中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

見殺し

2011-10-23 11:51:06 | 中国のこと

  信じられないような事故が中国広東省仏山市で起こった。市の商店街の路上を歩いていた悦悦(ユェユェ)チャンと言う2歳の女の子が、ワゴン車に轢かれた。それだけならかわいそうな事故ということになるのだが、轢かれて路上で血を流して倒れ苦しんでいるこの子を、通りかかった何人もの者が助けようともせず素知らぬ顔で通り過ぎて行ったと言うので驚いてしまう。ワゴン車の運転手は前輪で女の子を轢いて一度は停止するものの、車から降りてくることもなく、そのまま発車し、後輪でも女の子を轢いてしまった。さらに後続の車が停止もせずに女の子を轢いて通り過ぎた。この現場を通りかかったのはバイクや自転車に乗った人も合わせると、7分間に18人。19番目に通ったゴミ収集の中年女性がやっと女の子を助け起こし、警察や消防に通報した。女の子は、軍の病院で手当を受けたものの脳死状態が続き、結局亡くなった。轢いた運転手は2人とも逮捕されたが、最初に轢いた運転手は、逮捕前にこの子の父親に電話をして「カネは支払うが、刑務所に行きたくないから警察には出頭しない」と話していたということで、その心の荒廃振りにはことばもない。

http://www.youtube.com/watch?v=cJs_DyplYKE

 このようすの一部始終が監視カメラに撮られていて、その映像が全国に放映されると、インターネット上には多数の批判が集中した。中国版ツイッター「微博」上では、この18人に対し「冷血動物だ」などの批判が殺到し、「経済発展の裏側で他人への関心が薄らぎ、寒々とした社会になりつつあるのではないか」「物質的に豊かになった半面で人心は失われた」などの批判が殺到し、「発展とともに私たちの社会の中に(面倒なことに関わりたくないという)計算や欺く気持ちが広がっている」と社会道徳の崩壊を嘆く声が圧倒的多数を占めたと伝えられている。

一方では、18人が通りすぎた背景として、06年に江蘇省南京で起きた事件を指摘する声もあるそうだ。中国メディアなどによると、バス停で転倒してけがをした高齢の女性を、若い男性が善意で病院に搬送したが、逆に女性から「この男に突き落とされて骨折した」と主張され、損害賠償金を払わされる羽目になったという。中国の法の運用はこれまでにも疑問があると指摘されているが、このケースもそのようなものだろう。微博上には、「善意を逆手にとられてしまうような社会では、関わらない方がましだ」と素通りした18人を擁護する意見も掲載されているようだ。

 

 インタネットのサイトの書き込みを見ると、この事件についてあたかも中国人すべてがこのようであるかのように、例によって口汚く罵っているのが多い。中にはわざわざ「シナ人」という蔑称を使って中国の国民性を嘲笑しているのもあったし、民度が低いとか、こんな人間が10億もいるのは怖いなどというのもあった。 確かに日本ではこのようなことはまず起こらないだろう。しかしこのような極端な例はそうだろうが、今の日本でも他人事には無関心という空気は強くなってきているのではないか。そのあたりもよく考えて、あまり尊大にならないことだ。中国のインタネットでも、この事件を非難、批判する声が多数寄せられているのだ。この異常な事件で、あたかも中国人すべてが道徳的に腐敗しているように断定するのは不当だと思う。

 


軍霞(ジュンシャ)

2011-09-10 10:02:47 | 中国のこと

 私は関西日中交流懇談会という中国の貧困農村地区に教育支援をしてきたNGO団体の会員になっている。この会では2001年から「一対一の教育支援」と言うプログラムを始めた。これは湖南省や寧夏回族自治区の貧困地区の農村の子ども達に学費を援助するもので、私も2人の子どもを支援してきたが  その内の寧夏の南部、固原市の農村に住む回族の女の子が馬軍霞(マ・ジュンシャ)である。

 

初めて軍霞の援助を始めたのは、彼女が中学1年生になったときだが、家が貧しく小学校を出ても義務教育である中学校への進学が困難だった。現地の教育局を介して私が彼女の支援者になった。このことで軍霞は中学生になることができたのだが、よほど嬉しかったようで、初めて来た手紙には「陸に打ち上げられていた魚が水に戻れたのです」と書いていた。その後何度か現地で会う機会があった。小柄な体はいっこうに変わらなかったが、学業はどんどん進歩していたようで、年に回送られてくる手紙にそのことが窺われた。 

