奇跡が起きてほしい、ガンが消えてほし
い、そう願わずにはいられなかったのです。
ただ、誰に対してもそんな本音を告げる勇気はありませ
んでした。
セドさんは、そんな私の思いを察したのかどうか、私の
病状についての話を聞くと、ゆっくりと時間をかけて、特
に直腸の辺りに、念入りに手かざしのエネルギーを送っ
てくれました。
セドさんの手かざしは、ルネさんのそれと比べると、さす
がに堂に入っている感じがしましたが、それ以外に特に
変わったことはなく、エネルギーを体で感じる、という感
覚もなかったので、私は少しがっかりしてしまいました。
やっぱりどう考えても、こんな手かざしでガンが消えるな
どということは、起こるはずがない……
そう自分に言い聞かせ、セドさんにお礼を言って病院
へ戻ったのです。
わざわざ外出許可まで取って出かけて行ったけれど、
結局は何の意味もなかった、そう思うと、余計に落胆
が大きくなり、切なくて切なくてしかたがありませんで
した。
ところが、翌日の朝……
全く違う状態で目覚めることになるとは、想像もつき
ませんでした。
(次回に続きます。)
ってくれたのは、病院から車で数分の市中にある、古く
てこぢんまりした建物でした。
そこは、ルネさんが信仰している、ある宗教の信者の
ための集会所のような場所で、2階が畳敷きの大きな
広間になっていました。
そこへ行くことは自分で決めたには違いないのですが、
祭壇らしきものが設えられ、ピーンと張り詰めたような
独特の空気に、私は少し及び腰になっていました。
でも、そのまま帰ってしまうこともできず、せっかく来た
のだから、見るものを見て、話を聞こう、そう覚悟した
のでした。
そんな私にルネさんは、その集会場に所属する信者
さんを統括する、支部長のような立場の人(年配の男
性)と、その部下にあたる、三十代半ばくらいの男性
を紹介してくれました。
その二人はどちらも、修練を積んだ人の醸し出す厳粛
な雰囲気があり、私は彼らから、その宗教の成り立ち
のおおもとについての話を聞いたのだと思います。
今はもう、細かい内容は思い出せないのですが……。
その日、集会場には、私とルネさんのほかにも、信者
の人たちが数人訪れて、例の手かざしを受けていまし
た。
一人の四十代くらいの女性が私に、手かざしがいかに
日常的に役立っているかを話してくれました。
その人が言うには、子どもが風邪を引くなどして体調
を崩した時にも、自分が手かざしをしてやると、すぐに
よくなるということでした。
本当に、そんな都合のいい話が……?
正直言って、そう思いました。
そんな、半信半疑の心境で、その日私は、支部長の
部下の男性(以下、セドさんと呼びます)から、手かざ
しを受けることになったのです。
私がそうすることに決めたのは、内心、大腸ガンの治
療のための開腹手術を、できればしたくないという気
持ちがあったからでした。
実は、この時にはすでに、主治医の内科の先生と外科
の先生から、今後の治療方針についての話を聞いてお
り、直腸のガンを外科手術で切除すれば完治する可能
性があることを知らされていました。
もちろん、客観的に見れば、それが一番確実な治療法
に違いないと、自分でも理解はしているつもりでした。
でも……
入院生活の初心者で、手術らしい手術をしたことのない
私は、できることならお腹を切りたくない、自分の体に傷
をつけたくない、そういう思いがあったのです。
だからこそ、手かざしのエネルギーにすがりたい、私にも
ルネさんのような奇跡が起きてほしい、ガンが消えてほし
い、そう願わずにはいられなかったのです。
ただ、誰に対してもそんな本音を告げる勇気はありませ
んでした。
セドさんは、そんな私の思いを察したのかどうか、私の
病状についての話を聞くと、ゆっくりと時間をかけて、特
に直腸の辺りに、念入りに手かざしのエネルギーを送っ
てくれました。
セドさんの手かざしは、ルネさんのそれと比べると、さす
がに堂に入っている感じがしましたが、それ以外に特に
変わったことはなく、エネルギーを体で感じる、という感
覚もなかったので、私は少しがっかりしてしまいました。
やっぱりどう考えても、こんな手かざしでガンが消えるな
どということは、起こるはずがない……
そう自分に言い聞かせ、セドさんにお礼を言って病院
へ戻ったのです。
わざわざ外出許可まで取って出かけて行ったけれど、
結局は何の意味もなかった、そう思うと、余計に落胆
が大きくなり、切なくて切なくてしかたがありませんで
した。
ところが、翌日の朝……
全く違う状態で目覚めることになるとは、想像もつき
ませんでした。
(次回に続きます。)