 

     17歳の軍霞 

 

 軍霞は大学4年生になる私の一番上の孫娘と同じ年齢だが、大学進学のときに足踏みして1年間予科に入り、この9月から寧夏回族自治区の区都にある寧夏大学の3年生になった。将来は寧夏の西部の貧困地区で教師になる希望を持っていて、地理学を専攻しているが、元気に学生生活を送っているようだ。

 

 隔年ごとに会では援助地区に調査と交流をかねた訪問団を送っていて今年は寧夏の番だった。最近来た手紙では軍霞は私が訪れるのを待っているようだったが、残念ながら私は近頃は脚が悪くて行くことはできなかった。それで団長のAさんが代わりに会って面談してくれた。元気な様子だったとのことで安心したが、私の脚を気遣ってくれたようだ。このほど会の事務局を訪れた時にAさんが彼女の写真を手渡してくれた。相変わらずの小柄だったそうだが、すっかり娘らしくなっていた。

 

        

 

 訪問団に同行した運営委員のNさん(女性)が、面談の時に撮ったビデオレターを見せてくれた。軍霞はカメラに向かってちょっと微笑みながら一心に語りかけていた。残念ながら私には中国語は分からなかったが、途中で何度も「爺爺イエイエ(おじいちゃん)」と言うのだけは分かり、本当に孫娘が話しかけてくれているようで、聞いていると愛しくなって涙ぐんでしまった。

 

 思えば中学1年生の時から10年の間に軍霞は成長した。これからの2年間にもいっそう研鑽を積んで、念願の教師になって欲しいと心から願っている。その時には私は80になるので、それまで何か張り合いができたように思う。

 


精神疾患(2)

2011-09-08 09:30:06 | 中国のこと

 中国国営新華社通信によると、中国の精神障害者は2009年時点で1億人以上に上り、このうち重度の患者は1600万人を超えた。単純計算では100人中13人が精神障害者であることになり、心臓疾患やがんなどを上回っているそうだ。中国の人口は13億と多いが、それにしても精神障害者が1億人以上とは凄まじい。

 

中国ではここ数年、精神障害者による児童への無差別殺傷事件のほか、大学生による自殺の多発、台湾電子機器大手の従業員による連続自殺などが大きな社会問題として注目されている。山西省厚生庁疾病予防所の所長は「中国の精神障害病の患者数はB型肝炎の患者数に接近しており、社会の安定を脅かしている」と強い懸念を示しているという。

 

全国の成人の12%に当たる住民を対象に行った調査によれば、成人の中で何らかの精神障害を持つ人は約18%で、このうち鬱病が約6%、不安障害が約6%、薬物乱用による障害が約6%という結果だった。また、鬱病と不安障害は男性より女性が多く、若い世代よりも40代以上が多い。またアルコール依存症は男性は女性の38倍となり、農村住民の方が都会の住民と比べて鬱病もアルコール依存症も多かったという。やはり農村部は貧困の度合いが強く、生活苦から鬱になったりアルコール依存に陥るのではないか。

 

子どもの精神障害も増加しているそうだ。北京市の1800の家庭を対象に3年間の追跡調査を行った結果、3分の2の家庭で不適切な教育から、子どもたちがさまざまな精神的障害を抱えているという。不適切な教育というものがどのようなものか分からないが、一人っ子に過度の期待をかけて教育し、子どもを追い詰めているのではないだろうか。

 

 大学生にも精神障害が多い。精神障害の発病率は、全疾病の中で1989年の約20%から98年には約27%に増加しているし、天津市が大学生5万人を対象に行った調査でも精神障害は16%以上にも達し、北京大学ではこの10年で精神障害を理由に休学、退学した学生は、全退学者の約3分の1を占めたという。中国の高校生の大学進学熱は過熱する一方で、とりわけ貧しい農村部の学生は良い大学を卒業して良い就職をすることで貧困から抜け出すことを目指すが、入学してから不適応を起こすことも多いのだろう。

 

  中国の発展は目覚しい。経済的には日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位の国だ。しかし急激な発展に伴ってどうしても負の面が出てくるようだ。これからも社会の歪が改善されない限り、精神を病む人たちは増えるのではないか。

 

  精神障害者は非常に増えているのに、専門的な医療機関や専門医師の不足は深刻だと言う。中国疾病予防センターのデータによれば、2005年末時点で、全国に精神疾病医療機関はわずか572カ所しかなく、精神科医の人数は1万6383人、精神科医は10万人に1人しかいないことになるとのことで、いかにも遅れている。実入りの多い一般の医師は希望するが、地味な精神科医になろうという希望者は少ないのか。

 

 

 

 

 

 


高速鉄道の事故から1ヶ月

2011-09-01 10:02:26 | 中国のこと

 死者40人を出した中国の事故から1ヶ月以上たったが、中国国内では発生後 1ヶ月の日に事故の発生時刻に合わせて犠牲者を追悼する動きなどもみられず、また事故の発生当初、政府の対応を批判してきた国内メディアも国営の新華社通信がけがをした乗客のうち108人が温州市内の病院を退院したことや、入院中の47人についても順調に容態が回復していることを伝えたほかは、目立った報道はみられず、事故を巡る報道もほとんどないらしい。これは早期の収z束を図りたい政府の思惑が映し出されているとのことだ。

 

 前にも書いたが、毛沢東が言い、現在の政権もスローガンにしている「為人民服務」(人民のために奉仕する)はこのようなニュースをみると、何か空々しく思えてくる。人民の批判を恐れ、何とかしてそれを抑えようとする政府や中国共産党の姿勢は、人民を大切にするという姿勢から程遠いものだと思う。事故車両を地中に埋めた後、掘り起こすなどの事故後の処理について不適当な発言で更迭された鉄道省報道官が、処分も受けないままポーランド勤務のポストが与えられたとのことで、利権と腐敗の温床である鉄道省の性懲りもない甘さも呆れるほどだし、それを看過している政府のありようも理解できない。もちろん鉄道省の幹部はすべて中国共産党員だから、結局は身内をかばうことに終始し、事故報道を規制して人民の怒りが収まるのを待っているのだろう。そこには人民に奉仕するという誠実さのかけらも見られない。

 

 さすがに頑固な鉄道当局も安全性を高めるため、全土の路線で高速列車の速度を減らすことを柱とするダイヤ改正を行った。今回の改正で中国の高速鉄道の最高時速は350キロから300キロに減速し、最高320キロのフランスTGVを下回ることになった。卑小で過剰な「大国意識」で安全を二の次にして世界最高速を目指したが頓挫し、正常になったようだ。中国版新幹線と言われる北京ー上海間の路線は中国共産党創立90周年祝典に合わせて闇雲に工事を進めたが、開業当初から遅れなどの事故が続いた。それを日本の新幹線も開業直後は事故が頻発したなどと強弁していたし、日本の技術を取り入れているのに中国独自の技術で世界一だと言っていた。まったく小児病的な態度だ。それで結局は大きな事故を引き起こしたが、政府、鉄道省は本当に誠実に検証しているか疑問だ。相変わらずの隠蔽体質はどうしようもないのだろう。

 

 私は「中国迷爺爺」と自称するように中国好きで、中国の歴史、風土には惹かれる。知的財産権などどこ吹く風かというような風潮や、何事につけ賄賂が横行する体質など一部の中国人のありようはどうにも嫌いだが、それでも信頼し合える親しい友人がいて、独り身の侘しさが慰められるし、西安の李真や謝俊麗の子ども達は自分の曾孫のように可愛く思う。しかし最近の中国という国のあり方や振る舞いは違和感を通り越して嫌悪を覚えることが少なくない。そして、やはり一党支配の政治体制というものには問題があるのではないかと思わされ、かつて貴州省に行ったときにガイドの女性が、「こんな体制は20年もちませんよ」と吐き捨てるように言ったことを思い出す。

 

 


袁毅の娘

2011-08-25 10:06:23 | 中国のこと

 西安の李真の大学の同期生で、一緒に西安中国国際旅行社に勤め、今は父親が経営していた会社を引き継いでいる袁毅(ユエン・イィ)が女の子を出産した。李真が出産した後も、夫婦で雲南省麗江に子づくりの旅(?)に出かけたりして努力したらしいが、なかなか妊娠の兆しがなかった。その努力が稔ってめでたく出産となった。女の子だった。女の子をほしがっていたからさぞ嬉しかったことだろう。

 

 中国の友人で母親になったのは、西安の李真はじめ謝俊麗、王暁玲、上海の唐怡荷、孫璇 などだが、皆男の子だったから、初めての女の子だ。

 

 名前は難しい字で「格ユングォ」。は日の光の意味。中国には名前を作ってくれる会社があって、そこに頼んだらしい。生年月日と時刻で八画の字を決めるようだ。は八画。愛称は淘淘(タオタオ)。  

 

 袁毅は目がきれいな可愛い顔立ちをしているから袁毅に似たら可愛いだろうと思っていたが、父親似だと言う。それでも夫君も好男子だから、これからの成長が楽しみだ。

 

 

 

                            生後1ヶ月

                        


為人民服務

2011-08-21 15:56:05 | 中国のこと

 最近、中国で住民と警察の衝突がよく起こっているようだ。

 

山東省済南で、警官の横暴な振る舞いに怒った住民数千人が警察車両を壊したり、道路を封鎖したりする騒ぎが起きた。女性警官が、自分の車を優先して修理するよう業者に頼んだが断られたため、夫にこの業者を殴らせた。これに激怒した住民らが警官らを取り囲み、駆けつけた警官隊の車両を壊すなどしたということだ。また同じ山東省済南で、女性看守と夫が街中でお年寄りの女性に暴力を振るい、怒った市民数千人が抗議、出動した警察車両を破壊するなどしたというニュースもあった。女性看守はささいなトラブルから夫に女性を殴らせ、女性に土下座を強要したという不愉快なもので、2人の横暴に怒った市民が集まり、数時間にわたって暴れまわったという。

 

 どちらの騒ぎも同じ日に起こっているし、似ているところがあり、香港にある中国人権民主化運動ニュースセンターが発表したものなので、あるいは一つの事件が別のルートで変形して伝わったのかもしれないが、中国では強い権限を握る治安関係者に対して多くの住民が不満を抱いているために、小さなトラブルがきっかけになって、大規模な抗議行動と衝突に拡大することが多いようだ。広東省広州では6月に治安要員が女性露天商を殴ったことをきっかけに数千人規模の暴動が起きた。貴州省畢節では、これも治安要員が女性露天商に暴力を振るったために怒った住民と警官隊が衝突したという、広州とそっくりな騒ぎも起こっている。

 

 私も何年か前に上海の豫園商場の外の路上で夜、警官が路上で女性が売っていた花火を取り上げて、それを足で踏みにじっているのを見たことがある。その中年の女性は大声で泣き叫びながら大男の警官の脚にしがみついて花火を取り戻そうとするが、警官は意に介せずどすどすと花火を踏み潰し続けた。路上で花火を売ることは禁止されているらしいから、女性は違法行為をしていたので摘発されても仕方がないのだろうが、その大男の警官のやり方は職権を傘に着た横暴なもので、いかにも貧しい庶民を見下しているように見えて腹が立った。こういうのを権力の手先、イヌと言うのだろう。日本の刑法にある「特別公務員暴行陵虐罪」などは、中国ではないのだろうか。

 

 中国には「為人民服務 weirenminfuwu」ということばがある。市政府など公共の場でよく見かける標語で「人民のために奉仕する」ということだ。もともとは毛沢東が言った言葉だが、現在の胡錦濤政権のスローガンでもあるようだ。しかし、このことばを今の中国の人達が聞いても、多くは鼻白んだり、冷笑したりするのではないか。中国の公務員(役人、官僚)は根深い汚職体質と、庶民を見下したような振る舞いで信頼を失っている。日本に留学したある中国人の体験を読んだことがあるが、ビザの申請などでも袖の下が必要だし、木で鼻をくくったような横柄な態度が不愉快で、日本に来て空港で通関するときに係員が笑顔だったことに驚いたと言っていた。こういう中国の役人の態度が、中国に帰りたくないと思わせることもあったようだ。今は少なくなったが、かつては国営企業が多く、そこの従業員の接客態度もひどく悪くて、西安の李真は幼い頃に店の女性従業員に怒鳴りつけられたことがあったそうだ。人民への奉仕も何もあったものではない。

 

 さすがに最近は中国での接客態度は良くなっている。10年ほど前に上海の空港で係員の横柄な態度に腹が立ち、これが外国からの客に接する態度かと思ったものだが、最近はとても良くなった。しかし、公務員の庶民に対する態度には相変わらずのものがあるようで、だから、最初に書いたような警官の横暴とそれに対する庶民の反発もあるのだろう。庶民の反発、反感は権力の末端である警官だけに留まらず、権力そのもののあり方に向かうものだ。

 

 「為人民服務」は「為人民・服務(人民のために奉仕する)」と読むのではなく、「為人・民服務」と読み、「人(=共産党のお役人)のために民は奉仕する」意味だというパロディーがあるそうだ。中国人はスローガン好きだが、実態と乖離した美辞麗句を掲げていても、人民の心の離反を招くだけだろう。このあたりを政府や党の指導者は自覚しているのだろうかと疑問に思う。

 


中国の貧困層

2011-08-13 09:40:01 | 中国のこと

中国が近代国家としてはまだまだ問題があるとされているのは、官僚の深刻な腐敗、汚職と貧富の激しい格差だ。

 

  官僚の汚職についてはこれまでにもこのブログで書いたが、その底知れない腐敗と汚職額の巨大さに驚かされる。先日にも浙江省の杭州市と江蘇省の蘇州市の2人の元副市長が、開発に伴いそれぞれ日本円にしておよそ17億円余りと13億円余りの賄賂を受け取った罪などで死刑を執行された。今回の死刑執行の背景には、国民の間に官僚の汚職への不満が広がるなかで、開発に伴う汚職を厳しく取り締まる政府の姿勢を示すねらいがあるようだ。死刑が多いことで国際的に批判されている中国だが、あまりにもひどい腐敗を見聞きしている中国の庶民からすれば当然だという思いもあるだろう。 

 

 もう一つの問題である貧富の格差はますます広がっているようで、とりわけ沿岸地区に多い、日本人からすると驚くような富裕層に対して、内陸部、特に農村地区には貧困者が多い。貧困層とはもちろん年収によって言われるものだが、中国政府は今年後半にも、貧困層と認める住民の年間収入基準を、現在の1人当たり1196元(約1万5500円)以下から1500元(約1万9500円)以下に約25%引き上げる方針を固めたそうだ。この措置で現在は約3千万の貧困層が一気に1億人を超えるとされている。 

 

 政府が経済支援する貧困層の裾野を広げることは格差を是正する狙いがあると言う。高所得者層に対する個人所得税の税率アップなどとセットで貧困対策を実施する見込みだそうだが、さて狙い通りにいくのか。ちなみに中国では10年末で資産が1千万元(約12860万円)以上の富裕層は96万人で、前年より9.7%も増加したそうだ(『月間中国NEWS』7月号)。このような格差拡大に不満を強めている貧困層が、一党独裁体制の終結を求めることに結びつかないよう配慮した可能性もあるとの見方もあるようだ。さらに、世界第2位の経済大国として国連の分担金の引き上げを求める声があるなど、応分の国際責任を問われている中国が、貧困層の数を増やすことで、国内外にいまだ途上国だと印象づけようとする狙いもあるとのことだが、そうだとするなら「大国」らしくない、いじましい考え方で、事実でなくてもそういう見方をされるのは、国際的にはいかに経済第2位の大国であっても、国際社会の中でのその振る舞いから胡散臭い国と見られているからだ。

  

 国際的には「絶対的貧困層」とされる1日あたりの収入が1米ドル以下を最新のレート(1ドル6.46元)で計算すると、中国では年間2358元(約2万8700円)となり、今回の措置で1500元に引き上げてもなお基準に達していない。

 

 官僚の底知れない腐敗、貧富のはなはだしい格差、これは中国の不治の病弊で、解決は「百年河清を俟つ」ようなものではないかと思う。一方では空母などを作り軍備拡張に余念がなく、外に向かっては発展途上国と公言する。汚職の撲滅も掛け声は大きいが、いっこうに効果は上がらない。この巨大な「発展途上国」はどうなっていくのだろうか。国際的に高い評価を受ける国に成長できるのか。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


陳偉君

2011-08-09 08:41:55 | 中国のこと

 陳偉(チェン・ウェイ)は西安の李真の夫君の児童画家で2007年に李真と結婚した。私も結婚式に出席して祝辞を述べた。それまでに李真は何人かの男性と付き合ってはいたが、心にかなう相手が見つからず悩んでいたところへ陳君を紹介されて結婚した。今は宸宸(チェンチェン)という可愛い男の子もできて幸せな家庭生活を送っている。

 

 陳君は、西安がある陝西省の西隣の甘粛省の出身で、西安の学校で絵を学んだ。卒業後李真の親類の女性の経営する出版社に勤め、児童向けの絵本の挿絵を描いていた。結婚して間もない頃の彼が描いた絵本を見たが、なかなか才能があると思ったものだ。

 

 真面目で温厚な人柄で、いつも笑顔を絶やさない。結婚する前に李真の家に行ったことがあるが、陳君は出入りしていて李真の両親とも馴染んでいたようで、夕方仕事から帰ってくるとすぐに厨房に入っていって、夕食の支度をしている李真の両親を手伝ったので、そのごく自然な振る舞いに感心した。幼い頃から家庭的には苦労があったようで、それが彼の良い性格を形成したらしい。

 

 その後も精進して画業に励んでいたようだが、このたびこの2年間に大陸、香港、台湾から230部が応募したコンクールで入選した絵本10部の中に入り、最終的には絵本賞5部の中に入ったそうだ。近く北京で授賞式があるようだ。彼の日ごろの努力と才能が認められたのは嬉しいことだ。

 

 受賞作『蛙と男の子』 

 

 彼はまだ30そこそこだがとても努力家で、毎晩遅くまで仕事をしているそうだ。家庭的にも家事をよくし息子に優しい、良い夫、良い父親のようだ。彼は将来きっと、名の知れた絵本画家になるだろうと信じている。

 

 

 受賞作と他の本も送ると李真が言ったので楽しみにしている。


中国の高速鉄道の事故(2)

2011-07-28 10:09:10 | 中国のこと

 この事故で呆れたことがいくつかある。もっとも呆れたのは追突した列車の先頭車両を埋めてしまったことだ。事故の翌朝、事故車両の運転席は重機で細かく粉砕されて、穴を掘って埋められた。それについて中国鉄道省の報道官は「鉄道省が決めたことではない。私も現地で知った」と言い、「地面が泥沼だったので、作業をやりやすくするための応急措置だった、と聞いている」と釈明したそうだが、事故現場の下は畑地で、泥沼ではなかったはずで、ばかばかしい噴飯ものの弁解だ。鉄道省たるものが、現場をコントロールできずに放任しているのか。証拠を隠滅しているのではないかという批判がネットで噴出したそうだが、当然だろう。このような批判を無視できなくなったのか、中国政府の事故調査チームは事故車両を調べるために掘り出したようだ。当局が方針を転換した可能性があるとも推測されているが、おそらく、証拠の車両を埋めたのは当局の指示だったのだろう。

 

 事故発生後僅か1日半で、事故の発生した路線の運行を再開したのにも呆れた。2005年に発生したJR西日本の福知山線で107名が死亡した脱線事故では、再開までに事故究明と復旧までに55日間を要し、その間、私が住む宝塚と事故現場の尼崎の間は閉鎖された。再開後も事故原因の究明が続けられた。それに比べてあれほどの大事故を起こしながらわずか1日半で通常ダイヤで運行を再開するとは、これも事故の影響を最低限に抑えようとする意図があるのだろう・・・と勘ぐられても仕方がない。

 

 また、事故犠牲者の遺族に対する扱いも理解できないことだ。中国政府は、けがをした乗客への支援を発表したりして万全の対応を強調しているようだが、犠牲者の遺族からは、政府から今後の対応や事故の原因などについて一切説明がないという不満の声が出ていると言うことだ。遺族らは、家族ごとに別々のホテルに分けられて滞在させられており、遺族が集まるため、連絡を取りあって外出しようとすると、警察関係者とみられる人物に尾行されるということだ。こうした動きについて、遺族らは、政府が行動を監視して集団で批判することを妨げようとしていると感じていると言う。遺族達は福州市政府庁舎前に出座り込みをするなどの抗議行動を始めたようだが、特殊警察も出動したと言う。特殊警察とは軍事力を持つ警察らしい。こういうことはあの四川省の大地震の後で犠牲になった多数の児童生徒の親の動きを抑えつけようとした当局の動きと類似のものだ。あの時も業者から政府の役人に対する賄賂と校舎の手抜き工事(オカラ工事と言われる)が問題になって親達の怒りを掻き立てた。このような遺族の悲しみや怒りを顧慮せず、むしろ抑えつけようとする国家とはいったい何なのかと思う。

 

 中国共産党中央宣伝部が、事故についての独自報道を控えるように国内メディアに通知したと言う。通知では、国営新華社通信の記事を使うよう求めている。高速鉄道について「安全対策は万全」と宣伝してきた当局の責任を問う声を封じ込めようとする狙いがあると見られているようだ。中国の各メディアがその通知に従うかどうかは不明だが、やはり一党支配の体制というものは、我々のような国にいる者にとっては、理解を超えるものがある。

 

 

 

 


中国の高速鉄道の事故

2011-07-27 09:33:22 | 中国のこと

 中国浙江省温州市で、高架橋を走行中の高速列車が落雷による停電で停止したところへ、後続の高速列車が追突し、双方で8両が脱線し、後続車の前部4両が高架から約15メートル下の畑地に落下した。この事故で39人が死亡し、200人以上が負傷した。中国のメディアは07年から整備が本格化した高速鉄道網の最初の重大事故と伝えている。事故が起きた高速鉄道区間は09年9月に開業し、営業速度は200250キロに設定されていて、追突されたのはカナダの、追突したのは日本の技術を取り入れて国内で生産された車両だ。

  

 私はこの路線ではないが、07年に開業したばかりの上海ー南京の路線の高速列車に乗ったことがある。この路線は高速列車専用ではなく、普通列車や貨物列車も使うもので、時速は最高250キロくらいだ。今回事故を起こした路線も同様のものらしい。平均時速が50キロ未満だった中国の鉄道は、97年に高速度化に着手し、07年には在来線で時速200キロを超す高速列車を本格導入するとともに、平行して「高速鉄道」(中国版新幹線)の建設も主要都市間で進められ、6月30日には北京・上海間で開通した(この路線は当初2012年に開業予定だったが、今年7月1日に胡錦濤国家主席が重要演説を行った中国共産党創建90周年記念日の前日に開業を前倒ししていた。いかにも共産党一党支配の国らしい)。在来線を利用する車両も「中国版新幹線」の車両も同型で「和諧号」と呼ばれるが、日本などの外国の技術を導入したものであるにかかわらず、中国当局は中国独自の技術で開発したものと言い、世界最先端技術だと豪語してきた。パクリは中国人個々のことだけでなく、国家規模でもそうなのかと思ってしまう。

   

  中国の事業には官僚や政治家の来たな職は付き物だ。この高速鉄道事業が政治家や官僚の汚職の温床になっている事実があるようで、巨額の賄賂を贈った業者が基準以下の原材料を使い、ずさんな工事を行うことで利益を上げていることは以前から指摘されていたようだ。今年2月、高速鉄道建設の最高責任者だったの劉志軍前鉄道相は、巨額の賄賂を受け取った疑いで解任されている。いずれ司法の場に引き出されるのではないか。鉄道建設にあたって、手抜き工事や安全基準に満たない材料が使われた可能性もあるとされている。

 

 私の長男は出張で先日開通間もない「中国版新幹線」で、上海から山東省の徳州まで行ったが、完成後間もない徳州駅の駅舎では床が壊れてコンクリートが露出していて、いかにも手抜き工事だと思う状態だったそうだ。車両の外装や内装も日本の新幹線に比べると何か「もっさり」した(垢抜けない)感じだったと言っていたが、それは私も南京に行ったときに感じた。外装や内装の問題は事故には関係ないが、安全運行は何事にもまして心すべきことだ。それが軽視されるとこれからも類似の事故が起こる可能性がある。長男はこれまで徳州に行くのに空路を利用していて、初めて列車を使ったのだが、これからもこんな事故が起こっては堪らない、中国では補償も安いし、これからはまた飛行機を使おうと言っていた。

 

   中国の国土は広大で、そこには網の目のよう鉄道網が敷かれているが、これまでのように平均時速が50キロ未満ではいかにも遅い。中国では2日3日の列車の旅はざらで、私達日本人にはちょっと耐えられないようなものだが、それを高速化しようとするのは当然のことだ。しかし高速化工事を急ぐあまり、ずさんな工事が行われては問題で、その根底に業者からの莫大な賄賂とそれを当然のように収める役人の腐敗があって。これは中国の長年の病弊でどうにもならないものがあるようだ。賄賂や汚職は他の国でもあるが、中国のそれは群を抜いて世界に冠たるものだ。どのようにしてこのような民族性が作られたのだろうかと思う。